眼底写真によるAIスクリーニング
手法:カラー眼底写真(CFP)に深層学習(DL)を適用し、視神経乳頭の陥凹/乳頭比(CDR)や網膜神経線維層欠損を自動検出する3)
利点:検査者間変動を排除し客観的かつ均一な判定が可能。テレメディスンとの組み合わせで遠隔地スクリーニングに応用可能3)
課題:学習データの疾患重症度バイアス、民族的多様性の不足、GON検出の最低限界が未確立3)
緑内障スクリーニングとは、無症状の段階で緑内障を早期発見し、不可逆的な視力喪失を予防するための検査プログラムである。緑内障は視神経および網膜神経線維層の障害を特徴とする慢性進行性の視神経症であり5)9)、多くの場合は緩徐に進行するため初期には無症状である2)。
2020年時点で世界の緑内障患者数は約7,600万人(有病率3.54%)と推定されている2)。2040年には1億1,180万人に増加すると予測される2)。原発開放隅角緑内障(POAG)が全症例の約69%を占める2)。
罹患者の少なくとも半数は未診断・未治療であり、医療アクセスの限られた地域ではその割合はさらに高い2)。米国では緑内障は不可逆的失明の第2位の原因であるが、黒人およびラテン系では第1位である2)。
原発開放隅角緑内障の主なリスク因子は以下である6)7)。
75歳以上の有病率は黒人で23.2%、白人で9.4%と大きな人種間格差がある2)。
緑内障は初期には無症状で緩徐に進行するため、患者の少なくとも半数が未診断のまま経過する2)。治療を行わなければ不可逆的な失明に至るが、早期発見と適切な治療により視力喪失を予防できる。特に高リスク群では有病率が高いため、標的スクリーニングにより効率的に未診断例を発見できる1)2)。
各国・国際機関のスクリーニング推奨は以下のように大きく異なる1)。
| 機関 | 一般集団への推奨 | 備考 |
|---|---|---|
| AAO | 40歳で検査 | リスク因子があれば早期1) |
| USPSTF | 推奨せず | エビデンス不十分1) |
| EGS | 推奨せず | 効果・費用対効果が不明1)8) |
WHOは一般集団スクリーニングを費用対効果が低いとしつつ、高リスク群(高齢者、家族歴、特定の人種・民族、女性、社会的弱者)への定期検査を推奨している1)。
汎アメリカ眼科学会(PAAO)も一般集団スクリーニングは推奨していないが、65歳以上・家族歴陽性・アフリカ系の高リスク群への検査を勧告している1)。
サハラ以南アフリカでは例外的に、ICOとの合同指針で35歳以上の一般集団に対する受診時スクリーニングが推奨されている1)。
日本緑内障学会のガイドラインでは、視神経乳頭および網膜神経線維層の評価が緑内障診断の基盤であることが強調されている9)。多治見スタディに基づく疫学データでは正常眼圧緑内障が多く、眼圧測定のみでは見逃される例が多いことが知られている9)。
緑内障スクリーニングを含む総合眼科検査には以下が含まれる5)6)。
OCTは緑内障診断の補助検査として広く使用されているが、OCT単独での緑内障診断は避けるべきである5)8)。異なるOCT機器間で測定値の互換性はない5)8)。
一般集団では緑内障の有病率が低いため、スクリーニング検査の感度・特異度が不十分な現状では偽陽性が多くなり、過剰診断や不必要な治療のリスクが生じる1)。USPSTF、EGS、世界緑内障学会いずれも、スクリーニングによる臨床転帰の改善を示す十分なエビデンスがないと結論している1)。一方、高リスク群に限定した標的スクリーニングは陽性適中率が向上し費用対効果に優れる1)2)。
高リスク群への標的スクリーニングは一般集団スクリーニングに比べ臨床的有用性と費用対効果が高い1)2)。
Allisonらのレビューでは、ボルチモアのSToP Glaucoma Studyにおいて50歳以上の主にアフリカ系米国人を対象にコミュニティベースのスクリーニングを行った結果、スクリーニング受診者の39.5%が精密検査に紹介され、受診者の51%に緑内障が診断された2)。
Ladapoらは、80歳以上の黒人に対するスクリーニングにより失明有病率を10.9%低減できると推計した。50歳からの複数回スクリーニングでは、未診断緑内障を33%、視覚障害を6.8%、失明を9.9%減少させうるとされた2)。
米国ではメディケアが以下の高リスク群への年1回の緑内障検査を給付対象としている2)。
Tangらの中国における意思決定分析マルコフモデルでは、農村部でのPACGおよび原発開放隅角緑内障のスクリーニングのICER(増分費用効果比)は1,280ドルと算出され、スクリーニングにより農村部では10万人あたり246年、都市部では1,325年の失明年数を予防可能と推計された2)。
眼底写真によるAIスクリーニング
手法:カラー眼底写真(CFP)に深層学習(DL)を適用し、視神経乳頭の陥凹/乳頭比(CDR)や網膜神経線維層欠損を自動検出する3)
利点:検査者間変動を排除し客観的かつ均一な判定が可能。テレメディスンとの組み合わせで遠隔地スクリーニングに応用可能3)
課題:学習データの疾患重症度バイアス、民族的多様性の不足、GON検出の最低限界が未確立3)
OCT・視野検査のAI解析
OCT:RNFL厚や黄斑内層厚のデータをDLで解析し、緑内障性変化を自動判定する3)
視野検査:視野検査結果のパターン認識による異常検出が研究されている3)
展望:CFP・OCT・視野データの統合的AI解析により、単一モダリティを超える診断精度の達成が期待される3)
単一遺伝子検査
ポリジェニックリスクスコア(PRS)
概要:数百の遺伝子変異の累積効果を定量化し、個人の緑内障発症リスクを層別化する4)
応用:第一度近親者の80%はハイリスクでなく退院可能であり、残り20%に資源を集中できる4)
課題:大半のGWASが北欧系集団に基づいており、アフリカ系など他民族への適用性が未検証4)
ロッテルダム研究では、緑内障患者の第一度近親者の生涯発症リスクは22.0%であり、対照群の2.3%と比べ約10倍であった4)。このことは家族歴に基づくスクリーニングの科学的根拠を示している。
標準的な自動視野計が利用できない環境では、以下のツールが活用されている6)7)。
Mackeyらは、PRSの臨床的有用性を高めるためには、GWASにおける民族的多様性の確保が不可欠であると指摘している4)。LOXL1遺伝子の落屑緑内障との関連は、アジア系やアフリカ系集団で異なる結果を示しており、北欧系のデータのみに基づくPRSの普遍的適用には限界がある4)。
PRSの臨床実装に際しては、新生児期の遺伝子検査で判明したリスクをいつ家族に伝えるか、いつから臨床スクリーニングを開始するか、ヘルスリテラシーの問題をどう扱うかなど、倫理的課題が残されている4)。
Camaraらのレビューでは、眼底写真・OCT・視野検査を統合したマルチモーダルAI解析の可能性が示されている3)。しかし、学習データにおける疾患重症度バイアスやセッティングバイアスの問題、GON検出の最低限界の未確立など、臨床実装に向けた課題も多い3)。
ポリジェニックリスクスコア(PRS)の開発が進んでおり、複数の遺伝子変異の累積効果から個人の緑内障発症リスクを推定できるようになりつつある4)。しかし現時点では、大半の研究データが北欧系集団に基づいており、他民族への適用性が未検証である。また、遺伝的リスク情報の開示時期や対応方法など、倫理的課題の解決が必要である4)。臨床実装にはさらなる研究が求められる。