緑内障 は網膜神経節細胞 (RGC )とその軸索の進行性喪失を特徴とする視神経症 である。視神経乳頭 (ONH)・乳頭周囲RNFL ・黄斑部 の構造変化を客観的に記録・定量化する画像検査技術は、臨床検査と視野検査 を補完する重要なツールである2) 3) 。
構造変化は機能変化(視野障害)に先行する場合が多い3) 。OCT による構造変化の検出は視野障害の発生に約2年先行するとの報告がある1) 。画像検査技術には以下の3種類がある2) 。
共焦点走査型レーザー検眼鏡(CSLO):HRT
光干渉断層計 (OCT ):SD-OCT およびSS-OCT
走査型レーザー偏光計(SLP):GDx
これらのシステマティックレビューでは緑内障 眼と正常眼の鑑別能力は同等であった2) 。ただし異常結果(正常範囲外)は必ずしも疾患を意味しない2) 3) 。正常データベースの基準は機器間で異なり、緑内障 以外の理由でも正常範囲外となりうる。
Q
画像検査だけで緑内障を診断できますか?
A
できない。画像検査は臨床診断の補助ツールであり、単独での緑内障 診断は避けるべきである4) 5) 。OCT の「正常範囲外」は偽陽性の場合があり、臨床所見・視野検査 を含むすべての情報を統合して判断する必要がある。自動診断プログラムの感度・特異度は80%前後と報告されている。
ステレオカラー眼底写真 は視神経乳頭 外観の質的記録法として確立されている2) 3) 。赤色無透過照明はRNFL 欠損の評価に有用である。連続写真は視神経乳頭 の経時的変化の検出に使用できる5) 。
ただし進行した緑内障 性陥凹では評価すべき神経組織がほとんど残らないため、ステレオ写真による進行性変化の同定は困難となる2) 。ディスク形態が椀状で血管が乏しい場合は写真では地形が分かりにくく、細隙灯によるスケッチが追加記録として必要となる。
HRT(Heidelberg Retina Tomograph、Heidelberg Engineering社)はダイオードレーザー(670 nm)を走査して視神経乳頭 の三次元地形を測定する装置である1) 。乳頭表面のトポグラフィーを定量化し、経時的変化の検出にも使用される4) 。
Moorfields Regression Analysis(MRA)は乳頭面積に基づくリム面積の統計的判定を行う1) 。Glaucoma Probability Score(GP S)は参照平面やオペレーターによる乳頭縁の設定が不要であり、マシンラーニングに基づく自動分類である1) 。
HRTの限界として、眼底面における乳頭縁の定義が解剖学的参照点に基づかないことがある。この問題はOCT のBruch膜開口部(BMO)を参照点とするアプローチで解決された1) 。HRTの製造は2020年代に終了しており、臨床現場ではOCT が主流となっている1) 。
GDx(Carl Zeiss Meditec社)はRNFL の複屈折 特性を利用して位相リタデーションを測定する装置である1) 。RNFL の軸索内微小管が複屈折 の主因であり、RNFL 厚に相関する1) 。Enhanced Corneal Compensation(ECC)技術により角膜 の複屈折 を補正する。
しかし緑内障 の縦断的検出においてSD-OCT に劣ることが示され1) 、OCT の普及とともに使用は終了した。
OCT(光干渉断層計)
原理 :低コヒーレンス干渉法を用いて網膜 の断面構造を画像化する4) 5)
TD-OCT :初期のOCT 。1軸方向のAスキャンを重ねて断面像を得る方式で、検査時間が長く分解能が低い。現在はほとんど使用されない
SD-OCT :スペクトル分析により高速・高分解能を実現。26,000 Aスキャン/秒以上で乳頭・RNFL ・黄斑部 の高速解析が可能。Cirrus OCT ・Spectralis OCT など複数機種がある
SS-OCT :波長掃引光源を使用。深達度が高く篩状板 や脈絡膜 の解析にも応用される。DRI OCT Triton(トプコン社)などがある
OCTの主要解析パラメータ
RNFL 厚 :乳頭周囲3.46 mmサークルでの網膜神経線維層 厚を測定1) 。最も広く使用されるパラメータである
BMO-MRW :Bruch膜開口部から最短のリム幅を三次元的に測定1) 。解剖学的に正確な参照点を使用し、従来のリム面積測定より優れた診断能を示す
GCC/GC-IPL :黄斑部 の神経節細胞複合体(GCC)または神経節細胞−内網状層(GC-IPL)の厚みを測定6) 。進行期でもFloor効果の発生がRNFL より遅い5)
偏位マップ :各パラメータの正常データベースとの偏位を色分け表示する。定量値と偏位マップの両方を評価することが推奨される5)
画質と測定精度
画質の重要性 :高品質のベースライン画像が不可欠である4) 。セグメンテーション(層分離)のエラーやアーチファクトは特に強度近視 眼・傾斜乳頭で頻発する5)
機種間の互換性 :異なるOCT 機種間で測定値は互換性がない4) 5) 。経過観察には同一機種の使用が必須である
正常データベースの制限 :データベースの構成は機種により異なる。年齢・人種・屈折 の分布が患者に適合するか評価が必要である1)
特殊な状況での解釈
近視 眼 :RNFL 厚は近視 度に影響される1) 。近視 では乳頭周囲萎縮やBMO位置の変化がOCT 測定に影響する。眼軸長 による補正(Littmann式など)が望ましい
乳頭サイズ :大乳頭ではC/D比 が大きくても正常の場合がある。BMO-MRWは乳頭サイズの影響を受けにくく、大乳頭・小乳頭の両方で従来法より優れた診断能を示す1)
人種差 :正常データベースの多くは特定人種(主に白人)で構成されており、異なる人種では偽陽性・偽陰性が生じうる1)
パラメータ 測定部位 利点 限界 RNFL 厚乳頭周囲 広く検証済み Floor効果が早い BMO-MRW 乳頭リム 乳頭サイズの影響が少ない 機種が限定される GCC/GC-IPL 黄斑部 Floor効果が遅い 黄斑 疾患の影響を受ける
Q
OCTの機種間で測定値は互換性がありますか?
A
互換性はない。OCT 機種間では技術仕様・ソフトウェア・正常データベースの構成が異なるため、測定値の直接比較はできない4) 5) 。経過観察では同一機種・同一プロトコルでの測定が必須である。
Q
近視眼ではOCT結果をどう解釈しますか?
A
近視 眼ではRNFL 厚が影響を受けるため注意が必要である1) 。乳頭周囲萎縮・傾斜乳頭・BMO位置の偏位がセグメンテーションエラーやアーチファクトの原因となる。眼軸長 補正の適用と、Bスキャン画像でのセグメンテーション確認が推奨される。
OCT による構造変化の検出は視野障害の発生に先行しうる3) 。研究では、OCT が視野障害の検出に約2年のリードタイムを有することが示されている1) 。一方で構造進行を伴わない視野変化、視野進行を伴わない構造変化も存在し、両者の一致は部分的・中等度である4) 。
構造評価と機能評価はともに患者管理に不可欠であり、相互補完的に使用するべきである2) 3) 。
市販のOCT 機器の多くは進行解析ソフトウェアを搭載し、進行速度の定量化が可能である4) 5) 。ただし測定のばらつきや非緑内障 性の変化(加齢など)の影響があるため、慎重な解釈が必要である4) 。多くの市販ソフトウェアは加齢補正を行わないため、統計的に有意なスロープが必ずしも緑内障 性進行を意味しない4) 。
進行期緑内障 ではRNFL 厚が「底値(Floor)」に達し、さらなる進行が厚み変化に反映されなくなる5) 。黄斑部 パラメータ(GCC/GC-IPL)はRNFL 厚よりFloor効果の発生が遅いため、進行期の評価に有用である1) 5) 。OCT -Aの血管密度も進行期でのFloor効果がRNFL より遅い可能性が報告されている1) 。
Green disease :OCT の正常データベースとの比較で「正常範囲内(緑色)」と判定されるが、実際には緑内障 性変化を有する状態。正常データベースのカバー範囲外(大乳頭・強度近視 ・特定人種など)で生じやすい1) 。
Red disease :OCT で「正常範囲外(赤色)」と判定されるが、実際には緑内障 でない状態。生理的な個人差や正常データベースに含まれない特徴(小乳頭・特定の人種差など)が原因となる1) 。
これらの現象はOCT の統計的判定の限界を示しており、臨床所見・視野との統合判断が不可欠である4) 5) 。
Q
Green diseaseとRed diseaseとは何ですか?
A
OCT の正常データベースに基づくカラーコード判定の限界を示す概念である。Green diseaseはOCT が「正常(緑)」と判定するが実際には緑内障 がある状態、Red diseaseはOCT が「異常(赤)」と判定するが実際には正常である状態を指す1) 。いずれもOCT の結果を臨床所見・視野検査 と統合して解釈する必要性を示している。
OCT -Aは造影剤を使用せずに網膜 ・視神経乳頭 の微小血管を画像化する技術である1) 。緑内障 眼では乳頭周囲・黄斑部 の血管密度の低下が報告されている。再現性は良好であるが1) 、臨床的役割はまだ確立されていない4) 。
脈絡膜 微小血管脱落(MvD)は乳頭出血を伴う緑内障 における進行性RNFL 菲薄化と関連し1) 、正常眼圧緑内障 の発症予測因子となりうる1) 。ただし血管密度の変化は緑内障 に特異的ではなく、高血圧・糖尿病・アルツハイマー病・多発性硬化症 でも報告されている1) 。
PS-OCT はRNFL の複屈折 特性を三次元的に測定する技術である1) 。軸索内微小管の配列が複屈折 の主因であり、微小管の破壊や軽微な軸索喪失がRNFL 厚の減少に先行して複屈折 の低下として検出される可能性がある1) 。
SD-OCT とSS-OCT の両方に追加可能であり、従来OCT の反射率データと並行して偏光パラメータを三次元で取得できる1) 。早期緑内障 における診断能はRNFL 厚と同等であるが、超早期段階での優位性は現時点では動物実験でのみ示されている1) 。
可視光OCT (VL-OCT ) :従来の近赤外光に代わり可視光を使用する。RNFL 反射率の波長依存的変化をRNFL 厚変化に先行して検出できる可能性がある。ただし患者の不快感や白内障 による影響など臨床応用への課題がある1) 。
RNFL 光学テクスチャ解析(ROTA ) :RNFL 厚ではなくRNFL の微細構造パターンを解析する新手法である。特に乳頭黄斑 束の早期障害検出に優れた精度を示す。実臨床データは現時点では不足している1) 。
篩状板 イメージング :SS-OCT やEDI(深部強調画像)により篩状板 の形態(深度・湾曲・厚み・欠損)の評価が可能となった。篩状板 の後方湾曲は視野悪化速度と関連する1) 。篩状板 欠損は正常眼圧緑内障 で高頻度に認められる1) 。
補償光学 (AO ) :光学収差を補正して個々のRGC や篩状板 孔の形態を生体内で高分解能に観察できる技術である1) 。緑内障 の早期診断への応用が期待されている。
深層学習(CNN)は眼底写真やOCT 画像からの緑内障 検出において高い精度を示す1) 。複数のデータモダリティ(視野・OCT 体積スキャン・OCT -A)を統合した進行予測モデルの開発が進んでいる1) 。
AIはセグメンテーション精度の向上にも寄与し、測定の再現性向上が期待される。しかしデータプライバシー・標準化・アルゴリズム検証の課題が残る1) 。ブラックボックス性への対策として説明可能なAIモデルの開発が求められている。
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