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ぶどう膜炎

眼炎症に対する免疫調節療法(IMT)

1. 眼炎症に対する免疫調節療法(IMT)とは

Section titled “1. 眼炎症に対する免疫調節療法(IMT)とは”

免疫調節療法(Immunomodulatory Therapy; IMT)は、ステロイドに依存または抵抗する非感染性眼炎症に対して使用されるステロイドスペアリング治療の総称である。従来型免疫調節薬(メトトレキサートアザチオプリン等)から、TNF-α阻害薬(アダリムマブインフリキシマブ)などの生物学的製剤まで幅広い。

非感染性ぶどう膜炎は多様な自己免疫性・自己炎症性疾患群であり、適切な治療なしには失明に至る可能性がある。推定では、ぶどう膜炎患者の70%が視力低下を経験し、約20%が平均3年以内に法的失明の基準を満たす1)

ぶどう膜炎診療ガイドライン(2019年)では、4週間以上持続しステロイド点眼に抵抗性を示す前部ぶどう膜炎に対してメトトレキサートをsteroid sparing agentの第一選択として推奨している3)

インフリキシマブは2007年に難治性ベーチェット眼症状に対して適応を取得し、アダリムマブは2016年に非感染性中間・後部・汎ぶどう膜炎に適応を取得している4)

Q 免疫調節療法とはステロイドとどう違うのか?
A

ステロイド(グルコルチコイド)は急性期の速効性が高い一方、長期使用により後嚢下白内障緑内障、骨粗鬆症、糖尿病、感染症感受性増大などの多彩な副作用をきたします。免疫調節療法はステロイドと並行して、または代替として使用し、「ステロイドを減量・中止しながら炎症をコントロールする」ことを目的とします(ステロイドスペアリング)。効果発現には数週〜数ヶ月を要するため、初期はステロイドとの併用が多くなります。

免疫調節療法適応患者の主訴は基礎疾患に由来する。

  • 視力低下黄斑浮腫硝子体混濁による。
  • 霧視飛蚊症:前部および中間部ぶどう膜炎での訴えが多い。
  • 羞明眼痛:活動性前部ぶどう膜炎に伴う。
  • 変視症黄斑部炎症や浮腫による。
所見評価内容
視力SUN基準による炎症スコアと視力変化
細隙灯検査前房フレア・細胞・角膜後面沈着物
硝子体混濁グレード(硝子体炎の程度)
眼底・OCT黄斑浮腫脈絡膜炎・乳頭浮腫

ステロイドの長期副作用(後嚢下白内障眼圧上昇・ステロイド緑内障)の有無も免疫調節療法開始の判断材料となる。

Q どの程度のステロイド量から免疫調節療法を検討するか?
A

一般的に、プレドニゾロン換算で1日5〜10mg以上を長期に必要とする場合にはステロイドスペアリングとしての免疫調節療法が適応となります。ぶどう膜炎領域では、この閾値を下回るまでステロイドを減量できるよう免疫調節療法を追加するアプローチが広く採用されています。

免疫調節療法が必要となる疾患背景

Section titled “免疫調節療法が必要となる疾患背景”

早期の免疫調節療法開始が推奨される疾患

ベーチェット病:コルヒチンが第一選択。ステロイド全身投与は炎症発作誘発リスクがあり避けるのが原則。難治例にはインフリキシマブ(レミケード5 mg/kg 2か月毎)3)

原田病:ネオーラル 3 mg/kg/日 分2でシクロスポリンを追加。長期の免疫調節療法継続が視力予後を左右する。

交感性眼炎:初期からの免疫調節療法が長期予後を改善する。

蛇行状脈絡膜炎:進行性で早期の免疫調節療法開始が必要。

免疫調節療法が有効な疾患

若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎:NSAIDs・ステロイド・MTX・トシリズマブ(保険適応)・エタネルセプト(保険適応)。MTX+アダリムマブが有効(SYCAMORE試験)1)6)

HLA-B27陽性ぶどう膜炎メトトレキサートが第一選択(80.1%)1)

サルコイドーシス関連メトトレキサートが第一選択(62.4%)1)

バードショット網膜脈絡膜:ミコフェノール酸が第一選択1)

中間部ぶどう膜炎:ネオーラル 3〜5 mg/kg/日 分2、またはMTX 2 mg 12時間おきに3回を週毎に繰り返す。

4. 診断と検査方法(投与前スクリーニング)

Section titled “4. 診断と検査方法(投与前スクリーニング)”

免疫調節療法を開始すべき適応として、国際調査で最も多く挙げられた基準は以下の通りである1)

  1. 経口ステロイドでコントロール不十分(94.1%)
  2. 特定疾患の診断(89.1%)
  3. 経口ステロイドへの不耐(84.2%)
  4. 眼局所ステロイド(周囲・眼内)の禁忌(71.9%)

開始前スクリーニング(全例実施)

Section titled “開始前スクリーニング(全例実施)”

国際調査では全221名(100%)が前処置スクリーニングを実施していた1)

検査項目実施率
血液化学検査98.2%
血液一般検査93.7%
クォンティフェロン検査88.7%

TNF阻害薬使用前の追加スクリーニング

Section titled “TNF阻害薬使用前の追加スクリーニング”

TNF阻害薬インフリキシマブアダリムマブ)使用前には以下の除外スクリーニングが必要である4)

  • 結核除外:QFTまたはT-SPOT検査(必須)、胸部X線・CT
  • B型肝炎ウイルス除外:HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体検査(必須)
  • B型肝炎再活性化リスク:HBc抗体陽性例では抗ウイルス薬の予防投与を検討

免疫調節療法投与患者の68.8%でリウマチ科医などとの共同管理が行われており、93.4%が内科・小児リウマチ科医との連携であった1)

Q TNF阻害薬投与前にどのような検査が必要ですか?
A

TNF阻害薬インフリキシマブアダリムマブ)投与前には結核除外(クォンティフェロン/T-SPOT・胸部X線)とB型肝炎ウイルス除外(HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体)が必須です4)。活動性感染症・重篤な感染症の既往がある場合は禁忌となります。その他、悪性腫瘍・脱髄疾患の既往も確認が必要です。

プレドニゾロン初期1 mg/kgで開始する専門医が76.9%であり、最大4週以内に減量開始するのが93.7%1)。Behçet病ではステロイド全身投与が炎症発作を誘発するリスクがあり、原則として回避する。

**メトトレキサート(MTX)**は最も広く使用される従来型薬であり、国際調査では98.2%の専門医が使用経験を持つ1)

  • 投与量:7.5〜25 mg 週1回(経口または皮下注)
  • 葉酸補充:葉酸1 mg/日の補充が必要
  • 主な副作用:悪心、肝機能障害、骨髄毒性、間質性肺炎3)

疾患別の処方例(ぶどう膜炎診療ガイドラインより):

  • ベーチェット病:コルヒチン 0.5〜1.5 mg/日(通常1 mg/日、保険適用外)を炎症発作抑制目的に内服3)。コルヒチン効果不十分ならネオーラル 5 mg/kg/日 分2。さらに重症・難治の場合はレミケード 5 mg/kg を1〜2時間点滴静注で2か月毎に施行。
  • 原田病:ネオーラル 3 mg/kg/日 分2(体重60 kgで180 mg/日)。定期的トラフ測定、易感染性・腎肝機能障害のモニタリングが必要。
  • 中間部ぶどう膜炎:ネオーラル 3〜5 mg/kg/日 分2、またはMTX 2 mg 12時間おきに3回(週1回繰り返し)。

その他の従来型薬の使用実態(国際調査)1)

  • アザチオプリン:89.6%が使用経験あり
  • ミコフェノール酸:86.9%が使用経験あり
  • シクロスポリン:76.0%が使用経験あり

アダリムマブ(完全ヒト型抗TNF-αモノクローナル抗体)は国際調査で97.7%が第一選択の生物学的製剤として採用1)。VISUAL I試験(活動性非感染性ぶどう膜炎5)・VISUAL II試験(不活性非感染性ぶどう膜炎7)・SYCAMORE試験(JIA関連ぶどう膜炎MTX+アダリムマブ6)により有効性が確立。FDA・EMAが非感染性ぶどう膜炎への適応承認済み。

インフリキシマブ(キメラ型抗TNF-α抗体):

  • 2007年に難治性ベーチェット眼症状に保険適応取得4)
  • 投与法:レミケード 5 mg/kg、1〜2時間点滴静注、2か月毎
  • 半減期:8〜9.5日 → 術前休薬4週が必要4)
  • インフュージョンリアクション(アナフィラキシー様)への備え:抗ヒスタミン薬・副腎皮質ステロイド静脈注射・エピネフリンを準備4)

アダリムマブの実用情報

  • 半減期:約14日 → 術前休薬3〜4週が必要4)
  • 投与法:40 mg隔週皮下注射

その他使用される生物学的製剤1)

  • トシリズマブ(抗IL-6受容体抗体):58.8%が使用経験あり。JIA関連ぶどう膜炎への保険適応あり3)
  • リツキシマブ(抗CD20抗体):62.9%が使用経験あり
  • エタネルセプト:JIA関連ぶどう膜炎に保険適応あり

薬剤選択の試用期間と切り替え

Section titled “薬剤選択の試用期間と切り替え”

多くの専門医(81.9%)は薬剤を3〜6か月試用してから無効と判断し、次の薬剤へ切り替えている1)。FOCUSガイダンスでも、コルチコステロイドに依存する非感染性ぶどう膜炎では早期のIMT開始が推奨されている10)

85.1%の専門医が複数の免疫調節療法薬剤を組み合わせており、最も多い組み合わせはメトトレキサートアダリムマブ(84.0%)である1)

Q 日本で保険が使える生物学的製剤はどれですか?
A

ぶどう膜炎に対して日本で保険適応を持つ主な生物学的製剤は以下です4)インフリキシマブ(レミケード):2007年承認、難治性ベーチェット眼症状に適応。 アダリムマブ:2016年承認、非感染性中間・後部・汎ぶどう膜炎に適応。 トシリズマブ・エタネルセプト:JIA関連ぶどう膜炎に保険適応があります。 いずれも適応条件があるため、主治医に確認してください。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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メトトレキサートはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し、プリンヌクレオチドとチミジル酸の合成を妨げることでDNA複製・修復・細胞増殖を抑制する。低用量では細胞外アデノシンの放出を介した抗炎症作用が主体であり、T細胞活性化・サイトカイン産生を抑制する。

コルヒチンはチューブリン重合を阻害し好中球機能を抑制することで、ベーチェット病の炎症発作を抑制する。

カルシニューリン阻害薬の作用機序

Section titled “カルシニューリン阻害薬の作用機序”

シクロスポリン(ネオーラル)はカルシニューリンを阻害し、T細胞でのIL-2産生と活性化を抑制する。腎毒性・高血圧が主な副作用となる。

TNF-α(腫瘍壊死因子α)は眼内炎症の中核をなすサイトカインであり、炎症性細胞の動員・活性化・血管透過性亢進に寄与する。アダリムマブ(完全ヒト型)やインフリキシマブ(キメラ型)はTNF-αに結合し、その受容体への結合を阻害する。インフリキシマブアダリムマブよりも抗薬物抗体を生成しやすく、中和抗体により効果が減弱するリスクが相対的に高い。

抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)の作用機序

Section titled “抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)の作用機序”

IL-6受容体を遮断し、IL-6シグナル伝達を抑制することで眼内炎症と黄斑浮腫を改善する。難治性ぶどう膜炎性黄斑浮腫での有効性が報告されている9)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

国際リアルワールド調査の意義(Branford et al. 2025)

Section titled “国際リアルワールド調査の意義(Branford et al. 2025)”

Branfordら(2025)が発表した53か国221名の専門医調査は、非感染性ぶどう膜炎の免疫調節療法実臨床パターンを国際規模で初めて把握したものである1)。この研究は今後の眼科医向け診療ガイドとして実践的な情報を提供することが期待されている。

抗薬物抗体モニタリングや薬物トラフ濃度測定(治療薬物モニタリング、TDM)は理論的に魅力的な個別化戦略であるが、現時点では臨床試験で治療薬物モニタリングが臨床転帰改善を示しておらず、日常臨床での定型的使用は支持されていない。

遺伝子治療後ぶどう膜炎への免疫調節療法応用

Section titled “遺伝子治療後ぶどう膜炎への免疫調節療法応用”

眼科遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター)後に発症する免疫関連ぶどう膜炎において、メトトレキサートステロイド単独で制御困難な慢性ぶどう膜炎の再燃頻度・重症度を低下させることが報告されている2)


  1. Branford JA, et al. IOIS report on systemic immunomodulatory drug treatment of non-infectious uveitis. Br J Ophthalmol. 2025;109(4):482–489.
  2. Purdy R, John M, Bray A, et al. Gene Therapy-Associated Uveitis (GTAU): Understanding and mitigating the adverse immune response in retinal gene therapy. Prog Retin Eye Res. 2025;106:101354. doi:10.1016/j.preteyeres.2025.101354.
  3. 日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会. ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.
  4. 日本眼炎症学会/日本リウマチ学会. 非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(改訂第2版)2019年版.
  5. Glenn J. Jaffe, Andrew D. Dick, Antoine P. Brézin, Quan Dong Nguyen, Jennifer E. Thorne, Philippe Kestelyn, Talin Barisani-Asenbauer, Pablo Franco, et al. Adalimumab in Patients with Active Noninfectious Uveitis. N Engl J Med. 2016;375(10):932-943. doi:10.1056/nejmoa1509852.
  6. Ramanan AV, Dick AD, Jones AP, et al. Adalimumab plus methotrexate for uveitis in juvenile idiopathic arthritis (SYCAMORE). N Engl J Med. 2017;376(17):1637-1646. doi:10.1056/NEJMoa1614160. PMID:28445659.
  7. Quan Dong Nguyen, Pauline T Merrill, Glenn J Jaffe, Andrew D Dick, Shree Kumar Kurup, John Sheppard, Ariel Schlaen, Carlos Pavesio, et al. Adalimumab for prevention of uveitic flare in patients with inactive non-infectious uveitis controlled by corticosteroids (VISUAL II): a multicentre, double-masked, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. The Lancet. 2016;388(10050):1183-1192. doi:10.1016/s0140-6736(16)31339-3.
  8. J. H Kempen, E. Daniel, J. P Dunn, C S. Foster, S. Gangaputra, A. Hanish, K. J Helzlsouer, D. A Jabs, et al. Overall and cancer related mortality among patients with ocular inflammation treated with immunosuppressive drugs: retrospective cohort study. BMJ. 2009;339(jul03 1):b2480-b2480. doi:10.1136/bmj.b2480.
  9. Mesquida M, Molins B, Llorenç V, Sainz de la Maza M, Adán A.. Long-term effects of tocilizumab therapy for refractory uveitis-related macular edema. Ophthalmology. 2014;121(12):2380-2386. doi:10.1016/j.ophtha.2014.06.050. PMID:25204610.
  10. Dick AD, Rosenbaum JT, Al-Dhibi HA, et al. Guidance on Non-Corticosteroid Systemic Immunomodulatory Therapy in Noninfectious Uveitis (FOCUS). Ophthalmology. 2018;125(5):757-773.

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