この疾患の要点
視神経低形成(ONH)は視神経 軸索数の減少を特徴とする先天性視神経 異常のうち最も頻度が高い疾患である。
片眼性または両眼性で、構造的な中枢神経異常(約90%)や神経発達障害(約70%)を高率に合併する。
中隔視神経 異形成症(SOD、ド・モルシェ症候群)は、ONH・下垂体機能低下・透明中隔欠損の3徴のうち2つ以上で診断される。
検眼鏡でのdouble ring signが診断の手がかりとなり、MRIによる脳構造評価と内分泌スクリーニングが不可欠である。
視力 は正常から光覚なしまで幅広く、乳頭黄斑 束の密度に依存する。
内分泌異常は後年に顕在化することがあり、成長ホルモン・甲状腺ホルモン・副腎皮質ホルモン等の長期的な補充管理が必要となる。
視神経 自体の低形成は緑内障 を併発しなければ非進行性であるが、多職種連携による長期フォローアップが重要である。
視神経低形成(optic nerve hypoplasia; ONH)は、視神経 軸索数の減少を特徴とする先天性視神経 異常のうち最も頻度が高い疾患である。片眼性または両眼性に生じ、正中脳構造の欠損を伴うことがある。
1877年にBriereが初めて組織学的に記述し、1941年にReevesが臨床記載を行った。1956年にde Morsierが透明中隔欠損との合併を報告し、ド・モルシェ症候群(中隔視神経 異形成症; septo-optic dysplasia, SOD)として知られるようになった。1970年にHoytらが詳細な臨床像を報告し、本疾患の認知が広がった。
SODは以下の3徴のうち2つ以上を満たす場合に診断される3) 6) 。
ONH(片眼性または両眼性)
下垂体機能低下症
正中脳構造異常(透明中隔欠損、脳梁欠損など)
SODの有病率は約1/10,000出生と推定される2) 6) 。疫学的には、3歳未満の視力 障害の原因として3番目に多い。イングランドでは人口10万あたり10.9、スウェーデンでは17.3と報告されている。
日本の新潟大学における16例の検討では、初診年齢中央値は2.4歳、女性が12/16例(75%)、両側性が11/16例(69%)であった1) 。
重症型として視神経 無形成(optic nerve aplasia)がある。乳頭および網膜 血管が全く存在せず、光覚を欠く。
上方分節型視神経低形成(superior segmental optic hypoplasia; SSOH)は上方のみの視神経 線維が低形成となる特殊型であり、母体糖尿病との関連が指摘されている。日本における有病率は約0.3%と報告されている。性差はない。
Q
ONHとSODはどう違うのか?
A
ONHは視神経 単独の形態異常を指す。SODはONH・下垂体機能低下・正中脳構造異常の3徴のうち2つ以上を満たす症候群であり、ONHはSODの構成要素の一つである。ONH患者の約37.5%がSODの診断基準を満たすとの報告がある1) 。
Mujahid M, et al. Superior Segmental Optic Nerve Hypoplasia: A Case Report and Literature Review. Cureus. 2026. Figure 1. PM
CI D: PMC12906824. License: CC BY.
眼底写真の比較画像で、左パネルでは視神経乳頭 が小さく、乳頭周囲に二重輪郭様ハローがみられる。視神経低形成、とくに分節型でみられる乳頭縮小と二重輪郭様ハローが描出される。
ONHの視力 は正常から光覚なしまで幅広い。多くは0.1以下であり、視力 は乳頭黄斑 束の密度に依存する。視神経低形成はこの点で他の乳頭先天異常とは異なり、黄斑 が形成されていても乳頭黄斑 神経線維束の発達程度にばらつきがあるため、視力 1.0を保つ例から極度に低い例まで幅広い。
視力 低下 :程度はさまざまで、正常視力 を保つ例もある。
視野欠損 :鼻側・下方の局所的欠損を生じることがある。比較的視力 良好な片眼性もしくは両眼性の症例では、両耳側半盲 傾向が検出できることがある。
RAPD (相対的求心性瞳孔 反応異常) :片眼性または非対称性の場合に認められる。
眼振 :両側性の場合、生後1〜3か月で発症する。振り子様眼振 やシーソー眼振 をしばしば伴う。
斜視 :両側性の場合、1歳までに出現することが多い。
日本人のデータでは、視力 不良が11/16例(69%)、斜視 が8/16例(50%)、眼振 が5/16例(31%)であった1) 。
検眼鏡的に特徴的な所見を認める。
視神経乳頭 :蒼白または灰色で、正常の約半分の大きさ。
double ring sign(色素輪) :小さな乳頭の周囲に淡い内輪(強膜 篩状板 )と外輪(脈絡膜 色素層)が二重に見える所見。本疾患に特異的である。神経線維束の減少により乳頭が小さくなった結果、本来乳頭となるべき範囲が輪状に見えるものである。
DM/DD比 :乳頭中心窩 間距離(DM)と乳頭径(DD)の比。3以上で疑い、4以上で高い。3.2以上で小乳頭と判定する。DD/DM比では0.35未満が目安となる。
網膜 静脈蛇行 :認められる場合、内分泌異常の合併を示唆する。
OCT 所見 :網膜神経線維層 (RNFL )・神経節細胞層(GCL)・内網状層(IPL)の菲薄化を認める。
網膜 血管 :走行はほぼ正常であるが、血管径が狭小な症例もある。
主な眼所見と全身合併症の頻度を以下に示す。
所見 頻度 構造的CNS異常 約90% 神経発達障害 約70% 視床下部機能障害(両眼性) 81% 視床下部機能障害(片眼性) 69% 発達遅滞(両眼性) 78%
Q
片眼のONHでも全身検査は必要か?
A
片眼性であっても視床下部機能障害は69%に認められ、無症状の患者でも18.2%に脳異常が存在する1) 。片眼性でもMRIと内分泌スクリーニングは必須である。
ONHの病理は網膜神経節細胞 (RGC )および神経線維の発生不全である。発生異常説と逆行性変性説の2つの仮説がある。前大脳動脈の血管障害による視交叉 ・視神経 の虚血が病因とする仮説も提唱されている。
大多数の症例は孤発性である2) 3) 。
以下の遺伝子変異が関与することがある。
HESX1 :前脳と下垂体の発生に関与。変異保有者はSOD全体の1%未満7) 。
PAX6 、SOX2 、OTX2 :眼と脳の発生に関わる転写因子。
若年出産(特に初産の若年母体)
母体糖尿病 :特にSSOHとの関連が強い
早産
薬物曝露:フェニトイン、キニーネ、LSD、アルコール
ONHの診断は検眼鏡所見を基盤とし、画像診断と内分泌スクリーニングを組み合わせて行う。
Double ring signの確認が診断の第一歩である。DM/DD比3以上(3.2以上で小乳頭)が目安となる。
MRI :全ONH患者に推奨される。透明中隔の欠損・脳梁の形態・下垂体の大きさと形態を評価する。
pointing down徴候 :視交叉 が下方に偏位する所見。SODに特徴的である3) 。
視交叉 の正常幅は11.13〜16.92mmとされ、視神経 断面積≦4.0mm²で萎縮と判定する3) 。
OCT :cpRNFL 厚(乳頭周囲網膜神経線維層 厚)の測定。菲薄化の客観的定量が可能である。
日本人患者の検討では、脳異常が43.8%、SODが37.5%に認められた。注目すべきは、無症状であっても18.2%に脳異常が存在したことである1) 。さらに、下垂体機能低下を示した3例中2例ではMRIで下垂体形態は正常であった1) 。
全ONH患者に以下の検査が推奨される。
コルチゾール
TSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT4(遊離サイロキシン)
IGF-1(インスリン様成長因子-1)、IGFBP-3
LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)
以下の疾患との鑑別が必要である。
視神経萎縮 :後天性の軸索変性。乳頭蒼白を呈するが、double ring signは認めない。
視神経 コロボーマ :胎生裂閉鎖不全による乳頭の陥凹。
モーニンググローリー症候群 :花弁状に拡大した乳頭。
傾斜乳頭症候群 :乳頭の非対称的な傾斜。
緑内障 性視神経 障害 :視神経乳頭陥凹 の拡大が特徴。鑑別のポイントは、ONHでは経過で視野変化が生じないこと、およびRNFL 欠損部位のパターンが異なることである。可能であればOCT でRNFL 厚を定期的に測定し、変化の有無を確認する。
Q
MRIが正常でも内分泌異常はあり得るのか?
A
あり得る。日本人患者の検討では、下垂体機能低下を示した3例中2例でMRI所見は正常であった1) 。MRIの結果にかかわらず、内分泌スクリーニングは全例に行うべきである。
ONHそのものに対する根治的治療法は存在しない。管理の中心は、視機能の最適化と全身合併症(特に内分泌異常)への対応である。多職種チーム(眼科・内分泌科・小児科・神経科・リハビリテーション科)による連携が不可欠であり、成長は半年ごと、視機能は年1回の評価が推奨される。
屈折 矯正 :小児では屈折 異常の早期矯正が重要である。眼振 がある場合は、眼鏡やコンタクトレンズ装用による屈折 矯正を試みる。
斜視手術 :斜視 の合併があれば後転術を中心とした斜視手術 を行う。眼振 に対する外眼筋 手術も検討される。
成長ホルモン
頻度 :ONH患者の約70%に必要。
適応 :成長ホルモン分泌不全が確認された場合に開始する。
甲状腺ホルモン
頻度 :約43%に必要。
適応 :TSH・FT4異常で補充を開始する。
副腎皮質ホルモン
頻度 :約27%に必要。
注意 :副腎不全はストレス時に致命的となり得る。ストレスドージング(発熱・手術時の増量)の指導が不可欠である5) 。
抗利尿ホルモン
頻度 :約5%に尿崩症を合併。
注意 :ナトリウムの急速補正は痙攣を引き起こし得る。補正速度は0.5mEq/L/時未満とする4) 。
成人管理例では、レボチロキシン137μg、デスモプレシン、ヒドロコルチゾン10mg(朝)/7.5mg(夕)といった補充レジメンが報告されている2) 。
内分泌管理における注意点
内分泌異常は乳幼児期には無症状でも、成長に伴って後年顕在化することがある。長期的な定期評価が必須である1) 。
副腎不全を合併する場合、感染症・外傷・手術などのストレス時にはヒドロコルチゾンの増量(ストレスドージング)が生命を左右する5) 。
尿崩症の管理では、高ナトリウム血症の補正速度を厳守する。急速補正は痙攣や脳浮腫の原因となる4) 。
視神経低形成自体は、緑内障 を併発しなければ非進行性である。緑内障 を合併しない場合、眼圧 下降目的の安易な点眼・手術治療は慎むべきである。しかし内分泌異常は経時的に出現・悪化することがあり、長期フォローアップが不可欠である1) 。早期に診断し、必要な症例には3歳までにホルモン補充療法を開始すると後遺症を残さないとされるため、片眼性の場合でも本疾患を念頭に置き見逃さないことが重要である。
Q
視力は将来悪化するのか?
A
視神経低形成そのものは非進行性であり、緑内障 を合併しなければ視力 は安定することが多い。ただし内分泌異常は後年に出現することがあるため、定期的な全身評価の継続が重要である。
ONHの本態は、網膜神経線維層 (RNFL )および神経節細胞の減少であり、網膜 外層への影響は少ない。発生機序には2つの主要仮説がある。
発生異常説 :胎生期の網膜神経節細胞 の分化・遊走の障害により、視神経 軸索が十分に形成されない。
逆行性変性説 :中枢神経系の構造異常(透明中隔欠損、脳梁欠損など)に伴う逆行性の軸索変性。
前大脳動脈の血管障害による視交叉 ・視神経 領域の虚血が関与するとの仮説もある。
視床下部機能障害は片眼性ONHでも69%、両眼性では81%に認められる。下垂体と視神経 は発生学的に近接しており、同一の発生障害が両者に影響すると考えられる。
発達遅滞は全体の75%に認められ、両眼性(78%)が片眼性(39%)より高率である。
SOD plusは古典的SODに加えて皮質形成異常(多小脳回、裂脳症など)を伴う病態であり、古典的SODよりも高頻度に認められるとの報告がある7) 。神経発達予後がより不良であり、てんかんの合併リスクも高い。
SODに伴う肥満に対する薬物療法として、メラノコルチン4受容体(MC4R)アゴニストであるsetmelanotideの臨床試験(NCT 06760546)が進行中である2) 。視床下部性肥満はSOD患者のQOLを著しく低下させるため、新たな治療選択肢として注目されている。
正常血糖で診断されたSOD新生児に対し、テストステロン療法(25mg筋注、月1回×3か月)による小陰茎・停留精巣の管理や、組換えFSH療法の試みが報告されている5) 。これらは内分泌補充の早期介入の可能性を示すものであるが、長期的な有効性と安全性はまだ確立されていない。
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