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神経眼科

MELASにおける眼科的徴候

MELAS(Mitochondrial Encephalopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like episodes)は、1984年に初めて報告されたミトコンドリア疾患である。3つの典型的特徴として、(1) けいれん・認知症を伴う脳症、(2) 乳酸アシドーシスおよび筋生検でのragged red fibers、(3) 40歳未満での脳卒中様発作(stroke-like episodes; SLE)が挙げられる。

ミトコンドリア異常症の中でMELASは最も頻度が高い疾患のひとつである。世界的な有病率は10万人あたり11.5人とされ、日本では10万人あたり0.2人と報告されている。遺伝形式はほぼ母系遺伝をとる。

患者の50%以上に眼科的徴候を認め、眼科の受診動機となることも少なくない。

Q MELASはどのくらいの頻度で見られる疾患か?
A

世界的な有病率は10万人あたり11.5人とされる。日本では10万人あたり0.2人と報告されており、比較的まれな疾患である。最も一般的な原因変異であるm.3243A>Gの有病率はフィンランドで10万人あたり16〜18人、オーストラリアで10万人あたり236人と地域差がある。

  • 視力低下:緩徐進行性のものと、脳卒中様発作に伴う急性発症のものがある。
  • 視野障害SLEに伴う視交叉後視路障害として同名半盲皮質盲をきたす。
  • 眼瞼下垂:片眼から始まり両眼に徐々に進行する。
  • 複視眼球運動障害:進行性外眼筋麻痺(PEO)による。全方向への眼球運動障害が緩徐に進行する。

MELASの眼科所見は多彩であり、前眼部から後眼部・神経眼科領域まで広範に及ぶ。

眼底・網膜所見

色素性網膜:患者の15〜20%に報告される。脈絡網膜萎縮、RPE斑状変化を含む。m.3243A>G保因者の86%に何らかの網膜ジストロフィを認めるとの報告もある。4)

視神経萎縮:約20%に報告される。

黄斑変性・黄斑ジストロフィ中心窩温存型の網膜ジストロフィを含む。

卵黄様黄斑:まれだが小児例での報告がある。1)

神経眼科所見

進行性外眼筋麻痺(PEO):10〜15%に報告される。全方向への眼球運動障害が緩徐に進行する。

眼瞼下垂:片眼から両眼へ徐々に進行する。

同名半盲皮質盲:脳卒中様発作の後遺症として生じる。

眼振:報告あり。

その他の所見

白内障:合併することがある。

屈折異常:報告あり。

血管新生緑内障NVG:極めてまれ。m.3243A>G変異例での報告がある。4)

角膜内皮細胞異常:m.3243A>G変異保因者でpolymegethismと軽度guttaeが報告されており、バイオマーカーとなる可能性がある。

Q MELASで視力が低下する原因にはどのようなものがあるか?
A

複数の機序が関与する。脳卒中様発作による皮質盲同名半盲、色素性網膜症や黄斑ジストロフィによる網膜障害、視神経萎縮白内障などがある。視力低下が急性発症か緩徐進行性かによって原因が異なる。

MELASの原因はミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異であり、母系遺伝の形式をとる。

  • m.3243A>G変異:MT-TL1遺伝子の点変異。全症例の約80%を占め、最も一般的な原因変異である。
  • その他の変異:m.3271T>C、m.3252A>G(いずれもMT-TL1遺伝子)、MT-ND遺伝子群(MT-ND1、MT-ND3、MT-ND5)、MT-ATP6、MT-ATP8なども報告されている。2)
  • m.13513G>A(MT-ND5):MELAS、Leigh症候群、LHON、MELAS/Leigh overlap症候群を引き起こしうる変異である。7)

ヘテロプラスミーと閾値効果:変異mtDNAの組織分布と各組織での閾値が表現型を決定する。変異を持つすべてのキャリアが発症するわけではない。

Q m.3243A>G変異を持っていれば必ずMELASを発症するのか?
A

必ずしも発症するわけではない。ヘテロプラスミー(変異mtDNAの割合)と各組織での閾値が表現型を決定するため、変異を持つすべてのキャリアが発症するわけではない。より軽症の表現型(MIDD: ミトコンドリア糖尿病・難聴症候群など)として発現することもある。

MELASの診断基準として主に2つが用いられる。

1992年の平野(Hirano)診断基準:(1) 脳症(認知症 and/or けいれん)、(2) 若年での脳卒中様発作、(3) ミトコンドリア機能不全の証拠(乳酸アシドーシス or ragged red fibers)の3項目を要件とする。

2012年日本のMELAS診断基準(Yatsuga et al.):カテゴリA(頭痛+嘔吐、けいれん、片麻痺、皮質盲、急性皮質病変)2項目以上、カテゴリB(血漿/髄液乳酸上昇、筋生検異常、MELAS関連遺伝子変異)2項目以上を要件とする。2)7)

  • 遺伝子検査:確定診断。m.3243A>Gが最も一般的(症例の約80%)。頬粘膜スワブまたは筋組織で検査する。血液リンパ球ではヘテロプラスミー率が年齢とともに低下する可能性がある。
  • 筋生検:Gomori trichrome染色でragged red fibers(RRF)を確認する。COX活性が正常なRRFはMELASに特徴的である。
  • 血液検査:血中乳酸値・ピルビン酸値上昇、乳酸/ピルビン酸比上昇、CK上昇。
  • 頭部MRI:脳卒中様病変(血管領域に一致しない皮質病変)。DWI高信号。Classic型では後頭葉・側頭葉優位、Atypical型では前方散在型を示す。2)
  • MRスペクトロスコピー:基底核などに乳酸ピークを認める。8)
  • 眼底検査RPE mottling、脈絡膜血管透見、色素沈着変化。
  • 眼底自家蛍光(FAF:過蛍光・低蛍光パターン。
  • 光干渉断層計OCT:外層網膜萎縮、EZ/IZ/RPE層変化。卵黄様病変ではドーム状の網膜下高反射病変を認める。1)
  • 全視野網膜電図(ffERG:全般的網膜機能評価。MELAS患者の母親例で暗所混合応答振幅の軽度減弱や30Hzフリッカーのtiming遅延が報告されている。1)
  • EOG:卵黄様黄斑症の鑑別においてBest病との区別に有用(EOGは正常を示す)。1)
  • マイクロペリメトリ黄斑感度低下の定量評価。1)

遺伝性網膜ジストロフィとの鑑別において、ミトコンドリアゲノム検査を含む遺伝子パネルを用いることが重要である。初回のIRDパネルにミトコンドリア遺伝子が含まれていないことがある点に注意を要する。4)

対症療法が基本であり、根本的治療は確立されていない。

ミトコンドリアカクテル療法として以下の薬剤が用いられる。

  • コエンザイムQ10:ミトコンドリア電子伝達系の補酵素として使用される。
  • L-カルニチン:500mg 1日2回の投与報告がある。3)
  • L-アルギニン:2g 1日2回の投与報告がある。3) NO前駆物質として血管拡張を促進する。SLEの予防・急性期治療の両方に使用される。
  • ビタミンB群:リボフラビン、チアミン、ピリドキシン。5)

脳卒中様発作の急性期治療として静注L-アルギニンが推奨される。発症5時間以内の開始が望ましく、急性期2日間の静注後に経口へ切り替える。5) 初回SLE後は再発予防のため経口アルギニンを継続投与する。

抗てんかん薬によるけいれん管理も重要である。レベチラセタム、オクスカルバゼピン、ラモトリギン等が用いられる。バルプロ酸はミトコンドリア毒性があるため禁忌である。5)7)

難聴管理には人工内耳が適応となることがある。

糖尿病管理においてはメトホルミンが乳酸アシドーシスのリスクから禁忌となる。インクレチン製剤(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬)が最適な選択肢との報告がある。3)

年次眼科経過観察が推奨される。治療は眼科的訴えに特化した対症療法が中心となる。

  • 眼瞼下垂:眼瞼クラッチ、眼瞼形成術(blepharoplasty)、前頭筋吊り上げ術(frontalis sling)。
  • 斜視:第1眼位での矯正を目的に眼球運動障害筋の短縮術を施行する。角度が大きければ拮抗筋の後転術も行う。
  • 血管新生緑内障NVG)が発症した場合抗VEGF硝子体注射(aflibercept等)、汎網膜光凝固PRP)、緑内障チューブシャント手術。4)

妊娠は高エネルギー需要状態であり、MELASが初発または増悪する可能性がある。6) 糖尿病・呼吸不全・心機能のモニタリングが必要である。遺伝カウンセリングが推奨されるが、出生前スクリーニングの感度は100%ではない。

分娩管理では遷延分娩の回避、早期硬膜外麻酔、第2期を60分以内に制限、乳酸モニタリングが推奨される。Newcastle Mitochondrial Disease Guidelinesに基づく集学的管理が基本となる。6)

Q MELASの眼瞼下垂にはどのような治療法があるか?
A

対症療法として眼瞼クラッチ(眼鏡フレームに装着するサポート具)、眼瞼形成術(blepharoplasty)、前頭筋吊り上げ術(frontalis sling)が用いられる。外眼筋が侵されているため、眼瞼挙筋機能が不十分な場合には前頭筋吊り上げ術が選択されることが多い。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

MELASの根本的病態は、ミトコンドリア電子伝達系の機能不全である。mtDNA変異がタンパク質翻訳を低下させ、酸化リン酸化障害によるATP産生不全をきたす。高エネルギー需要組織(脳、筋肉、網膜色素上皮角膜内皮外眼筋)が選択的に障害される。

脳卒中様発作の発症機序として、NO(一酸化窒素)の相対的不足が重要な役割を果たす。

  • 前駆物質の減少・血管内皮細胞でのNO産生低下
  • シクロオキシゲナーゼによる隔離・反応性窒素種への転換
  • → 血管拡張不全 → 虚血 → 脳卒中様発作

眼科的病態として、網膜色素上皮RPE)はミトコンドリア含有量が高く代謝活性が高い。RPE障害が色素性網膜症・黄斑ジストロフィの原因となる。1)

MIDDとの連続スペクトラム:m.3243A>G変異はMIDD(ミトコンドリア糖尿病・難聴症候群)とMELASの両方を引き起こしうる。MIDDはより軽症の表現型であり、MELASへの進展が仮説として提唱されている。4)

Ghoshら(2022)は33歳男性でm.13513G>A(MT-ND5)変異(ヘテロプラスミー率11%、リンパ球)によるMELASを報告した。7) m.13513G>A変異は呼吸鎖複合体IサブユニットをコードするMT-ND5遺伝子上に位置し、D393Nアミノ酸変化がキノン反応部位の喪失と酸化リン酸化活性低下を引き起こす。この変異は23歳から繰り返す脳卒中様発作を引き起こしており、低いヘテロプラスミー率でも高い病原性を示す。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Classic vs Atypical MELASの表現型分類

Section titled “Classic vs Atypical MELASの表現型分類”

Alvesら(2023)は35例の後方視的研究で、MELASを「Classic」と「Atypical」の2つの表現型パターンに分類した。2) Classic型は感音難聴(SNHL)、SLE発症時の視力低下、初回SLE 10歳超、大型皮質脳卒中様病変(≧30mm)を特徴とし、mt-tRNA変異群が多い。Atypical型は発達遅延、Leigh症候群重複、初回SLE 10歳以下、小型病変、前方・小脳分布を特徴とし、呼吸鎖サブユニット遺伝子群が多い。Atypical群は呼吸不全・延髄機能障害のリスクが有意に高く予後不良であった。均質なサブグループを用いた治験設計への応用が期待される。

MELAS小児例における卵黄様黄斑症

Section titled “MELAS小児例における卵黄様黄斑症”

Jahrigら(2023)は11歳女児のMELAS患者(m.3243A>G 72%ヘテロプラスミー)に両眼の卵黄様黄斑病変を報告した。1) 最高矯正視力 20/30・20/25で無症候性。OCTでは網膜下ドーム状高反射病変を認め、EOGは正常。大規模NGSパネルでBEST1、PRPH2、IMPG1、IMPG2等のIRD遺伝子に疾患原因変異は検出されなかった。無症候性のため見落とされる可能性があり、MELASにおける卵黄様黄斑症スクリーニングの重要性が示唆された。

Khannaら(2024)は48歳女性(m.3243A>G 39.7%、糖尿病・難聴合併)でのNVG発症を報告した。4) 両眼に虹彩新生血管黄斑萎縮、新生血管視神経乳頭(NVD)を認め、PRP・afliberceptを施行。右眼に緑内障チューブシャント留置が必要となった。ミトコンドリア遺伝子パネルを含む遺伝子検査の重要性が強調されている。

Senら(2021)はCOVID-19感染によるSLE悪化例を報告した。5) 感染症はカタボリックストレスとして乳酸アシドーシスを悪化させる。静注L-アルギニンと抗凝固薬の時期的分離管理(同時投与回避)の提案がなされた。

Finstererら(2022)はm.13513G>A変異によるMELAS/Leigh overlap症候群を報告した。8) 脳幹障害による呼吸不全・嚥下障害が主な死因であり、MELASとLeigh症候群のoverlapを示す例が蓄積されている。


  1. Jahrig C, Ku CA, Marra M, Pennesi ME, Yang P. Vitelliform maculopathy in MELAS syndrome. American journal of ophthalmology case reports. 2023;30:101842. doi:10.1016/j.ajoc.2023.101842. PMID:37096132; PMCID:PMC10121376.

  2. Alves CAPF, Zandifar A, Peterson JT, Tara SZ, Ganetzky R, Viaene AN, et al. MELAS: Phenotype Classification into Classic-versus-Atypical Presentations. AJNR. American journal of neuroradiology. 2023;44(5):602-610. doi:10.3174/ajnr.A7837. PMID:37024306; PMCID:PMC10171385.

  3. Baszynska-Wilk M, Moszczynska E, Szarras-Czapnik M, et al. Endocrine disorders in a patient with a suspicion of a mitochondrial disease, MELAS syndrome. Pediatr Endocrinol Diabetes Metab. 2021.

  4. Khanna S, Smith BT. Neovascular Glaucoma in MELAS syndrome. American journal of ophthalmology case reports. 2024;34:102064. doi:10.1016/j.ajoc.2024.102064. PMID:38707951; PMCID:PMC11067001.

  5. Sen K, Harrar D, Hahn A, Wells EM, Gropman AL. Management considerations for stroke-like episodes in MELAS with concurrent COVID-19 infection. J Neurol. 2021. doi:10.1007/s00415-021-10538-1.

  6. Balachandran Nair D, Bloomfield M, Parasuraman R, Howe DT. Mitochondrial encephalomyopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes (MELAS) syndrome in pregnancy. BMJ case reports. 2021;14(4). doi:10.1136/bcr-2020-235111. PMID:33827862; PMCID:PMC8030665.

  7. Ghosh R, Dubey S, Bhuin S, Lahiri D, Ray BK, Finsterer J. MELAS with multiple stroke-like episodes due to the variant m.13513G>A in MT-ND5. Clinical case reports. 2022;10(2):e05361. doi:10.1002/ccr3.5361. PMID:35140962; PMCID:PMC8811176.

  8. Josef Finsterer, John Hayman. Mitochondrial Encephalopathy, Lactic Acidosis and Stroke-Like Episodes/Leigh Overlap Syndrome Due to Variant m.13513G>A in MT-ND5. Cureus. 2022. doi:10.7759/cureus.24746.

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