この疾患の要点
慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)はミトコンドリア機能異常を背景とする遺伝性ミオパチーの一型である。
両側性・対称性・緩徐進行性の眼瞼下垂 と全方向性の眼球運動障害 を主徴とし、瞳孔 は温存される。
症例の60〜80%にミトコンドリアDNA(mtDNA)の欠失が認められる。
孤立性CPEOと全身症状を伴うCPEO-plus(Kearns-Sayre症候群など)に大別される。
根本的治療は確立されていないが、コエンザイムQ10やビタミン補充が試みられる。
眼瞼下垂に対しては挙筋前転術や前頭筋吊り上げ術が行われるが、過矯正による角膜 露出に注意を要する。
確定診断には筋生検や遺伝子検査が有用であり、鑑別として重症筋無力症 ・甲状腺眼症 の除外が重要である。
慢性進行性外眼筋麻痺(chronic progressive external ophthalmoplegia: CPEO)はミトコンドリア機能異常を背景とする一連の全身疾患(ミトコンドリア脳筋症)の一型である。外眼筋 (extraocular muscles)を選択的に障害し、緩徐進行性の両側性眼瞼下垂と眼球運動制限を来す。
ミトコンドリア病 のなかで最も頻度の高い表現型とされる。英国のコホートデータベースによる有病率は約1/30,000、罹患率は1〜2/100,000と報告されている1) 。
CPEOの歴史は1868年のvon Graefeによる最初の記載に始まる。1958年にKearnsとSayreがCPEO・網膜色素変性 ・心伝導障害の三徴候を記述した。1972年に筋生検でragged red fiber(ボロボロの赤色線維)が発見され、1988〜1989年にmtDNA欠失が検出された。2000年には多発mtDNA欠失を伴う初の核DNA(nDNA)変異が同定された1) 。
臨床的にはCPEOは以下の2型に大別される。
孤立性CPEO :眼症状のみで全身徴候を欠くもの。30〜40代の発症が典型的である。
CPEO-plus :感音難聴 、嚥下障害、心伝導障害、小脳失調、近位筋筋力低下など全身症状を伴うもの。Kearns-Sayre症候群(KSS)が代表的である。
思春期前後に発症する例もあり、全身的な臨床徴候に乏しく眼科を初診することが多い。
Q CPEOとCPEO-plusの違いは何ですか?
A 孤立性CPEOは眼瞼下垂と眼球運動障害のみで全身症状を伴わない。CPEO-plusは感音難聴・嚥下障害・心伝導障害・小脳失調などの全身症状を合併する。Kearns-Sayre症候群は20歳以前に発症し、網膜色素変性と心伝導障害を伴うCPEO-plusの代表的疾患である。
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Alvaro Ortiz, Juan Arias, Pedro Cárdenas et al. Macular findings in Spectral Domain Optical Coherence Tomography and OCT Angiography in a patient with Kearns–Sayre syndrome. International Journal of Retina and Vitreous. 2017 Jul 10; 3:24. Figure 1. PMCID: PMC5502322. License: CC BY.
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CPEOの症状発現はきわめて緩徐である。初発症状は眼瞼下垂であることが多い。
眼瞼下垂 :「なんとなく瞼が上がりにくい」という訴えで受診する。片眼性から両眼性へ徐々に進行する。第三者に指摘されるまで気づかないことも少なくない。
眼球運動障害 :眼瞼下垂より数年遅れて出現する。全方向への運動制限が徐々に進行する。
複視 の欠如 :両眼が対称的に侵されるため、顕著な眼球運動障害があっても複視を自覚しないことが多い。
代償性頭位 :眼球運動の不足を頭位の変換で補う。
運動不耐性 :全身の筋力低下を伴う例では易疲労性を訴える。
痛みを伴わないのがCPEOの特徴である。眼痛・眼球突出 ・瞳孔異常がある場合は他の病因を示唆する。
眼瞼下垂 :両側性・対称性で、挙筋機能は8〜10mm未満に低下する1) 。進行例では高度の下垂となる。
眼球運動制限 :全方向性。第1眼位で外斜視 を認めることがある。
瞳孔温存 :CPEOでは瞳孔異常を伴わない。瞳孔散大がある場合は動眼神経麻痺 など別の病因を考える。
閉瞼不全 :眼瞼下垂と同時に眼輪筋 の筋力低下による閉瞼不全を認め、兎眼 性角膜炎を伴う。
網膜 所見 :蛍光眼底造影 で網膜色素上皮 レベルの顆粒状過蛍光を認める場合がある。salt and pepper retinopathy(砂目状・胡椒振り状の網膜変性)を伴えばKearns-Sayre症候群を示唆する。
眼窩 MRI :外眼筋の萎縮が認められる。
Q なぜCPEOでは複視を自覚しにくいのですか?
A CPEOは両眼が対称的かつ緩徐に障害されるため、左右の眼球運動差が少なく複視が生じにくい。また進行がきわめて遅いため中枢性の適応が起こる。患者の約1/3にのみ恒常的または間欠的な複視がみられる。
CPEOの原因は大きくミトコンドリアDNA(mtDNA)変異と核DNA(nDNA)変異に分けられる。
mtDNA変異
単一大欠失 :症例の60〜80%を占める最も一般的な原因。大半は1.3〜1.9kbの範囲の欠失である。孤発例はデノボ変異を示唆する。
点変異 :tRNA遺伝子がホットスポット。少なくとも35種類の点変異が孤立性CPEOとして発現しうる。MT-TN遺伝子(tRNAAsn)は孤発性PEOのホットスポットであり、11変異中7つがPEO表現型を呈する2) 。
遺伝形式 :母系遺伝。ヘテロプラスミー(正常mtDNAと変異mtDNAの混在)が特徴的で、変異割合が80%を超えると細胞レベルで機能障害が顕在化する2) 3) 。
nDNA変異
mtDNA維持関連遺伝子 :POLG(DNAポリメラーゼγ)、TWNK (Twinkle)、SLC25A4(ANT1)、POLG2、RRM2B、RNASEH1、MGME1、DNA2、TK2、DGUOKなどの変異が報告されている1) 5) 。
多発mtDNA欠失 :nDNA変異はmtDNA複製・修復の障害を介して多発mtDNA欠失を引き起こす。
遺伝形式 :常染色体優性または常染色体劣性遺伝 。家族歴の聴取が重要である。
外眼筋が選択的に障害される理由として、骨格筋と比較してミトコンドリア含有量が高く代謝需要が大きいため、酸化的リン酸化障害に対する脆弱性が高いことが挙げられる。
Q CPEOは遺伝しますか?
A 遺伝形式は原因遺伝子により異なる。mtDNA変異の孤発例はデノボ変異であり遺伝リスクは低い。nDNA変異例は常染色体優性または劣性遺伝を示し、家族内発症がみられる。mtDNA変異でも母系遺伝で伝播する場合がある。遺伝カウンセリングが推奨される。
CPEOは臨床診断が基本であるが、確定診断や鑑別のために各種検査が有用である。専門クリニックでは特定の疾患に注意が集中し、眼瞼下垂や眼球運動障害が見逃される場合がある6) 。
血液検査 :血清乳酸値・クレアチンキナーゼ(CK)・髄液乳酸値の上昇がみられることがあるが、感度・特異度ともに高くない。血中ピルビン酸の上昇や乳酸/ピルビン酸比の上昇も参考になる。
抗体検査 :抗アセチルコリン受容体抗体・甲状腺自己抗体の陰性確認は重症筋無力症・甲状腺眼症の除外に有用である。
バイオマーカー :線維芽細胞増殖因子21(FGF-21)および増殖分化因子15(GDF-15)が非侵襲的なスクリーニングとして注目されている1) 。
確定診断の要となる検査である。
Gomori trichrome染色 :ragged red fiber(ボロボロの赤色線維)を認める。筋線維やその周囲に集積したミトコンドリアが濃染される。
COX/SDH二重染色 :チトクロームc酸化酵素(COX)陰性線維がモザイク状に出現する。
電子顕微鏡 :巨大で形態異常を示すミトコンドリアが筋線維間に認められる。
外眼筋の筋電図検査では、眼球運動ができない状態でも正常筋よりやや弱い振幅ながら十分な放電を示す干渉波形がみられる。神経原性疾患との鑑別に有用である。
mtDNA欠失 :骨格筋生検試料を用いたサザンプロット法が確実である。long PCR法を利用すれば末梢血でも検出できる場合がある。
mtDNA点変異 :次世代シーケンシング(NGS)による全mtDNA解析が有効。血液では検出できず筋組織でのみ検出される場合がある2) 3) 。
nDNA変異 :POLG、TWNK、SLC25A4など関連遺伝子のエクソーム解析が行われる5) 。
眼窩MRI :外眼筋の萎縮を描出する。
脳MRI :白質高信号、皮質萎縮、小脳萎縮、脳幹高信号などが認められることがある。KSSの一例では片側性小脳萎縮が経時的に進行した報告がある7) 。
MRスペクトロスコピー(MRS) :筋肉内の乳酸蓄積を非侵襲的に検出でき、疾患モニタリングに有用な可能性がある4) 。
CPEOと鑑別を要する主な疾患を以下に示す。
疾患 鑑別のポイント 重症筋無力症 日内変動・易疲労性あり。抗AChR抗体陽性 甲状腺眼症 外眼筋肥大。眼球突出を伴う 筋強直性ジストロフィ 遠位筋優位の筋萎縮。叩打性筋強直
重症筋無力症は眼瞼下垂と眼球運動障害を来すため最も重要な鑑別疾患である。重症筋無力症では日内変動・易疲労性が特徴的で、テンシロン試験やアイスパック試験で改善がみられる。CPEOの眼瞼下垂は非変動性であり、これらの試験で改善しない。
CPEOの根本的治療は確立されていない。対症療法による生活の質(QOL)の維持が治療の中心である。
ミトコンドリア機能異常を補完する目的で以下の薬剤投与が試みられる。
コエンザイムQ10(ユビデカレノン/ノイキノン®) :酸化的リン酸化の電子伝達を補助する。改善がみられる場合がある。
ビタミンB群 :補酵素として代謝を支援する。
ビタミンC :抗酸化作用を期待して併用される。
L-カルニチン :脂肪酸代謝を補助する。
挙筋前転術
適応 :挙筋機能が中等度以上に保たれている場合。
方法 :上眼瞼挙筋の前転術または切除術を行う。経皮的アプローチで腱膜を前転固定し、必要に応じてMuller筋のタッキングを追加する。
注意 :CPEOでは進行性に挙筋機能が悪化するため、長期的には効果が減弱する可能性がある。
前頭筋吊り上げ術
適応 :挙筋機能が不良な場合(4mm未満)。CPEOでは多くの場合こちらが選択される。
方法 :自家筋膜(大腿筋膜・側頭筋膜)、ゴアテックス®シート、ナイロン糸、シリコンロッドなどを用いて上眼瞼を前頭筋に連結する。
注意 :過矯正は兎眼・角膜露出を招き、露出性角膜症 や角膜潰瘍 を引き起こすリスクがある。
熟練した眼形成外科医による慎重な術前評価が不可欠である。Bell現象がない場合は低矯正に留める。
プリズムレンズ :小角度の眼位ずれに対して複視の軽減に有効である。
斜視 手術 :第1眼位での矯正を目的に眼球運動障害筋の短縮術を行う。角度が大きければ拮抗筋の後転術も併施する。進行性疾患のため再発の可能性がある。
心機能評価 :KSSでは心伝導障害(房室ブロック)のリスクがあり、定期的な心電図検査とペースメーカー装着の判断が必要である。
内分泌異常 :糖尿病・成長ホルモン分泌不全・低身長などの管理が求められる。
聴覚評価 :感音難聴に対する定期的な聴力検査が推奨される。
Q 眼瞼下垂の手術後に再発することはありますか?
A CPEOは進行性疾患であるため、手術後も挙筋機能が徐々に悪化し眼瞼下垂が再発することがある。特に小児例では成長に伴い再手術が必要になることが多い。前頭筋吊り上げ術に使用する材料は長期的に牽引力が減弱する場合もある。定期的な経過観察が重要である。
CPEOの本態はmtDNA変異またはnDNA変異による酸化的リン酸化の障害である。
ミトコンドリアは独自のDNA(mtDNA)を有し、酸化的リン酸化に必要な13種類の蛋白質をコードしている。mtDNAの欠失や点変異により電子伝達系酵素群の活性が低下し、ATP産生が不足する。外眼筋は骨格筋と比較してミトコンドリア含有量が高く、抗疲労性を維持するために代謝需要も大きい。この特性がCPEOにおいて外眼筋が選択的に障害される理由の一つと考えられている。
ヘテロプラスミーはCPEOの重要な病態概念である。正常mtDNAと変異mtDNAが1つの細胞内に混在する現象であり、変異mtDNAの割合が閾値(通常80%以上)を超えると、そのミトコンドリアは機能不全に陥る。
Visuttijaiら(2021)はMT-TN遺伝子の2つの新規点変異(m.5669G>AおよびM.5702delA)を報告した。単一筋線維解析により、COX陰性線維における変異割合はそれぞれ平均93%であり、COX正常線維(32%および57%)と有意差を認めた(P < 0.0001)。COX機能障害の閾値は両例とも80%以上であった2) 。
Katayama Uedaら(2025)は日本人男性CPEO症例においてtRNAGlu遺伝子の新規変異(m.14677T>C)を同定した。ragged red fiberにおける変異割合の中央値は88.1%であり、非ragged red fiber(中央値17.1%)と比較して有意に高値であった(P = 0.03)3) 。
nDNA変異に関しては、POLG遺伝子がCPEOの最も一般的な核遺伝子原因の一つである。POLGはmtDNA複製に必要なDNAポリメラーゼγをコードしており、その変異はmtDNA複製障害を介して多発mtDNA欠失を引き起こす。
Liuら(2023)はPOLG遺伝子に既知変異c.2857C>T(p.R953C)と新規変異c.2391G>C(p.M797I)を有する38歳女性を報告した。四肢の脱力・しびれに加えて眼瞼下垂が出現し、筋生検でragged red fiberが確認された5) 。
小児期発症のミトコンドリア脳筋症において、5-アミノレブリン酸(5-ALA)と鉄剤の併用療法がATP産生を高めることが示唆され、臨床治験が開始されている。ただしCPEOにおける効果は未知数である。
KH176はミトコンドリア標的のレドックス調節剤であり、反応性酸素種を介した細胞障害を軽減する。
CPEO患者を対象としたKH176(100mg、1日2回)の安全性と有効性を評価するPhase II臨床治験が開始されている(NCT04604548)5) 。
正常遺伝子を安全なベクターを用いて導入する試みがなされている。また、ヘテロプラスミーの特性を利用し、変異mtDNAをオリゴRNAで抑制する手法も報告されている。
ミトコンドリアゲノム操作技術として、制限酵素、TALEN、ZFN、CRISPRによる変異mtDNAの選択的除去が研究されている1) 。生殖系列での置換療法(前核移植・卵子紡錘体移植)も動物モデルや臨床試験の段階にある。
Fanら(2021)はCPEO-plus症候群患者の筋肉MRスペクトロスコピーにおいて1〜2ppmの二重ピーク(乳酸蓄積を示唆)を検出した。浮腫のある筋肉でより顕著であり、疾患モニタリングのバイオマーカーとしての可能性が示された4) 。
Ali A, Esmaeil A, Behbehani R. Mitochondrial Chronic Progressive External Ophthalmoplegia. Brain Sci. 2024;14(2):135.
Visuttijai K, Hedberg-Oldfors C, Lindgren U, et al. Progressive external ophthalmoplegia associated with novel MT-TN mutations. Acta Neurol Scand. 2021;143(1):103-108.
Katayama Ueda N, Mimaki M, Ito S, et al. A novel m.14677 T > C variant in mitochondrial tRNAGlu gene causes chronic progressive external ophthalmoplegia. J Hum Genet. 2025;70:537-540.
Fan SP, Hsueh HW, Huang HC, et al. Lactate peak in muscle disclosed by magnetic resonance spectroscopy in a patient with CPEO-plus syndrome. eNeurologicalSci. 2021;24:100360.
Liu H, Gao M, Sun Q, et al. A case of mitochondrial myopathy and chronic progressive external ophthalmoplegia. J Cent South Univ (Med Sci). 2023;48(11):1760-1768.
Karagiannis D, Kontomichos L, Tzimis V, et al. Progressive External Ophthalmoplegia Diagnosed in the Glaucoma Clinic: The Importance of a Complete Clinical Examination. Clin Optom. 2021;13:335-339.
Zhao H, Shi M, Yang F, Yang X. Kearns-Sayre syndrome with rare imaging finding of SLC25A4 Mutation. Neurosciences. 2022;27(2):111-115.
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