Ⅰ型
特徴: 角膜中央部後面の角膜後部欠損と角膜混濁に加え、虹彩索状物(虹彩-角膜後面癒着)を認める。水晶体異常は伴わない。
予後: Ⅱ型に比べて比較的良好。
Peters異常(Peters anomaly)は、角膜内皮、Descemet膜、角膜実質の一部が先天的に欠損し、角膜中央部に円板状の混濁をきたす先天異常である。発生頻度は約1.5/100,000出生と報告されている3)。先天性角膜混濁(congenital corneal opacity: CCO)の最多原因であり、CCO全体の40.3〜65%を占める3)。
Peters異常は、角膜中央部のDescemet膜欠損・角膜後面欠損・角膜混濁菲薄化を主体とし、虹彩-角膜後面の癒着・水晶体異常・虹彩異常を合併する先天性疾患である。高率に緑内障を合併し、両眼性のことが多い。
本疾患は前眼部形成異常(anterior segment dysgenesis: ASD)の代表的な一型に位置づけられる。ASDは後部胎生環・Axenfeld-Rieger症候群・後部円錐角膜・Peters異常・強膜化角膜・前眼部ぶどう腫の総称であり1)、このうち角膜混濁を有する例では、Peters異常が全体の約3/4を占める最多の病型である1)。
胎生期のmesenchyme層(間充繊層)の異常に起因し、発生段階における虹彩と角膜の分離障害と考えられている。両眼性が約80%を占め、約60%の症例に小人症・中枢神経系異常・口蓋裂・口唇裂・心奇形・精神発達遅滞・内分泌異常・泌尿生殖器異常・脊椎異常などの全身合併症を認める(Peters plus症候群)。全身合併症が多いほど緑内障リスクも高まる。
2017年に難病法に基づく指定難病に指定されており、重症度に応じた医療費助成が受けられる。
Peters異常は眼内の病変範囲と水晶体の関与により2型に分類される2)。
Ⅰ型
特徴: 角膜中央部後面の角膜後部欠損と角膜混濁に加え、虹彩索状物(虹彩-角膜後面癒着)を認める。水晶体異常は伴わない。
予後: Ⅱ型に比べて比較的良好。
Ⅱ型
特徴: Ⅰ型の所見に加え、水晶体の前方移動や白内障を伴う。水晶体と角膜後面が接触または癒着する。
予後: Ⅰ型より不良。緑内障や角膜移植後の経過も不良になりやすい。
Peters異常に全身合併症を伴うものをPeters plus症候群と呼ぶ。合併症の例として口唇裂・口蓋裂、成長障害、発達遅滞、先天性心疾患、中枢神経系異常などがある。ASD全体では20〜30%に全身合併症がみられ1)、Peters異常単独の報告では約60%に何らかの全身合併症を認める。
難病認定のための重症度分類は以下の4段階で規定されている1)。
| 重症度 | 定義 |
|---|---|
| Ⅰ度 | 罹患眼が片眼で、僚眼が健常 |
| Ⅱ度 | 両眼罹患、良好眼の矯正視力0.3以上 |
| Ⅲ度 | 両眼罹患、良好眼の矯正視力0.1以上0.3未満 |
| Ⅳ度 | 両眼罹患、良好眼の矯正視力0.1未満 |
Ⅰ〜Ⅲ度であっても、続発緑内障による視野狭窄(Goldmann I/4視標で中心残存視野20度以内)を伴う場合は1段階上に移行する1)。重症度Ⅲ度以上が医療費助成の対象となる1)。
ASD全体の頻度は出生12,000〜15,000人に1人、年間発症者数は70〜90例程度と推定されている1)。Peters異常はASD角膜混濁例の約3/4を占める最多の病型である。
Khasnavisらは重症度に基づく5段階のステージ分類を示している3)。Stage 1(中央3 mm未満の混濁)からStage 5(角膜全体の混濁+虹彩癒着)まで段階的に重症度が増す。重症例では角膜全体が前方へ突出する前部ぶどう腫を呈する。
Peters異常では6割以上が矯正視力0.1未満、4割以上が0.01未満と重度の視覚障害をきたす1)。形態覚遮断弱視を伴いやすく、乳幼児期からの適切な介入が予後に影響する。
約60%の症例に全身合併症を認める。主な合併症を以下に示す。
全身合併症が多いほど緑内障リスクが高まるとされており、小児科・心臓外科・形成外科などとの多科連携が必要である。
Peters異常に全身合併症(口唇裂・口蓋裂、成長障害、発達遅滞、先天性心疾患など)を伴うものをPeters plus症候群と呼ぶ。約60%の症例に全身合併症がみられ、全身合併症が多いほど緑内障リスクも高い。小児科・循環器科・形成外科等との多科連携が必要である。
前眼部形成異常の診断基準(2020年)に基づき、以下の基準で確定する1)。
A. 症状(いずれか1つ以上)
B. 検査所見
診断カテゴリー1):
以下の疾患との鑑別が必要である1)。
乳幼児では角膜径の拡大(新生児で11mm超、1歳未満で12mm超、全年齢で13mm超)が緑内障の重要なサインである2)。また小児の視神経乳頭陥凹比(CD比)は0.3を超えれば緑内障を疑う。成人の基準(0.7超)とは異なる点に注意が必要であり、2回以上の眼圧測定で21mmHg超の場合も緑内障の可能性を考慮する2)。
Peters異常に対する根本的治療法は存在しない。各合併症への個別対応と残存視機能の活用を組み合わせた包括的管理が基本となる。
ガイドラインでは、角膜混濁に対する手術治療(角膜移植術)は「実施しないことを提案する」(弱い推奨、エビデンスC)とされている2)。
角膜混濁は眼圧が正常であれば成長に伴い一部改善することが多く、幼児期の角膜移植は通常行わない方針が標準的である。全層角膜移植(PKP)の成績に関する主要データを以下に示す2)。
混濁部のDescemet膜と角膜内皮を選択的に除去し、周囲の健常内皮細胞による再被覆を期待する低侵襲手技である3)。34眼中85%で角膜透明化が得られたと報告されており、ドナー角膜が不要で拒絶反応のリスクがない利点がある。周辺部に十分な健常内皮が残存している症例が対象となる。
緑内障は点眼薬による薬物治療に抵抗する例が多く、手術療法を要することが多い。
概してPeters異常に伴う緑内障は手術への反応が不良であり、長期管理が必要となる。
ガイドラインでは、乳幼児では角膜径の測定と非啼泣時の眼圧検査、学童期以降では眼圧検査と視野検査を「実施することを提案する」(弱い推奨、エビデンスC)とされている2)。
角膜混濁による形態覚遮断弱視の予防と治療が重要である。乳幼児期から早期に介入することで、残存視機能の発達を最大限に促すことができる。
Peters異常は神経堤細胞の遊走異常に由来する先天性疾患である1)。前眼部の角膜・虹彩・隅角の発生に関与する間葉系組織は中胚葉由来ではなく神経堤由来であることが明らかになっており2)、その発生過程の障害によって前眼部形成異常が生じる。
胎生期のmesenchyme層(間充繊層)の異常が中心的な病態であり、虹彩と角膜の分離障害の結果として、虹彩-角膜後面の癒着が生じると考えられている。
関与が報告されている遺伝子1):
遺伝形式は孤発例が最多であるが、常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝を示す家系も存在する1)。
遺伝子診断技術の普及により、Peters異常に関与するPAX6・PITX2・CYP1B1・FOXC1等の遺伝子変異の同定が進んでいる。今後の遺伝カウンセリングや家族内発症例の早期発見に貢献することが期待される。
乳幼児期の角膜移植については、手術手技・術後管理の改善により成功率向上の報告が蓄積されつつある。Peters plus症候群における多科連携診療プロトコルの標準化も課題であり、全身合併症の系統的評価と管理の指針整備が求められている。
大規模症例登録(レジストリ)による実態把握が今後のガイドライン改訂に重要な役割を果たすと考えられている。