先天性
先天赤緑色覚異常:X連鎖劣性遺伝。L遺伝子・M遺伝子はX染色体長腕Xq28に存在する。遺伝子の高い相同性(98%)により不均等交叉が起こりやすい。
先天青黄色覚異常:常染色体優性遺伝。S錐体視物質遺伝子は第7染色体(7q22-qter)に位置する。13,000〜65,000人に1人と非常にまれである。
全色盲(桿体一色覚):常染色体劣性遺伝。頻度は約1/30,000。CNGA3・CNGB3など6つの原因遺伝子が同定されている1)。

色覚(color vision)はヒトの視覚知覚の重要な要素である。網膜の3種類の錐体(S錐体・M錐体・L錐体)が異なる波長の光を吸収し、その信号の比較処理により色が知覚される。哺乳類の多くは二色型色覚であるが、霊長類はX染色体上のM錐体・L錐体遺伝子の重複と分岐により三色型色覚を獲得した。
色覚に異常をきたす状態を色覚異常(color vision deficiency)という。先天色覚異常と後天色覚異常に大別される。
先天赤緑色覚異常の頻度は人種差があり、白色人種男性で6〜8%、日本人男性で約5%、女性で約0.2%である。黒色人種では男性2〜4%とやや低い。アフリカ全体のメタアナリシスでは有病率2.71%と報告されている3)。北欧系男性では最大8%に達し、全世界で最も頻度の高い単一遺伝子疾患の一つとされる4)。
日本では2003年から小学校での色覚検査が任意施行となり、色覚異常を知らないまま成長する事例が増加した。その後2014年の文部科学省通知により、学校での色覚検査と配慮が再び積極的に行われるようになった。
日本人男性では約5%、女性では約0.2%にみられる。白色人種男性では6〜8%とさらに高頻度である。女性保因者は約10%と推定される。
先天色覚異常では色誤認の自覚に乏しい点が最大の特徴である。感覚は生来のものであるため、本人が色の違いに気づきにくい。以下の条件で色誤認が起こりやすい。
幼小児期には色を間違えやすいが、経験の蓄積により成長とともに誤認頻度は減少する。
後天色覚異常では正常色覚の記憶があるため、色覚の変化を自覚することが多い。視力障害・視野障害を伴う場合も多く、生活上の不自由度はそれらの方が色覚障害より大きい。
全色盲(桿体一色覚)では以下の症状を呈する。
成長につれて羞明や眼振は改善することが多い。
先天赤緑色覚異常の色覚特性として、2色覚では正常色覚では異なる色が似通って見える混同色が生じる。CIE色度図上の混同色軌跡が特徴的である。
後天色覚異常の臨床所見には以下の特徴がある。
大脳性色覚異常では視界がモノクロに見える、彩度が低下して灰色がかるなどと訴える。相貌失認や地誌的失見当識を合併しやすい。同名半盲(多くは上1/4半盲)を伴う。
全色盲の検査所見として、網膜電図(ERG)で錐体反応が異常となる。パネルD-15検査ではscotopic軸を示す。桿体一色覚とS錐体一色覚の鑑別には特殊なS錐体網膜電図が有用である。
全色盲では錐体網膜電図が異常を示し、先天性眼振・羞明・著明な視力低下を伴う。赤緑色覚異常では視力・視野に異常はなく、網膜電図も正常である。
先天性
先天赤緑色覚異常:X連鎖劣性遺伝。L遺伝子・M遺伝子はX染色体長腕Xq28に存在する。遺伝子の高い相同性(98%)により不均等交叉が起こりやすい。
先天青黄色覚異常:常染色体優性遺伝。S錐体視物質遺伝子は第7染色体(7q22-qter)に位置する。13,000〜65,000人に1人と非常にまれである。
全色盲(桿体一色覚):常染色体劣性遺伝。頻度は約1/30,000。CNGA3・CNGB3など6つの原因遺伝子が同定されている1)。
後天性
視神経疾患:視神経炎、球後視神経症、Leber遺伝性視神経症、優性遺伝性視神経萎縮(青黄異常を呈する)。
網膜疾患:糖尿病網膜症、網膜色素変性、加齢黄斑変性、中心性漿液性脈絡網膜症、錐体ジストロフィ。
その他:緑内障、白内障、薬剤性(シルデナフィル・ジゴキシン)、大脳病変、心因性。
ケルナーの法則(Kollner’s rule, 1912)によれば、網膜・黄斑の病変は青黄色覚異常を、視神経の病変は赤緑色覚異常を引き起こす傾向がある。ただし現在では、網膜・視神経疾患のいずれも初期には後天青黄色覚異常を示すことが多いと認識されている。
薬剤性の色覚変化として代表的なものを以下に示す。
シルデナフィルは一過性の青視症を、ジゴキシンは黄視症を引き起こすことがある。いずれも網膜光受容体への薬理作用に起因する。視神経毒性のある薬剤も後天色覚異常の原因となりうる。
色覚異常の検査は目的に応じて使い分ける。先天色覚異常の検出にはスクリーニング用の仮性同色表を複数組み合わせて使用する。確定診断にはアノマロスコープが必要である。
混同色理論を利用した検査表であり、最も一般的な色覚スクリーニング法である。
仮性同色表はあくまでもスクリーニング用であり、異常型や程度の判定をこの表のみで行ってはならない。
赤(671nm)と緑(546nm)の混色光を黄(589nm)の単色光と等色させるRayleigh等色に基づく検査機器である。先天色覚異常の異常型と程度の確定診断が可能な唯一の検査器械である。S錐体の関与がないため3型色覚の診断には使用できない。
主な色覚検査法の特徴を以下にまとめる。
| 検査法 | 主な用途 | 検査時間 |
|---|---|---|
| 石原表 | 赤緑異常スクリーニング | 5〜10分 |
| アノマロスコープ | 確定診断(型・程度) | 約30分 |
| パネルD-15 | 程度判定・職業適性 | 3〜5分 |
| 100ヒューテスト | 色識別能の定量評価 | 15〜20分 |
| CCT | 先天・後天の定量評価 | 5〜20分 |
石原表は赤緑色覚異常の検出率が高いスクリーニング検査であるが、型分類の精度は低い。確定診断にはアノマロスコープが必要である。また、石原表では青黄色覚異常(3型色覚)を検出できない。
先天色覚異常に対する根治的治療法は現時点で存在しない。治療の中心はカウンセリングと社会的支援である。
全色盲の症状管理として、羞明軽減のために遮光レンズや有色コンタクトレンズが使用される。赤色レンズが羞明の緩和に有用との報告がある1)。ただし色覚そのものの改善は得られない。
後天色覚異常はあくまで原疾患の二次的変化であるため、治療は原疾患に対して行う。色覚検査は病態・病勢の目安として用いられる。
錐体における光受容変換の過程は以下のとおりである。光子がオプシン(Gタンパク質共役受容体)に結合した11-シス-レチナールの光異性化を誘発する。全トランス型レチナールへの変換によりオプシンの構造変化が起こり、Gタンパク質(トランスデューシン)が活性化される。活性化トランスデューシンはホスホジエステラーゼ(PDE)を刺激し、cGMPの分解を促進する。cGMP濃度の低下によりcGMPゲートカチオンチャネルが閉鎖し、光受容細胞は過分極する1)。
暗所では一定濃度のcGMPがチャネルを開放状態に保ち、陽イオンの流入(暗電流)により光受容細胞は脱分極している。光刺激はこの暗電流を停止させ、グルタミン酸の放出を減少させる。
色情報は網膜神経節細胞を介して外側膝状体(LGN)へ伝達される。
LGN以降は後頭葉のV1・V2・V4皮質領域へと情報が進む。V4領域には色処理に関与する細胞が多く存在する。腹側後頭葉皮質の損傷は完全な大脳性全色盲を、後頭側頭葉の損傷は半側全色盲を引き起こしうる5)。
色知覚においては以下の原理が重要である。
全色盲(桿体一色覚)の原因遺伝子として6種が同定されている1)。
主要遺伝子
CNGA3(2q11.2):CNGチャネルαサブユニット。全症例の約25%を占める。
CNGB3(8q21.3):CNGチャネルβサブユニット。最多であり約50%を占める。
GNAT2(1p13.3):錐体特異的Gタンパク質αサブユニット。約1.7%。
稀少遺伝子
PDE6C(10q23.33):PDE触媒αサブユニット。約2.4%。
PDE6H(12p12.3):PDE抑制γサブユニット。約0.3%。
ATF6(1q23.3):小胞体ストレス応答に関与する転写因子。<2%。
CNGA3およびCNGB3の変異はCNGチャネルの機能喪失を引き起こし、錐体の光受容変換カスケード全体を停止させる。GNAT2変異では一部の色覚が保持される症例も報告されている1)。
L錐体オプシン遺伝子(OPN1LW)とM錐体オプシン遺伝子(OPN1MW)はいずれもX染色体Xq28に直列配置されている。両遺伝子は98%以上のヌクレオチド配列相同性を有し、不均等交叉によるハイブリッド遺伝子の形成が高頻度で起こる。分光吸収特性の差異を決定するのは主にエクソン5の277番目・285番目のアミノ酸残基である。
全色盲の原因遺伝子はすべてコーディング配列が2,600塩基対以下であり、AAVベクターへの搭載が可能である。現在、CNGA3およびCNGB3を標的とした複数の第I/II相臨床試験が進行している1)。
主要な臨床試験の概要を以下に示す。
| 試験ID | 標的遺伝子 | ベクター | 実施国 |
|---|---|---|---|
| NCT02610582 | CNGA3 | rAAV8 | ドイツ |
| NCT02935517 | CNGA3 | AAV2tYF | 米国・イスラエル |
| NCT03001310 | CNGB3 | AAV8 | 英国 |
Fischerら(2020)はNCT02610582試験において、AAV8.CNGA3の網膜下注射の安全性と機能改善を報告した。治療1年後に視力・コントラスト感度・色覚の改善が認められ、患者報告アウトカムでも色の識別能力の向上が確認された1)。
Michaelidesら(2023)はNCT03001310試験で、AAV8-hCARp.hCNGB3を成人11名・小児12名に投与した。安全性は許容範囲内であり、一部の被験者で光感度や視覚関連QOLの改善がみられた1)。
Mancusoら(2009)は成体の赤緑色覚異常霊長類に第3のオプシンを導入し、三色型色覚の獲得を実証した。この結果は早期発達段階を経なくても三色型色覚が成立しうることを示唆している1)。
ただし、遺伝子治療で実験動物が新たな色を「知覚」できるようになったかは未証明であり、ヒトへの臨床応用にはなお課題が残る1)。
色覚補正眼鏡(Enchroma等)は多段ノッチフィルターで赤と緑の波長重なりを除去する原理であるが、CAD検査では症状の有意な改善は示されていない1)。有色コンタクトレンズ(金ナノ粒子含有ハイドロゲル等)の開発も進んでいるが、いずれも研究段階である。
将来的には網膜・視神経・視覚皮質への電極埋め込みにより人工色覚を実現する技術が検討されている5)。現時点では低解像度の白黒視覚の再現にとどまっており、制御された色覚再現は達成されていない。