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白内障・前眼部

併発白内障(Complicated Cataract / Uveitis Cataract)

併発白内障(complicated cataract)は、何らかの眼疾患・全身疾患に伴って生じる白内障の総称である。ぶどう膜炎に伴うものが最も代表的であるが、網膜色素変性症強度近視・網脈絡膜変性などの眼疾患や、糖尿病・アトピー性皮膚炎・筋強直性ジストロフィ・Wilson病・ガラクトース血症など多様な全身疾患が原因となる。加齢白内障とは異なった特徴的な水晶体混濁を呈することが多く、水晶体所見から原因疾患が発見されることも少なくない。

本記事の主題はぶどう膜炎に伴う白内障(uveitis cataract)であるが、全身疾患に伴う白内障についても概説する。

ぶどう膜炎白内障は慢性ぶどう膜炎患者において最も頻度の高い合併症の一つである。発生率は疾患により異なり、毛様体扁平部炎(pars planitis)で約57%、Fuchs異色性虹彩毛様体炎(Fuchs heterochromic iridocyclitis)では約78%に達する。

白内障形成の主な原因は以下の2つである。第一は制御不全かつ持続的な眼内炎症であり、第二は高用量の局所・眼周囲・全身ステロイドの長期使用である。特にステロイド白内障は後嚢下混濁として現れることが多い。

小児の非感染性ぶどう膜炎では、白内障緑内障黄斑浮腫を含む眼合併症が全症例の76%に及ぶとの報告がある1)

Q ぶどう膜炎が白内障の原因となるのはなぜか?
A

慢性眼内炎症は水晶体の代謝環境を悪化させ混濁を促進する。また、炎症治療に使用されるステロイドは後嚢下白内障を高率に引き起こす。これら2つの機序が複合的に作用する。

  • 視力低下: 水晶体混濁の進行に伴い生じる。後嚢下型では早期から中心視力が障害されやすい
  • 羞明: 炎症と混濁の両方が原因となる
  • 霧視: 混濁による光散乱で生じる
  • コントラスト感度低下: 後嚢下白内障では特に顕著である

細隙灯顕微鏡検査により、白内障の形態に加えてぶどう膜炎特有の前眼部変化が確認される。

  • 白内障の形態: 後嚢下混濁が多い(ステロイド性)。皮質白内障・核白内障も生じる
  • 虹彩後癒着: 虹彩と前嚢の癒着。散瞳不良の原因となる
  • 帯状角膜変性: 若年性慢性虹彩毛様体炎(JIA関連)に多い
  • 虹彩萎縮・血管脆弱性: 術中出血のリスクとなる
  • 隅角癒着: 続発緑内障の原因となる
  • 瞳孔膜形成: JIAやVKH病で特に生じやすい
  • 硝子体混濁: 中間部〜後部ぶどう膜炎では術前評価を困難にする
  • 嚢胞状黄斑浮腫CME: 術後視力予後を制限する最重要合併症

疾患特異的な水晶体混濁パターン

Section titled “疾患特異的な水晶体混濁パターン”
疾患混濁形態特徴
ぶどう膜炎(慢性)後嚢下白内障後嚢直下+瞳孔領中央の後皮質浅層混濁
糖尿病皮質白内障皮質浅層のwater clefts(赤道部→中央)
Wilson病ひまわり状白内障前嚢下の多色性顆粒状混濁が放射状に広がる
筋強直性ジストロフィVogt型 / Fleischer型多色性顆粒状混濁 / Y字縫合に沿った星状混濁
アトピー性皮膚炎ヒトデ状白内障前後嚢下中央の特徴的形態
網膜色素変性症後嚢下白内障直径1mm以下、後嚢直下から後皮質浅層
ガラクトース血症油滴状混濁水晶体核から始まり全白内障へ進行
低カルシウム血症テタニー白内障前後浅層皮質に多色性顆粒状混濁
Q 併発白内障と加齢白内障は見た目が異なるのか?
A

特徴的な混濁パターンを持つことが多く、細隙灯検査で原因疾患を推定できる場合がある。例えばWilson病ではひまわり状混濁、筋強直性ジストロフィではVogt型またはFleischer型の特異的混濁がみられる。一方で加齢白内障は核白内障・皮質白内障・後嚢下型の三形態が典型的であり、病歴と混濁パターンを組み合わせて判断する。

ぶどう膜炎白内障の発症リスクは基礎疾患の種類と治療方法によって異なる。

  • 高リスク疾患: 若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎、肉芽腫性前部ぶどう膜炎毛様体扁平部炎、後部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎
  • 低リスク疾患: Fuchs異色性虹彩毛様体炎(術後炎症は比較的軽微で予後良好)
  • ステロイド白内障: 局所・全身ステロイドの長期使用。後嚢下白内障として現れやすい
  • 疾患活動性: 制御不良の炎症が直接的に水晶体混濁を促進する

若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎では、白内障緑内障とも特発性ぶどう膜炎より発症率が有意に高い3)

Q アトピー性皮膚炎でも白内障になるのか?
A

アトピー性皮膚炎は若年者の白内障原因として最も多い。10歳代後半から発症例があり、前後嚢下中央にヒトデ状の特徴的混濁を呈する。眼叩打行動や眼内炎症による水晶体上皮細胞障害が主な発症機序と考えられている。

手術前には徹底的な眼科的評価が不可欠である。眼内炎症の活動性評価が最優先であり、SUN(Standardization of Uveitis Nomenclature)基準による前房細胞グレーディングを行う6)

特徴的な水晶体混濁パターンから原因疾患を推定することが重要である。ひまわり状混濁であればWilson病、Vogt型/Fleischer型であれば筋強直性ジストロフィなど、特異的パターンを認めた場合は原疾患の全身検査(内科・皮膚科等との連携)が必要である。

Q ぶどう膜炎患者の白内障手術前に特に重要な検査は何か?
A

眼内炎症の活動性評価が最優先である。前房細胞・フレアの程度をSUN基準で評価し、3か月以上の炎症沈静化を確認してから手術を計画する。硝子体混濁がある場合はBモード超音波で後部眼節を評価し、OCT嚢胞様黄斑浮腫の有無を確認する。

手術の少なくとも3か月前から完全な炎症コントロール(前房内に細胞なし、硝子体炎症最小限)が必要である。術前の炎症コントロールは術後嚢胞様黄斑浮腫のリスクを低減させる2)

ぶどう膜炎のタイプにより術前管理は以下のように異なる。

  • 非肉芽腫性前部ぶどう膜炎・Fuchs異色性虹彩毛様体: 手術3〜7日前から1%酢酸プレドニゾロン点眼(6時間ごと)の開始で十分な場合がある
  • JIA・肉芽腫性前部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎CME既往例: 局所療法に加え、手術3〜7日前からプレドニゾン(0.5〜1.0 mg/kg/日)全身投与を開始する。テノン嚢トリアムシノロンアセトニド40mgが全身投与の代替となることがある
  • ヘルペス性(HSV-1・VZV)ぶどう膜炎: 術前1週間以上からアシクロビル2g/日またはバラシクロビル1〜3g/日を開始。術後4週間以上は予防用量(アシクロビル600〜800mg/日)を継続する
  • 帯状角膜変性がある場合: 術前に1〜2% EDTAキレート療法またはエキシマレーザーによるカルシウム除去を行い、角膜上皮治癒後に白内障手術を施行する

すべてのぶどう膜炎患者に対し、局所NSAIDs(ネパフェナク0.1%、ケトロラク0.4%、またはブロムフェナク0.09%)を術前3日以上から開始し、術後少なくとも6〜8週間継続することが推奨される4)

ESCRSガイドラインでは、ぶどう膜炎患者ではステロイドの使用頻度の増加と投与期間の延長が推奨されている4)

小切開白内障手術(MICS)・経角膜切開による水晶体乳化吸引術が推奨される9)

  • 散瞳の確保: 癒着剥離術・瞳孔膜切除術・括約筋切開術・虹彩リトラクターの使用が必要になることがある
  • 水晶体嚢切開(CCC: 直径5〜6mmに維持する。過小では嚢収縮やIOL偏位リスクが増す
  • 超音波エネルギー: 過度の炎症・角膜内皮障害・後嚢破損リスクを避けるため最小限に抑える
  • 後嚢の保護: 後嚢を無傷に保ち、IOLを嚢内に配置することが成功の鍵である
  • 術中ステロイド: 角膜創口閉鎖後に保存剤フリーのリン酸デキサメタゾン400mcgの前房内注入を考慮できる

成人ぶどう膜炎患者では、疎水性アクリルIOLまたはヘパリン表面修飾PMMA(HSM PMMA)IOLが推奨される10)。疎水性アクリルIOLでは術後6か月の炎症レベルと後嚢混濁発生率が低い。IOL配置は嚢内(opticとhapticの両方を嚢内)が原則として優先される。

JIA関連ぶどう膜炎患者では、IOL挿入に伴う二次性緑内障・広範な線維化・毛様体膜形成などの重篤な合併症リスクがあり、IOL挿入の可否を慎重に検討する必要がある。

全身疾患に伴う白内障の治療原則として、原疾患の治療が優先される。ガラクトース血症では食事療法(ガラクトース制限)により混濁が改善することがある。進行した場合は超音波乳化吸引術+IOL挿入術を行う。網膜色素変性症合併例では術後嚢胞様黄斑浮腫のリスクが高いため注意が必要である。

術後直後から局所ステロイド(1%酢酸プレドニゾロン、1時間ごと)、局所NSAIDs(ネパフェナク0.1%を8時間ごと、ブロムフェナク0.09%を24時間ごと)、広域スペクトルの局所抗菌薬(6時間ごと)を開始する。

虹彩後癒着防止のため、術後10〜14日間は短時間作用型散瞳薬(1%トロピカミド、6時間ごと)を投与する。経口ステロイド投与患者では、目標用量を1週間維持後に維持量(理想的には10mg/日以下)まで漸減する。

Q 術後の最も重篤な合併症は何か?
A

術後眼内炎症の増悪が最も恐れられる合併症である。重篤な前房内炎症細胞・フィブリン膜・前房蓄膿として現れる場合がある。JIAやVKH病では特に重篤となりやすい。また嚢胞様黄斑浮腫が33〜56%に発生するとされ、視力低下の主要原因となる11)黄斑前膜は15〜56%に生じると報告されている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

慢性眼内炎症では、血液房水関門の破綻によりサイトカイン・炎症性メディエーター・酸化ストレス物質が房水中に増加する。これらが水晶体上皮細胞と水晶体線維に直接作用し、透明性を保つタンパク質(クリスタリン)の構造変化や沈殿を引き起こす。また虹彩後癒着による水晶体直接接触が前嚢下混濁を生じさせる。

ステロイドは後嚢下白内障(PSC)を特異的に誘発する。機序として、ステロイド水晶体上皮細胞の移動を促進し、後嚢下への上皮細胞の蓄積が混濁を形成すると考えられている。

全身疾患による白内障の発生機序

Section titled “全身疾患による白内障の発生機序”
  • 糖尿病: ソルビトール経路によるポリオール蓄積 → 浸透圧性細胞膨化 → 水晶体線維の膨張・混濁
  • 低カルシウム血症: カルシウムイオン輸送障害 → 水晶体上皮細胞の機能不全
  • Wilson病: 銅の水晶体沈着 → ひまわり状混濁の形成
  • 筋強直性ジストロフィ: DMPK遺伝子のCTGリピート伸長 → RNAの核内蓄積 → 水晶体上皮細胞のスプライシング障害

ぶどう膜炎では眼圧上昇が高頻度に生じる。線維柱帯への目詰まり・線維柱帯炎・隅角結節・周辺虹彩前癒着ステロイドによるミオシリン誘導・血管新生・瞳孔ブロックがその機序として挙げられる。

白内障術後遷延性偽水晶体性ぶどう膜炎(PUPPI)

Section titled “白内障術後遷延性偽水晶体性ぶどう膜炎(PUPPI)”

IRIS Registryの大規模データ(7,513,604例)の解析により、合併症のない白内障手術後6か月以内の慢性ぶどう膜炎発生率は患者レベルで1.68%と報告された5)。リスク因子として女性(IRR 1.14)、糖尿病(IRR 1.87)、両眼手術(IRR 1.10)が同定された。手術ミスや感染ではなく患者側因子に起因する炎症であり、高リスク群では4%以上の発生率となる5)

硝子体内ステロイドインプラントの活用

Section titled “硝子体内ステロイドインプラントの活用”

全身ステロイドに耐えられない患者に対し、硝子体ステロイド注射またはインプラントが術後炎症コントロールに有用である可能性が報告されている7, 8)

難治性術後嚢胞様黄斑浮腫への対応

Section titled “難治性術後嚢胞様黄斑浮腫への対応”

ぶどう膜炎患者の術後嚢胞様黄斑浮腫は従来の治療に抵抗性を示す場合がある2)硝子体内注射・インプラント・免疫調節療法の最適な組み合わせについて研究が進んでいる7, 8)

既存治療に抵抗性の非感染性ぶどう膜炎に対してアダリムマブ(抗TNF製剤)が用いられ、ステロイド薬減量効果を示すことが明らかになっている。白内障手術の周術期管理に与える影響についての研究も蓄積されつつある。

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