急性期の治療
人工涙液・眼軟膏:発作時は0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液1日4回に、就寝前のオフロキサシン眼軟膏(0.3%)点入を組み合わせるのが基本処方である
眼帯・調節麻痺薬:急性期には局所調節麻痺薬と一時的な眼帯を併用し、眼表面の治癒を促進する2)
抗菌薬:上皮欠損に対する感染予防として局所抗菌薬を処方する
鎮痛薬:経口非ステロイド性消炎鎮痛薬(ロキソプロフェン60mg頓用など)で不快感を軽減する
再発性角膜びらん(recurrent corneal erosion:RCE)は、角膜上皮と基底膜が形成する接着構造の異常により、角膜上皮が自然に剥離することを繰り返す疾患である1,2)。生じた上皮びらん自体は数日以内に治癒するが、一定期間(1〜2週間から数か月)を経て再発する。再発性の眼痛と角膜上皮障害を呈し、患者のQOLを大きく損ねる代表的な角膜疾患のひとつである5)。
発作は早朝の起床時に生じることがほとんどである。びらんの大きさに比べて疼痛や異物感などの自覚症状が強いのが特徴であり、頻回に繰り返す場合は再発への不安から患者の精神的ストレスとなりうる。睡眠後の発症が多いことから不眠を招くこともある。片眼性で再発性の角膜炎として角膜ヘルペスと誤診されやすいため、問診と所見の丁寧な組み合わせが診断の鍵となる。
原因としては機械的外傷が最も多く、紙の端、爪、木の枝、マスカラの先端などによる接線方向の外傷が典型的な契機である。一方、上皮基底膜ジストロフィ(EBMD)をはじめとする角膜ジストロフィも重要な原因であり、メタヘルペス、糖尿病性角膜上皮症、神経麻痺性角膜症なども誘因となりうる1,5)。

Chandlerの分類では、RCEを以下の2形態に分類する2)。
主な自覚症状は以下の通りである。
非発作時にも起床時の異物感を訴えることがあり、診断的価値が高い。睡眠後の発症が多いことから不眠の原因となり、患者の日常生活に影響を及ぼす2,5)。
睡眠中は閉瞼しているため涙液の産生が減少し、角膜上皮が眼瞼と直接接触する。接着不良の上皮は瞼の開閉によって剥ぎ取られやすく、特に起床時の開瞼が引き金となる。夜間の角膜表面の乾燥と眼瞼との物理的な接触が重なることで、起床時のびらん発作が生じると考えられている。
細隙灯顕微鏡検査による所見は、正常から広範囲の上皮欠損まで多岐にわたる2)。
びらんの部位と大きさは、角膜図への記録や写真撮影により経時的に比較する。
外傷性RCEに対するレーザー生体共焦点顕微鏡(in vivo confocal microscopy:IVCM)による観察では、基底上皮細胞内の沈着物、上皮下のマイクロフォールド(微小皺)および線条、損傷を受けた上皮下神経、異常な基底膜、前部実質の形態変化などが報告されている4)。これらの所見は臨床的な接着不良の背景にある微細構造変化を示唆する。
RCEの原因は大きく外傷性と非外傷性に分けられる1,5)。
最も一般的な原因である1)。紙の端、爪、木の枝、マスカラの先端などの鋭利な物体による角膜への接線方向の外傷が契機となりやすい。外傷の既往は本人が覚えていないことも多く、不定愁訴として経過する症例も存在する5)。
以下の角膜ジストロフィがRCEの原因となりうる1,2)。
糖尿病、ドライアイ症候群、マイボーム腺機能不全(MGD)、眼酒さ(ocular rosacea)、帯状角膜変性、夜間の兎眼、過去の角膜感染症(ヘルペス性角膜炎後のメタヘルペスを含む)、Salzmann結節状変性などもRCEの病態に関与する1,2,5)。
角膜ジストロフィがあってもすべての患者がRCEを発症するわけではない。上皮基底膜ジストロフィ(EBMD)が最も関連が深いが、それでもRCE症例の19〜29%程度にとどまる。角膜ジストロフィの種類や重症度、環境因子などが複合的に関与する。
RCEの診断は病歴聴取と細隙灯顕微鏡検査による臨床診断が基本である2,5)。
片眼性・再発性の角膜炎として角膜ヘルペスと誤診されやすいため注意が必要である5)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 角膜ヘルペス | 樹枝状潰瘍、角膜知覚低下、片眼性・再発性 |
| 神経栄養性角膜炎 | 角膜知覚の著明な低下、難治性上皮欠損 |
| ドライアイ症候群 | 涙液量減少、BUT短縮 |
| 帯状角膜変性 | 瞼裂部の帯状混濁、カルシウム沈着 |
| 輪部幹細胞欠乏症 | 輪部所見、結膜上皮化 |
| Salzmann結節状変性 | 角膜表層の隆起病変 |
その他の鑑別疾患として、角膜潰瘍(細菌性・真菌性・ヘルペス性)、角膜異物、フロッピーアイリッド症候群なども念頭に置く2)。
上皮基底膜ジストロフィやRCEに対しては、上皮デブリドマンによる管理が適応となる6)。
RCEの治療は段階的に行う。急性期はびらんの治癒を促進し、その後は再発予防が主目標となる2,5,11)。
急性期の治療
人工涙液・眼軟膏:発作時は0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液1日4回に、就寝前のオフロキサシン眼軟膏(0.3%)点入を組み合わせるのが基本処方である
眼帯・調節麻痺薬:急性期には局所調節麻痺薬と一時的な眼帯を併用し、眼表面の治癒を促進する2)
抗菌薬:上皮欠損に対する感染予防として局所抗菌薬を処方する
鎮痛薬:経口非ステロイド性消炎鎮痛薬(ロキソプロフェン60mg頓用など)で不快感を軽減する
再発予防の治療
就寝前の眼軟膏:びらん発作消失後も最低3か月、できれば半年間は継続する。起床直後の人工涙液点眼を励行し、点眼瓶は枕元に置くよう指導する
高張食塩水:5%塩化ナトリウム点眼液または軟膏を用いる。就寝前の使用が急性期・慢性期の両方に有効と報告されている2)
治療用コンタクトレンズ:連続装用で上皮の安定化を図る。3か月間の連続装用を行った12症例中9例(75%)が約1年後の追跡で再発を認めなかったと報告されている7)
涙点閉鎖:ドライアイを伴う場合に検討する。コラーゲンプラグによる一時的閉鎖またはシリコンプラグによる永久的閉鎖を選択する2)
保存的治療で効果不十分な場合に追加する。
保存的治療が奏効しない難治例に適応となる。
外科的治療の選択肢
上皮デブリドマン:接着不良の上皮を綿棒やセルローススポンジで除去し、Bowman層の滑らかな面を露出させる。その後、治療用ソフトコンタクトレンズと局所抗菌薬を併用する6)
角膜表層穿刺(anterior stromal puncture:ASP):25ゲージの細い注射針を用いて、細隙灯顕微鏡下にデブリドマン後の実質浅層へ微小穿刺を行う。針先を軽く曲げて穿孔を防ぐ。穿刺部位は点状混濁を残すため瞳孔領は避ける。Zaubermanらの後ろ向き研究(30症例35眼)では、1回の治療で62.9%の眼が症状消失に至り、37.1%でびらんエピソードが軽症化した9)
ダイヤモンドバー研磨:上皮除去後にダイヤモンドバーでBowman膜を研磨し、上皮の接着性を向上させる。処置後は治療用コンタクトレンズを4〜5日間装用する2)
PTK(治療的角膜切除術):エキシマレーザーで5〜7μmの深さで角膜を均一に切除する。O’Brartらの報告では、17眼中13眼で最終診察時に再発がみられなかった10)。遠視化の可能性があり、施行可能な施設も限られる
角膜表層穿刺ではNd:YAGレーザー(0.4〜0.5mJパルス)を用いた非接触的穿刺法も報告されている2)。穿刺部は瘢痕形成の可能性があるため、いずれの手技でも瞳孔領への適用は避ける。
25ゲージの細い注射針を用いて、上皮欠損部の角膜実質浅層に微小な穿刺を行う処置である。点眼麻酔下で細隙灯顕微鏡を用いて施行できる。穿刺により線維嚢胞性反応と創傷治癒が誘導され、上皮と角膜実質との接着が強化される。1回の治療で約63%に有効であるが、穿刺部位に点状の混濁が残るため瞳孔領への施行は避ける。
びらん発作が消失してから最低3か月間、できれば半年間は就寝前の眼軟膏と起床直後の人工涙液を継続する。場合によっては1年以上経過してからびらん発作が生じることもあるため、十分な期間の継続が重要である。
RCEの管理についてはCochraneレビュー2018年版があるが、含まれた10件のRCT(計505例)は規模と質の面で限界があり、確定的な治療アルゴリズムを示すには至っていない11)。実臨床では保存的治療から段階的に開始し、難治例で外科的治療を検討する流れが一般的である。
正常な角膜上皮は、基底細胞のヘミデスモソーム(hemidesmosome)を介して基底膜に接着している1,2)。基底膜は IV 型コラーゲンやラミニンを主成分とし、その下のBowman層と実質にはアンカーリングフィブリル(VII型コラーゲン)によって結合している。フィブロネクチン-インテグリン系による細胞間および細胞-マトリックス間の相互作用が、接着構造の維持に重要な役割を果たす。
RCEでは、初期損傷後の上皮の下層実質への接着が不完全・不安定となる1)。病理学的には、基底膜の断裂や欠損、および基底細胞の接着機構であるヘミデスモソームの減少が認められる。
外傷後のRCEでは、何らかの理由により正常な接着構造の再構築が阻害される。紙や爪などによる接線方向の外傷は、上皮のみならずBowman層近傍の接着機構も損傷し、治癒過程で十分なアンカーリングフィブリルが再生しないと考えられている5)。一方、角膜ジストロフィに伴うRCEでは、構成蛋白質成分の遺伝子異常が原因で接着構造そのものが脆弱である。
外傷性RCEに対するIVCM観察では、接着複合体の欠損、基底上皮細胞内の沈着物、上皮下マイクロフォールド、上皮下神経の損傷、異常な基底膜、前部実質の形態変化などが詳細に描出されている4)。これらの所見は、単なる上皮の剥離ではなく、基底膜-Bowman層-前部実質を含む複合的な微細構造異常を反映する。
マイボーム腺機能不全(MGD)、眼酒さ、再発性びらんを合併する患者では、毒性遊離脂肪酸、インターロイキン-1(IL-1)、およびマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)のレベルが上昇することが報告されている2)。これらの分子は接着複合体を分解し、基底膜形成を阻害する。
ドキシサイクリンと局所ステロイドはいずれも、ヒト角膜上皮培養でMMP-9量と活性を低下させる。MMP-9阻害によりコラーゲンとヘミデスモソームの分解を抑え、上皮接着機構の安定化に寄与すると考えられる8)。
角膜上皮の治癒は以下の3段階で進行する2)。
RCEでは第3段階の接着構造の再構築が不十分であるため、上皮が容易に剥離しやすい状態が持続する。
夜間睡眠中は閉瞼により涙液産生が減少し、上皮と眼瞼結膜が密着する。接着の緩い上皮部分は、起床時の開瞼という機械的ストレスで容易に剥離する。この機序により、RCEの発作は早朝の起床時に集中して生じる2,5)。
RCEは基本的に自然治癒傾向の強い疾患である2)。ただし、治癒と評価するには発作の生じない期間が最低3か月間、できれば6か月間は必要である。場合によっては1年以上経過してからびらん発作が再発することもあり、再発リスクについて患者に繰り返し説明しておくことが重要である。
治療を中断したとたんに再発する症例もあり、特に外傷が原因の場合には接着構造の完全な再構築に数か月から半年以上を要することを踏まえ、症状消失後も予防的点眼を継続する動機づけが必要である。患者が「もう治った」と判断して自己中断しないように、初診時から長期治療の見通しを伝えることが再発抑制に直結する。
合併症としては、角膜混濁および瘢痕形成、治療用コンタクトレンズや長期ステロイド使用に伴う感染性角膜炎、視力低下などが挙げられる2)。適切な治療と迅速な診断が行われれば予後は極めて良好であるため、リスク因子を有する患者には症状出現時に速やかに受診するよう教育することが望ましい。