Kayser-Fleischer輪
細隙灯顕微鏡所見:角膜周辺部全周にわたるDescemet膜レベルの褐色〜黄緑色の環状沈着1)。平行六面体照明(parallelopiped illumination)で角膜内皮レベルの沈着として観察される1)。
AS-OCT所見:前眼部光干渉断層計では、周辺角膜のDescemet膜レベルに著明な高輝度反射として描出される2)。
初期例の検出:初期ではKF輪が不完全で細隙灯のみでは検出困難なことがあり、隅角鏡検査が必要となる場合がある。
ウィルソン病(Wilson disease)は、肝臓における銅輸送膜蛋白ATP7Bの異常により、胆汁への銅の排泄とセルロプラスミンとしての血液中への分泌が障害され、全身臓器に銅が蓄積する疾患である。肝レンズ核変性症(hepatolenticular degeneration)とも呼ばれる。
KF輪はDescemet膜レベルの深さに存在する角膜周辺部の銅沈着である。幅1〜3 mmで、通常褐色であるが黄色や緑色を呈することもある1)。最初は角膜上方と下方に現れ、その後全周に及ぶ。輪部との間に透明帯はない。
Wilson病患者の60〜90%にKF輪がみられる。前駆症状のない例では59%であるが、神経症状を有する例ではほぼ100%に認められる2)。KF輪は診断に有効であるが必須の所見ではない。

KF輪自体は通常無症状で、視力に重大な影響を与えない。Wilson病としての自覚症状は全身症状が中心となる。
Kayser-Fleischer輪
細隙灯顕微鏡所見:角膜周辺部全周にわたるDescemet膜レベルの褐色〜黄緑色の環状沈着1)。平行六面体照明(parallelopiped illumination)で角膜内皮レベルの沈着として観察される1)。
AS-OCT所見:前眼部光干渉断層計では、周辺角膜のDescemet膜レベルに著明な高輝度反射として描出される2)。
初期例の検出:初期ではKF輪が不完全で細隙灯のみでは検出困難なことがあり、隅角鏡検査が必要となる場合がある。
ひまわり状白内障
治療によりKF輪は軽減・消失しうる。消退は出現の逆順に進行する(全周→上下方のみ→消失)。
D-ペニシラミン治療を開始した19歳女性では、6か月という短期間でKF輪の著明な退色が得られた2)。通常、KF輪の消退には数年を要するとされるが、本症例のような急速な消退も報告されている2)。肝移植後にも消退が確認されているが、消退の速度は症例により異なる2)。
| 臓器 | 主な所見 |
|---|---|
| 肝臓 | 慢性肝炎、肝硬変、劇症肝不全 |
| 脳(被殻) | 振戦、ジストニア、構音障害 |
| 腎臓 | アミノ酸尿、糖尿、銅排泄増加 |
| 血液 | 溶血性貧血(クームス試験陰性) |
若年者の原因不明の肝障害(慢性肝炎、肝硬変)、原因不明の錐体外路症状(振戦、ジストニア)、精神症状の出現が典型的な疑い症状である。非典型的な発症として腎症状(IgA腎症として発症した例の報告がある4))や血液学的異常(巨大血小板症として発見された例もある3))でも、Wilson病を鑑別に挙げる必要がある。細隙灯検査でKF輪が確認されれば診断の強い裏付けとなる。
Wilson病はATP7B遺伝子(第13染色体)の変異による常染色体潜性遺伝疾患である。ATP7Bは肝細胞における銅輸送に関与し、胆汁中への銅排泄とセルロプラスミンへの銅結合を担う。ATP7Bの機能喪失により銅の排泄が障害され、肝臓を中心に全身臓器に銅が蓄積する。
同一のATP7B変異を有する一卵性双生児において、一方は重症の神経症状(車椅子、無言症)でKF輪陽性、他方は無症状で軽度の肝酵素上昇のみという著しい表現型の差異が報告されている5)。KF輪の発現程度も双生児間で異なりうる5)。エピジェネティックな機序(生活習慣、妊娠、メチオニン代謝、DNAメチル化)が表現型の乖離に関与すると推測されている5)。
Wilson病は遺伝性疾患であり、環境的リスク因子は特定されていない。常染色体潜性遺伝であるため、両親がともに保因者の場合に25%の確率で発症する。
Wilson病の診断にはLeipzigスコアが用いられる。KF輪の存在は2点に相当し、診断の重要な要素である3)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 角膜銅症(眼内銅異物) | 外傷歴あり、片眼性 |
| Fleischer ring(円錐角膜) | 鉄の沈着、円錐の基部 |
| 老人環 | 脂質沈着、輪部との間に透明帯あり |
| アミオダロン角膜症 | 渦巻き状、上皮深層 |
銅キレート薬または亜鉛薬の内服による除銅が治療の基本である。生涯にわたる治療継続が必要である。
銅キレート薬
D-ペニシラミン(メタルカプターゼ®):第一選択薬。銅と結合して尿中排泄を促進する。長期内服でKF輪が消失することがある。副作用として腎症(ネフローゼ症候群)、骨髄抑制、皮疹がある。
トリエンチン(メタライト®):D-ペニシラミンの副作用出現時に使用される代替薬。トリエンチン四塩酸塩(Cuprior®)が近年使用可能となっている1)。
亜鉛薬
亜鉛製剤:消化管での銅吸収を阻害する。キレート薬と併用または単独で使用される。
注意点:長期の亜鉛単独療法で銅欠乏を生じることがある7)。銅欠乏は汎血球減少や脊髄後索症(ミエロパチー)を引き起こしうる7)。長期治療中は定期的な血算と血清銅のモニタリングが必要である7)。
劇症肝不全に対しては肝移植が適応となる。肝移植後にKF輪が消失することが確認されている2)。
神経症状(ジストニア、振戦)に対してはボツリヌス毒素注射による対症療法が有効とされている。
治療中は肝酵素、INR、全血算、尿検査、血清銅、セルロプラスミンの定期的なモニタリングが推奨される。年1回の24時間尿中銅排泄量の測定を行う。
銅キレート薬(D-ペニシラミン、トリエンチン)の治療によりKF輪は軽減・消失しうる。消退は出現の逆順に進行し、通常は数年を要する。しかし、19歳女性のD-ペニシラミン治療例で6か月という短期間の急速な消退が報告されている2)。肝移植後にも消失が確認されている。KF輪の消退は必ずしも全身症状の改善と相関しない点に注意が必要である2)。
正常ではATP7Bが肝細胞内で銅をセルロプラスミンに結合させ血中に分泌するとともに、余剰の銅を胆汁中に排泄する。ATP7Bの機能喪失により、銅の胆汁排泄が低下し、セルロプラスミンへの銅結合も障害される。その結果、非セルロプラスミン結合銅(遊離銅)が増加し、肝臓、脳(被殻)、角膜、腎臓などに銅が蓄積する。
房水中の遊離銅がアルブミンに緩く結合した状態でDescemet膜に沈着する2)。銅の沈着はDescemet膜レベルの深さに限局し、幅1〜3 mmの環状病変を形成する。輪部との間に透明帯がないことが老人環との重要な鑑別点である。沈着は最初に角膜上方と下方に出現し、次いで全周に及ぶ。
銅はラジカル産生を介して組織毒性を発揮する。肝臓ではFenton反応による活性酸素種(ROS)の産生が肝細胞障害を引き起こす。脳では基底核(特に被殻)への銅蓄積が錐体外路症状の原因となる。
白血球への銅蓄積により、細胞内のミトコンドリアが膨化し封入体様の構造を形成することがある3)。質量分析で白血球内の銅濃度が対照の約20倍であったとする報告があり、銅毒性の新たな指標として注目されている3)。
Wilson病は典型的な肝・神経症状以外にも多彩な臓器障害で発症しうる。IgA腎症が初発症状であった26歳男性例では、原因不明の肝障害と軽微な手指振戦から本疾患が疑われ、細隙灯検査でKF輪を確認して確定診断に至った4)。
48歳女性では巨大血小板症と白血球封入体が初発所見であり、2年後の神経症状出現時に細隙灯検査でKF輪が発見され、Leipzigスコア4点(KF輪2点、神経症状1点、遺伝子変異1点)でWilson病と診断された3)。
同一のATP7B変異(c.2304dupC + c.3207C>A/His1069Gln)を有する一卵性双生児において、一方は重症神経型(車椅子、無言症、KF輪陽性)、他方はほぼ無症状(軽度肝酵素上昇のみ)という著しい表現型差が報告された5)。重症例はD-ペニシラミン高用量(1800 mg/日まで)とその後のCuprior®への切り替えで劇的な神経症状改善が得られた5)。
小児期のWilson病では臨床症状が非特異的で診断が遅れやすい6)。セルロプラスミン低値は感度が高いが、急性肝炎やネフローゼ症候群でも低下するため特異度に限界がある6)。遺伝子検査の役割がますます重要となっている6)。
長期の亜鉛療法を受けた338例中3例で医原性銅欠乏が発生した(中央値16年以上)7)。銅欠乏は汎血球減少(特に好中球減少)と脊髄後索症を引き起こし、血球減少は治療調整で回復するが神経症状は部分的にしか改善しない7)。銅欠乏による視神経症は緩徐に進行し、未治療では不可逆的な視力障害に至る可能性がある7)。