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角膜・外眼部疾患

帯状角膜変性

帯状角膜変性(Calcific Band Keratopathy: CBK)は、カルシウムハイドロキシアパタイトを主体とする無機リン酸塩・炭酸塩が上皮下、ボーマン層、前部実質に沈着する慢性の角膜変性疾患である1)。本症の最初の記載は1948年のDixonによるものとされ、以後、慢性眼疾患や全身代謝異常に伴う二次性変性として広く認識されてきた1, 7)。沈着物の本体はカルシウムの結晶であるが、非結晶性のリン酸塩・炭酸塩やエラストイド変性コラーゲンなどの混合型物質を伴うことがあり、その場合はキレート剤への反応が不良となる1)

本症は水平方向の瞼裂部を中心に、角膜輪部との間に透明帯を残しつつ帯状の灰白色混濁を形成する点が特徴である。進行は一般に緩徐であり、混濁が角膜周辺部にとどまっている間は無症状であるが、瞳孔領に及ぶと視力障害、羞明、上皮びらんによる疼痛や異物感が生じる4)。原因疾患の管理が不十分であれば治療後の再発も起こりうる8)

成人では長期経過の慢性ぶどう膜炎シリコーンオイル注入眼、難治緑内障などに続発するケースが多い。小児領域では若年性特発性関節炎(JIA)に伴う慢性虹彩毛様体炎の晩期合併症として高頻度に認められ、自覚症状が乏しい「white uveitis」の経過中に併発白内障虹彩後癒着とともに発見されることが少なくない6)。全身的には副甲状腺機能亢進症、慢性腎不全、サルコイドーシスなどの代謝・炎症性疾患が背景となる。こうした多様な背景から、帯状角膜変性は単一疾患というより「カルシウム沈着を臨床像とする症候群」として理解される必要がある7)

典型的な発症年齢は基礎疾患に依存し、JIA関連慢性虹彩毛様体炎では学童期から思春期、シリコーンオイル留置例では術後数か月から数年、高カルシウム血症例では中高年以降に発症することが多い。両眼性・片眼性のいずれも起こりうるが、全身性疾患を背景とする場合は両眼性となる傾向が強い10)

Q 帯状角膜変性の再発率はどの程度か?
A

EDTAキレーション療法後の再発率は約17.8%と報告されている1)。再発はぶどう膜炎角膜ヘルペスなどの基礎疾患が持続する症例で高い1, 8)。トポグラフィーガイド下PRKと治療的レーザー角膜切除術の併用は、表面の平滑化と涙液安定性の改善を通じて再発率の低減に寄与しうる1)

帯状角膜変性のスリット写真。角膜中央に帯状の灰白色石灰化混濁を認める。
Abdi P, et al. Familial primary calcific band-shaped keratopathy with late onset systemic disease: a case series and review of the literature. J Med Case Rep. 2024. Figure 1. PMCID: PMC10925011. License: CC BY.
3名のイラン人兄弟姉妹(A・Bは41歳姉の右眼・左眼、C・Dは37歳弟の右眼・左眼、E・Fは33歳妹の右眼・左眼)の術前スリットランプ写真である。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う「帯状角膜変性」に対応する。

軽症では無症状のことが多い。病変が瞳孔領を覆うと視力障害、羞明、異物感が出現する4)。カルシウム結晶による光散乱がグレアやコントラスト感度低下の原因となる1)。上皮びらんや上皮欠損を伴う進行例では強い疼痛や流涙を訴えることがある。視力低下の自覚は沈着が瞳孔領中央に達した時点で初めて明確化することが多く、日常動作での眩しさや霧視、夜間視力の低下が先行症状となる場合もある。片眼性の場合は対側眼との比較で気付かれることもある。反復性角膜びらんを繰り返す症例では起床時の強い疼痛と流涙を特徴とする。

混濁は水平方向(3時・9時方向)の瞼裂部角膜周辺部から始まる。角膜輪部と沈着の間には1〜2mm幅の透明帯(limbal clear zone)が存在し、本症の形態的特徴となる。混濁は徐々に中央部に向かって進行し融合して帯状形態をとる。混濁中にはスイスチーズ様の透明小穴が散在し、これは角膜神経のボーマン層貫通部に相当する。進行例では上皮不整、反復性上皮欠損、前部実質混濁を伴う7)

画像検査ではコンフォーカルマイクロスコープで沈着物が厚い入道雲のように高輝度に観察され、沈着物内の音響陰影も認められる。前眼部光干渉断層計AS-OCT)では高反射シグナルとして沈着層の深さと厚さが定量評価でき、約150μmに及ぶ沈着層が確認された症例報告がある1)角膜トポグラフィーでは角膜形態不整指数(corneal morphology index: CMI)で不整度を定量できる1)

沈着の分布パターンは病態を推定する手がかりとなる。慢性ぶどう膜炎に伴う例では3時・9時方向の瞼裂部から求心性に進行する典型パターンを示しやすい一方、JIA関連例では透明帯が不明瞭化するほど中央部にまで進行する重症例も経験される6)。職業性水銀蒸気曝露例では角膜中央寄りに不規則な沈着が生じる場合があり、病歴聴取が鑑別の鍵となる1)。進行例では角膜表面不整に起因する涙液層破壊時間短縮や上皮微小欠損が観察され、細隙灯下のフルオレセイン染色点状表層角膜症様の染色パターンを呈する。反復性角膜上皮びらんの既往がある症例では、ボーマン層の断裂が背景にあると推定される7)

帯状角膜変性は多様な眼局所疾患および全身性疾患に続発する。臨床的によくみられる原因は慢性眼内炎症疾患、高カルシウム血症、硝子体手術後のシリコーンオイル注入である。原因は単独で存在することもあれば複数が重畳することもあり、たとえば長期のぶどう膜炎症例では炎症、続発緑内障に対するリン酸含有ステロイド点眼、高カルシウム血症の三者が同時に関与する場合もある。

眼局所の原因

慢性ぶどう膜炎:最も一般的な眼局所原因の一つであり、持続的な眼内炎症がカルシウム沈着を促進する2, 7)

若年性特発性関節炎関連慢性虹彩毛様体併発白内障虹彩後癒着とともに帯状角膜変性が高頻度に認められ、晩期の主要な合併症である6)

続発緑内障:長期経過の緑内障症例、特に角膜内皮機能が低下した症例に続発することがある2)

角膜実質炎:慢性のヘルペス角膜実質炎や間質性角膜炎が基盤となる

シリコーンオイル注入後硝子体手術後の長期留置が角膜変性の誘因となる

角膜曝露兎眼や顔面神経麻痺による持続的乾燥が関与する

全身性の原因

原発性副甲状腺機能亢進症:高カルシウム血症を介した代表的な全身性原因である

慢性腎不全・透析患者:血清カルシウム-リン積の上昇に伴う転移性石灰化が原因となり、結膜角膜に石灰化を生じる5, 10)

サルコイドーシス・ビタミンD中毒:肉芽腫性疾患による高カルシウム血症が背景となる

職業性曝露:水銀蒸気やクロム酸カルシウム蒸気への曝露症例が報告されている1)

リン酸含有ステロイド点眼:長期使用により沈殿物として角膜に沈着することがある

カルシウムが沈着する正確な機序は十分には解明されていないが、組織pHの上昇と涙液蒸発亢進が主要な因子と推察されている。瞼裂部では涙液が大気に曝露され二酸化炭素が放出されるため涙液pHが上昇し、カルシウム塩の溶解度が低下する。涙液の蒸発量は瞼裂の広い部位ほど大きく、瞼裂部が瞼縁部より常温で乾燥しやすいことが、沈着の分布が瞼裂に一致する理由として支持されている。ドライアイは涙液蒸発と組織浸透圧上昇を介した増悪因子であり、眼表面環境の慢性的な不安定性が本症の進行に関与する5)。慢性腎不全症例では血清カルシウム-リン積の上昇に加え、輪部血管からの血流に乗って運ばれたカルシウム塩が上皮下に沈着する転移性石灰化の機序が想定されている5, 10)

リスク因子は表のようにまとめられる。複数の因子が併存する例では発症までの潜伏期間が短くなる傾向がある。若年性特発性関節炎に伴う慢性虹彩毛様体炎では、診断から数年を経て帯状角膜変性が顕在化することも少なくなく、定期的な前眼部スクリーニングが重要である6)。小児例では自覚症状を訴えにくいことが多いため、視力低下や異物感を訴える前に定期検査で早期発見することが望ましい。

帯状の灰白色混濁、スイスチーズ様所見、輪部との間の透明帯という三徴は特徴的な臨床所見であり、細隙灯顕微鏡検査によって診断可能である4)。細隙灯の徹照法では沈着部位が陰影として浮かび上がり、沈着の範囲や濃度を視覚的に把握しやすい。AS-OCTは沈着物の深さと厚さ、前部実質への進展の評価に有用であり、治療法選択の指標となる1)角膜トポグラフィー角膜形態不整度の定量評価に使用され、治療前後のCMI変化を客観的に追跡できる1)。コンフォーカルマイクロスコープでは沈着物が高輝度構造として観察され、同時に基底下神経叢の障害の程度も評価できるため、再発性上皮びらんを伴う症例の病態把握に役立つ。超音波生体顕微鏡UBM)は角膜前部から輪部の構造評価に有用な補助的検査である。

原因不明の帯状角膜変性、特に若年者や両眼性症例では全身的な原因検索が重要である。

検査項目目的
血清Ca・P値、補正Ca、intact PTH高カルシウム血症・副甲状腺機能亢進症の評価5, 10)
腎機能(BUN・Cr・eGFR)慢性腎不全の有無
血清尿酸痛風・代謝異常の評価
ACE値・胸部画像サルコイドーシスの除外
血沈・CRP・抗核抗体・HLA-B27全身炎症性疾患・膠原病の評価

Vogt’s limbal girdleは加齢に伴う角膜周辺部の微細なカルシウム塩沈着であり、健常者でもしばしばみられる無症候性の加齢変化である4)輪部に接して発生し、瞼裂部中央への進展を示さない点で帯状角膜変性と区別される。スフェロイド変性(climatic droplet keratopathy)はヒアリン様物質の上皮下沈着であり、本症と形態は類似するが沈着物の性状が異なり、強い紫外線曝露を受ける地域の屋外労働者に多く、金色から黄褐色の油滴状小球が特徴である。続発性角膜アミロイドーシスも瞼裂部に白色沈着を生じるため鑑別が必要であり、コンゴレッド染色陽性と偏光下の複屈折によって診断される。膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinous drop-like corneal dystrophy)は若年発症の上皮アミロイドーシスで、桑の実状ないし帯状の混濁を呈し外観が類似するため注意が必要である。

Q 帯状角膜変性の確定にどのような検査が必要か?
A

多くの場合、細隙灯顕微鏡による典型的な臨床所見のみで診断は可能である。AS-OCTは沈着物の深さの定量評価に有用であり、治療法の選択に役立つ1)。コンフォーカルマイクロスコープでは沈着物が高輝度に観察される。原因疾患の検索として血中カルシウム・リン値、腎機能、ACE値などの血液検査を行う。小児両眼例では若年性特発性関節炎関連慢性虹彩毛様体炎を念頭に前房内炎症の評価も重要である6)

視力障害や自覚症状がない場合は経過観察が原則である4)。症状が出現した場合に積極的な治療介入を行う。治療法は大きく、注射針による局所除去、薬液塗布によるキレーション、エキシマレーザーによる角膜切除の3種類に分類される。

注射針による局所的カルシウム除去

Section titled “注射針による局所的カルシウム除去”

カルシウムが局所的に突出している場合や板状に沈着している場合には、27ゲージ針を用いて沈着物をめくるように除去する簡便な方法がある。ただし沈着部直下の実質が菲薄化していることが多く、実質深部まで切り込むと医原性の瘢痕を生じるため注意を要する。

最も広く用いられる治療法である4, 7, 8)角膜上皮を機械的に除去した後、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を綿棒に浸してカルシウム沈着部に塗布し、ゴルフナイフなどで沈着物を掻爬する。使用される濃度は0.4〜1%EDTA溶液あるいは0.05 mol/L EDTA-Naが標準的で、最終的に十分量のリン酸緩衝液または生理食塩液で洗浄する。2004年に報告された長期追跡研究では、EDTAキレーションにより平均視力改善が得られる一方で、基礎疾患の持続する症例で再発が高率に生じることが示されている8)。若年性特発性関節炎関連慢性虹彩毛様体炎の合併症としての帯状角膜変性に対しても、EDTAや希塩酸による処理、エキシマレーザーによる治療が行われる6)

従来のNa2EDTAは米国FDAの承認撤回後に入手困難かつ高価となり、代替としてK2EDTA採血管由来の調製法が提案されている3)。K2EDTAコーティング採血管の内壁から調製する簡便法は、複数の報告で安全性と有効性が確認されている2, 3)

K2EDTA(採血管由来)

特徴:ラベンダーキャップの採血管内壁のK2EDTAコーティングから溶解調製する簡便な方法である3)

利点:安価(100本あたり36〜47ドル、Na2EDTA平均117ドルと比較して低コスト)で入手容易である3)

有効性:Na2EDTAと同等のカルシウム除去効果が複数の臨床例で確認されている2, 3)

安全性角膜内皮への悪影響や遅延治癒は報告されていない。白内障手術や角膜内皮移植との同時施行も安全である2)

治療的レーザー角膜切除術/PRK(エキシマレーザー)

適応:EDTA無効例、深部沈着例、非石灰化物質の混在例、不正乱視合併例1, 9)

標準手技:上皮を残したまま直径約7mm、深度約100μmで照射する。マスキング剤として1%ヒドロキシメチルセルロース溶液を併用する1)

トポグラフィーガイド下PRK併用:不正乱視の矯正と視覚の質の最適化を目的に、前眼部・後眼部の収差を統合的に補正する1)

注意点:術後約3Dの遠視化と十分な角膜厚(目安として術前450μm以上)が必要である9)

K2EDTA調製法濃度調製時間
方法1(5本移送法)65mg/mL3)189秒3)
方法2(1本振盪法)35mg/mL3)38秒3)
方法3(綿棒溶解法)52mg/mL3)83秒3)

標準的なNa2EDTAの調製濃度は30〜40mg/mLであり、方法3はこれを上回る濃度を短時間で達成できるため、濃度・調製時間・簡便性の最良のバランスとして推奨される3)

治療的レーザー角膜切除術(PTK)とPRK併用

Section titled “治療的レーザー角膜切除術(PTK)とPRK併用”

エキシマレーザーによる治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutic keratectomy: PTK)は、1993年のO’Brartらによる長期追跡研究以来、深部沈着と混合型物質の除去に有効な治療として確立している9)。近年ではトポグラフィーガイド下経上皮PRKとPTKを組み合わせた個別化手術により、沈着除去と不正乱視矯正を同時に達成できるようになった1)。水銀蒸気曝露による帯状角膜変性症例(63歳男性)では、EDTA無効後にトポグラフィーガイド下PRK+PTK併用を施行し、右眼裸眼視力(UCVA)が20/100から20/20に、左眼が20/200から20/63に改善した1)角膜形態不整指数(CMI)も右眼で15から3μm、左眼で21から11μmと有意に改善した1)

術後管理はEDTAキレーションでもPTK/PRKでも共通しており、治療的ソフトコンタクトレンズを装用したうえで抗菌点眼薬と低用量ステロイド点眼を投与し、すみやかな上皮再生を促す。術後早期の疼痛管理と感染予防が重要である。通常、上皮化完了までに5〜7日程度を要し、その間の経過観察では上皮欠損面積、前房内炎症の有無、コンタクトレンズのフィッティング状態を評価する。慢性ぶどう膜炎が背景にある症例では術前から十分な消炎を得ておき、術後も抗炎症治療を継続することで再発リスクを低減する6, 8)

視力予後は基礎疾患の制御と沈着の深達度に依存する。表層のみの沈着であればEDTAキレーション単独で良好な視力改善が得られるが、前部実質まで及ぶ深部沈着例ではPTK併用を要し、術後も不正乱視が残存する場合がある1, 9)。重度の角膜瘢痕を残した症例、あるいは内皮機能低下を合併する症例では、最終的に層状角膜移植DALK)や全層角膜移植PKP)が選択されることもある7)

Q K2EDTAの採血管からの調製は安全か?
A

K2EDTAを採血管から抽出して帯状角膜変性の治療に使用する方法は、複数の報告で安全性と有効性が確認されている2, 3)角膜内皮への悪影響や遅延治癒は報告されていない3)白内障手術や角膜内皮移植との同時手術も安全に施行できる2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

カルシウムハイドロキシアパタイトが角膜上皮基底膜、ボーマン層、前部実質に沈着することが本症の本態である1, 4)。沈着物には非結晶性のリン酸塩・炭酸塩やエラストイド変性コラーゲンなどの混合型物質を含む場合があり、混合型物質の存在がEDTAキレート剤への反応不良の原因となる1, 7)

沈着が瞼裂部に沿った帯状分布を示す理由として、涙液のpH上昇と蒸発亢進が主要な因子と考えられている。瞼裂部では涙液が大気に曝露され二酸化炭素が放出されるためpHが局所的に上昇し、カルシウム塩(特にリン酸カルシウム、炭酸カルシウム)の溶解度が低下することで沈着が促進される。涙液層の蒸発亢進、ドライアイ、高浸透圧といった眼表面ストレスも沈着を助長する5)

カルシウムが高度に沈着するとボーマン層が障害・断裂し、その上に位置する角膜上皮の接着異常が生じる。この機序が反復性上皮びらんと慢性疼痛の原因となる7)。慢性ぶどう膜炎では、房水中の炎症性サイトカインや増加したカルシウムイオンが角膜後面から浸透し、慢性的な角膜内皮・実質のストレスを介して沈着を促進する6)

慢性腎不全における帯状角膜変性は転移性石灰化と慢性全身炎症の双方が関与する5, 10)。血清カルシウム-リン積が高値となると、輪部血管からの血流によりカルシウム塩が上皮下組織に沈着しやすくなる。透析患者では副甲状腺機能亢進症(二次性・三次性)が併存することも多く、カルシウム代謝異常が角膜病変の背景となる10)。血清カルシウム-リン積が70 mg²/dL²を超える状態が持続すると角膜結膜石灰化のリスクが明らかに上昇するとされ、透析管理におけるミネラル代謝の是正が本症予防の基盤となる10)

分子レベルでは、炎症性サイトカインやアルカリホスファターゼ活性の局所的亢進が石灰化の核形成を助長する可能性が指摘されている。慢性ぶどう膜炎房水中には炎症性サイトカインが高濃度で含まれ、これが角膜後面から実質への拡散を介して沈着形成に関与すると考えられている6, 7)ドライアイによる涙液浸透圧の上昇、瞼裂部の慢性機械刺激、リン酸緩衝液を含有する点眼薬(一部のステロイド点眼など)の長期曝露もリスク因子として報告されており、医原性の発症を減らすためには製剤選択への配慮も必要である5)

Q 帯状角膜変性の沈着は角膜のどの深さまで及ぶか?
A

典型的には上皮下からボーマン層にとどまる。しかし進行例では前部実質にまで及ぶことがあり、AS-OCTで約150μmの沈着が確認された報告がある1)。深部沈着例ではEDTAキレーションのみでは不十分であり、治療的レーザー角膜切除術などのレーザー治療が必要となる1, 9)

トポグラフィーガイド下経上皮PRKと治療的レーザー角膜切除術の併用は、EDTA無効例に対する有力な治療選択肢として報告されている1)。レイトレーシングアルゴリズムにより前眼部・後眼部の収差を統合的に補正し、実質消費量を最小化しつつ視覚の質を最適化できる。術後6か月の経過で角膜透明性と視力改善が維持されている1)

K2EDTA採血管由来の調製法の簡素化も進んでおり、従来のNa2EDTAと比較して低コストかつ迅速な治療が可能となっている2, 3)。近年は透明角膜創からの白内障手術や角膜内皮移植との同時施行の報告もあり、視力回復戦略の柔軟性が広がっている2)

今後はEDTA、PTK羊膜移植、トポグラフィーガイド下PRKを組み合わせた個別化治療の最適化や、基礎疾患治療(慢性ぶどう膜炎の分子標的治療、副甲状腺機能亢進症の外科治療、透析患者のリン代謝管理)と連動した再発予防戦略の確立が課題である6, 8)

若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎に対する生物学的製剤アダリムマブインフリキシマブなど)の導入により、眼内炎症のコントロールが従来より安定して得られるようになりつつあり、これが長期的には帯状角膜変性の新規発症や再発の抑制につながる可能性がある6)。実際、生物学的製剤導入後に白内障手術とEDTAキレーションを安全に施行し良好な視力改善を得た症例が日本からも報告されている6)。基礎疾患のコントロールが得られた状態で外科的介入を行うことが、長期予後を左右する最大の要因である。

画像診断の進歩にも注目が集まる。AS-OCTによる沈着層の三次元評価、シャインプルーグ撮影による角膜密度解析、トポグラフィー指標の時系列比較などを組み合わせることで、治療適応とレーザー照射プロファイルの精密化が期待される1)。また、基礎疾患に由来する再発リスクを層別化するためのバイオマーカー(涙液炎症性サイトカイン、血清カルシウム-リン積)の臨床応用も今後の課題である。診療の各段階で多職種連携(リウマチ内科、腎臓内科、内分泌内科)を確保することが、再発抑制と視機能温存の鍵となる。


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