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白内障・前眼部

前眼部発生異常(ASDA)

前眼部発生異常(Anterior Segment Developmental Anomalies; ASDA)は、眼の前眼部——角膜(cornea)、虹彩(iris)、水晶体(lens)、前房(anterior chamber)——に関連する発生障害の総称である。「前眼部形成異常(Anterior Segment Dysgenesis; ASD)」とも呼ばれる。

ASDAには以下の代表的な疾患単位が含まれる。

これらの疾患は表現型・遺伝型ともに多様であり、50以上の遺伝子が関与することが判明している。エクソーム解析や全ゲノム解析によって遺伝的知見は拡大し続けているが、依然として40〜75%の症例で原因遺伝子が特定されていない。特定の表現型に分類できない症例は「分類不能ASD(unclassified ASD)」と記載される。1)

虹彩毛様体で産生された房水は、線維柱帯(trabecular meshwork)を通じてシュレム管(Schlemm’s canal)へ、またぶどう膜強膜流出路を経て排出される。ASDAではこのプロセスに障害が生じやすく、続発緑内障(secondary glaucoma)が共通した重要な合併症となる。

後部胎生環のみで全身症状を伴わない場合は、世界緑内障学会の第9回コンセンサスレポートに基づきARSとは区別して扱われる。1)

Q 前眼部発生異常(ASDA)は何歳頃に診断されるのか?
A

疾患によって異なる。原発先天緑内障は生後1年以内の発症が多い。アクセンフェルト・リーガー症候群やピータース異常は出生時から診断されることが多い。遅発型発達緑内障は10〜20歳代まで発症が遅れることもある。いずれも早期発見・早期治療が重要である。

ASDAは表現型・遺伝型ともに多様な疾患群の総称であり、疾患単位ごとに原因遺伝子・遺伝形式・合併症の頻度が異なる。ここでは代表的な構成疾患の疾患単位としての特徴を整理する。臨床所見の詳細は次項「3. 主な症状と臨床所見」も参照されたい。

アクセンフェルト・リーガー症候群(ARS)

Section titled “アクセンフェルト・リーガー症候群(ARS)”

ARSは眼症状と全身症状を呈する常染色体優性疾患である。眼所見としては後部胎生環(前方に転位・肥厚したシュワルベ線)、虹彩低形成、多瞳孔症、虹彩偏位がみられる。突出したシュワルベ線と虹彩に癒着を認めるものをアクセンフェルト異常、さらに虹彩実質の萎縮を認めるものをリーガー異常と呼ぶ。骨発育異常や歯牙異常などの全身所見を伴うものをリーガー症候群と呼ぶ。角膜は一般に正常で内皮の構造も正常であるが、遺残物による物理的な接触で二次的に混濁をきたすことがある。原因はPITX2(4番染色体)およびFOXC1(6番染色体)の転写因子遺伝子変異であり、50〜75%で緑内障を合併する。緑内障は乳児期から発症する場合もあるが、多くは小児期〜若年期に発症する。FOXC1変異とPITX2変異では表現型が異なり、FOXC1変異では角膜異常が50%、PITX2変異では16%とする報告がある。5)

角膜中央混濁と角膜内皮デスメ膜の欠損を特徴とする先天性疾患である。約80%が両眼性で、虹彩角膜癒着や水晶体角膜癒着を伴うことがある。PAX6、PITX2、CYP1B1の変異が関連する。ピータース・プラス症候群では口唇裂、低身長、精神発達遅滞などの全身異常を伴い、B3GLCT遺伝子の変異(常染色体劣性)が原因である。重症例では角膜移植が必要となるが、水晶体角膜癒着を合併する場合の予後は不良である。

線維柱帯の発達異常を原因とする常染色体劣性疾患である。CYP1B1遺伝子(GLC3A座位、2p21)の変異が最も多い。日本人小児緑内障を対象とした遺伝子解析(29家系)では、CYP1B1変異が約31%(9家系)、FOXC1変異が約10%(3家系)に検出されたと報告されている。6) 日本では約10万人に1人の頻度で、75%が両眼性、65%が男児に発症し、80%が生後1年以内に発症する。乳幼児の高眼圧角膜径の増大(牛眼)、角膜浮腫・混濁、デスメ膜破裂(Haab線)を引き起こす。

虹彩低形成を主体とする常染色体優性疾患で、PAX6遺伝子(11番染色体)の変異が原因である。虹彩の部分的〜全周性の欠損に加え、水晶体脱臼、角膜混濁、黄斑低形成による視力障害を伴うことがある。隣接するWT1遺伝子の欠失を合併するとWAGR症候群(ウィルムス腫瘍・無虹彩症・泌尿生殖器異常・精神遅滞)のリスクがあり、WT1の評価が必要である。

前眼部発生異常の超音波生体顕微鏡像
Hong J, et al. Classifications of anterior segment structure of congenital corneal opacity in infants and toddlers by ultrasound biomicroscopy and slit-lamp microscopic photographs: an observational study. BMC Ophthalmol. 2024. Figure 1. PMCID: PMC10804776. License: CC BY.
(a)角膜混濁、(b)角膜混濁と中央部前癒着、(c)180度以下の周辺部虹彩角膜癒着、(d)180度超の周辺部虹彩角膜癒着、(e)虹彩水晶体異常を伴う角膜混濁の超音波生体顕微鏡像である。本文「3. 主な症状と臨床所見」の項で扱う前眼部癒着や角膜混濁に対応する。

乳幼児期では、眼圧上昇に伴う以下の症状が初発症状としてしばしば認められる。

  • 流涙(流涙過多)眼圧上昇による角膜上皮浮腫に伴う刺激の結果として生じる。
  • 羞明(光過敏)角膜刺激を反映した症状。
  • 眼瞼けいれん:流涙・羞明と同じ機序で出現する。

年長児・成人では、遅発型の場合に比較的若年から霧視視力低下を自覚することがある。眼圧が非常に高い場合は眼精疲労や頭痛などの症状がある。無虹彩症では光過敏症(昼盲)を訴えることがある。

牛眼(角膜径の増大)や角膜混濁は、保護者が発見して受診のきっかけとなる。

ASDAは疾患ごとに特徴的な所見を呈する。代表的な疾患単位の主要所見を以下に示す。

後胚芽環・ARS

後胚芽環(PE):前方に転位し肥厚したシュワルベ線(Schwalbe’s line)。細隙灯顕微鏡で角膜輪部内側に灰白色の同心円状の線として観察される。

アクセンフェルト異常:後胚芽環に周辺虹彩組織の索状癒着を伴う。

リーガー異常:上記に加え虹彩実質形成不全による瞳孔偏位・ぶどう膜外反・偽多瞳孔を呈する。常染色体優性遺伝形式。50〜60%に緑内障を併発する。

ピータース異常

角膜中央混濁:診断に必須の所見。角膜内皮デスメ膜角膜実質の欠損を反映する。

1型角膜後面欠損と角膜混濁のみ。

2型虹彩癒着を伴う。

3型水晶体前方移動や白内障を伴う。約80%が両眼性。緑内障を50〜70%に合併する。

無虹彩症

虹彩低形成虹彩後部の欠損が主体。黄斑低形成・視神経低形成緑内障を伴うことがある。

虹彩関連角膜症(AAK):発症率は20〜80%以上と報告されている。角膜輪部幹細胞不全(LSCD)による進行性角膜混濁で、生涯を通じて進行する。2)

WAGR症候群:PAX6と隣接するWT1遺伝子が変異する場合に生じる。ウィルムス腫瘍・無虹彩・泌尿生殖器異常・精神発達遅滞を含む。3)

角膜異常型

巨大角膜角膜径13mm以上(新生児12mm以上)。通常、眼圧と内皮細胞密度は正常。X連鎖劣性遺伝が多い。

強膜化角膜:不透明な強膜組織が周辺部角膜に侵入。強膜角膜の境界が不鮮明で血管進入を伴う。

CHED:出生時〜1〜2歳頃に両眼対称性の角膜浮腫が出現。眼圧上昇は伴わない。常染色体劣性。

続発緑内障を合併した場合に加わる所見を以下に示す。

  • 眼圧上昇:高眼圧(30〜50 mmHg程度)を呈することがある。
  • 角膜径増大(牛眼):眼球被膜の伸展による。出生直後に12.0 mmを超える場合は先天緑内障を疑う。
  • Haab線デスメ膜破裂部位に残る永久的な線状混濁。
  • 視神経乳頭陥凹拡大:乳幼児ではC/D比0.3以上で緑内障を疑う。左右差が0.2以上も疑わせる所見。
Q アクセンフェルト・リーガー症候群では何%に緑内障が発症するか?
A

50〜60%(一部報告では50〜75%)に緑内障が発症するとされ、頻度が高い。3) 常染色体優性遺伝形式をとる。全身症状(歯牙異常、顔面骨異常、下垂体異常など)を有するものをリーガー症候群と呼ぶ。親族への緑内障スクリーニングが推奨される。

ASDAの主要な原因は遺伝的異常であり、疾患ごとに異なる遺伝子・遺伝形式が関与する。主要疾患の原因遺伝子を以下に示す。

疾患主な原因遺伝子遺伝形式
ARSPITX2(4q25)、FOXC1(6p25)常染色体優性
ピータース異常PAX6、PITX2、CYP1B1孤発性・優性・劣性
原発先天緑内障CYP1B1(GLC3A)、LTBP2(GLC3C)常染色体劣性
無虹彩症PAX6(11番染色体)常染色体優性
CHEDSLC4A11、ZEB1常染色体劣性
巨大角膜CHRDL1X連鎖劣性

その他、PAX6・PITX2・FOXC1などの遺伝子異常を伴う発達緑内障も報告されている。遺伝子型と表現型の相関は多彩であり、同じ遺伝子異常をもつ家族内でも表現形は異なる場合がある。

早発型発達緑内障原発先天緑内障)の大部分は孤発例だが、約10%で常染色体劣性遺伝形式をとる。多因子遺伝という説もある。

**神経堤細胞(neural crest cells)**は前眼部形成に中心的役割を担う。線維柱帯細胞は神経堤由来であり、傍シュレム管結合組織は血管内皮細胞由来である。起源が異なるこれら組織の隣接点に最大の房水流出抵抗が存在する。ARS・ピータース異常・先天性虹彩外反症候群はいずれも神経堤細胞の遊走異常に起因する先天異常として位置づけられる。

韓国での大規模研究では、受精前3か月間および妊娠第1・第2三半期における母親のPM2.5(微小粒子状物質)への曝露増加が、子のASDAリスク上昇と関連することが示された。

ASDAの診断は主に臨床的に行われる。5歳以下の小児での検査には全身麻酔下または催眠下での実施が必要となることが多い。

前眼部発生異常のAS-OCTとUBM
Ni W, Wang W, Sun S, et al. A novel histopathologic finding in the Descemet’s membrane of a patient with Peters Anomaly: a case-report and literature review. BMC Ophthalmol. 2015 Oct 23;15:139. Figure 2. PMCID: PMC4619091. License: CC BY.
A1/A2の前眼部OCTAS-OCT)とB1/B2の超音波生体顕微鏡UBM)で、浅前房虹彩角膜癒着を別モダリティで示している。前房の狭小化と前眼部構造の異常が確認できる。
  • 細隙灯顕微鏡検査角膜混濁の程度・部位、Haab線の有無、前房深度、虹彩異常(後胚芽環、シュワルベ線への虹彩付着)、水晶体異常を評価する。後胚芽環や虹彩異常(ARS)、白内障(ピータース異常)の有無を確認する。
  • 眼圧測定Goldmann圧平眼圧計が標準だが、小児には反跳式眼圧計(アイケア)や電気眼圧計(トノペン)などポータブル眼圧計が有用。全身麻酔下では眼圧が低下することに注意。異なる眼圧計間で測定値の互換性はない。
  • 角膜径測定:カリパーで横径・縦径を測定。新生児の正常範囲は9.5〜10.5 mm。出生直後に12.0 mmを超える場合は先天緑内障を疑う。
  • 隅角検査:手持ち細隙灯とKoeppeレンズなどの直接型隅角鏡を用いる。虹彩の高位付着、シュワルベ線への虹彩付着(ARS所見)、線維柱帯幅の増加などを評価する。
  • 眼底検査視神経乳頭陥凹の観察。乳幼児ではC/D比0.3以上で緑内障を疑う。眼圧下降により乳頭陥凹が縮小することが眼圧コントロール良好のサインとなる。
  • 超音波生体顕微鏡UBM角膜混濁により隅角の透見が困難な症例に有用。隅角形成異常の程度評価や流出路再建手術の予後推定にも役立つ。
  • 前眼部OCTAS-OCT:補助検査として隅角角膜の構造を非侵襲的に評価できるが、診断における隅角鏡検査の代替にはならない。3)
  • 視野検査:小児緑内障視神経症の診断に必須。5歳以下では熟練した検者でも困難で、動的視野検査が実施しやすい。

日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン第4版では、以下のうち2項目以上を満たす場合に小児緑内障と診断される。

  1. 眼圧 > 21 mmHg
  2. C/D比増大の進行、C/D比の左右非対称 ≥ 0.2、リムの菲薄化
  3. 角膜所見:Haab線、または新生児では角膜径11 mm以上、1歳未満では12 mm以上、全年齢で13 mm以上
  4. 眼軸長の正常発達を超えた伸長による近視の進行
  5. 緑内障視神経症に一致した再現性のある視野欠損

角膜混濁・角膜径拡大を認める疾患との鑑別を以下に示す。

  • 巨大角膜眼圧上昇・乳頭陥凹拡大・Haab線なし。隅角は正常。
  • 強膜化角膜:不透明な強膜組織・血管進入。
  • CHED:両眼対称性角膜浮腫眼圧上昇なし。
  • 後部多形性角膜変性症角膜径増大なし。角膜内皮検査が診断に有用。
  • 鉗子分娩外傷:片眼性、垂直または斜め走行の線状混濁。
  • 先天性ムコ多糖症・システン尿症などの代謝性疾患:全身症状の評価が鑑別に重要。

ASDに含まれる疾患群(Axenfeld-Rieger異常、Peters異常無虹彩症、後部多形性ジストロフィ、小眼球、小角膜など)は鑑別診断として相互に検討する必要がある。3)

Q 後部胎生環(posterior embryotoxon)単独でも緑内障を合併するか?
A

後部胎生環単独例(全身症状なし)はARSとは区別されるが、ARSの合併所見の一つでもある。後部胎生環は健常眼にも観察されることがあり、それ自体は必ずしも緑内障リスクを意味しない。ただしアラジール症候群など他の疾患に伴う場合は眼圧経過観察が必要である。

ASDAに伴う緑内障の治療は、原発先天緑内障(PCG)の治療に準じる。

薬物療法は手術までの短期間の眼圧下降および術後眼圧コントロールを目的とした補助的治療。薬剤選択は成人開放隅角緑内障と同様が基本。ただしβ遮断薬は気管支喘息・徐脈への注意が必要で、新生児では無呼吸の報告もある。アセタゾラミドの内服(5〜10 mg/kgを6〜8時間ごと)も可能。

早発型発達緑内障は基本的に手術療法を必要とする疾患。薬物療法は補助的位置付け。

  • 隅角切開術(ゴニオトミー)角膜混濁の少ない症例の初回手術に適している。結膜に侵襲を与えないという利点がある。BarkanレンズまたはSwan-Jacobレンズを用い、隅角切開刀で隅角線維柱帯表面をそぎ落とす。
  • 線維柱帯切開術トラベクロトミー角膜混濁の有無にかかわらず施行可能。隅角切開術で効果が不十分な場合の追加手術としても施行される。
  • 線維柱帯切除術チューブシャント手術隅角手術に無効な場合の選択肢。ARSでは、隅角が開放していて周辺虹彩前癒着による線維柱帯の被覆範囲が広くなければ隅角手術を選択するが、成功率はPCGより低い。隅角手術無効例では線維柱帯切除術やプレート付きチューブシャント手術が第一選択となりうる。4)

ピータース異常ではPCGに準じた治療を行うが、良好な術後眼圧が得られる割合は手術例の約1/3にとどまり、予後不良例が多い。角膜異常などを伴うため、実用的視力を得ることが難しいことが多い。4)

無虹彩症に伴う緑内障もPCGに準じた治療を行う。4)

ピータース異常:軽症例では角膜混濁が次第に軽減することが多い。眼圧が正常であれば多少改善することが多く、また角膜移植術後の経過が不良なため、幼児期の角膜移植は通常行わない。緑内障の薬物治療に抵抗し、流出路再建手術を行ってもコントロール困難な予後不良例が多い。

CHED角膜内皮機能不全に対し、角膜移植(内皮移植含む)が適応となりうる。

強膜化角膜:他のASD症候群に伴う場合もあり、重症例は角膜移植の対象となることがある。

  • 羞明眼精疲労:遮光眼鏡の使用、整容的コンタクトレンズの処方を考慮する。
  • 虹彩関連角膜症(AAK):進行性角膜混濁に対し、角膜輪部幹細胞移植が検討される。
  • ウィルムス腫瘍スクリーニング:孤発性の無虹彩症を認めた場合は小児科に紹介し、6歳までスクリーニングを行うことが推奨される。4)

眼圧が下降しても弱視治療が必要な場合が多い。屈折不同視・不正乱視角膜混濁・Haab線などが弱視発症の原因となるため、視力屈折検査を眼圧測定と並行して継続する。近視の進行と眼軸長の伸長は緑内障進行を示唆するため、定期的な測定が必要。

7. 病態生理学・詳細な発症機序

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正常な前眼部形成は複雑な発生プログラムに従う。胎生3週初め、神経板に視溝(optic sulcus)が形成されるのが視覚器の発生の始まり。胎生3週末に眼胞が形成され、胎生4週に眼杯が形成される。胎生6週頃から胎生裂の閉鎖が始まり、胎生7週に完了する。水晶体の前面を覆う間葉が分離して前眼房が形成される。

神経堤細胞は神経堤から脱上皮化し、上皮から間葉への転換を経て眼内各所に遊走する。線維柱帯細胞は神経堤由来、傍シュレム管結合組織は血管内皮細胞由来であり、この起源の違いが最大の房水流出抵抗部位を形成する。

  • PAX6:眼の発生における「マスター制御因子」。11番染色体に位置。無虹彩症・ピータース異常・先天性虹彩外反症候群に関与。
  • PITX2:転写因子。4番染色体(4q25)。ARSで見られる眼症状・聴覚症状の両方と関連する。
  • FOXC1:転写因子。6番染色体(6p25)。ARSに関与し、PITX2と同様に眼症状・聴覚症状の両方と関連する。
  • CYP1B1:チトクロームP450ファミリー酵素(GLC3A座位)。原発先天緑内障・ピータース異常・強膜化角膜などに関与。
  • CHRDL1角膜実質・内皮の発生に関連。X連鎖性巨大角膜の原因遺伝子。
  • B3GLCT:ピータース・プラス症候群の原因遺伝子。糖鎖付加の欠陥に関連。常染色体劣性遺伝

ARSではFOXC1とPITX2が物理的に相互作用し、神経堤細胞の正常な分化に不可欠であることが示されている。いずれの遺伝子の変異でも類似の表現型を生じうるのは、この相互作用が共通の分子経路を担うためと考えられている。

ASDAにおける続発緑内障房水流出路の形成不全を主たる機序として生じる。具体的には以下が複合的に関与する。

  1. 線維柱帯の発達未熟:傍シュレム管結合組織が異常に厚く、細胞外マトリックスが過剰蓄積する。
  2. 毛様体線維柱帯部位への付着:毛様体筋の収縮が強膜岬を前方に引き、シュレム管線維柱帯を圧迫する。
  3. 虹彩根部の高位付着:線維柱帯位置に虹彩根部が存在し、房水流出を妨げる。
  4. シュレム管の低形成または欠損。

ICE症候群は他のASDAと病因が異なる。単純ヘルペスウイルス(HSV)が角膜内皮細胞変性に関与するウイルス性病因説が提唱されているが、確定されていない。後天性で中年成人(女性にやや多い)に発症し、通常片眼性であることも他のASDAと異なる。

無虹彩関連角膜症(AAK)の病態

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無虹彩症患者は生涯にわたって角膜の進行性混濁をきたす。角膜輪部幹細胞不全(limbal stem cell deficiency; LSCD)が主たる機序と考えられている。PAX6変異が確認された複数の研究で、この進行性変化が記録されている。発症率は20〜80%以上と報告されており、対称性に現れることが多いが常にそうではない。2)

エクソーム解析・全ゲノム解析によって新規関連遺伝子の同定が進んでいる。依然として40〜75%の症例で原因遺伝子が特定されておらず、残存する「未解明例」の解析が今後の重要課題である。遺伝子型と臨床表現型の相関の解明が個別化医療への応用に期待される。

FOXC1 および PITX2 変異を有する症例では、緑内障の発症時期や臨床像に幅がある。遺伝子型が表現型の多様性と関連する可能性がある一方、同一遺伝子変異でも異なる病型を呈しうる点が診断・予後予測を困難にしている。1)

無虹彩症における角膜症(AAK)の発症率は20〜80%以上と報告されており、PAX6変異が確認された複数の研究において生涯にわたる角膜混濁の進行が記録されている。LCSDを標的とした角膜輪部幹細胞移植の研究が進展しているが、現時点では研究段階であり標準治療としての確立には至っていない。2)

受精前・妊娠中の大気汚染(PM2.5)曝露とASDAリスクの関連が疫学的に示されており、環境予防医学的な観点から公衆衛生への応用が模索されている。これが将来的な予防戦略につながる可能性がある。

マイクロパルスレーザー低侵襲緑内障手術MIGS)デバイスのASDA小児への応用が研究段階にある。長期成績データは限られており、成人緑内障と同等の有効性・安全性は確立されていない。

  1. Knight LSW, Ruddle JB, Taranath DA, et al. Childhood and Early Onset Glaucoma Classification and Genetic Profile in a Large Australasian Disease Registry. Ophthalmology. 2021;128(11):1549-1560. doi:10.1016/j.ophtha.2021.04.016.
  2. Hu JCW, Trief D. A narrative review of limbal stem cell deficiency & severe ocular surface disease. Ann Eye Sci. 2023;8:13. doi:10.21037/aes-22-35. https://aes.amegroups.org/article/view/7385/html
  3. Pazos M, Traverso CE, Viswanathan A; European Glaucoma Society. European Glaucoma Society - Terminology and guidelines for glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines. PMID:41026937.
  4. 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
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