AGSの特徴
免疫遺伝性疾患と緑内障
1. 免疫遺伝性疾患と緑内障とは
Section titled “1. 免疫遺伝性疾患と緑内障とは”免疫遺伝性疾患は、原発性免疫不全症を引き起こす遺伝子変異を特徴とする疾患群である。多種多様な全身症状および眼症状を呈し、緑内障を合併する疾患として、アイカルディ・グティエール症候群(AGS)とシングルトン・メルテン症候群(SGMRT)が知られている。
いずれも稀な疾患であり、自然免疫に関与する遺伝子の変異が原因となる。EGSの分類では、非後天性全身疾患または症候群に伴う緑内障に位置づけられる1)。症候群性緑内障では分子診断が臨床診断の修正や適切な遺伝カウンセリングに貢献する2)。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”AGSでは生後1年以内に神経学的症状が出現する。SGMRTでは骨関節症状や皮膚症状に加え、小児期から眼圧上昇を認める。
SGMRTの特徴
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”AGSの関連遺伝子
Section titled “AGSの関連遺伝子”AGSには7つの関連遺伝子が知られている。大部分は常染色体劣性遺伝であるが、IFIH1変異は常染色体優性遺伝をとることがある。
| 遺伝子 | 遺伝形式 | 緑内障リスク |
|---|---|---|
| SAMHD1 | AR | 最も高い(20%以上) |
| TREX1 | AR | 報告あり |
| RNASEH2A/B/C | AR | 報告あり |
| ADAR | AR | 最も低い |
| IFIH1 | AD | 最も低い |
SGMRTの関連遺伝子
Section titled “SGMRTの関連遺伝子”SGMRTは常染色体優性遺伝の稀な疾患であり、自然免疫に関与するDDX58遺伝子およびIFIH1遺伝子の変異に関連する。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”免疫遺伝性疾患に伴う緑内障の確定診断には遺伝子検査が重要である。標的遺伝子検査やエクソーム・ゲノムシーケンシングが用いられる2)。
分子診断の利点:
- 正確な遺伝形式と血縁者リスクの特定
- リスクのある家族への予測的遺伝子検査の実施
- 臨床診断の修正(研究では10.4%で遺伝子結果に基づき診断が変更された)2)
- 将来的な遺伝子特異的治療の可能性2)
小児緑内障の一般的な検査法に準じる1)。
- 眼圧測定:反跳式眼圧計などポータブル眼圧計が有用
- 前眼部検査:角膜径測定、角膜浮腫・Haab線の確認
- 隅角検査:病型診断と治療法選択に不可欠
- 眼底検査:視神経乳頭陥凹の評価
- 視野検査:5歳以下では困難。動的視野検査の方が行いやすい
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”AGSおよびSGMRTにおける緑内障治療は、薬物療法を行い、必要に応じて外科的介入を検討する。
緑内障点眼薬(β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、経口炭酸脱水酵素阻害薬など)により眼圧管理を行う。
小児緑内障では初回手術がほぼ全例に適応となる。薬物治療は長期的に有効でも実行可能でもないことが多い1)。
- 一次手術:線維柱帯切開術(goniotomy/trabeculotomy)、濾過手術
- 二次手術:チューブシャント手術(一次手術が不成功の場合)
- 繰り返し手術:比較的頻繁に必要となる1)
AGSおよびSGMRT患者の視能予後は不良であり、複数回の緑内障手術を要する場合がある。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”DDX58変異とRIG-I受容体の機能不全
Section titled “DDX58変異とRIG-I受容体の機能不全”SGMRTに伴う緑内障の病態の中心は、DDX58遺伝子変異によるRIG-I(レチノイン酸誘導性遺伝子I)受容体の機能不全である。
RIG-I受容体は自然免疫の重要な構成要素であり、線維柱帯細胞にも存在する。DDX58変異によるRIG-I受容体の機能不全は、以下の経路で緑内障を引き起こす。
- 線維柱帯細胞におけるRIG-I受容体の機能異常
- 線維柱帯細胞の死滅
- 房水流出能力の低下
- 眼圧上昇→緑内障
角膜への影響
Section titled “角膜への影響”RIG-I受容体は角膜にも存在する。角膜のRIG-I受容体の機能不全により、SGMRT患者では角膜移植不全の発生率が高い。角膜手術を検討する際にはこの点を考慮する必要がある。
AGSにおける免疫学的機序
Section titled “AGSにおける免疫学的機序”AGSでは、自然免疫に関与する遺伝子(TREX1、RNASEH2A/B/C、SAMHD1、ADAR、IFIH1)の変異によりI型インターフェロン経路が異常活性化する。この慢性的な免疫活性化が全身の炎症や組織障害を引き起こすが、眼組織における緑内障発症の詳細な機序はまだ十分に解明されていない。
SGMRTの原因遺伝子であるDDX58の変異により、RIG-I受容体の機能不全が生じる。このRIG-I受容体は角膜にも存在しており、その機能異常が角膜移植不全の高い発生率につながると考えられている。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”JAK阻害薬の可能性
Section titled “JAK阻害薬の可能性”ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬は、SGMRTの全身治療において有望な結果を示している。本疾患の眼症状の治療においても有効性を示す可能性があり、今後の研究が期待される。
遺伝子特異的治療
Section titled “遺伝子特異的治療”遺伝性網膜疾患と同様に、将来的に遺伝子特異的な治療アプローチが緑内障においても可能となる可能性がある。分子診断の重要性はプレシジョン・メディシンの観点からもますます高まっている2)。
免疫遺伝性疾患に伴う緑内障では、原因遺伝子の同定が治療標的の特定に直結する。特にRIG-I受容体経路を標的とした治療の開発が期待される。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021 Jun;105(Suppl 1):1-169. doi:10.1136/bjophthalmol-2021-egsguidelines. PMID:34675001.
- Khoo BK, Patel CJ, Goh Y, et al. Childhood and Early Onset Glaucoma Classification, Clinical Features, and Genetic Profile: The Australian and New Zealand Registry of Advanced Glaucoma. Ophthalmology. 2022;129:626-641.