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網膜・硝子体

網膜色素変性症

網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa; RP)は、視細胞(桿体・錐体)および網膜色素上皮RPE)を原発とした進行性の広範な変性がみられる遺伝性疾患群の総称である。杆体の変性が先行し、錐体の変性が生じるものを杆体錐体ジストロフィと称し、RPはこれと同義的に理解される。単一疾患ではなく100以上の遺伝子が関与する疾患群である。

有病率は4,000〜8,000人に1人とされ、日本での患者総数は少なくとも3万人を超える(2023年度指定難病受給者20,687人)9)。視覚障害との関連では、18歳以上の新規身体障害者手帳取得者における視覚障害原因の第2位(13.0%、2019年度、緑内障40.7%に次ぐ)を占め、先天盲の第1位となっている9)。日本では難病法に基づく指定難病(2015年1月1日〜)に認定されており9)、医療費助成の対象疾患となっている。

遺伝形式は以下の型に分類される9)

遺伝形式頻度特徴
孤発例48〜63%最多;ARが多く含まれる
常染色体劣性(AR)20〜35%EYS変異が最多
常染色体優性(AD)10〜23%発症遅く、予後比較的良好
X連鎖(XL)1.5〜5%男性が重症;進行が早い

孤発例の中にはAR型が多く含まれると考えられている。

RPは他の全身疾患を伴う症候群性RPも存在し、繊毛病(ciliopathy)を上位概念として以下のように分類される9)2)

繊毛病(ciliopathy)

  • Usher症候群(type 1/2/3):RP+難聴;指定難病(AR)。type 1では幼少期から高度難聴・前庭機能障害を伴う
  • Bardet-Biedl症候群:肥満・精神発達遅滞・多指症・性器発育不全(AR)
  • Senior-Loken症候群:RP+若年性腎炎(AR)
  • Alstrom症候群:RP+肥満・難聴・糖尿病(AR)
  • Joubert症候群:RP+小脳虫部低形成(AR)

先天性代謝異常

  • ムコ多糖症(Hurler、Hunter):眼底混濁を伴う
  • Refsum病(成人型・乳児型):ペルオキシソーム病;小脳失調・多発性ニューロパチー(AR)
  • Bassen-Kornzweig症候群:脂質代謝異常

ミトコンドリア病

筋ジストロフィ

  • 筋強直性ジストロフィ:RPを合併することがある

また、PHARC(多発性ニューロパチー・難聴・失調・RP・白内障)、PCARP、Oliver-McFarlane症候群など多彩な症候群との鑑別も重要である3)

Q 網膜色素変性症は遺伝するのか?
A

RPは遺伝性疾患であるが、必ずしも全員に遺伝するわけではない。遺伝形式によって子への遺伝リスクは異なる。AD型では子の50%に遺伝する可能性があるが、AR型やXL型では遺伝形式に応じてリスクが変わる。孤発例(全体の48〜63%)では次世代への遺伝リスクが比較的低いことが多い9)遺伝カウンセリングの活用が推奨される。

網膜色素変性症の眼底写真、造影検査、OCT像。
Zenteno JC, et al. Compound heterozygosity for a novel and a recurrent MFRP gene mutation in a family with the nanophthalmos-retinitis pigmentosa complex. Mol Vis. 2009. Figure 1. PMCID: PMC2742641. License: CC BY.
Aは視神経乳頭ドルーゼンと広範な網膜色素上皮萎縮、Bは網膜色素上皮萎縮に対応する脈絡膜透過蛍光、Cは嚢胞状黄斑浮腫中心窩での網膜内層の分離を示す。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う嚢胞状黄斑浮腫に対応する。

RPの症状は進行段階に応じて変化する。杆体視細胞が先行して変性するため、初期症状として夜盲が最も早期から出現する。

  • 夜盲:暗所での視力低下・見えにくさ。桿体視細胞から先行して変性するため最初期から出現する9);10〜20歳代に薄暗いところでの見えにくさとして自覚される。初期は日中の視機能は正常のことが多い
  • 視野狭窄:周辺視野から内側に向かって徐々に狭まる。輪状暗点から求心性視野狭窄(トンネル状視野)へ進行する9)
  • 視力低下:杆体に続いて錐体変性が進むと中心視力も低下する。CME合併時は比較的早期から中等度の視力低下をきたすことがある。末期まで中心視力が保たれる場合もある
  • 羞明(昼盲):光への過敏性。錐体機能障害の表れ。錐体変性が進行すると増強する。白内障による光散乱との鑑別が重要
  • 光視症視細胞の変性・消失に伴い生じることがある
  • 幻視(Charles Bonnet症候群)視力低下が進行した患者で、実際には存在しない景色や人物が見える現象。病的体験ではなく、視覚皮質の過活動による現象である9)

病期ごとの症状進行の目安を以下に示す。

病期主な症状目安の時期
初期夜盲10〜20歳代
中期視野狭窄(輪状暗点→求心性)30〜40歳代
後期視力低下・色覚異常羞明50歳代以降

RPの古典的三徴として以下が知られる。

  • 骨小体様色素沈着:中間周辺部から周辺部に出現する特徴的な色素沈着(bone spicule pattern)
  • 網膜動脈の狭細化視細胞変性に伴い二次的に生じる
  • 蝋様視神経乳頭蒼白視神経の変性を反映する

病型分類としては定型と非定型に分けられる9)

  • 定型RP(杆体錐体ジストロフィ:杆体が先行して障害され、遅れて錐体が障害を受けるタイプ
    • 杆体ジストロフィ(サブタイプ):錐体は末期まで障害を受けない;求心性視野狭窄が高度な状態でも中心視力が保たれる
  • 非定型RP 9)
    • 無色素性RP:色素沈着が認められない
    • 片眼性RP:片眼にのみ認められる、または左右差が大きい
    • 区画性RP:1〜2象限の限られた網膜のみ;進行緩やか、予後良好
    • 中心型・傍中心型RP:網膜病変と視野異常が中心から生じる
    • 白点状網膜症:網膜に白色〜黄色の点状病変

小児の場合には典型的所見がそろっていないことが多く、ERGが診断の鍵となる。

合併症として以下が重要である9)

  • 後嚢下白内障(PSC):約50%に合併する。明所での視力低下が特徴的。EZ(楕円体帯)幅600μm以上で白内障術後視力良好(AUC 0.97)が予測できる5)
  • 嚢胞様黄斑浮腫CME:10〜50%に合併し、中心視力低下の主要原因となる9)
  • 閉塞隅角緑内障:約1%に発作が報告されている;Zinn小帯の脆弱化による水晶体亜脱臼も起こりうる9)
  • 黄斑上膜黄斑前膜:15.6〜27.3%に合併する9)
  • 黄斑円孔中心窩分離症:比較的まれだが、硝子体手術の適応となりうる9)
Q 白内障手術を受けると視力は改善するか?
A

RPに合併した後嚢下白内障に対する白内障手術では、術前のOCTEZ(楕円体帯)幅が600μm以上あれば良好な術後視力が期待できる(AUC 0.97)5)EZ幅は術前に視機能を予測する有用なバイオマーカーとなる。ただしZinn小帯が脆弱なことが多く、前嚢収縮やIOL脱臼に注意が必要である。術後CME(10〜14%)への対策として、ステロイド・NSAIDs点眼の通常より長期の使用が推奨される9)

RPは100以上の遺伝子変異が原因となる遺伝的異質性の高い疾患群である9)。日本人における主要な原因遺伝子を遺伝形式別に示す。

主要な原因遺伝子の比較を以下に示す。

遺伝子遺伝形式日本人での頻度・特徴
EYSAR原因遺伝子同定例の30〜50%(AR型最多)12)13)
USH2AARAR型で2番目に多い(4〜9%);Usher症候群の主要遺伝子12)
RHOADAD型で最多6)
RPGRX連鎖XL型で約70〜75%6)
REEP6ARAR型の原因遺伝子の一つ4)

各遺伝子の特徴を以下に補足する。

  • EYS(Eyes Shut Homolog):日本人AR型RPの最多原因遺伝子(原因遺伝子同定例の30〜50%)12)13)。欧米ではこれほど高頻度ではなく、日本人特有の遺伝的背景を反映する
  • USH2A:Usher症候群(RP+難聴)の主要原因遺伝子であり、日本人AR型RPでEYSに次いで多い(4〜9%)12)
  • RHO(ロドプシン):AD型RPの最多原因遺伝子6)。桿体視細胞の光受容タンパクをコードする
  • RPGR(Retinitis Pigmentosa GTPase Regulator):XL型RPの主要原因遺伝子6)。RPGR変異を持つ男性患者では一次性線毛機能不全(PCD)を合併する例が報告されている1)
  • REEP6(Receptor Expression-Enhancing Protein 6):AR型RPの原因遺伝子の一つ4)

遺伝子検査の原因遺伝子検出率は遺伝形式によって異なる。AD型で35〜60%、AR型・孤発例で30〜50%、XL型で16〜36%とされる6)

また、Joubert症候群・Bardet-Biedl症候群などを含む症候群性RPでは、繊毛関連遺伝子の変異が多く、全身合併症(腎疾患・多指症・肥満など)を伴うことがある2)。Fredrich失調症(PHARC)、PCARP、Oliver-McFarlane症候群など多彩な症候群との鑑別も重要である3)

Q 遺伝子検査は受けるべきか?
A

遺伝子診断は確定診断・遺伝カウンセリング遺伝子治療の適応判定において重要である。PrismGuide IRDパネルシステム(82個のIRD病因遺伝子のエクソン配列を網羅的に解析)が2023年に保険適用となったが、2025年6月時点ではRPE65関連IRDが疑われる若年発症者のみが対象となっている9)遺伝カウンセリングと組み合わせた実施が推奨される。遺伝子診断を受けなくても遺伝カウンセリングは受けることができる。

RPの診断は臨床所見・電気生理学的検査・画像検査・遺伝子検査を組み合わせて行う。

診断基準(認定基準)9)には以下の要素が含まれる:

A. 症状(いずれか1つ以上)

  • 進行性の自覚症状
  • 夜盲・視野狭窄・視力低下・羞明のいずれか1つ以上

B. 検査所見(いずれか2つ以上)

  • (1) 眼底所見:網膜血管狭細化・粗造な網膜色調・骨小体様色素沈着・多発する白点・視神経萎縮黄斑変性
  • (2) ERGの異常
  • (3) FAF所見の異常
  • (4) OCTEZ(楕円体帯)の異常

C. 遺伝学的検査(補助)

D. 鑑別診断の除外

重症度分類 9)10)

  • I度矯正視力0.7以上、視野狭窄なし
  • II度矯正視力0.7以上、視野狭窄あり(指定難病対象)
  • III度矯正視力0.7未満0.2以上(指定難病対象)
  • IV度矯正視力0.2未満(指定難病対象)

主な検査法を以下に示す。

検査主な役割特記事項
網膜電図ERG確定診断桿体応答が錐体応答より先に減弱6)9)
OCT病態評価・予後予測EZ幅:予後バイオマーカー5);外顆粒層菲薄化
FAF活動性評価異常過蛍光リング(AF ring)が病期指標6)
視野検査進行評価Goldmann視野計;HFA 10-2プログラムも有用9)10)
色覚検査錐体機能評価後天青黄色異常が高頻度;パネルD-15・100ヒューテスト9)
暗順応検査桿体機能評価Kohlrausch屈曲点が検出されない10)
NGS遺伝子検査遺伝子診断PrismGuide IRDパネル(82遺伝子)9)

各検査の詳細を以下に示す。

  • 網膜電図ERG:確定診断に必須6)9)。初期から杆体応答(暗所ERG)が低下し、進行すると錐体応答(明所ERG)も低下する。全視野網膜電図が基本。受診時にすでにnon-recordableであることも多い
  • OCT光干渉断層計EZ(楕円体帯)の幅と消失パターンを評価する。EZ幅は視機能・予後の定量バイオマーカーとして有用で、白内障手術の適応判断にも活用される5)。病初期から外顆粒層の菲薄化・EZ消失が認められる
  • 眼底自発蛍光FAF黄斑部周囲に異常過蛍光リング(autofluorescent ring; AF ring)が出現し、残存機能網膜を示す病期進行の指標となる6)
  • 視野検査:Goldmann視野計による動的視野検査が標準。進行に伴い輪状暗点→求心性視野狭窄をたどる10)。Humphrey視野検査HFA)10-2プログラムは残存中心部錐体機能の評価に有用9)
  • 色覚検査:後天性の青黄色異常が高頻度に認められる。パネルD-15試験・100ヒューテストで評価する9)
  • 暗順応検査:Kohlrausch屈曲点(桿体と錐体の切り替わり点)が検出されない10)
  • 次世代シークエンサー(NGS):PrismGuide IRDパネルシステムにより82個の病因遺伝子のエクソン配列を網羅的に解析できる9)遺伝子治療の適応判定にも不可欠

GL2026に基づく主な鑑別疾患を以下に示す9)

遺伝性疾患錐体ジストロフィ、錐体杆体ジストロフィ、Stargardt病(ABCA4遺伝子;黄斑変性のみ)、小口病(剥げた金箔様眼底;水尾-中村現象)、先天停在性夜盲(正常〜近視眼底;陰性b波)、白点状眼底(びまん性白点;RDH5遺伝子)、先天網膜分離症(XL型;男性)、コロイデレミア(びまん性脈絡膜萎縮;CHM遺伝子)、脳回状網脈絡膜萎縮(血清オルニチン高値;OAT欠損)、クリスタリン網膜

後天性疾患:自己免疫網膜症(AIR)・癌関連網膜症(CAR)・黒色腫関連網膜症(MAR)(比較的急性発症;抗網膜抗体検索)、薬剤性網膜変性(クロロキン・メラチン等)、外傷性網膜変性、感染性(風疹・梅毒・トキソプラズマ)、AZOOR(急性発症の視野暗点;初期は正常眼底)

現時点でRPの根治療法は存在しない6)9)。治療は視機能の維持・合併症対策・社会生活の支援が中心となる。

視細胞保護

ビタミンA(15,000IU/日):経口投与でERG悪化を数%遅延するとの報告あり14)視力・視野の改善効果はない。長期服用時は肝機能モニタリングが必要。妊娠中は催奇形性のため禁忌。ABCA4変異では進行を助長する可能性がある14)。なおビタミンEは進行を早める可能性があり注意が必要である14)

ウノプロストン点眼:用量依存性に感度改善傾向はみられたが、Phase 2試験の主要評価項目(中心2度網膜感度)では有意差なし16)

ニルバジピン(カルシウム拮抗薬):視野障害の進行速度が緩やかになったとの長期報告あり15)。単施設・少数例での報告であり、多施設での追試は未実施。

Nアセチルシステイン(NAC)酸化ストレス抑制。Phase I試験で視力改善の報告があり17)、2025年現在Phase III進行中。

DHA・ルテイン黄斑部視細胞酸化ストレスから保護する。DHAのビタミンAへの追加効果は認められていない。

ヘレニエン(アダプチノール):RPにおける一時的な視野・暗順応改善の効能で承認。現代医学の水準での効果評価は未実施。

遮光眼鏡:紫外線・強光による酸化ストレスを軽減する。日常的な使用が推奨される。

合併症治療

嚢胞様黄斑浮腫CME)治療

第一選択は炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)。 ドルゾラミド(トルソプト)点眼またはアセタゾラミドダイアモックス)内服を用いる。CMT改善は約40%で達成。約30%に再発が認められる9)

CAI抵抗性の場合はステロイドを検討。 トリアムシノロンアセトニド(マキュエイド)硝子体内注射またはデキサメタゾン硝子体内インプラントOzurdex)を使用する。

抗VEGF薬はRP-CMEではVEGF産生が低下しているため、推奨されない9)

いずれもRP-CMEへの保険承認はなく、適応外使用である点に注意する。

白内障手術:後嚢下白内障合併例に対して施行。術前OCTEZ幅≧600μmが良好な術後視力の予測因子5)Zinn小帯脆弱例では水晶体嚢拡張リング使用を検討。術後CME(10〜14%)への対策として、ステロイド・NSAIDs点眼の通常より長期の使用を行う9)

閉塞隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障の発症リスクがRP患者で高い。前房が次第に浅くなる;予防的にレーザー虹彩切開術または白内障手術を実施9)

黄斑上膜(GL2026 CQ4)硝子体手術EZライン連続症例で視力改善が期待できる。EZライン不連続症例では回復が限定的。術後長期で重篤な黄斑萎縮の報告もあり、専門施設での検討が望ましい9)

黄斑円孔硝子体手術が唯一の根治的治療。術後成績の検討は限られている9)

支援・リハビリ

ロービジョンケア:低視力→拡大鏡・拡大読書器・タブレット端末;羞明→遮光眼鏡;視野狭窄→白杖;遠見→単眼鏡;暗所視支援眼鏡。視野・視力に応じた個別支援が重要。スマートサイト(各地域のロービジョン相談先紹介)の活用を推奨する。

遺伝カウンセリング:臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが担当する。再発率推定、進学・就職・結婚・出産に関する相談が多い。遺伝子診断を受けなくても遺伝相談は受けることができる。

難病制度:指定難病として医療費助成制度が利用可能9)。身体障害者手帳・自立支援医療の取得も検討する。

ボレチゲンネパルボベク(ルクスターナ注)RPE65遺伝子の両アレル性病的バリアントを有し、十分な生存網膜細胞を有する患者に投与可能な遺伝子治療薬。2023年に本邦で承認された9)。米国Phase III(301試験)では31名が登録され、mITT解析(介入20名、対照9名)でMLMTと白色光FSTが対照群より有意に改善した18)。国内Phase III(A11301試験)でも日本人4名においてFST感度上昇・視野拡大が確認されている19)視力改善効果は乏しく、長期合併症として網脈絡膜萎縮が20%超に報告されている9)

半年〜1年ごとに以下を実施する:視力、細隙灯顕微鏡、眼底、Humphrey視野(HFA 10-2)、OCT9)

Q 黄斑浮腫の治療にはどのような薬が使われるか?
A

RP-CMEの第一選択は炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)であり、ドルゾラミド点眼またはアセタゾラミド内服が用いられる9)。CMT改善は約40%で達成されるが、約30%に再発が認められる。CAIで改善しない場合は、トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射デキサメタゾン硝子体内インプラントOzurdex)が選択肢となる。抗VEGF薬はRP-CMEでは推奨されていない。いずれも保険承認外の使用となる点に注意が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

RPにおける視細胞死の最終共通経路はアポトーシスである。遺伝子変異の種類は多様であるが、最終的には共通の細胞死経路に収束する。

RPではまず桿体視細胞が変性・消失し、その後に錐体視細胞が二次的に変性するパターンが典型的である7)。錐体は桿体から産生される栄養因子(RdCVF:Rod-derived Cone Viability Factor)に依存して生存しているため、桿体消失後に錐体も機能を失っていくと考えられている7)11)

網膜は最も代謝活性の高い組織の一つであり、好気的解糖(Warburg効果)によってグルコースの80〜90%を乳酸に変換する。錐体は杆体よりも代謝ストレスに脆弱であり、この代謝的脆弱性も二次的錐体変性の要因となる11)

炎症もRP進行の主要因子として認識されており、ミクログリアの活性化とマクロファージの浸潤が網膜損傷を悪化させる11)酸化ストレスも二次的錐体変性の生物学的ドライバーとして作用する。

遺伝子によって変性機序は異なる。

  • RHO変異:ミスフォールドしたロドプシンが小胞体ストレス→UPR(未折り畳みタンパク応答)→アポトーシスを誘導する11)
  • REEP6変異:REEP6はERの形態維持に関与するタンパクをコードする。病原性変異により桿体外節でのER内封入体形成が生じ、視細胞変性に至る4)
  • RPGR変異:RPGRは一次線毛の軸糸構造に関与し、変異により光受容体外節への物質輸送が障害される1)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

遺伝子治療は遺伝性網膜疾患の治療に最も有望なアプローチである8)

Luxturna(ボレチゲンネパルボベク)RPE65遺伝子の両アレル性病的バリアントを有する患者に投与可能な遺伝子治療薬。米国Phase III(301試験)では31名が登録され、mITT解析(介入20名、対照9名)でMLMTと白色光FSTが対照群より有意に改善した18)。国内Phase III(A11301試験)でも日本人4名においてFST感度上昇・視野拡大が確認されている19)。2023年に本邦で承認済みであり、標準治療と研究治療の橋渡しとなる位置付けである。

RPGR遺伝子治療:RPGR変異によるXL型RPに対するAAV媒介遺伝子治療がPhase I/II/IIIの臨床試験まで進んでいる8)

CRISPR/Cas9:病原性変異の直接修正やdominant negative変異の不活化に向けた研究が進行中である8)

RdCVF(桿体由来錐体生存因子)と錐体保護療法

Section titled “RdCVF(桿体由来錐体生存因子)と錐体保護療法”

RdCVFは桿体から分泌され錐体の生存を維持するタンパクである7)11)。RdCVFを用いた錐体保護療法の臨床試験が進行中であり、桿体変性後の錐体機能を維持する独立した治療戦略として注目される。

NACは酸化ストレスを抑制する薬剤であり、Phase I試験で視力改善の報告があった17)。2025年現在Phase III試験が進行中である。

グルコルチコイド(デキサメタゾン)の転用可能性

Section titled “グルコルチコイド(デキサメタゾン)の転用可能性”

最近のin vivo研究(rd10マウスモデル)で、硝子体内デキサメタゾンが錐体光受容体を保護し、網膜色素上皮を保護することが実証された11)。グルコルチコイドは変異非依存的な治療薬として強い転用可能性を持つ。ただし現時点でのエビデンスは動物モデルに限られており、ヒトへの臨床応用には更なる検証が必要である。

iPS細胞由来網膜移植・人工網膜

Section titled “iPS細胞由来網膜移植・人工網膜”
  • iPS細胞由来網膜移植:患者自身のiPS細胞から作製した視細胞シートの移植研究が進められている
  • 人工網膜網膜プロテーゼ:末期RPに対する電気刺激デバイス。Argus IIなどが海外で実用化されており、日本では脈絡膜上経網膜刺激方式の臨床試験が進行している
Q 遺伝子治療は日本でも受けられるか?
A

ボレチゲンネパルボベク(ルクスターナ)は2023年に日本でも承認されたが、対象はRPE65遺伝子の両アレル性病的バリアントを有する網膜ジストロフィに限られる9)18)19)。RPGR変異を含むその他遺伝子変異のRPに対する遺伝子治療は現在臨床試験段階であり7)、日本での一般的な治療としては未承認である。

Q 研究段階の治療を受けるにはどうすればよいか?
A

臨床試験への参加は医療機関の倫理委員会の承認を受けた正式な試験に限られる。担当医師への相談のほか、国立がん研究センターが運営する臨床試験情報(jRCT)や米国clinicaltrials.govで試験情報を検索できる。


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