ML I(シアリドーシス)
桜実紅斑(cherry-red spot):黄斑部にみられ、シアリドーシス I 型ではほぼ全例に認める2,4)
視神経萎縮:SD-OCT で網膜神経線維層の菲薄化が報告されているが、必ずしも視覚的転帰と相関しない4)
眼振:発症することがある
水晶体混濁:散在する白点状の混濁で、視力には影響しない
ムコリピドーシス(mucolipidosis; ML)は、ライソゾーム酵素の輸送または機能の欠陥によって引き起こされる遺伝性のライソゾーム蓄積症群である1)。糖タンパク質・糖脂質・ムコ多糖様物質が細胞内に蓄積する。発生頻度は10万〜20万人に1人と推定される。
主な亜型は以下の4つである。
すべて常染色体劣性遺伝であり、日本ではML II・IIIが難病に指定されている。ムコ多糖症(MPS)に類似した症状(特異顔貌・骨格異常・知的障害など)を呈するが、ムコ多糖は蓄積しない点が鑑別の要点となる。
ムコ多糖症(MPS)はグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の分解酵素が欠損し、ムコ多糖が蓄積する疾患群である。一方、ムコリピドーシス(ML)はライソゾーム酵素の輸送機構そのものに異常があり、糖脂質・糖タンパク質などさまざまな基質が蓄積する。臨床像はMPSに類似するが、蓄積する物質が異なる点で区別される。
自覚症状は亜型により大きく異なる。
ML I(シアリドーシス)
桜実紅斑(cherry-red spot):黄斑部にみられ、シアリドーシス I 型ではほぼ全例に認める2,4)
視神経萎縮:SD-OCT で網膜神経線維層の菲薄化が報告されているが、必ずしも視覚的転帰と相関しない4)
眼振:発症することがある
水晶体混濁:散在する白点状の混濁で、視力には影響しない
ML II(I細胞病)
ML III(偽性ハラー・ポリジストロフィー)
ML IV
ML IVでは角膜移植が試みられているが、ドナーの角膜上皮が最終的に異常なレシピエント(宿主)上皮に置き換わってしまうため、成功していない。MCOLN1遺伝子変異によるライソゾーム輸送障害が宿主の角膜上皮に残存するため、移植片も同様の蓄積異常を来す。
ムコリピドーシスの原因はすべて単一遺伝子の変異である。
| 亜型 | 原因遺伝子 | 欠損酵素・タンパク質 |
|---|---|---|
| ML I | NEU1 | ノイラミニダーゼ |
| ML II/III | GNPTAB | GlcNAc-1-phosphotransferase |
| ML IV | MCOLN1 | ムコリピン-1(TRPML1) |
ML I では、ノイラミニダーゼの欠損により糖タンパク質・オリゴ糖からのシアル酸残基の除去が不十分となる。シアル化化合物がライソゾーム内に蓄積する。
ML II・III では、GlcNAc-1-phosphotransferaseの障害によりライソゾーム酵素へのマンノース-6-リン酸(M6P)標識の付加が阻害される。標識を受けないライソゾーム酵素は細胞外へ分泌され、ライソゾーム内が酵素不足となる。
ML IV では、ライソゾーム膜チャネルTRPML1の欠損によりライソゾームの輸送・融合が障害される。脂質やその他の基質がライソゾーム内に蓄積する1,8)。
すべての亜型において、原因遺伝子の両アレル性病原性変異を確認する遺伝子検査が確定診断となる。
なお、尿中シアル酸排泄の増加は一定の所見ではない。
現時点で根治的治療法はなく、対症療法が中心である。
ML Iに対するAAV(アデノ随伴ウイルス)媒介遺伝子治療がマウスモデルで有望な結果を示している。NEU1とそのシャペロンである保護タンパク質/カテプシンAを同時に発現させることで、脳を含む複数の組織でNEU1活性の回復とライソゾーム蓄積の逆転が確認された。ただし、ヒトへの臨床応用はまだ実現していない。
ムコリピドーシスでは、ほぼすべてのライソゾーム酵素活性が欠損しているため種々の糖脂質・糖タンパク質がライソゾーム内に蓄積する。
基質が眼細胞内に蓄積すると、ライソゾームが腫大し正常な細胞構造が破壊される。これにより以下の主要プロセスが障害される。
これらの不全は代謝ストレスおよび酸化ストレスを引き起こし、正常な恒常性を妨げる。
ML I では、ノイラミニダーゼの欠損によりシアル化化合物がライソゾーム内に蓄積する。網膜神経節細胞への蓄積により、神経節細胞のない中心窩のみが赤く浮き上がって見える桜実紅斑(cherry-red spot)を呈する。
ML II・III では、M6P標識の欠損によりライソゾーム酵素が細胞外へ分泌され、ライソゾーム内が酵素不足となる。その結果、グリコサミノグリカン・脂質・オリゴ糖がライソゾーム内に蓄積する。角膜実質への沈着が角膜混濁の原因となる。
ML IV では、TRPML1チャネルの欠損によりライソゾームとエンドソーム間の脂質・タンパク質輸送が妨げられる。角膜上皮・網膜色素上皮・水晶体など広範な眼組織に蓄積が生じ、多彩な眼症状を呈する。
ML Iに対するAAV媒介遺伝子治療が注目されている。マウスモデルでは、NEU1 とそのシャペロンである保護タンパク質/カテプシンA(PPCA)を同時に届けるベクターにより、以下の成果が報告されている。
ML IV に対しても MCOLN1 遺伝子補充療法の前臨床研究が進展しており、AAV9 による脳室内投与で Mcoln1−/− マウスの運動機能・髄鞘化の改善とライソゾーム蓄積の減少が確認されている9)。さらに同分野では総説 (Jezela-Stanek et al. 2020)10) が病態と臨床像を包括的にまとめている。現時点ではヒトへの臨床応用には至っていないが、将来的な治療オプションとして期待される。ML II・III についても、遺伝子治療を含む新規治療法の研究が進行中である。
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