この疾患の要点
TGFBI遺伝子変異により角膜実質 にヒアリン(硝子質)やアミロイドが沈着する常染色体優性遺伝 の角膜ジストロフィ である
1型(R555W変異、Groenouw 1型)と2型(R124H変異、旧Avellino角膜ジストロフィ )に分類される
日本では2型が圧倒的に多い。韓国での有病率は約1万人に11.5人である1)
山口大学の遺伝子診断研究では四大角膜ジストロフィ (顆粒状I/II型・格子状I/IIIA型・膠様滴状・斑状)が全体の約96%を占める- ホモ接合体は幼少期(4〜7歳)に発症し重症化する。ヘテロ接合体は緩徐に進行する
PTK (治療的角膜切除術 )が第一選択である。深い混濁にはDALK を選択する
LASIK ・PRK・LASEK・SMILE などのレーザー屈折 矯正手術は禁忌 である
顆粒状角膜ジストロフィ(granular corneal dystrophy:GCD)は、角膜実質 に顆粒状の沈着物が生じることを特徴とする遺伝性の角膜 疾患である。国際角膜ジストロフィ 分類第2版(IC3D 2015)では、上皮-実質TGFBI関連ジストロフィに分類される2) 。
TGFBI遺伝子(染色体5q31)の点突然変異が原因であり、常染色体優性遺伝 の形式をとる。変異の違いにより以下の2型に分類される。
分類 主な変異 別名・旧称 主な沈着物 GCD1 Arg555Trp(R555W) 古典的顆粒状・Groenouw 1型 ヒアリン(硝子質)のみ GCD2 Arg124His(R124H) Avellino角膜ジストロフィ ヒアリン+アミロイド
GCD2は1988年にGCD1から独立した亜型として報告され、最初の家系がイタリアのアベリーノ地方に由来したことからAvellino角膜ジストロフィ と呼ばれた1) 。その後1997年に原因遺伝子TGFBIが特定され、R124H変異が同定された3) 。IC3D分類第2版(2015年)以降は、顆粒状角膜ジストロフィ2型(GCD2)と正式に命名され、「Avellino」は historical name として併記扱いとなっている2) 。
顆粒状角膜ジストロフィは、国際的には上皮-実質ジストロフィ(epithelial-stromal dystrophies)群に分類される。この群には TGFBI 関連の顆粒状(GCD1・GCD2)、格子状(LCD1・LCD3A)、Reis-Bücklers、Thiel-Behnke の6疾患が含まれ、いずれも同じ5q31上のTGFBI遺伝子の異なる点突然変異が原因となる2,4) 。日本の眼科臨床では、これら6疾患を総称して「TGFBI関連角膜ジストロフィ 」と呼ぶ慣例がある。
顆粒状角膜ジストロフィは1890年にGroenouwが初めて報告した疾患で、当時は単に「Groenouw 1型」と呼ばれた。1938年に格子状ジストロフィとの鑑別が明確化され、長らく「顆粒状角膜ジストロフィ」として単一疾患として扱われてきた。1988年にはイタリア・アベリーノ地方の家系で顆粒状と格子状の両方の特徴をもつ病型が報告され、これが後にGCD2(Avellino型)として分離された1,2) 。2015年のIC3D分類改訂で現在の分類体系が確立し、遺伝子型に基づく命名が国際標準となった2) 。
遺伝形式 :常染色体優性遺伝 。高い浸透率を示す
1型 :欧米に多い。日本では少ない
2型 :日本・韓国など東アジアで圧倒的に多い。韓国での有病率は約1万人に11.5人1)
TGFBI関連角膜ジストロフィ 内の占率 :GCD2は韓国・日本で72〜91%、米国で36%、ポーランドで3%1)
日本の遺伝子診断データ :山口大学では2000〜2021年の21年間で234例の角膜ジストロフィ 患者が遺伝子診断され、四大角膜ジストロフィ (顆粒状I型・II型、格子状I型・IIIA型、膠様滴状、斑状)が全体の約96%を占めた- 東アジアにおける特徴 :顆粒状角膜ジストロフィは東アジアでは圧倒的に2型(R124H)が多い- 発症年齢 :ヘテロ接合体の GCD2 は学童期から細隙灯でのみ観察可能な微小混濁を認めるが自覚症状はない。自覚的視力 低下は40〜50歳代に出現するのが典型である
性差 :常染色体優性遺伝 であり性差はない
Q
「顆粒状」とはどのような状態を指しますか?
A
角膜 中央部の実質浅層に、境界のはっきりした白色〜灰白色の小さな塊(顆粒状の沈着物)が多数できる状態を指す。細隙灯顕微鏡で直接観察すると、パン屑状・雪片状・金平糖状と形容される。沈着物は変異TGFBI蛋白に由来する。
Kuang L, et al. Case Report: Post-LAS
IK exacerbation of granular corneal dystrophy type 2: a familial case with TGFBI mutation. Front Med (Lausanne). 2025. Figure 1. PM
CI D: PMC12722859. License: CC BY.
細隙灯写真で、
角膜 中央から傍中央に灰白色の顆粒状混濁が散在・集簇している。
AS-OCT では
角膜 前方実質に高反射性沈着がみられ、顆粒状角膜ジストロフィの臨床所見を示している。
無症状〜軽度 :ヘテロ接合体では初期〜中期は視力 低下を自覚せず、検診などで偶然発見される例も少なくない。多くは40〜50歳代になって視力 低下を訴える
グレア・羞明 :混濁が瞳孔 領に及ぶと日中のまぶしさ やコントラスト感度 の低下を訴える
再発性角膜上皮剥離 :沈着物がボウマン層や上皮基底膜を障害し、睡眠中や起床時に鋭い眼痛 ・流涙・充血 を生じる
視力 低下 :沈着物間の透明領域が不透明化すると進行性に視力 が低下する3)
コントラスト感度 低下 :視力 (ランドルト環検査)に先行してコントラスト感度 が低下することが多い
昼盲傾向 :明所で散乱光の影響を強く受けるため、屋外や運転時に眩しさを訴える
眼鏡・コンタクトで矯正困難 :沈着物の散乱は屈折 矯正では改善しない
ホモ接合体では幼少期(4〜7歳)から著明な視力 低下を来し、10歳前後で治療が必要となる。
GCD1(R555W)
顆粒状混濁 :角膜 中央部に境界鮮明で比較的小さい白色〜灰白色の顆粒状混濁が散在する。パン屑状・雪片状と表現される。
深さ :角膜上皮 下および角膜実質 浅層。輪部 には及ばない。
沈着物質 :ヒアリン(硝子質)のみ。マッソントリクローム染色で赤色に染まる。アミロイドは含まない。
進行 :加齢とともに顆粒の数が増え、境界が不明瞭となる。
GCD2(R124H)
顆粒状混濁 :GCD1より大きい白色〜灰白色の境界鮮明な混濁で発症する。金平糖状、線状、星状、棍棒状など表現型が多様である。
混合型 :格子状角膜ジストロフィ で見られる網目様の細い線状混濁もみられることがある。
沈着物質 :ヒアリンとアミロイドの両方。マッソントリクローム染色陽性かつコンゴレッド染色陽性、偏光顕微鏡で黄緑色を呈する。
進行 :25〜30歳以上で実質中層に棒状・星状の濃い白色混濁が加わる。浅層にびまん性の面状沈着が強くなり、PTK の良い適応となる3) 。
いずれの型でも混濁は角膜 中央部に位置し、輪部 周辺部には及ばない。通常は両眼性で左右差は少ない。
ホモ接合体変異では表現型が著しく異なる。
GCD1ホモ接合体 :角膜上皮 下〜実質浅層の同一深度に、白色の細網状混濁がほとんど隙間なく存在する。進行すると虹彩 ・前房 が観察不能となる
GCD2ホモ接合体 :充実性の円形白色混濁が最周辺部を除く角膜 全面に隙間なく生じる。肉眼でも白さが認識できるほど重症で、輪部 の透明性のみ保たれる3) 。ホモ接合体症例はPTK ・角膜移植 後も1〜2年といった短期間で再発する難治性角膜ジストロフィ である
Q
ホモ接合体とヘテロ接合体で経過はどう違いますか?
A
ホモ接合体は幼少期(4〜7歳)に発症し、進行が速い。角膜 全面に隙間なく白色混濁が生じ、10歳前後でPTK や角膜移植 が必要となる。術後も1〜2年で再発する難治性の経過をたどる。ヘテロ接合体は緩徐に進行し、通常40〜50歳代まで良好な視力 を維持できる。
GCDはTGFBI遺伝子(染色体5q31)の点突然変異により発症する。TGFBI遺伝子は細胞外マトリックス蛋白であるTGFBIp(ケラトエピセリン)をコードしている。変異TGFBIpは蛋白分解への感受性が低下し、角膜実質 内に異常な不溶性沈着物として蓄積する1,5,7) 。
TGFBI関連角膜ジストロフィ 群には以下が含まれる2,4) 。
家族歴 :常染色体優性遺伝 であり、罹患者の子の50%が発症リスクを持つ
ホモ接合体 :同じ変異のホモ接合体ではより重篤な表現型を示す
角膜 外科手術 :GCD2は角膜 外傷後に急速に進行しうる。特にレーザー屈折 矯正手術後に混濁が著明に増悪する1,8,9)
人種 :GCD2は東アジア(韓国・日本)に多い。遺伝創始者効果(founder effect)の関与が指摘されている3)
環境要因は未解明 :紫外線曝露や糖尿病の直接的な影響は現時点で確立されていない
GCDは浸透率の高い常染色体優性遺伝 である。発端者が確定診断された場合、第一度近親者(両親・兄弟姉妹・子)の50%が同じ変異を保有する可能性がある。家族内の無症状の保因者を早期に同定することで、将来の屈折 矯正手術の回避や進行観察のための定期受診計画を立てることができる1,5) 。特に LASIK を希望する若年者では、家族歴の丁寧な聴取と必要時の遺伝子検査が強く推奨される。
臨床診断は細隙灯顕微鏡による前部実質の境界鮮明な顆粒状混濁の観察と、陽性の家族歴に基づく。充血 と角膜浮腫 のない両眼性の角膜 混濁(沈着)を認めた場合に角膜ジストロフィ を疑う3) 。
角膜ジストロフィ の鑑別では、まず沈着が「境界明瞭」か「びまん性」かを判断する3) 。境界明瞭な顆粒状沈着であれば、沈着のサイズによりGCD1(小さい)とGCD2(大きい)を鑑別する。GCD2では強膜 散乱法で顆粒状沈着の間にびまん性の面状混濁を確認でき、この面状混濁はPTK の良い適応である3) 。
細隙灯顕微鏡 :境界鮮明な白色顆粒状混濁を直接観察する。強膜 散乱法・反帰光・徹照法も活用する
前眼部光干渉断層計 (AS-OCT ) :前部実質の高反射混濁を描出する。PTK の切除深度計画に有用
共焦点顕微鏡 :上皮-ボウマン層間に不規則で高反射なパン屑状混濁を認める
超音波生体顕微鏡 (UBM ) :表層実質内の高反射顆粒を検出する
角膜形状解析 :混濁の密度に関する追加情報を提供する
遺伝子検査 :TGFBI遺伝子解析が確定診断に有用。日本では2020年4月から角膜ジストロフィ 遺伝子検査として保険収載されている3)
前眼部写真撮影 :長期経過観察のため、初診時および経過観察ごとに質の高い前眼部写真を撮影し診療録に残すことが重要である
熟練した細隙灯検査では、以下の観察法を組み合わせて感度を高める3) 。
直接照明 :境界鮮明な顆粒状沈着の大きさ・密度を評価する
強膜 散乱法 :沈着間のびまん性面状混濁を強調する。GCD2で特に有用
反帰光(retro-illumination) :瞳孔 領を透過する光を利用して微小沈着を検出する
徹照法 :上皮下のわずかな顆粒状混濁を早期発見する
GCD1 :マッソントリクローム染色で赤色に染まるヒアリン沈着物。アミロイドは含まない。電子顕微鏡で棒状・台形の沈着物
GCD2 :ヒアリン(マッソントリクローム染色陽性)とアミロイド(コンゴレッド染色陽性、偏光顕微鏡で黄緑色)の両方が沈着する。電子顕微鏡で棒状電子密度沈着物とアミロイド細線維を認める1,7)
Q
遺伝子検査は保険で受けられますか?
A
2020年4月から角膜ジストロフィ 遺伝子検査として保険収載されている。ただし施設認定が必要であるため、検査実施可能な施設は限られている。臨床所見が疑わしい場合や、LASIK などの屈折 矯正手術を検討する場合は、遺伝子検査による確定診断が望ましい。
視力 低下や再発性角膜上皮剥離 がない初期段階では治療は不要である。視力 低下が瞳孔 領に及んだ段階から外科的介入を考慮する。
人工涙液 :ヒアルロン酸ナトリウム0.1%または0.3%点眼を1日4〜6回程度使用し、乾燥と刺激を軽減する
治療用ソフトコンタクトレンズ :再発性上皮剥離に対し、眼表面を保護し治癒を促進する。終日装用を原則とし、定期的な交換が必要である
抗菌点眼薬・眼軟膏 :上皮剥離時の二次感染予防として、レボフロキサシン0.5%点眼を1日3〜4回、就寝前にオフロキサシン眼軟膏を使用する
高張食塩水(5%塩化ナトリウム点眼・眼軟膏) :上皮浮腫を軽減する補助的治療として使用することがある
沈着の深さに応じて治療法を選択する。最終目標はできるだけ角膜移植 を先延ばしにすることである1,6) 。
PTK(治療的角膜切除術)
適応 :前部実質の混濁。第一選択として推奨される1) 。
利点 :反復施行可能。移植片拒絶のリスクがない。上皮下のびまん性混濁はPTK の良い適応である3) 。
手技 :エキシマレーザーで1回あたり約50μmの実質を切除する。切除深度は角膜 厚の制約を受ける1,8) 。
限界 :切除ごとに約1.5Dの遠視 化が生じる。施行回数には限界がある。
DALK/ALK(深層表層角膜移植)
適応 :深い実質混濁。PTK が角膜 厚の制約で施行不能な場合。
利点 :角膜内皮 が正常であるためDALK が好まれる。内皮型拒絶反応のリスクがない3) 。
再発 :ホスト-グラフトジャンクションやグラフト実質浅層で再発する3) 。
PK(全層角膜移植)
適応 :再発を繰り返し実質深層に沈着を来した場合の最終手段。
再発までの中央値 :PKは13.7年と最も長い。PTK ・ALK・DALK は2.7〜3.7年1) 。
最終矯正視力 :いずれの術式でも同等(20/25〜20/30)1) 。
GCD2ホモ接合体 :初回PTK 後約18ヶ月で再発し、2回目・3回目以降は3ヶ月程度で再発する1)
GCD2ヘテロ接合体 :PTK 後の再発は平均38.4ヶ月と比較的緩徐である1)
マイトマイシンC(MMC)併用 :PTK 時のMMC使用は推奨されない。MMCは角膜実質 のケラトサイトのアポトーシス を誘導し、TGFBIpの再吸収・分解を担う細胞を減少させ、再発を加速させる可能性があるためである1)
LASIK 後の増悪例 :PTK 施行は可能だが、LASIK フラップ除去後の方が効果が高い1,8)
術後管理 :PTK 後は抗菌点眼薬(レボフロキサシン0.5%)と副腎皮質ステロイド 点眼(フルオロメトロン0.1%)を上皮治癒まで1日4回、その後減量して使用する。上皮治癒には通常3〜5日を要する
DALK は内皮を温存する術式で、大泡法(big bubble technique)を用いてデスメ膜 直上まで実質を剥離除去し、ドナー実質を縫合する。内皮拒絶反応のリスクがないため、長期予後はPKより良好とされる3) 。Kitazawaらの検討では、TGFBI関連角膜ジストロフィ (顆粒状・格子状を含む)に対するDALK の術後5年視力 は概ね良好で、移植片生着率も高い10) 。日本では保険診療として実施可能である。
GCDに対する外科的治療の選択は以下の順序で検討する1,6) 。
沈着が前部実質(角膜上皮 下〜約150μm)に限局 → PTK
PTK 複数回施行後の再発または深層(150〜400μm)の混濁 → DALK
全層に及ぶ混濁、内皮障害合併、DALK 施行不能例 → PK
いずれの術式後も再発を繰り返す難治例(特にGCD2ホモ) → 遺伝子治療 等の研究的アプローチの検討
GCDはLASIK 、LASEK、PRK、SMILE のいずれも禁忌である。術後に角膜 混濁が急速に増悪し、重度の視力 低下を来す1,8,9) 。LASIK 後はフラップとストロマベッドの間に多数の小顆粒状沈着が形成される。LASIK はPRKと比較して増悪がより重篤で、最終視力 も不良である1,8) 。韓国・日本からの症例報告では、術前に無症候性であった患者がLASIK 施行後数ヶ月〜数年で著明な角膜 混濁を発症し、PTK や角膜移植 を要した例が多数記載されている8,9) 。
Q
もしLASIKを受けた後にGCDが判明した場合はどうなりますか?
A
LASIK 後のGCD発症例では、フラップとストロマベッドの間に急速に顆粒状沈着が形成される。治療選択肢としてはLASIK フラップ除去後のPTK 、DALK 、PKがあり、この順序で検討する。早期の眼科専門医受診が重要である。
TGFBI遺伝子は細胞外マトリックス蛋白であるTGFBIp(ケラトエピセリン、68 kDa)をコードする。TGFBIpは細胞接着・遊走・増殖に関与し、正常角膜実質 においても発現する1,5,7) 。TGFBI遺伝子に変異が生じると、変異TGFBIpは蛋白分解に対する感受性が低下し、角膜実質 内に不溶性の沈着物として蓄積する5,7) 。
GCD1はArg555Trp(R555W)変異に起因する。変異TGFBIpはヒアリン(硝子質)として角膜実質 浅層に沈着する。アミロイドは含まれない3) 。
GCD2はArg124His(R124H)変異にほぼ限定される1,5) 。GCD2ではヒアリンとアミロイドの両方が沈着する。
オートファジーの障害 :GCD2ではオートファジーの障害が報告されており、TGFBIpの分解が低下することで蓄積が促進される1,5)
ミトコンドリア機能不全 :変異TGFBIp自体が角膜 線維芽細胞に影響し、ミトコンドリア機能不全を引き起こす可能性が示唆されている1)
角膜新生血管 の影響 :角膜新生血管 を伴う領域では沈着物が減少・再吸収される傾向がある。血管供給のない角膜 中央部に沈着が集中する機序を裏付ける所見である1)
LASIK 後にフラップとストロマベッドの間にTGFBIpが急速に沈着する。これは角膜 中央部での手術操作が変異TGFBIpの蓄積を促進するためと考えられる1,8) 。白内障 手術時の角膜 切開(輪部 近傍)では増悪しないことから、血管化した輪部 との距離が関連すると推定されている1) 。Awwadらの病理学的観察では、LASIK 後に形成される沈着物はフラップとストロマベッド界面の創傷治癒反応に伴うケラトサイト活性化とともにTGFBIpが集積することを示唆している8) 。
GCD1の沈着物は光学顕微鏡で homogeneous(均一な)好酸性物質として観察され、マッソントリクローム染色で赤色に染まる。電子顕微鏡レベルでは、直径100〜500nmの棒状または台形の高電子密度構造物として認められる6) 。
GCD2では、ヒアリン沈着に加えてアミロイド線維(直径8〜10nm)が認められる。アミロイド線維はコンゴレッド染色で赤橙色に染まり、偏光顕微鏡下で apple green(りんご緑色)の複屈折 を示すのが特徴である6) 。二重の染色特性はGCD2の病理学的確定診断に有用である。
Poulsen らのプロテオーム解析によれば、GCD2患者の角膜 では変異R124H-TGFBIpが正常TGFBIpと比較して蛋白分解酵素による切断を受けにくく、特定のC末端断片が選択的に蓄積することが示されている6) 。この切断抵抗性がヒアリン・アミロイド線維形成の基盤となる可能性が示唆されている。
GCD2に対する新たな治療法の開発が進められているが、いずれも研究段階である1,5) 。
塩化リチウムはTGFBI蛋白産生を減少させることが報告されている。メラトニンとラパマイシンの併用療法はTGFBI蛋白発現を阻害すると同時に、オートファジーを活性化して変異TGFBIpの分解を促進する可能性が示されている1,5) 。
small interfering RNA(siRNA)やshort hairpin siRNA(shRNA)を用いた変異TGFBI発現のサイレンシングが前臨床で研究されている。CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術も候補に挙がるが、正常アレルや他の遺伝子への意図しないオフターゲット効果が課題である1,5) 。
角膜 電気分解(corneal electrolysis) :角膜移植 後の再発例に対する試験的使用が報告されている。長期成績は不明である
機械学習による診断支援 :前眼部写真からGCDを自動識別するAIモデルの開発が報告されている
シャペロン療法 :変異TGFBIpの正しい折り畳みを支援する化学シャペロン(4-phenylbutyric acid 等)の基礎研究が進行中である3)
iPS細胞由来角膜上皮 シート :患者由来 iPS 細胞から作製した角膜上皮 シートの移植治療が将来的選択肢として研究されている
国内では、日本眼科学会および日本角膜 学会を中心に、TGFBI関連角膜ジストロフィ のナショナルレジストリ構築に向けた議論が続いている。2020年の遺伝子検査保険収載を契機に遺伝子診断例が増えており、日本人に特有の変異パターンや表現型の長期追跡データが蓄積されつつある3,11) 。今後は保因者スクリーニングから屈折 矯正手術の適応判断まで、エビデンスに基づく診療体系の整備が期待される。
GCDの患者では、以下の生活指導が重要である。
紫外線対策 :UVカット機能付きのサングラス・眼鏡を外出時に使用し、角膜 への紫外線曝露を減らす
眼外傷の回避 :打撲や異物による角膜 損傷は再発性上皮剥離を誘発しうる。スポーツや作業時には保護眼鏡を使用する
定期受診 :ヘテロ接合体でも年1回の細隙灯検査と視力検査 を受ける
家族の検査 :第一度近親者にも家族内スクリーニングを勧める
コンタクトレンズ :ソフトレンズは原則可能だが、装用時間を短めにし、定期交換を徹底する
屈折 矯正手術の回避 :LASIK 系手術は絶対禁忌。眼鏡・コンタクトレンズによる矯正を選択する
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