SCA1・SCA2
脊髄小脳失調症の眼科的徴候
1. 脊髄小脳失調症の眼科的徴候とは
Section titled “1. 脊髄小脳失調症の眼科的徴候とは”脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia; SCA)は、緩徐進行性の遺伝性神経変性疾患群である。常染色体優性小脳失調症(ADCA)を指し、小脳またはその関連経路の変性に起因する。
有病率は10万人あたり1〜5人。SCA1〜SCA40まで番号付けされ、特定型はさらに増加中である。SCA3(マシャド・ジョセフ病)が世界で最も一般的で、次いでSCA1・SCA2・SCA6・SCA7・SCA8がそれぞれSCA全体の少なくとも2%を占める。
欧州人口では、遅発性小脳失調症(LOCA)の約15〜30%がSCA27Bと推定されている。ドイツのコホートでは遺伝学的に確定した失調症患者のうちSCA27Bが16%を占め、SCA3(19%)に次ぐ第2位であった6)。
発症年齢は通常30〜50歳だが、小児期から70歳代まで報告がある。SCA27Bでは平均57.46歳(範囲6〜80歳)とやや遅い6)。
眼科的徴候の概要は以下の通りである。眼筋麻痺・視神経萎縮・網膜色素変性・眼振・サッケード異常など多彩な所見を呈し、SCAの型によって異なる。
SCA1〜SCA40まで番号付けされており、40種類以上が特定されている。世界的に最も多いのはSCA3(マシャド・ジョセフ病)で、日本ではSCA6型・SCA31型なども多い。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”初期は歩行・バランス障害から始まり、進行とともに眼科的症状が加わる。
- 複視:SCA3では64〜75%の患者が複視を自覚する2)。SCA27Bでも815例のシステマティックレビューで54.05%に複視が認められた6)。
- 動揺視:固視障害や眼振に伴い、視界が揺れるように感じる。
- 視力低下:SCA7では早期から視力が低下する。網膜変性が主な原因である。
- 色覚異常:SCA7では早期に青黄色覚異常を自覚する。
小脳性眼球運動障害として、固視障害(眼振・衝動性眼球運動混入)・サッケード測定異常・パシュート異常・前庭動眼反射(VOR)利得障害が代表的である。動揺視・下向き眼振・矩形波律動(SWJs)・階段状追跡運動も認められる。日本で多い遺伝性脊髄小脳変性症(SCD)のうち、SCA6型・SCA31型は小脳症状のみを示し、SCA3型は外眼筋麻痺やパーキンソン症候群も合併する。
SCA型別の主な眼科的所見を以下に示す。
SCA3・SCA6・SCA7
- SCA12:49例コホートで緩徐サッケード26.5%・断続的追跡運動28.6%・眼振20.4%が報告された1)。振戦を95.9%に認め、失調は73.5%であった。
- SCA21:眼球運動障害を呈し、ジストニアやミオクローヌスを伴う7)。
- SCA27B:815例レビューで異常サッケード追跡80.69%・眼振71.15%(うち下向き眼振47.96%)・複視54.05%6)。
- SCA28:水平眼振・眼筋麻痺・眼瞼下垂。AFG3L2遺伝子変異に起因する5)。
- SCAR10(常染色体劣性):過大サッケード・緩徐サッケード・断続的追跡運動が認められる8)。
SCA7が網膜変性・網膜色素変性を来す代表的な型であり、早期から青黄色覚異常が生じる。SCA3でも網膜色素変性の報告がある。網膜病変を伴う場合は視力予後が特に不良となりうる。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”SCAの大半は常染色体優性遺伝であり、CAGヌクレオチド反復配列の伸長による場合が多い。
- ポリグルタミン病:CAG反復がポリグルタミンタンパク質に翻訳され、毒性機能獲得を引き起こす。
- 表現促進現象(anticipation):世代を経るごとに反復数が増加し、より早期発症・重症化する傾向がある。ただしSCA27Bでは父系遺伝時にGAA反復が収縮する例も報告されている6)。
- 浸透率:多くのSCAで非常に高い。SCA8は不完全浸透の例外である4)。
SCA型と主な原因遺伝子・反復型の対応は以下の通りである。
| SCA型 | 原因遺伝子/変異 | 反復・変異の種類 |
|---|---|---|
| SCA1/2/3/6/7/12/17 | 各型固有の遺伝子 | 三塩基(CAG等)反復伸長 |
| SCA10/31 | 各型固有の遺伝子 | 五塩基反復伸長 |
| SCA27B | FGF14 | 六塩基(GAA)反復伸長 |
| SCA5/11/13/14/21/28等 | 各型固有の遺伝子 | 通常変異(点変異等) |
各型の詳細を以下に示す。
- SCA12:PPP2R2B遺伝子の5’UTR領域のCAG反復。病的域は40以上で、平均53.26 ± 6.10(40〜72)1)。
- SCA27B:FGF14遺伝子第1イントロンのGAA反復伸長。300以上が病的で、250〜299は浸透率低下の可能性がある6)。
- SCA28:AFG3L2遺伝子のミスセンス変異。ミトコンドリア内膜品質管理システムの障害に起因する5)。
反復配列伸長が原因のSCAでは、世代を経るごとに遺伝子の反復数が増加する傾向がある。これを表現促進現象という。反復数が増えるほど発症が早まり、症状が重くなる。親が軽症でも子が重症化する場合がある。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”すべてのSCA型が進行性運動障害を示し、単独で決定的な徴候はない。鑑別には以下のアプローチが重要である。
眼球運動検査
Section titled “眼球運動検査”眼球電図(EOG)での記録が推奨される。水平・垂直の2次元、回旋を含む3次元記録が望ましい。検討パラメータは以下の通りである。
最終診断に必須である。市販検査パネルでSCA1〜8・12・17・27Bなど主要型をカバーする。家族歴と遺伝子変異の検出で確定診断が得られる。
- SCA12:PPP2R2B遺伝子のCAG反復長を確認(病的域 ≥40)1)。
- SCA27B:FGF14遺伝子のLR-PCR + Nanopore sequencingでGAA反復長を確定6)。
- SCA28:全エクソーム解析 + Sanger sequencingでAFG3L2変異を確認5)。
頭部MRIで小脳萎縮が多くのSCA型に共通して認められる。SCA27Bでは70.28%に小脳萎縮があり、虫部から半球へ進行する6)。SCA12では小脳萎縮34.7%・大脳萎縮16.3%・両者合併34.7%・正常6.1%が報告されている1)。
治療可能な非遺伝性失調症の除外が重要である。
- アルコール中毒・小脳腫瘤・脳梗塞・ビタミン欠乏症・多発性硬化症・血管疾患・腫瘍随伴症候群・多系統萎縮症(MSA)が主な鑑別疾患となる。
- MSとSCA8の共存例が報告されている。30歳男性でCTG/CAG反復 >150・OCB陽性・MS典型病変が確認された4)。顕著な進行性失調を呈するMS患者ではSCA共存を考慮する。
- SCA27BとMSA-Cの鑑別は、家族歴・緩徐進行・エピソード症状・MRI所見により可能である6)。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”根治的治療は存在せず、対症療法が主体となる。
眼科的対症療法
Section titled “眼科的対症療法”- プリズム眼鏡:眼位依存性がある場合に動揺視軽減を試みる。悪化する向きに、両眼に同じプリズム度数を付加する方法が用いられる。
- GABAB作動薬:垂直眼振・周期性方向交代性眼振・衝動性眼球運動混入に著効する場合がある。
- バクロフェン:GABA作動薬として周期性交代性眼振(PAN)に有効である。
- ガバペンチン:注視誘発眼振(GEN)の改善に有用である。SCA21のジストニア・ミオクローヌスに対しても300mg/日で症状軽減が報告されている7)。
- 斜視手術:SCA3のdivergence insufficiency内斜視に対し、増強内直筋後転術では1週間以内に完全再発する例が報告されている。外直筋短縮術が有効な場合がある2)。
全身的対症療法
Section titled “全身的対症療法”SCA12では以下の薬剤が使用される。使用率(複数回答)は、アマンタジン(100〜300mg/日)53%・プロプラノロール(20〜60mg/日)53%・ベンゾジアゼピン系42.8%・プリミドン(250〜500mg/日)28.5%・L-Dopa(400〜600mg/日)10.2%・トリヘキシフェニジル(6〜12mg/日)6.1%・バクロフェン(20〜40mg/日)4%であった1)。
理学療法として、杖・歩行器・車椅子などの補助具が用いられる。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”ポリグルタミン病の共通機序
Section titled “ポリグルタミン病の共通機序”CAG反復が35〜40ユニットの閾値を超えると、ポリグルタミン鎖は異常な高次構造や凝集を起こし、他の神経タンパク質を妨害する。神経細胞内封入体(neuronal inclusions)がポリグルタミン病の病理学的特徴であり、病因タンパク質が神経系全体に広く発現するにもかかわらず、特定の神経細胞サブセットのみが脆弱性を示す。
型別の分子機序
Section titled “型別の分子機序”- SCA3(divergence insufficiency機序):背側橋の nucleus reticularis tegmenti pontis の萎縮に起因する。組織病理学的に橋網様体の著明な変性が確認される一方、動眼・外転・滑車神経経路は比較的保たれる2)。
- SCA6:P/Q型カルシウムチャネルのα1Aサブユニットに影響する。
- SCA17:TATAボックス結合タンパク質に影響する。
- SCA27B(FGF14):FGF14タンパクは小脳Purkinje細胞での電位依存性ナトリウムチャネル機能に重要である。FGF14遺伝子第1イントロンのGAA反復伸長がこの機能を障害する6)。
- SCA28(AFG3L2):ミトコンドリア内膜のm-AAAプロテアーゼの変異。損傷タンパク質の分解障害・呼吸鎖複合体組み立て障害・Ca動態の不均衡が生じ、Purkinje細胞のCa2+流入異常を来す5)。
- SCA21(TMEM240):膜貫通タンパク質240の機能は未完全解明だが、神経シナプス膜のイオンチャネル機能調節への関与が示唆される。GABA伝達への関与も推察されている7)。
- SCA8:ATXN8OS/ATXN8遺伝子の反復伸長。KLHL1発現抑制によるP/Q型カルシウムチャネル機能障害の可能性がある。不完全浸透を示す4)。
MSとSCAの病態的交差については、ataxin-1が免疫調節作用を持ち、変異型は実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の重症度を増加させることが示されている4)。SCA関連アリルがMS感受性を増加させる可能性が示唆されている。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”トピラマート
Section titled “トピラマート”計算論的薬物リポジショニングでSCAへの候補として同定された薬剤である。
Miuraら(2023)は6例を対象としたパイロット試験(50mg/日、24週間)を実施した3)。4例が完遂し、うち3例(75%)でICARSスコアの改善が認められた(Case1: SCA6で46→45、Case3: SCA36で53→44)。電位依存性ナトリウムチャネル遮断作用が機序として推察されている。ただしSCA17での50mg/日投与で失調悪化の報告があり注意を要する。
4-アミノピリジン(4-AP)
Section titled “4-アミノピリジン(4-AP)”SCA27Bに対して治療効果が検討されている。2つの小コホートで86%(6/7例)と75%(21/28例)が陽性反応を示した6)。
ラモトリジン・ダルファンプリジン
Section titled “ラモトリジン・ダルファンプリジン”ラモトリジンはSCA3の失調歩行軽減に有効との報告がある。トピラマートと同様にグルタミン酸放出を抑制する機序が考えられている3)。ダルファンプリジンはMS治療薬(電位依存性カリウムチャネル遮断薬)であり、遺伝性失調症への実験的使用が検討されている4)。
深部脳刺激(DBS)
Section titled “深部脳刺激(DBS)”SCA12の1例で両側zona incerta DBSにより振戦スコアの改善が報告されている1)。ただし振戦制御に必要な刺激パラメータで失調が悪化するという問題点がある。
SCAに対する最も理想的な治療法として期待されているが、十分な臨床的エビデンスは未確立である。アリル特異的サイレンシングの概念が提唱されている5)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Ganaraja VH, Holla VV, Stezin A, Kamble N, Yadav R, Purushottam M, et al. Clinical, Radiological, and Genetic Profile of Spinocerebellar Ataxia 12: A Hospital-Based Cohort Analysis. Tremor and other hyperkinetic movements (New York, N.Y.). 2022;12:13. doi:10.5334/tohm.686. PMID:35531119; PMCID:PMC9029677.
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- Miura S, Sawada R, Yorita A, Kida H, Kamada T, Yamanishi Y. A trial of topiramate for patients with hereditary spinocerebellar ataxia. Clinical case reports. 2023;11(2):e6980. doi:10.1002/ccr3.6980. PMID:36855409; PMCID:PMC9968455.
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