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Thiel-Behnke角膜ジストロフィ
1. Thiel-Behnke角膜ジストロフィとは
Section titled “1. Thiel-Behnke角膜ジストロフィとは”Thiel-Behnke角膜ジストロフィ(Thiel-Behnke corneal dystrophy: TBCD)は、蜂巣状(ハニカム状)角膜ジストロフィとも呼ばれる上皮-実質TGFBI関連角膜ジストロフィの一つである。常染色体優性遺伝であり、第5染色体5q31に位置するTGFBI遺伝子のArg555Gln(R555Q)変異が代表的な原因変異である1,2。
TBCDは進行性で両眼性に発症する。初期には角膜中央部のBowman層を侵し、加齢とともに周辺部角膜や深部実質へと進行する。極めてまれな疾患であり、有病率は不明で、現在の文献は症例シリーズや症例報告に限られている1。
TGFBI関連角膜ジストロフィの分類
Section titled “TGFBI関連角膜ジストロフィの分類”TGFBI遺伝子の変異は、アミノ酸の変異部位が1つ異なるだけで異なる臨床像を呈する。2015年のIC3D改訂版で上皮-実質TGFBI関連ジストロフィという解剖学的サブカテゴリが新設され、2024年のIC3D Edition 3でも維持されている1,2。
| ジストロフィ | 変異 |
|---|---|
| TBCD | Arg555Gln |
| RBCD | Arg124Leu |
| 顆粒状1型 | Arg555Trp |
| 格子状1型 | Arg124Cys |
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”- 疼痛:小児期から再発性角膜上皮びらんに伴う疼痛を認める。再発性びらんの頻度は加齢とともに減少する。
- 視力低下:年齢が進むにつれ角膜混濁の増強により視力障害へと進展する。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”- 蜂巣状角膜混濁:初期にはBowman膜に孤立した斑点状混濁を認め、徐々に対称的な上皮下の蜂巣状(ハニカム状)混濁へと進展する。成人では混濁が浅層から深層へ進行し、周辺部角膜にまで及ぶ1,3。
- 鋸歯状パターン:前眼部OCTでBowman膜に中等度反射の鋸歯状パターン(sawtooth pattern)を認める。RBCDの境界鮮明な高反射バンドと対照的で、TBCDに特徴的な所見である4。
- 角膜表面の不規則な隆起:細隙灯顕微鏡で角膜表面の不規則性が観察される。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”TGFBI遺伝子は細胞の移動・接着・分化・成長に関与するTGFβ誘導タンパク質(ケラトエピテリン)をコードする。Arg555Gln変異により産生されたケラトエピテリンが凝集タンパク質となり、角膜組織内に異常沈着すると考えられている2。
TBCDの最も一般的な変異はArg555Glnであるが、Met502Val/Arg555GlnやGly623_His626delなどの他の変異も報告されている2。
常染色体優性遺伝である。変異を有する親から50%の確率で子に遺伝する。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”病理・遺伝子検査
RBCDとの鑑別が最も重要であり、臨床像が類似するため遺伝子検査が必須となる。格子状角膜ジストロフィ1型はアミロイド沈着による線状混濁を呈し、顆粒状角膜ジストロフィ1型は硝子様の顆粒状混濁を呈する。いずれもTGFBI遺伝子変異であるが、変異部位が異なる。
curly collagen fiber(縮れ状コラーゲン線維)は、TBCDにおいて電子顕微鏡で観察される特異的な所見である。正常なコラーゲン線維とは異なる形態を呈し、TBCD組織内に蓄積する。RBCDではrod-shaped body(棒状体)が特異的所見であり、この電顕所見の違いが両疾患の鑑別に役立つ。ただし電子顕微鏡検査は臨床的に容易でないため、実際の確定診断にはTGFBI遺伝子検査が推奨される。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”TBCDに対する最適な治療法のコンセンサスは得られていない。
再発性角膜上皮びらんに対しては、頻回の人工涙液点眼、高張食塩水点眼、および治療用コンタクトレンズによる保護を行う。
PTK(治療的レーザー角膜切除術)
Section titled “PTK(治療的レーザー角膜切除術)”初期の治療としてPTKが第一選択である。角膜混濁を除去し視力を改善させる。Hiedaら(2013)の遺伝子確定診断TBCD 5例10眼の中期成績では、平均logMAR BCVAが−0.55改善し、中期的に安定した視力と角膜透明性が得られたと報告されている。ただしPTK後には再発が生じ、同報告では10眼中5眼で中央部の表層混濁の再発を認め、うち4眼で2段階以上の視力低下を伴った5。1回のPTKでおよそ50 μmの角膜実質を切除するため、施行回数には制限がある2。
PTK後の再発を繰り返す例では、混濁の深さに応じて表層角膜移植術または深層角膜移植術の適応となる。角膜移植後もホスト角膜上皮に被覆されたグラフト実質浅層で再発する可能性がある。再発を繰り返し実質深層に沈着をきたした場合は、全層角膜移植術が必要となる1,2。
Bowman層移植
Section titled “Bowman層移植”近年、ドナーのBowman層を移植するBowman層オンレイ移植が有望な外科的介入として報告されている。従来の層状角膜移植より侵襲性が低く、レシピエントの角膜組織を多く保存しながら再発やグラフト合併症のリスクを低減する利点がある。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”ケラトエピテリンの異常沈着
Section titled “ケラトエピテリンの異常沈着”TGFBI遺伝子の産物であるケラトエピテリンは、遺伝子変異により凝集タンパク質となり角膜組織内に沈着する。変異ごとに異なる凝集体を形成するため、同じTGFBI遺伝子の変異であっても臨床像が異なる。TBCDではcurly collagen fiberとして沈着し、RBCDではrod-shaped bodyとして沈着する2,3。
オートファジーの障害
Section titled “オートファジーの障害”オートファジー(自食作用)の障害が、角膜線維芽細胞における変異TGFBIタンパク質の蓄積を招くという仮説が提唱されている。正常では不要なタンパク質はオートファジーにより分解されるが、この機構が障害されることで異常タンパク質が蓄積し角膜混濁が進行すると考えられている2。
組織学的所見
Section titled “組織学的所見”上皮細胞層の厚さは不均一となり、上皮基底細胞層の一部欠損を認める。上皮と実質の間に線維性組織が鋸歯状に形成される。Bowman膜は線維細胞性パンヌスによって置換され、マッソン・トリクローム染色で陽性を呈する3。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Weiss JS, Rapuano CJ, Seitz B, et al. IC3D Classification of Corneal Dystrophies—Edition 3. Cornea. 2024;43(4):466-527. PMID: 38359414. PMCID: PMC10906208. doi:10.1097/ICO.0000000000003420. PubMed
- Lakshminarayanan R, Chaurasia SS, Anandalakshmi V, et al. Clinical and genetic aspects of the TGFBI-associated corneal dystrophies. Ocul Surf. 2014;12(4):234-251. PMID: 25284770. doi:10.1016/j.jtos.2013.12.002. PubMed
- Küchle M, Green WR, Völcker HE, Barraquer J. Reevaluation of corneal dystrophies of Bowman’s layer and the anterior stroma (Reis-Bücklers and Thiel-Behnke types): a light and electron microscopic study of eight corneas and a review of the literature. Cornea. 1995;14(4):333-354. PMID: 7671605. doi:10.1097/00003226-199507000-00001. PubMed
- Nishino T, Kobayashi A, Mori N, Yokogawa H, Sugiyama K. In vivo Imaging of Reis-Bücklers and Thiel-Behnke Corneal Dystrophies Using Anterior Segment Optical Coherence Tomography. Clin Ophthalmol. 2020;14:2601-2607. PMID: 32982153. PMCID: PMC7490037. doi:10.2147/OPTH.S265136. PubMed
- Hieda O, Kawasaki S, Wakimasu K, Yamasaki K, Inatomi T, Kinoshita S. Clinical outcomes of phototherapeutic keratectomy in eyes with Thiel-Behnke corneal dystrophy. Am J Ophthalmol. 2013;155(1):66-72.e1. PMID: 22967865. doi:10.1016/j.ajo.2012.06.022. PubMed