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白内障・前眼部

小球状水晶体

小球状水晶体(Microspherophakia)は、水晶体の前後径が増大し赤道径が縮小した球状の水晶体形態異常を特徴とする先天奇形である。通常は両眼性に発症する。

水晶体の赤道径は正常では約9〜9.5mmであるのに対し、小球状水晶体では6.75〜7.5mm程度に縮小する。前後径の増大により、全散瞳下では水晶体赤道縁全周が観察可能となる。体位変換に伴い水晶体が移動するのも本疾患の特徴的所見である。

胎生5〜6ヶ月頃、水晶体血管膜(tunica vasculosa lentis)の欠損による栄養不足から二次水晶体線維の発達が停止すると考えられている2)。チン小帯線維も未発達となり、水晶体が正常の重凸レンズ状に変化せず球形のまま留まる。

遺伝形式と責任遺伝子:遺伝形式は常染色体劣性が主であるが、常染色体優性の報告もある。責任遺伝子としてLTBP2(latent TGF-β binding protein-2)およびADAMTS17が知られる。LTBPファミリーはフィブリリンと構造的相同性を持ち、線維柱帯毛様体突起・水晶体嚢で発現する。ADAMTS17はワイル・マルケサニ症候群の主要遺伝子ADAMTS10と同じメタロプロテアーゼファミリーに属する。

関連疾患:小球状水晶体は単独の欠損として生じることもあれば、全身疾患や局所眼疾患に伴って発症することもある。代表的な関連疾患を以下に示す。

全身疾患

ワイル・マルケサニ症候群:短指・短躯・短頭蓋を伴う最も頻度の高い関連疾患。常染色体劣性(一部優性)遺伝。

マルファン症候群:FBN1遺伝子変異による結合組織疾患。水晶体形状異常が球状水晶体となることもある。

ホモシスチン尿症:メチオニン代謝異常。知能障害・血栓症・下方への水晶体脱臼を伴う。

その他アルポート症候群、ロー症候群、クラインフェルター症候群、高リジン血症、先天性風疹など。

局所疾患・孤発性

孤発性(家族性):全身異常を伴わない。遺伝形式は常染色体劣性が多い。

無虹彩症:先天性の虹彩欠損と合併することがある。

巨大角膜角膜径の拡大を伴う前眼部形成異常。

成人Refsum病ペルオキシソーム病の一型。小球状水晶体との合併例が初めて報告されている5)

Q コンタクトレンズや眼鏡で視力矯正はできるか?
A

強度の水晶体近視に対しては眼鏡やコンタクトレンズによる屈折矯正が可能であり、軽症例では経過観察の対象となる。しかし、チン小帯弛緩が進行して水晶体偏位や緑内障発作が生じた場合は手術が必要となる。

  • 視力低下:強度の水晶体近視による。平均屈折誤差は−11.07ジオプトリと報告されている3)
  • 急激な眼痛・充血:瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障発作。視力低下を伴い救急受診の契機となる。
  • 単眼複視・屈折変動:水晶体の偏位や傾斜による。
  • 羞明霧視:水晶体混濁(白内障)の合併による。

小球状水晶体の三徴は閉塞隅角緑内障・浅前房・強度水晶体近視である。

細隙灯顕微鏡での主な所見は以下の通りである。

  • 水晶体赤道縁の全周可視:全散瞳下で観察可能。体位変換で水晶体が移動する。
  • 浅前房:球状水晶体の前方移動による。
  • 水晶体震盪(phacodonesis):チン小帯弛緩により眼球運動に伴い水晶体が揺れる。
  • 虹彩震盪(iridodonesis):水晶体の不安定性に伴う虹彩の揺れ。
  • 水晶体偏位・亜脱臼:進行例で認められる。レンズ赤道径が小さいほど(6.5mm未満)合併症の重症度が高い4)
  • 後部強膜ぶどう腫・近視性三日月斑:高度近視眼の眼底所見。

超音波生体顕微鏡(超音波生体顕微鏡)は小球状水晶体の診断に有用で、前眼部の二次元断層像を作成して隅角・虹彩・毛様体・チン小帯・水晶体の形態を把握できる。特に散瞳が不十分な症例で有用である。

Q 緑内障はなぜ高率に発症するのか?
A

複数の機序が関与する。球状水晶体の前方移動による急性瞳孔ブロック、解除されない瞳孔ブロックによる周辺虹彩前癒着の形成、球状水晶体による慢性的な前房隅角の狭窄(crowding)、さらに前房隅角の発育異常が複合的に作用する1)

病理学的には、チン小帯線維が異常に長くやや未発達であることが示されている。二次水晶体線維の異常発達・配置異常が認められ、水晶体形状変化が水晶体線維に影響して硝子様変性(hyaloid degeneration)を生じる。

発症機序として以下が考えられている2)

  • 胎生期のtunica vasculosa lentisの欠損による栄養不足からの二次水晶体線維の発達停止または付着異常。発育が球状を呈する胎生5〜6ヶ月頃に生じると推察される。
  • チン小帯線維の緊張欠如と水晶体発達停止により、水晶体が通常の重凸レンズ状に徐々に変化せず球形のまま留まる。

遺伝的素因(LTBP2・ADAMTS17・FBN1遺伝子変異)が背景にある場合が多い。

診断は臨床所見に基づいて行われる。問診では詳細な家族歴および全身異常の既往歴の確認が必須である。

  1. 細隙灯顕微鏡検査:散瞳下で水晶体の球状形態・赤道縁可視・水晶体震盪・前房深度を評価する。
  2. 超音波生体顕微鏡(超音波生体顕微鏡):前房隅角・毛様体・チン小帯・水晶体の形態評価。小瞳孔・固定瞳孔など困難な症例で特に有用。
  3. 眼圧測定隅角鏡検査:緑内障の有無と機序(閉塞隅角か開放隅角か)の評価。
  4. 仰臥位・坐位での検査:体位変換による水晶体移動を確認する1)。仰臥位でさらに水晶体が前方へ亜脱臼する例は、経毛様体扁平部水晶体切除術の適応となる。
  5. 全身検索:心血管系・骨格系・代謝系の評価。ホモシスチン尿症疑いでは血清ホモシステイン値測定・尿スクリーニング検査を行う。
  • マルファン症候群による水晶体亜脱臼:球状水晶体形態を呈することがある。FBN1遺伝子検査で鑑別。水晶体偏位方向は上方が多い(マルファン症候群は上耳側)。
  • ワイル・マルケサニ症候群:小球状水晶体を最も高率に合併する全身疾患で、短指・短躯・短頭蓋を伴う。
  • ホモシスチン尿症:下方または前房内への水晶体脱臼が多い。血栓症のリスクに注意が必要。

小球状水晶体の管理は合併症の有無と重症度に応じて段階的に行う。

  • 調節麻痺薬(散瞳薬):チン小帯の緊張を高め水晶体を後方に引き、瞳孔ブロックを解除する。治療の第一選択である。
  • 縮瞳薬は禁忌:毛様体筋収縮によりチン小帯がさらに弛緩し、水晶体が前方移動して瞳孔ブロック緑内障を誘発する危険がある。
  • 眼圧下降薬:緑内障管理に使用するが、根本治療にはならないことが多い。
  • 急性発作時:静脈内マンニトール投与、薬理学的散瞳、仰臥位保持が有効な場合がある1)

Nd:YAGレーザー虹彩切開術:瞳孔ブロックを解除する最初の手技として安全に施行できる。ただし、緑内障に対する効果は限定的なことが多く、複数の機序が関与するためレーザー・薬物のみでは眼圧コントロールが不十分な場合がある1)

緑内障管理の観点から、段階的プロトコルが用いられる。

段階術式適応
第一選択レーザー虹彩切開術瞳孔ブロック解除
第二選択水晶体摘出術下記の適応基準を満たす場合
第三選択濾過手術水晶体摘出後も眼圧不良
第四選択チューブシャント手術難治例

水晶体摘出術(レンズ切除術)の適応

  • 角膜と水晶体の接触(角膜内皮障害リスク)
  • 矯正困難な片眼性強度近視
  • 瞳孔ブロック(レーザー虹彩切開術が無効または不十分)
  • 難治性続発緑内障
  • 進行性水晶体亜脱臼
  • 視力低下を伴う水晶体混濁(白内障)

水晶体摘出後は、後嚢温存により前後眼部の区画を維持し、硝子体脱出・嚢胞様黄斑浮腫網膜剥離のリスクを軽減することが重要である1)

手術アプローチの選択:

Yangら(2016)は、小球状水晶体続発緑内障患者を「水晶体乳化吸引術+カプセルテンションリング+眼内レンズ」群と「経毛様体扁平部水晶体切除術+強膜固定眼内レンズ」群に分け、3年間の経過観察で両手技ともに眼圧低下・視力改善に有効であることを報告した1)。術式の選択は術者の技量・経験・患者の状態を考慮して決定する。

Senthilら(2014)の後方視的研究では、小球状水晶体の51%が緑内障を有し、そのうち20〜30%が緑内障性視神経障害による失明状態であった1)

眼内レンズ固定法の選択:後嚢・チン小帯・虹彩の支持が不十分な場合、以下の選択肢がある1)

  • 虹彩固定型眼内レンズ:McCannel縫合またはSeipser slipknotで虹彩中周辺部に固定。前房型眼内レンズより内皮細胞障害が少ない。
  • 強膜固定型眼内レンズ:虹彩組織が不十分な場合に選択。10-0プロレン縫合またはGore-Tex縫合を使用。プロレン縫合は7〜14年で加水分解性劣化を起こす可能性があり、小児症例では長期フォローが必要1)
  • 縫合レスの眼内レンズ固定(glued IOL法):生物学的組織グルーを用いてフラップ下にハプティクスを固定。縫合関連合併症を回避できる。
Q 水晶体を摘出すれば緑内障は治るか?
A

水晶体摘出後に眼圧が薬物なしでコントロールできる例は半数程度とされる。進行した周辺虹彩前癒着や隅角形成異常がある場合は、摘出のみでは不十分であり、追加の医療・手術的介入が必要となる1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

胎生期において水晶体は生理的に球状である。通常は成長に伴い毛様体・チン小帯の適切な牽引力を受けて重凸レンズ形態に変化する。小球状水晶体では、この形態変化が起こらず球形のまま固定されると推測される1)。後面のチン小帯線維は毛様体突起に付着せず、異常に長い線維が弛緩した状態にある。

複数の機序が複合的に関与する1)2)

  1. 急性瞳孔ブロック:球状水晶体の前方移動、またはチン小帯弛緩・伸長による水晶体前方亜脱臼が虹彩と水晶体の接触を引き起こす。
  2. 慢性瞳孔ブロック:球状水晶体による前房隅角の狭窄(crowding)。
  3. 周辺虹彩前癒着の形成:解除されない瞳孔ブロックにより線維柱帯に不可逆的な損傷が生じる。
  4. 隅角発育異常:前房隅角の構造的形成不全が素因となる。

Bariら(2022)の症例では、右眼(赤道径6.01mm)は左眼(6.61mm)より小さく、より重篤な臨床像(角膜内皮障害・緑内障性視野障害)を呈していた。レンズの赤道径が小さいほど前方亜脱臼しやすく、合併症が重篤になると示唆された4)

組織病理学的に、チン小帯線維が異常に長くやや未発達であり、二次水晶体線維の異常発達と分布が観察される。その後、水晶体の形状変化が水晶体線維に影響して硝子様変性が生じる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

縫合レスの眼内レンズ固定法の長期成績

Section titled “縫合レスの眼内レンズ固定法の長期成績”

Kannanら(2018)は40眼の小児ectopia lentisを対象に、縫合レス・グルーレス・フラップレスの強膜内眼内レンズ固定法を評価した。平均追跡期間1年で、90%の眼が矯正なし視力20/60以上を達成し、球面等価値が1ジオプトリ未満であったと報告した1)。術後合併症リスクの軽減と視力予後の改善が示されたが、長期成績のデータはまだ限られている。

Liuら(2026)は成人Refsum病(ペルオキシソーム疾患)患者に小球状水晶体が合併した初の症例を報告した5)。Refsum病とMicrospherophakaiaの病因連関は不明であり、偶発的合併か新たな症候群オーバーラップかの解明が今後の課題とされている。従来知られていなかった疾患との関連が明らかになることで、小球状水晶体の遺伝的・発生学的多様性への理解が深まりつつある。

Yangらの比較研究では、limbal lensectomy+カプセルテンションリング+眼内レンズ群と経毛様体扁平部水晶体切除術+強膜固定型眼内レンズ群で3年経過観察時の眼圧低下・視力改善に有意差がなかった1)。今後は長期成績・合併症発生率の比較を目的とした大規模ランダム化比較試験が必要とされている。現状では症例の個別評価と術者の経験・技量による術式選択が基本方針である。


  1. Venkataraman P, Haripriya A, Mohan N, Rajendran A. A systematic approach to the management of microspherophakia. Indian J Ophthalmol. 2022;70:2262-71.
  2. Khan TA, Khan AA, Khan A, et al. Bilateral anteriorly displaced microspherophakia in a female child with Marfanoid habitus. Cureus. 2023;15(5):e38371.
  3. Shah A, Kaliaperumal S, Stephen M, Ramachandran K. Microspherophakia with an atypical temporal iris coloboma in a young female. BMJ Case Rep. 2025;18:e264543.
  4. Bari A, Asif MI, Anjum S, Sinha R. Complicated microspherophakia in a paediatric patient. BMJ Case Rep. 2022;15:e249209.
  5. Liu C, Galindez S, Laurent E, Hinkle D. A unique case of microspherophakia in adult Refsum disease. Am J Ophthalmol Case Rep. 2026;41:102495.

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