眼表面の評価
糸状角膜炎
1. 糸状角膜炎とは
Section titled “1. 糸状角膜炎とは”糸状角膜炎(filamentary keratitis)は、角膜表面に糸状の構造物(角膜糸状物, corneal filament)が付着する慢性・再発性の角膜疾患である。糸状物は変性した角膜上皮細胞を核としてムチンが付着し、さらに炎症細胞や結膜上皮細胞も構成成分となる。
本疾患は単独で発症することはほとんどなく、ほぼ必ず眼表面・眼瞼・全身の基礎疾患が存在する。代表的な背景疾患として、涙液減少型ドライアイ、上輪部角結膜炎(SLK)、兎眼、眼瞼下垂、神経麻痺性角膜症、眼疾患術後、結膜弛緩、固定斜視、糖尿病、長期閉瞼(意識障害・脳卒中後)などが挙げられる。
従来は角膜創傷治癒機転の障害が発生メカニズムと考えられてきたが、近年は眼表面での摩擦亢進が病態の中心に位置づけられている。日本ドライアイ研究会の「ドライアイ診療ガイドライン」1)では、糸状角膜炎はlid-wiper epitheliopathy(LWE)、SLK、結膜弛緩症とともに瞬目時の摩擦亢進を共通メカニズムとするドライアイ関連疾患として位置づけられ、これらを一体として理解・治療する枠組みが提唱されている。
疫学的には、中等症〜重症の涙液減少型ドライアイや角膜移植後に合併することが多く、シェーグレン症候群患者では頻度が高い1)。有病率の日本の疫学データは限られているが、難治性の症例では眼瞼下垂や眼瞼内反症の合併に留意する必要があると日眼会誌のガイドラインは強調している1)。ヘルペスによる壊死性角膜炎では、実質浮腫や三叉神経麻痺を基礎に上皮の不安定が生じ角膜上部に糸状物を認めることがあり、単一の原因ではなく複数の因子が重なって発症することが重要である。
歴史的には古くから角膜糸状物を伴う眼表面疾患として記載され、乾性角結膜炎、兎眼、眼疾患術後との関連が繰り返し報告されてきた。日本では1980年代以降、涙液動態の解析技術の進歩に伴い涙液減少型ドライアイとの関連が明確化され、2000年代以降は免疫組織学的アプローチによる糸状物の構成成分解析と、瞬目時摩擦亢進を含む眼表面摩擦関連疾患の概念によって、現代的な病態像が整理された5,7)。
最も多いのはドライアイ、特に涙の分泌量が少ない涙液減少型ドライアイです。そのほか、まばたきが不完全な方(眼瞼下垂や顔面神経麻痺、意識障害で長期閉瞼している方)、眼の手術後の方、シェーグレン症候群や移植片対宿主病などの全身疾患をお持ちの方、防腐剤を含む点眼薬を長期に使用している方にも生じやすい傾向があります。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
瞬目のたびに糸状物が摩擦により移動するため、強い異物感と眼痛が特徴的である。眼を閉じているときには症状が軽く、開瞼や瞬目に伴って痛みが増強するため、患者は羞明や眼瞼痙攣を来すこともある。刺激により流涙が生じ、重症例ではほとんど開瞼できないこともある。
角膜糸状物は通常2mm以下であるが、まれに10mmに及ぶ長い糸状物を形成することもある。フルオレセイン、ローズベンガル、リサミングリーンのいずれでも染色される。糸状物の基部には灰色の上皮混濁(foot plaque)を伴うことがあり、刺激により結膜充血および浮腫を呈する。角膜は糸状物を除けば透明性が保たれることが多い1)。糸状物は原因によって角膜全面に生じる場合、眼瞼縁に沿って生じる場合、角膜の段差などに生じる場合があり、その分布パターンは原因疾患の推定に直結する。
瞬目時に糸状物が揺れ動く様は細隙灯顕微鏡下でも確認しやすく、時に糸状物が長く伸びて角膜中央から周辺にかけて垂れ下がるように観察される。重症例では糸状物の基部に一致して上皮欠損を伴い、背景の上皮はびまん性点状表層角膜症(SPK)を呈することが多い。ドライアイ診療ガイドラインの図示例では、フルオレセイン染色にて角膜全体に角膜糸状物を伴う高度の上皮障害が示されている1)。
糸状物の分布パターンは背景疾患の推定に直結するため、細隙灯顕微鏡による詳細な観察が重要である。
| 糸状物の部位 | 推定される原因疾患 |
|---|---|
| 角膜全面 | 涙液減少型ドライアイ、上皮層の不安定 |
| 瞼縁に沿う | 眼瞼下垂、内反、兎眼 |
| 角膜の段差部 | 術後、外傷後、再発性角膜びらん |
| 上方角膜 | 上輪部角結膜炎(SLK) |
| 中央限局 | 難治性(PTK適応検討) |
診察時には以下の6項目の観察が標準的である。
涙液・神経・眼位の評価
まばたきをするたびに糸状物が引っ張られるため、ゴロゴロする異物感や刺すような痛みが生じます。目をつぶっているときは比較的楽ですが、瞬目や開瞼のたびに痛みが強くなるのが特徴です。痛みのために涙が出たり、まぶしく感じたり、まぶたを開けていられなくなることもあります。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”糸状角膜炎は必ず何らかの背景疾患に続発する二次性疾患であり、背景疾患の同定と管理が治療の要となる。
| 背景疾患 | 発生機序 |
|---|---|
| 涙液減少型ドライアイ | 涙液水層の減少・ターンオーバー異常 |
| 上輪部角結膜炎(SLK) | 上方結膜の摩擦亢進・角化 |
| 神経麻痺性角膜症 | 三叉神経麻痺による上皮治癒遅延 |
| 兎眼・眼瞼下垂 | 角膜の乾燥・露出・閉瞼不全 |
| 眼疾患術後 | 上皮障害・知覚低下・創傷治癒遅延 |
| 再発性角膜びらん | 上皮基底膜の不安定化 |
| 糖尿病 | 上皮治癒遅延・知覚低下 |
| 固定斜視 | 閉瞼不全・一部角膜の持続的露出 |
全身疾患としては、シェーグレン症候群、眼移植片対宿主病(oGVHD)、甲状腺眼症、脳血管障害(長期閉瞼)、パーキンソン病(瞬目回数低下)、重症筋無力症(眼瞼下垂)などが関連する。脳病変に起因する糸状角膜炎は最も治療抵抗性が高いことが知られる。シェーグレン症候群では涙液腺の自己免疫性破壊による涙液減少、oGVHDでは結膜・涙腺の慢性炎症とマイボーム腺萎縮が重なり、いずれも本疾患の発症リスクを著明に高める6)。
手術関連の誘因としては、白内障手術後、角膜移植後、硝子体手術後、屈折矯正手術後などが知られる。術中の角膜上皮障害、術後の防腐剤含有点眼薬の多剤使用、術後ドライアイ、角膜知覚の一時的低下が複合的に作用する。特に貫通性角膜移植(PKP)後には角膜知覚低下が長期間持続するため、難治化しやすい。
医原性因子として、抗コリン薬の長期内服、防腐剤(ベンザルコニウム塩化物)含有点眼薬の長期使用による上皮毒性、多剤点眼によるwashout効果も危険因子となる。日眼会誌のドライアイ診療ガイドラインでは、難治性の糸状角膜炎に遭遇した場合は眼瞼形状(特に眼瞼下垂や眼瞼内反症)の合併に留意すべきと明記されている1)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”診断は細隙灯顕微鏡検査で容易である。角膜表面に付着し、瞬目で動く糸状物を確認すれば診断が確定する1)。観察時には必ず生体染色を併用する。フルオレセイン染色は糸状物と周囲の上皮障害を最も鋭敏に可視化し、ブルーフリーフィルターでさらに強調される。ローズベンガルやリサミングリーンは変性上皮の染色に優れ、基部の上皮欠損を評価しやすい。
涙液・眼表面の評価
Section titled “涙液・眼表面の評価”糸状角膜炎のほとんどが涙液動態の異常を伴うため、以下の検査を組み合わせる。
- シルマー試験I法:5mm以下で涙液減少を示唆する
- 涙液層破壊時間(BUT):5秒以下で涙液安定性低下
- 涙液メニスカス高:スリットランプまたは前眼部OCTで測定
- マイボグラフィ:マイボーム腺萎縮の有無を客観評価
- 角膜知覚検査(Cochet-Bonnet知覚計):神経麻痺性角膜症の除外に必須
シェーグレン症候群が疑われる場合は、抗SS-A/SS-B抗体、抗核抗体、唾液腺シンチグラフィ、口唇小唾液腺生検などを行う。甲状腺眼症疑いでは甲状腺機能(TSH、FT3、FT4)と自己抗体(TRAb、TSAb)を評価する。
糸状角膜炎と類似の所見を呈する疾患、または糸状角膜炎を合併する疾患として以下の鑑別が重要である。
- 上輪部角結膜炎(SLK):上輪部球結膜の充血と上皮角化を特徴とし、重症例では上方角膜に糸状物を形成する。50歳以上の女性に多く、甲状腺機能異常の合併が多い
- 神経麻痺性角膜症:角膜知覚低下が診断の鍵で、糸状物より持続的な上皮欠損が前景に立つ
- ヘルペス性壊死性角膜炎に伴う糸状角膜炎:実質浮腫と三叉神経麻痺を基盤に角膜上部に糸状物を形成する代表的な続発例である
- 再発性角膜びらん:朝の開瞼時痛と自然経過での再発が特徴
- 角膜ジストロフィに伴う上皮不安定:遺伝性・両眼性
- Mucus fishing syndrome:患者自身が糸状物やムチンを指で擦り出す行為で悪化
- 薬剤毒性角膜症:ベンザルコニウム塩化物など防腐剤を含む点眼薬の長期使用で生じる医原性角膜上皮障害。糸状角膜炎の発症・遷延に寄与しうる
重症度の層別化
Section titled “重症度の層別化”実臨床では糸状物の個数、サイズ、分布範囲、背景疾患の重症度、自覚症状の強さを総合して以下のように層別化する。
- 軽症:少数(5個以下)の糸状物、背景疾患が軽度のドライアイで、レバミピド点眼と人工涙液で制御可能
- 中等症:広範囲の糸状物、中等症ドライアイ、治療用SCLや涙点プラグを要する
- 重症:多発性・反復性の糸状物、シェーグレン症候群やoGVHDなど難治性基礎疾患、眼瞼異常や神経麻痺の合併、外科治療を検討
日眼会誌のドライアイ診療ガイドラインでは、糸状角膜炎・上輪部角結膜炎・結膜弛緩症の有無をドライアイ関連所見として評価項目に組み込むよう推奨している1)。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”糸状角膜炎の治療は、糸状物の除去と背景疾患の管理の2本柱である。どちらか一方では必ず再発するため、両者を並行して行う。
糸状物の機械的除去
Section titled “糸状物の機械的除去”点眼麻酔(0.4%オキシブプロカインなど)後、無鉤鑷子で糸状物を根元から摘除する。小さいものは綿棒やMQA®(マイクロ吸水スポンジ)、スプリング剪刀で削ぎ落とすことも可能である。除去により即時的な症状軽減が得られるが、背景疾患が未解決であれば数日〜数週間で再発するため、これを治療の起点と位置づける1)。
第一選択薬として**レバミピド点眼(ムコスタ®UD点眼液2%)**が用いられる。1日4回点眼する。レバミピドは分泌型および膜結合型ムチンを増加させ、涙液安定性を向上させると同時に抗炎症作用と角膜上皮創傷治癒促進作用を併せ持つ。ムチン増加により瞬目時の眼表面摩擦が軽減されることが、本疾患に対する奏効機序と考えられている。レバミピドの有効性は「分泌型、膜結合型ムチンの増加による涙液安定性の向上と抗炎症作用を含む角膜上皮創傷治癒作用による」と説明されており、糸状角膜炎に対する比較的新しい治療選択肢として位置づけられている。
| 治療カテゴリ | 薬剤・介入 | 用量・方法 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| ムチン調整 | レバミピド点眼(ムコスタ®UD 2%) | 1日4回 | 第一選択 |
| 人工涙液 | 防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティア®、ヒアレインミニ®等) | 適宜、1日4-6回以上 | 基本併用 |
| 抗炎症 | フルオロメトロン点眼0.1% | 1日2-4回 | 短期的 |
| 免疫調整 | シクロスポリン点眼0.1%(パピロックミニ®等) | 1日2回 | 慢性例 |
| 粘液溶解 | N-アセチルシステイン点眼5〜10% | 1日4回 | 海外難治例4) |
| 抗炎症内服 | ミノサイクリン100mg/日、ドキシサイクリン | 内服 | 重症MGD合併 |
| 涙液量保持 | 涙点プラグ | シリコン/吸収性 | 涙液減少型 |
| 物理的保護 | 治療用ソフトコンタクトレンズ | 1週連続装用/週1回交換 | 再発予防 |
**N-アセチルシステイン点眼(5〜10%)**は粘液溶解薬として用いられてきたが、市販製剤がないため院内製剤として調整する施設に限られる。Avisar らのランダム化比較試験では0.1%ジクロフェナク点眼が5%食塩水(NaCl 5%)と比較して糸状角膜炎の改善に有効であったと報告されているが、ドライアイ診療ガイドラインはNSAID点眼の一般的な有効性について慎重な姿勢を示している1,4)。
治療用ソフトコンタクトレンズは、眼表面を機械的に保護し、疼痛軽減と上皮安定化を図る選択肢である11)。連続装用では感染性角膜炎のリスクがあるため、短期間・厳密管理で交換しながら離脱可否を検討する。装用中は涙液量確保のため、防腐剤無添加人工涙液の頻回点眼を併用する。
外科的・手技的治療
Section titled “外科的・手技的治療”難治例には段階的に以下を検討する。
- 眼瞼形成手術:眼瞼下垂に対しては挙筋短縮術、眼瞼内反に対してはHotz法などを施行する。北澤らは難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討で、眼瞼形状の是正により多くの例で糸状物の出現が減少したと報告している3)
- ボツリヌス毒素注射:眼瞼痙攣の合併例、あるいは難治性糸状角膜炎そのものへの治療として、下眼瞼内側への局注がTFOS DEWS III 2025の管理・治療レポートで言及されている2)。作用持続は約3か月で反復投与が必要となる
- 治療的表層角膜切除術(PTK):中央部に限局する難治性糸状角膜炎にはエキシマレーザーPTKが適応となる。角膜上皮および浅層実質を切除することで上皮接着を改善させる。ただし軽度の遠視化を伴う可能性があり、施行できる施設は限られる
- 斜視手術:固定斜視により角膜の一部が常時露出している場合、斜視手術で眼球安息時固定位置を移動させる
治療フローと予後
Section titled “治療フローと予後”実臨床的な治療フローは以下のとおりである1)。
基礎疾患が適切に管理されれば予後は概ね良好であるが、再発は珍しくない。特に脳病変に起因する糸状角膜炎は最も治療抵抗性が高く、長期の眼表面管理を要する。
背景にある原因(ドライアイや眼瞼の異常、神経麻痺など)を適切に治療すれば、多くの場合で症状は改善します。ただし再発しやすい疾患であり、長期的な眼表面の管理が必要です。糸状物の除去だけでは繰り返し再発するため、レバミピド点眼などの基本治療に加え、原因疾患への対処を並行して行うことが大切です。脳の病気や神経の障害が原因の場合は治療が難しくなる傾向があります。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”糸状角膜炎の発生機序は、角膜上皮障害を起点とする多段階のプロセスである5)。
まず基底上皮細胞、上皮基底膜、またはBowman層の損傷により、上皮基底膜の局所的な剥離が生じる。涙液のターンオーバー異常や涙液層成分の異常が背景にある場合、この損傷部位が修復されにくく、慢性化する。瞬目による剪断力がこの剥離部位を持ち上げ、刺激と炎症を誘発する。上皮細胞成分を核としてムチンが付着し、さらに炎症細胞や結膜上皮細胞が巻き込まれて糸状物が形成される。
Tanioka らの免疫組織学的検討(2009年, IOVS)では、糸状角膜炎の角膜糸状物は角膜上皮細胞由来の成分を芯として、周囲を結膜上皮細胞、ムチンなどが取り囲んだ構造をしていることが示され、形成には慢性的な角膜上皮障害と瞬目時の摩擦亢進が関与していると結論されている5)。この免疫組織学的知見は、それまで経験則として知られていた病態を分子レベルで裏付けた。
近年の最重要概念は眼表面摩擦の亢進である。日本ドライアイ研究会の診療ガイドライン(日眼会誌 2019)は、ドライアイの病態生理を「開瞼維持時の涙液層安定性低下(コア・メカニズム①)」と「瞬目時の摩擦亢進(コア・メカニズム②)」の2つの悪循環として整理しており、糸状角膜炎はLWE・SLK・結膜弛緩症とともに後者のメカニズムを共有するドライアイ関連疾患として位置づけられている1)。瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼結膜の部位はKorbらによってlid wiperと命名され、この部位と角膜表面との摩擦亢進がlid-wiper epitheliopathyと対面する角膜上皮障害を生じる8)。
涙液層の組成変化も関与する。ムチンと水層の比率が偏り、通常は涙液水層の産生減少が基盤となるが、ムチン産生の増加や蓄積が寄与することもある。この涙液層組成の変化が糸状物形成の土壌となる7)。レバミピド点眼がムチンを増加させ摩擦を軽減することで本疾患に奏効する臨床事実は、この機序モデルと整合している。
歴史的には、大橋らが1992年に提唱した「epithelial crack line」の概念が、角膜上皮の層構造と涙液動態の密接な関連を示唆した先駆的研究として知られている9)。また、マイボーム腺機能不全(MGD)診療ガイドラインでは、マイボーム腺油層の異常が涙液安定性低下を介して糸状角膜炎の一因となることも指摘されている10)。
炎症の関与についても近年注目されている。涙液安定性低下と摩擦亢進という2つの悪循環の結果として炎症が捉えられる一方、炎症こそがドライアイのコア・メカニズムであるとする説もあり、両者を統合的に理解することが重要である1)。糸状角膜炎の背景にあるCD4陽性T細胞浸潤、インターフェロンγ による結膜杯細胞の減少、角結膜上皮細胞のアポトーシス促進などの分子機序が解明されつつあり、シクロスポリン点眼やジクアホソル点眼などの抗炎症・ムチン分泌促進薬がこれらの経路に介入する薬剤として位置づけられている。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”TFOS DEWS III(2025年)の管理と治療レポートは、難治性糸状角膜炎に対するボツリヌス毒素注射を選択肢の一つとして言及している2)。下眼瞼内側への局注によりTBUTやシルマー試験値の改善、角膜フルオレセイン染色スコアの改善、OSDIスコアの改善が複数のランダム化試験で示されており、特に眼瞼痙攣を合併する糸状角膜炎には合理的な選択となりうる。ただし効果持続は約3か月であり、反復投与とコストが課題である。
新規ムチン分泌促進薬やムチン模倣薬の開発も進められており、レバミピドとは異なる機序で涙液層のムチン層を補強する治療戦略が模索されている。眼表面摩擦を定量的に計測する摩擦計や、in vivo共焦点顕微鏡による糸状物のリアルタイム観察など、病態の可視化技術も進歩している6)。
自己血清点眼、同種血清点眼、PRP(多血小板血漿)点眼など血液由来製剤の適応拡大も検討されている。これらは増殖因子・ビタミンA・フィブロネクチンなどを含み、角膜上皮治癒を促進することが期待される。
「摩擦亢進」概念に基づく治療アルゴリズムの普及が進んでおり、レバミピド・ジクアホソル・人工涙液・涙点プラグ・治療用SCL・眼瞼手術を組み合わせた個別化治療が臨床実装されつつある。今後は糸状角膜炎に特化した重症度分類や治療反応性の予測モデル、糸状物の再発を予防するためのバイオマーカーの探索など、疾患概念そのものの精緻化が求められている。
難治性糸状角膜炎に対するアセチルシステイン点眼のエビデンスレビューや、治療用強膜レンズ(PROSE、scleral lens)を用いた長期管理の報告も蓄積されつつある6,11)。強膜レンズは角膜とレンズ後面の間に液体リザーバーを形成し、持続的な眼表面湿潤と物理的保護を提供するため、重症ドライアイや神経麻痺性角膜症を背景とする難治例で有用性が示唆されている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
日本ドライアイ研究会. ドライアイ診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(5):489-592. URL: https://dryeye.ne.jp/wp/wp-content/themes/dryeye/file/dryeye_guideline.pdf
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