SNOMED-CT
正式名称:Systematized Nomenclature of Medicine — Clinical Terms
目的:医学的概念の包括的なコード化
特徴:各概念に固有コードを割り当て、関連概念と結びつけ、継続的に維持する
緑内障例:「緑内障(疾患)」= SCTID 23986001
利用:2005年の研究で眼科において最も広範なカバー率を示した
緑内障データ標準とは、緑内障の臨床診療および研究において、診断検査結果・所見・診断名・画像データなどを記述・通信するための共通規格である。電子健康記録(EHR:Electronic Health Records)の普及により臨床データへのアクセス性は向上したが、EHRと医用画像管理システム(PACS:Picture Archive and Communication System)間でのデータ共有は依然として大きな課題となっている。
データ標準化が求められる背景には以下の3つの要因がある。
臨床診療の効率化:多忙な緑内障クリニックでは、毎日多数の患者の視野検査やOCT結果を過去データと比較する必要がある。視野・OCTから平均偏差やパターン標準偏差などの指標を抽出し電子健康記録に統合することで、眼圧や視力の履歴と並べて表示が可能となる。
研究データの統合:大規模多施設研究では、数百〜数千の個別患者データを複数のEHRおよびPACSから抽出し共通形式に変換する必要がある。機械学習を利用した研究では、トレーニングデータのバイアスを回避するため、多様で地理的に広範な患者集団からのデータが求められる。
医療の無駄の削減:原発開放隅角緑内障のPPPでは、信頼性の低い検査結果について再検査を推奨している3)。視野・OCT測定値の標準化された伝達がなければ、紹介先で不必要な重複検査が生じる。
緑内障の経過観察には視野検査やOCTなど複数の画像検査の経時的比較が不可欠である。しかし現状では、EHRに保存された臨床データとPACSに保存された画像データが分離していることが多い。また異なるOCT機器間で測定値の互換性がないため1)2)、データ標準化なしには多施設研究や効率的な臨床ワークフローの実現が困難である。
DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)は、医用画像検査とその結果を通信するための国際標準である。すべてのEHRおよびPACSソフトウェアはDICOM準拠が求められる。生の画像データに加え、検査から算出された指標の保存や、構造化報告(Structured Reports)の作成機能を備えている。眼科分野については、1999年に眼科領域の標準化を目的としてDICOM Working Group 9(WG9)が設立され、以降、眼科用サプリメントの策定を担ってきた。
緑内障関連の主要なDICOMサプリメント(補足仕様)を以下に示す。
| サプリメント | 発行年 | 対象 |
|---|---|---|
| 110 | 2007 | 眼科トモグラフィ画像(OCT)の保存(視神経乳頭周囲RNFL・黄斑のOCT) |
| 146 | 2010 | 視野データの保存・表現 |
| 152 | 2011 | 眼科厚みマップ(RNFL・黄斑・角膜厚)の保存 |
サプリメント146は、固視不良・偽陽性率などの品質指標、中心窩感度、平均感度、平均偏差などを標準化する。2025年にはサプリメント247「Eyecare Measurement Templates(眼科計測テンプレート)」が発行され、構造化報告ドキュメントおよびDICOMカプセル化PDFのための構造化データフィールドが追加された。
なお、構造化された視神経OCT測定のためのDICOM標準は現時点で存在しない。黄斑グリッドの厚さと体積についてはサプリメント143(2008年)が存在する。
SNOMED-CT
正式名称:Systematized Nomenclature of Medicine — Clinical Terms
目的:医学的概念の包括的なコード化
特徴:各概念に固有コードを割り当て、関連概念と結びつけ、継続的に維持する
緑内障例:「緑内障(疾患)」= SCTID 23986001
利用:2005年の研究で眼科において最も広範なカバー率を示した
LOINC
正式名称:Logical Observation Identifiers Names and Codes
目的:臨床測定値の装置間伝達の標準化
特徴:各観察に6次元(コンポーネント・属性・時間・システム・尺度・メソッド)を提供
緑内障例:右眼眼圧 = LOINC 79892-6
対象:視力、眼圧、角膜厚、視野、RNFL厚の測定値
SNOMED-CTの眼科用語は、専門学会主導で継続的に整備されている。米国眼科学会(AAO)は2000年代初頭からSNOMED-CTへの眼科用語追加に取り組み、SNOMED-CTを公式用語集として採用している。2022年にはEye Care Clinical Reference Group(CRG)の下で眼科用語の更新作業が開始され、2023年には眼圧測定法の定義、最大眼圧・目標眼圧の概念、隅角鏡検査所見の用語が整備された。このようなガバナンス体制のもとで、より具体的な診断名(例:高眼圧症)や検査所見の標準化が進められている。
OMOP CDM(Observational Medical Outcomes Partnership Common Data Model)は、OHDSI(Observational Health Data Sciences and Informatics)プログラムが維持する共通データモデルである。観察データの構造と内容を標準化し、効率的な多施設研究分析を可能にする。米国の「All of Us」研究プログラムではEHRデータをOMOP CDMに変換している。
OHDSIのEye Care & Vision Researchワークグループが眼科領域のデータ標準開発を推進している。
FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)は、Health Level Seven(HL7)が策定した医療データ交換の最新標準である。現代的なウェブベースのAPIを活用し、システム間の臨床データ交換を促進する。米国ではEHR間のデータ交換標準として採用されている。FHIRで交換された情報は、CDS HooksやSMARTアプリケーションと組み合わせることで、臨床意思決定支援に活用できる。
眼科領域では、USCDI+Eye(United States Core Data for Interoperability の眼科拡張)において、視力(visual acuity)・眼圧(intraocular pressure)・屈折異常(refractive error)などの項目が推奨されている。USCDI+への収載は義務ではないが、EHRベンダーに対して当該データ項目の重要性を示すシグナルとなる。ただし眼科固有データの多くは他分野との関連が薄いため、DICOMに見られるような体系的アプローチの確立は途上にある。
ICD(国際疾病分類):WHOが維持する疾病コード体系であり、更新時に意見が募集される。現時点では緑内障関連の具体的な改訂に取り組む活動は乏しい。
CPT(Current Procedural Terminology):米国医師会が維持する診療報酬請求用コードである。閉鎖的な性質と国際的適用性の低さから、データ標準の観点での拡張は行われていない。
これらの標準は、単一の規格で全ての用途を賄うものではなく、それぞれの強みを活かした使い分けが重要である。院内検査データ(OCT・視野・眼底写真)の保存と交換にはDICOM、診断名・検査所見の用語表現にはSNOMED-CT、EHR間のデータ交換にはFHIR、検査測定値の表現にはLOINC、多施設データの整合化にはOMOP CDMが適する。特定の標準を不適切に使用したり、2つの異なる標準で同じ課題を重複して解決したりする事態を避けることが、効率的な標準化戦略の要点である。
DICOM対応の視野計であれば、MD・PSDなどの視野指標を構造化された形式で保存・通信できる。DICOM準拠のPACSを介してEHRにデータを統合し、眼圧・視力の経時変化と並べて表示可能となる。また、多施設間でのデータ比較や大規模研究へのデータ提供も容易になる。
視野検査は緑内障の進行評価における主要な診断検査である。DICOMの「眼科視野(OPV)ファイル形式」が視野結果の保存と通信のゴールドスタンダードとなっている。
主要な視野計として、Zeiss社のHumphrey Field Analyzer 3(HFA3)やHaag-Streit社のOctopus 900があり、それぞれ異なる検査戦略・パターン・指標を提供する。HFA3ではSITA Standard/Fast/Fasterなどの検査戦略、VFI・MD・PSD・GHTなどの指標が報告される。
OCTは緑内障診断における定量的画像評価として広く使用されている1)2)。視神経乳頭、乳頭周囲網膜神経線維層、黄斑内層の3つのパラメータ群が測定・解析される2)。
ただし、OCT測定値には重要な制約がある。
機器間の互換性なし:スペクトラルドメインOCTとスウェプトソースOCTでは技術的特性・ソフトウェア・参照データベースが異なり、異なるOCT機器で測定された値は互換性がない1)2)。このことがデータ標準化の重要な動機の一つとなっている。
進行期の限界:進行した緑内障ではフロア効果が生じ、それ以上の疾患進行が網膜神経線維層・黄斑パラメータの菲薄化として反映されなくなる1)。黄斑パラメータは網膜神経線維層厚に比べフロア効果の出現が遅い。
セグメンテーションエラー:高度近視や傾斜乳頭ではアーチファクトやソフトウェアのセグメンテーションエラーが生じやすい1)。臨床医は画像品質とセグメンテーション解析の妥当性を評価する必要がある。
単一の検査結果のみに基づく緑内障の診断は避けるべきである1)。
異なるOCT機器で測定された網膜神経線維層厚や黄斑内層厚の値は互換性がない1)2)。機器ごとに技術仕様・解析ソフトウェア・正常データベースが異なるためである。経過観察では同一機器を使用し続けることが推奨される。将来的にデータ標準の普及により、異なる機器間でのデータ比較が可能になることが期待されている。
2024年2月、米国の10の学術機関の緑内障研究者とインフォマティクス専門家がオンラインワークショップを開催し、視野・OCTデータの大規模抽出における現在の慣行と課題を共有した。
南カリフォルニア大学(USC)のXu博士は、PACSシステムが各視野検査のPDFを個別に保存しており、一括アクセスができない課題を報告した。Saifee博士が開発したPython OCRアルゴリズムによりPDFから視野指標を抽出する方法が紹介された。
スタンフォード大学のWang博士は、FORUM(Zeiss社のデータ管理システム)のAdvanced Data Export(ADE)ツールによるXMLまたはDICOM形式でのエクスポートが可能になったことを報告した。大規模多施設リポジトリであるSOURCE(Sight Outcomes Research Collaborative)との標準フォーマットの整合が進められている。
緑内障領域のデータ標準化は以下の方向で発展が期待される。