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緑内障

無虹彩症に伴う緑内障

先天無虹彩症(congenital aniridia)は虹彩が完全または不完全に欠損する希少疾患である。有病率は 64,000〜96,000 人に 1 人とされ、2017 年にわが国の指定難病に分類された1)

原因は染色体 11p13 上の PAX6 遺伝子の機能喪失性変異である。PAX6 は眼形成のマスターコントロール遺伝子であり、片アリルの機能喪失(ハプロ不全)によって発症する。両アリルが異常の場合は胎生致死となる1)。遺伝形式は全体の 2/3 が常染色体優性遺伝、残り 1/3 が孤発性である。60〜90% が両眼性で、男性にやや多い。

緑内障無虹彩症の後天的合併症として位置づけられ、隅角の形成不全により 50〜75% に合併する1)。乳児期の発症はまれで、成長に伴い青年期以降に進行性に発症する。緑内障診療ガイドライン(第5版)では小児緑内障の続発分類「3-ⅲ 無虹彩」として分類されている。緑内障の管理は原発先天緑内障(PCG)の治療方針に準じるとされるが、無虹彩症特有の隅角形成異常のため治療戦略には独自の配慮が必要となる。

無虹彩症緑内障以外にも多彩な眼合併症・全身合併症を伴う汎眼球疾患であり、黄斑低形成、角膜輪部幹細胞疲弊症(AAK)、白内障眼球振盪症などが高率に合併する。孤発例では PAX6 遺伝子に隣接する WT1 遺伝子の欠失により WAGR 症候群を呈することがあり、Wilms 腫瘍(腎芽腫)の合併に注意が必要である。

Q 無虹彩症と診断されたら必ず緑内障になるのですか?
A

緑内障は50〜75%に合併するが、全例に発症するわけではない。乳児期の発症はまれで、青年期以降に進行性に眼圧上昇が顕在化することが多いため、生涯を通じた定期的な眼圧モニタリングが重要である。

無虹彩症の主訴は、合併する黄斑低形成のため生後早期からみられる水平眼振であることが多い。虹彩が欠損しているため眼球に入る光量を調節できず、強い羞明まぶしさ)を訴える。固視不良もみられ、比較的生後早期に発見される。

緑内障に関連する症状は以下の通りである。

  • 眼圧上昇による症状:多くは無症状のまま進行する。開放隅角型が多いため、自覚的な疼痛は乏しい
  • 視野障害・視力低下:進行例では成人後に視野狭窄や視力低下として発見されることがある
  • 視力予後:おおむね不良で 0.1 程度となることが多い。黄斑低形成が最大の視力低下因子である

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

細隙灯顕微鏡検査では、部分的虹彩萎縮から完全虹彩欠損までさまざまな程度の虹彩形成異常を認める1)。高度欠損例では水晶体赤道部や Zinn 小帯まで観察可能である。

緑内障関連の所見:

  • 眼圧上昇:21 mmHg を超える高眼圧角膜厚が正常と異なる場合(肥厚傾向)があり、真の眼圧値の推測は難しい
  • 視神経乳頭所見:陥凹乳頭径比(C/D 比)の増大、リムの菲薄化。乳児では C/D 比 0.3 以上で緑内障を疑う
  • 隅角所見虹彩根部の形成異常がみられる。虹彩実質が線維柱帯上に前方伸展し、進行とともに隅角を覆う
  • 角膜所見:Haab 線(角膜内皮の断裂線)、高眼圧による角膜浮腫。新生児では角膜径 11 mm 以上が異常所見となる

主な眼合併症:

黄斑低形成

頻度:ほぼ全例に合併

視力予後への影響:最大の視力低下因子。中心窩陥凹の消失、黄斑部血管走行異常を呈する

角膜症(AAK)

頻度:進行性に合併

特徴輪部幹細胞疲弊により結膜組織が角膜上に侵入。パンヌス形成、角膜混濁をきたす

白内障

頻度:約80%に合併1)

特徴:20歳までに50〜85%で発症。Zinn小帯が脆弱なため手術は難度が高い

眼球振盪症

頻度:全例でみられる

特徴:水平眼振が主。生後早期の主訴となることが多い。視力発達に影響する

緑内障の長期予後との関連:

306 例の症例集積研究では、緑内障合併例で 20/60(0.33)を超える視力の症例はなかったと報告されている15)。また、30 例を対象とした研究では 10 例(30%)に緑内障が合併しており、視力低下の主要因であった。うち 2 例(6%)が失明に至っている16)緑内障による視野障害・視神経障害は不可逆的であり、早期発見と適切な眼圧管理が視機能維持に直結する。

眼外所見として、WAGR 症候群(11p13 欠失症候群)では Wilms 腫瘍、泌尿生殖器異常、精神発達遅延を伴う。PAX6 は中枢神経・膵臓 Langerhans 島・嗅上皮にも発現しており、脳梁欠損、てんかん、高次脳機能障害、無嗅覚症、グルコース不耐性などの合併も報告されている1)

PAX6 は初期眼球から発現し、さまざまな転写因子を統括する眼形成のマスターコントロール遺伝子である。PAX6 の異常により眼球全体にわたる先天異常(無虹彩症、Peters 異常、黄斑低形成、視神経形成異常など)が生じる。

遺伝子変異の種類と関連疾患を以下に示す。

遺伝子染色体関連疾患
PAX611p13無虹彩症黄斑低形成、Peters 異常
WT111p13(PAX6 隣接)Wilms 腫瘍
PITX24q25Axenfeld-Rieger 症候群 1 型
FOXC16p25Axenfeld-Rieger 症候群 3 型

PAX6 の変異型はナンセンスやフレームシフトなどの premature truncated codon(PTC)型変異が多く、ミスセンス変異の報告もある1)。シークエンシングにより isolated aniridia の 85% 近くで何らかの変異が検出される2)

大規模レジストリ研究において、非後天性眼形成異常に伴う緑内障では 56.5% に遺伝子診断が得られ、PAX6 は主要な原因遺伝子の一つであることが示されている10)

PAX6 と WT1(Wilms 腫瘍の原因遺伝子)は 11p13 上で近接しており、両者がともに欠損する染色体欠失では無虹彩症に Wilms 腫瘍が合併する(WAGR 症候群: Wilms tumor, Aniridia, Genitourinary abnormalities, mental Retardation)。

  • 無虹彩症の約 1/3 は WAGR 症候群に含まれる2)
  • 孤発例の約 30% は 5 歳までに Wilms 腫瘍を発症する
  • Wilms 腫瘍患者の 1.4% に先天無虹彩症を認める
  • 隅角形成異常の程度虹彩実質の線維柱帯上への前方伸展が進行するほどリスクが高い
  • 年齢:成長に伴い青年期以降に進行性に発症する。小児期からの眼圧モニタリングが不可欠である
  • 白内障手術歴:術後に眼圧上昇や緑内障悪化のリスクがある2)
Q WAGR症候群が疑われる場合、どのような検査を受けるべきですか?
A

PAX6 とその近傍の WT1 遺伝子を含む 11p13 領域の欠失を検出するため、染色体マイクロアレイ(CMA)や FISH 検査が推奨される。WT1 遺伝子の欠損が確認されれば Wilms 腫瘍の発症リスクが高いため、6 歳まで腹部超音波による定期検査が必要となる。遺伝カウンセリングのもとで検査を行うことが望ましい2)

細隙灯顕微鏡検査により虹彩欠損を確認すれば、臨床的な診断は容易である。厚生労働省の研究班が作成した診断基準は以下のカテゴリーに分類される1)

  • Definite:A 症状(両眼性視力障害または羞明のいずれか)+ B1(虹彩形成異常)+ E(PAX6 遺伝子変異または 11p13 欠失)+ C(鑑別除外)
  • Probable:(1) A+B1+F(家族歴)、(2) A+B1+B2(黄斑低形成)、(3) A+B1+B3(角膜症)のいずれかを満たし、C を除外
  • Possible:A+B1 を満たし、C を完全には除外できない

重症度分類矯正視力と視野狭窄により分類される1)

重症度基準
Ⅰ度片眼罹患、僚眼が健常
Ⅱ度両眼罹患、良好な方の矯正視力 0.3 以上
Ⅲ度両眼罹患、良好な方の矯正視力 0.1 以上 0.3 未満
Ⅳ度両眼罹患、良好な方の矯正視力 0.1 未満

Ⅰ〜Ⅲ度で続発性緑内障による視野狭窄を伴う場合は 1 段階上の重症度に移行する1)。Ⅲ度以上で指定難病の医療費助成対象となる。

小児緑内障の診断基準として、以下のうち 2 項目以上を満たす場合に緑内障と診断する。

  • 眼圧 > 21 mmHg(全身麻酔下を含む)
  • C/D 比増大の進行、左右非対称 ≥ 0.2、リムの菲薄化
  • 角膜所見:Haab 線、新生児の角膜径 11 mm 以上、1 歳未満で 12 mm 以上
  • 眼軸長の伸長による近視の進行
  • 緑内障視野欠損の再現性

無虹彩症では角膜厚が正常と異なる場合(肥厚傾向、無水晶体眼では菲薄化)があり、眼圧値の解釈には注意を要する。異なる眼圧計間での互換性はない。

  • 隅角鏡検査超音波生体顕微鏡UBM:残存虹彩組織の範囲と隅角異常の評価。毛様体前方偏位の確認にも有用6)
  • OCT光干渉断層計緑内障性の網膜神経線維層菲薄化を評価する。黄斑部 OCT黄斑低形成の程度も判定できる
  • 視野検査:5 歳以下では困難なため動的視野検査を用いる。正確な視野評価が可能な年齢になってから定期的に実施する
  • 屈折眼軸長測定近視の進行や眼軸長伸長は緑内障進行を示唆する所見である
  • 腹部超音波検査:Wilms 腫瘍スクリーニング。孤発例では 6 歳まで定期的に実施する
  • 遺伝学的検査:PAX6 シークエンシング、MLPA、CMA により変異を検出する。WAGR 症候群の確認に重要2)

無虹彩症と紛らわしい疾患を以下に示す1)。診断基準の C 項目(鑑別診断)として除外すべき疾患群である。

  • 虹彩コロボーマ:眼杯裂閉鎖不全による虹彩欠損で、典型的には下方に限局する。脈絡膜欠損を伴うことがある。無虹彩症ではびまん性に虹彩が欠損する点で区別される
  • Axenfeld-Rieger 異常:後部胎生環(Schwalbe 線の前方偏位・肥厚)への虹彩癒着が特徴で、瞳孔偏位を伴う。PITX2/FOXC1 変異が原因であり、PAX6 変異ではない
  • 外傷性・術後虹彩欠損:外傷歴や手術歴から鑑別可能である
  • ヘルペスウイルス科の既感染による虹彩萎縮:片眼性が多く、感染歴や角膜知覚低下を確認する。帯状疱疹や単純ヘルペスによる虹彩萎縮は分節状であることが多い
  • 虹彩角膜内皮(ICE)症候群:成人女性に多い片眼性の虹彩萎縮。進行性の角膜内皮異常に伴う虹彩の変形・癒着を呈する

無虹彩症の高眼圧緑内障に対する治療は「実施する」ことが強く推奨されている(エビデンスの強さ C)2)。治療は以下の順序で段階的に検討する。

①薬物療法

第一段階:点眼・内服による眼圧下降

使用薬剤β遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)、プロスタグランジン関連薬

②流出路再建術

第二段階:薬物療法が不十分な場合

術式隅角切開術、線維柱帯切開術隅角形成異常の程度により適応が決まる

④毛様体凝固術

最終手段:他の治療がすべて無効の場合

注意:眼球ろう(眼球の機能喪失)のリスクが高く、無虹彩症では毛様体低形成が報告されている

点眼・内服による眼圧コントロールが第一選択である。60 例を対象とした長期観察で 31 例に緑内障が発症し、うち 12 例で薬物療法のみで眼圧が管理できたと報告されている3)

使用される主な薬剤は以下の通りである。

  • β遮断薬(チモロール等):小児では徐脈・気管支攣縮に注意。低濃度から開始する
  • 炭酸脱水酵素阻害薬(CAI):局所点眼(ドルゾラミドブリンゾラミド)または全身投与(アセタゾラミド内服)
  • プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト等):有効とされるが、小児での効果は成人に比して弱い可能性がある
  • 交感神経α2 受容体作動薬(ブリモニジン)2 歳未満には禁忌。昏睡などの重篤な精神神経症状の出現リスクがある2)7)

角膜上皮幹細胞疲弊症(AAK)を合併している場合や AAK 悪化が懸念される場合は、防腐剤なし(preservative-free)の製剤の使用を検討する7)

流出路再建術(隅角切開術・線維柱帯切開術)

Section titled “流出路再建術(隅角切開術・線維柱帯切開術)”

隅角切開術が高眼圧緑内障のコントロールに有効であったとする報告があり4)、初回手術として流出路再建術を施行することは推奨できる2)線維柱帯切開術についても初回手術として有効とする報告がある5)。ただし以下の注意点がある。

  • 残存虹彩組織が線維柱帯を覆っている症例では線維柱帯切開術が無効となることがある
  • 虹彩組織がないため、線維柱帯切開術時に Zinn 小帯を損傷し水晶体の発育に影響するリスクがある
  • 無虹彩症隅角形成異常の程度には個体差が大きく、適応の判断は隅角鏡・UBM による詳細な隅角評価に基づいて行う6)

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)

Section titled “線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)”

流出路再建術が困難または奏功しなかった場合に選択される。眼圧コントロールを得た報告があるが11)、以下の課題がある。

  • 小児では成績が一般的に不良であり、約 1/4 の症例で術後に眼球ろうが報告されている8)
  • 術後に悪性緑内障を生じた報告がある
  • 抗代謝薬(マイトマイシン C 等)の使用は AAK 悪化のリスクがあるため慎重に判断する

ロングチューブ手術(緑内障インプラント手術)

Section titled “ロングチューブ手術(緑内障インプラント手術)”

Baerveldt 緑内障インプラントおよび Ahmed 緑内障インプラントが使用可能である。線維柱帯切除術が無効な場合や、隅角の病態から濾過手術の成績が不良と予想される場合に選択される2)

小児緑内障に対する Ahmed・Baerveldt のメタ解析(32 研究、1,221 眼)では、術前平均眼圧 31.8 mmHg から 12 か月後 16.5 mmHg(95% CI: 15.5–17.6)に低下した。成功率は 12 か月で 87%(95% CI: 0.83–0.91)、24 か月で 77%(95% CI: 0.71–0.83)であったが、120 か月では 37%(95% CI: 0.32–0.42)と長期的には低下した9)

Arroyave ら(2003)は無虹彩症に伴う緑内障に対する GDD の使用をまとめ、一定の眼圧下降効果を報告している14)。近年の総説でも、流出路再建や濾過手術が不十分な例では緑内障ドレナージデバイスが主要な選択肢とされる13)。本邦でも Baerveldt インプラントが有効であった症例報告がある12)無虹彩症眼では虹彩がないため、チューブ先端は角膜中央方向ではなく接線方向に挿入することが推奨されている7)。有水晶体眼では角膜内皮のみならず水晶体への接触にも留意が必要である。

すべての手術治療が奏功しない場合の最終手段である2)

  • 毛様体冷凍凝固では多くの症例で眼球ろうに至り、白内障の発症も多いため術後の視機能維持が困難との報告がある
  • 無虹彩症では毛様体の低形成が UBM で確認されており6)、健常眼と比較して眼球ろうのリスクが高い8)
  • 眼球ろうなど視力予後不良の合併症リスクを考慮しても有用性が高い場合に限り選択する
  • 羞明:遮光眼鏡および人工虹彩付きソフトコンタクトレンズ(SCL)が推奨される(CQ6: 強く推奨)2)
  • ロービジョンケア屈折矯正を基本とし、拡大鏡・弱視眼鏡・拡大読書器などの視覚補助具を推奨する(CQ5: 強く推奨)2)。拡大教科書や視覚特別支援学校の相談を通じた教育支援も重要である
  • 白内障手術:20 歳までに 50〜85% で発症する。Zinn 小帯が脆弱であるため術中合併症のリスクが高い。術後の緑内障悪化や anterior fibrosis syndrome にも注意が必要である(CQ3: 弱く推奨)2)
  • 角膜実質混濁全層角膜移植は拒絶反応の率が高く、長期的には緑内障および移植片機能不全により視力予後は不良であることが多い(CQ1: 実施しないことを弱く推奨)2)。ただし重度の角膜実質混濁に対しては、輪部移植を併用した角膜移植や Boston keratoprosthesis(人工角膜)が検討される場合がある

無虹彩症に伴う緑内障の管理では、生涯を通じた定期的な眼圧モニタリングが不可欠である。以下の点に留意して経過観察を行う。

  • 小児期:乳幼児では点眼薬でも体重・体表面積に比して投与量が多くなることに注意し、可能な限り低濃度薬剤から使用する。全身麻酔下の眼圧検査が必要な場合もある
  • 学童期〜青年期緑内障が進行性に顕在化しやすい時期であり、視野検査が可能になり次第、定期的に緑内障視野欠損の有無を評価する
  • 手術後チューブシャント手術後のメタ解析では、12 か月の成功率 87% に対し 120 か月では 37% まで低下しており9)、長期的な追加手術の必要性を念頭に置く
  • 多科連携:小児科(Wilms 腫瘍スクリーニング)、遺伝科(遺伝カウンセリング)、教育支援(弱視学級・視覚特別支援学校)との連携が重要である。患者の多くは普通学級に進学できるが、拡大教科書などの支援を要する
Q 緑内障の手術が必要になった場合、どの術式が選ばれますか?
A

まず薬物療法を試み、効果不十分であれば隅角切開術や線維柱帯切開術などの流出路再建術を検討する。これが困難または無効な場合は線維柱帯切除術、さらにロングチューブ手術(Ahmed や Baerveldt インプラント)を選択する。どの治療でも眼圧コントロールが得られない場合にのみ、毛様体凝固術が最終手段として検討される2)

Q 緑内障の点眼薬で角膜が悪化することはありますか?
A

無虹彩症では角膜上皮幹細胞疲弊症(AAK)を合併していることがある。防腐剤(塩化ベンザルコニウム等)を含む点眼薬の長期使用は角膜上皮障害を悪化させうるため、防腐剤なしの製剤の使用を検討することが推奨されている7)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

PAX6 は遺伝子発現を制御する転写因子をコードし、初期眼球から発現するマスターコントロール遺伝子である。眼杯の形成、水晶体の分化、角膜上皮網膜の発生に関与する。PAX6 のハプロ不全は虹彩のみならず黄斑角膜輪部幹細胞、視神経など眼球全体に影響を及ぼす。

PAX6 は眼組織以外にも中枢神経、膵臓 Langerhans 島、嗅上皮に発現しており、これらの組織の低形成により多彩な眼外合併症が生じる1)

隅角形成異常と緑内障の発症機序

Section titled “隅角形成異常と緑内障の発症機序”

病理学的には虹彩根部を残して平滑筋が欠損しており、隅角の発達不全がみられる。緑内障の発症機序は以下のように段階的に進行する3)

  1. PAX6 変異による隅角の先天的な発達不全
  2. 残存する虹彩実質(虹彩根部組織)が線維柱帯上に前方伸展
  3. 線維柱帯を徐々に覆い、房水流出路が閉塞
  4. 眼圧上昇 → 緑内障視神経障害

この進行性の隅角変化は Grant と Walton が 1974 年に報告したもので3)、近年では UBM によっても毛様体の前方偏位として画像的に確認されている6)隅角形成異常の程度によって、開放隅角型と閉塞隅角型の両型が生じうる。

無虹彩症関連角膜症(AAK)の病態

Section titled “無虹彩症関連角膜症(AAK)の病態”

PAX6 変異は角膜輪部幹細胞にも影響を及ぼし、角膜上皮幹細胞の機能異常を生じる。

  • 角膜上皮間細胞の機能異常 → Bowman 膜の異常
  • 血管豊富なパンヌス(結膜組織の角膜への侵入)の形成
  • 進行性の角膜混濁 → 視力低下

AAK は幼少時には正常であっても成長につれ発症・進行することが多い1)角膜症には先天性中心性角膜混濁(COO)と AAK の 2 種類があり、COO 合併例では AAK 合併例よりも緑内障の合併率が高いとの報告がある16)緑内障治療で使用する抗代謝薬や防腐剤含有点眼薬は AAK を悪化させるリスクがあり、治療戦略の選択に影響する。角膜緑内障の管理は相互に影響し合うため、両者を統合的に評価する視点が求められる。

無虹彩症に特有の解剖学的所見として、UBM毛様体の低形成が報告されている6)。この所見は毛様体凝固術施行時の眼球ろうリスクを高める要因であり、毛様体房水産生量が通常より少ない可能性も示唆される。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Chen と Walton(1999)は、無虹彩症隅角が進行性に変化する自然経過に基づき、高眼圧緑内障の発症前に予防的隅角切開術を施行することで緑内障発症を予防できる可能性を報告した4)。ただし対照群のない記述的研究であり、エビデンスは限定的である2)

予防的手術介入の有効性については今後の前向き研究が待たれる。

角膜上皮幹細胞疲弊症(AAK)に対する治療として、他家輪部移植や培養口腔粘膜上皮移植が検討されている。診療ガイドラインでは手術加療を行うことが弱く推奨されており、一定の確率で眼表面再建が達成できるとされている2)角膜実質混濁を合併する場合は角膜移植の併用が有用な場合がある。

大規模レジストリ研究により、小児・早発型緑内障の遺伝プロファイルが明らかにされつつある10)。PAX6 の変異タイプ(PTC 型、ミスセンス型等)と緑内障発症リスク・重症度の相関解析は、リスク層別化に基づく個別化医療への展開が期待される。


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