この検査法の要点
マイクロペリメトリは眼底画像と視野検査 を統合し、網膜 の特定部位の光感度を正確に測定する検査法である。
眼底関連視野検査 (fundus-controlled perimetry: FCP)とも呼ばれ、アイトラッキング機能により固視不安定な患者でも正確な検査が可能である。
現在利用可能な主要機器はNidek MP-3、MAIA 3、Optos OCT -SLOの3種類である1) 。
加齢黄斑変性 (AMD )、糖尿病黄斑浮腫 (DME)、網膜 ジストロフィーなど幅広い黄斑 疾患の機能評価に使用される。
暗所マイクロペリメトリにより桿体・錐体機能を個別に評価でき、早期加齢黄斑変性 の検出に有用である2) 。
ロービジョン患者に対するバイオフィードバック訓練にも応用され、固視安定性やQOLの改善が報告されている。
欠損マッピングマイクロペリメトリは従来法より再現性が高く、臨床試験エンドポイントとしての期待が高まっている1) 。
マイクロペリメトリ(microperimetry)は、網膜 画像診断と視野検査 を統合した視機能検査法である。眼底関連視野検査 (fundus-controlled perimetry: FCP)、黄斑 視野検査 (macular perimetry)とも呼ばれる。
この検査法は、網膜 上の関心領域に光刺激を直接マッピングし、各部位の光感度(デシベル: dB単位)を測定する。アイトラッキングシステムにより眼球運動をリアルタイムで補正するため、従来の標準自動視野計(SAP )では困難であった固視不安定な患者でも正確な検査が可能である。
最初のマイクロペリメータ(SLO101)は1982年にRodenstock Instruments社(ドイツ)により製造された。走査型レーザー検眼鏡(SLO)技術を使用し、633nmのヘリウムネオンレーザーで33×21°の中心視野を半自動的に測定するものであったが、アイトラッキング機能は搭載されていなかった。
マイクロペリメトリは網膜 の構造と機能の相関(structure-function correlation)を解析する上で不可欠なツールとなっている1) 。眼底自発蛍光 (FAF )やOCT などの構造画像と組み合わせることで、網膜 疾患における機能障害の空間的分布を精密に評価できる。
Q
マイクロペリメトリと通常の視野検査はどう違うのか?
A
従来の標準自動視野計は安定した中心窩 固視を前提としており、固視不安定な患者では検査精度が低下する。マイクロペリメトリはアイトラッキングにより眼球運動をリアルタイムで補正し、刺激を網膜 上の同一部位に正確に投影するため、再検査の再現性が高い。また、眼底画像との重ね合わせにより構造と機能の直接的な相関解析が可能である。
マイクロペリメトリは黄斑 感度・固視・眼底対応視野を評価する独立した各論である。前提を対比できる標準自動視野検査 (SAP )、および中心暗点 を有する患者の支援につながるロービジョンケア は以下を参照。
従来の視野検査 と同様に、網膜 上の特定部位に光刺激を提示し、患者が認識できる最小光強度(閾値)を測定する。各測定点の感度はデシベル(dB)で表される。
検査中はアイトラッキングにより網膜 の動きを継続的に補正し、固視状態を同時に評価する。測定完了後、感度マップが眼底画像上に重ね合わせられ、関心領域の機能評価が可能となる。
重要な注意点として、異なる機器間での結果比較には慎重を要する。最大輝度が機器ごとに異なり、dBスケールはその値に対する相対値として定義されるためである1) 。
マイクロペリメトリで得られる固視データは以下の2つの方法で提示される。
固視点の割合法 :眼底写真中心の円内に含まれる固視点の割合を算出する。Fujiらの臨床分類に使用される。
BCEA法 (bivariate contour ellipse area):固視点群を記述する最適楕円の面積と方向を数学的に算出する方法であり、より正確で再現性の高い固視安定性の測定が可能である。
Díaz-Barreda MD, Bartolomé-Sesé I, Boned-Murillo A, Ferreras A, Orduna-Hospital E, Ascaso FJ, Pinilla I. Microperimetry-Assessed Functional Alterations and
OCT -Changes in Patients after Retinal Detachment Surgery Using Pars Plana Vitrectomy and SF6 Tamponade. Diagnostics (Basel). 2021;11(7):1157. Figure 1. PMCID: PMC8304304. License: CC BY 4.0 (
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ ).
左の A は、白黒の眼底像(走査型レーザー検眼鏡の画像)の上に検査結果を重ねたものである。左端の暗い円が視神経乳頭 、中央の色付きの点が網膜 感度の測定点で、この機器では中心 10 度の範囲に 37 点が同心円状に並ぶ。緑は感度が保たれている点、黄や橙は感度が下がっている点を表し、点の色分けで「網膜 のどこがどれくらい見えているか」が一目で分かる。最中心に集まった水色の細かい点は、検査中に目が向いていた位置(固視点)である。右の B は固視の安定性を示す「FIXATION PLOT」で、水色の点が固視点、紫の 2 本の楕円がその散らばりを表す。矢印 a の内側の小さい楕円は固視点の 63% を、矢印 b の外側の大きい楕円は 95% を含む範囲で、この楕円の面積が本文の BCEA である。図の下の焼き込み文字は各楕円の長径×短径・面積(°²)・傾き(angle)の数値で、楕円が小さいほど固視が安定していることを意味する。A と B は表示様式を示すための例で、同一の患者とは限らない。
固視部位と固視安定性の分類を以下に示す。
固視部位の分類 中心窩 2°円内の固視点割合中心固視優位 >50% 中心固視不良 25〜50% 偏心固視優位 <25%
固視安定性 基準 安定 2°円内に75%超 比較的不安定 2°円内75%未満、4°円内75%超 不安定 4°円内に75%未満
マイクロペリメトリには複数の種類が存在する1) 。
明所マイクロペリメトリ(mesopic) :標準的な背景輝度下で錐体機能を主に評価する。
暗所マイクロペリメトリ(scotopic) :暗順応後に桿体機能を評価する。20〜35分の暗順応が必要であり、暗順応プロトコールの標準化が重要とされる1) 。
暗順応二色法 :507nm(シアン)と627nm(赤)の2色刺激を用い、桿体・錐体機能を分離して測定する2) 。
フリッカーマイクロペリメトリ :静的マイクロペリメトリより加齢黄斑変性 早期の網膜 機能低下検出に優れるとされる1) 。
Q
暗所マイクロペリメトリはどのような場合に有用か?
A
暗所(scotopic)マイクロペリメトリは桿体機能を評価する検査であり、良好な視力 を保つ早期加齢黄斑変性 患者においても桿体感度の低下を検出できる2) 。明所(mesopic)マイクロペリメトリでは異常を示さない段階でも、暗所検査で感度低下が認められることがあり、加齢黄斑変性 の早期進行指標として注目されている。
現在、市販されている主要なマイクロペリメータは3機種である1) 。
Nidek MP-3
製造元 :Nidek Technologies社(イタリア・パドヴァ)
網膜 画像 :カラー眼底カメラ 内蔵
特徴 :暗所マイクロペリメトリ対応。旧型MP-1の改良版であり、天井効果やフィルター選択の制限を克服している。
MAIA 3
製造元 :CenterVue社(イタリア・パドヴァ)
網膜 画像 :走査型レーザー検眼鏡(SLO)
特徴 :ダイナミックレンジ0〜36 dB。暗所マイクロペリメトリ対応(S-MAIA)。二色刺激(シアン・赤)により桿体・錐体機能を分離評価可能2) 。
Optos OCT-SLO
製造元 :Optos社(アメリカ・マールボロ)
網膜 画像 :SLO
特徴 :機能欠損をOCT の断層画像と重ね合わせる機能を搭載。正面画像だけでなく三次元的な構造-機能相関解析が可能である。
マイクロペリメトリは残存視機能の評価に最適な手法であり、幅広い網膜 疾患に応用される。
加齢黄斑変性 におけるマイクロペリメトリの有用性は広く研究されている1) 2) 。
機能評価と疾患進行 :黄斑 感度の低下は疾患の重症度・進行と相関する。6年間の追跡で、早期加齢黄斑変性 および中間加齢黄斑変性 (iAMD)において感度の有意な悪化が認められた1) 。
構造-機能相関 :RPE -ドルーゼン 複合体、色素上皮剥離、網膜下液 、地図状萎縮 (GA)の領域で黄斑 感度が最も低下する。FAF やOCT との空間的一致は中等度以上に高い1) 。
桿体機能の優先的障害 :良好な視力 (6/9以上)を維持する早期加齢黄斑変性 患者でも、暗所感度の有意な低下が認められる2) 。網状偽ドルーゼン (RPD)の部位では暗所感度の低下が明所感度より顕著である2) 。
Madheswaran ら(2022)のスコーピングレビューでは、12研究中10研究(83.3%)が横断的デザインで明所・暗所マイクロペリメトリを評価し、良好な視力 を保つ早期加齢黄斑変性 患者においても暗所感度の有意な低下を報告した。縦断的解析では、RPD症例で3年間にわたり明所・暗所感度が有意に低下することが示された2) 。
GAに対するマイクロペリメトリの応用は、臨床試験エンドポイントとしても注目されている1) 。
GA境界部の機能評価 :GA近傍の接合部(junctional zone)では、GA境界から2°(約580μm)以内で急峻な感度低下が認められ、遠位ではなだらかに低下する1) 。
治療効果判定 :第III相Chroma/Spectri試験およびOAKS試験でGA特異的なマイクロペリメトリエンドポイントが評価された1) 。病変周囲の感度(perilesional sensitivity)や応答感度(responding sensitivity)は、従来の平均黄斑 感度より経時変化の検出に優れる1) 。
ペグセタコプラン :GALE試験(36ヶ月)では、ペグセタコプラン 治療群で新規暗点数が少なかった(月1回投与:名目P = 0.0156)1) 。
糖尿病黄斑浮腫 においては黄斑 感度の低下が浮腫の程度と相関し、異なるレーザー治療 法が黄斑 機能に及ぼす影響の評価にも用いられる。
裂孔原性網膜剥離 (RRD)に対する硝子体手術 後のシリコーンオイル (SO)タンポナーデ症例において、マイクロペリメトリは機能的評価に有用である3) 。
Duncaら(2025)のナラティブレビューによれば、SOタンポナーデ中の網膜 感度は約5〜10 dB低下し、SO除去後に1〜2 dBの改善を認めるが、正常レベルには回復しないことが多い。タンポナーデ期間と感度低下の程度には相関がある3) 。
網膜 ジストロフィー :パターンジストロフィ ーやスターガルト病 などの遺伝性網膜 疾患において、MAIAを用いた感度マッピングにより病変部位の機能評価が可能である4) 。
緑内障 :進行した緑内障 における神経線維層欠損の検出や偏心固視の評価に有用である。
中心性漿液性脈絡網膜症 、ヒドロキシクロロキン黄斑 症 、黄斑円孔 、黄斑前膜 など黄斑 の構造・機能に影響する疾患全般に適用可能である。
片側性RPE 形成異常(URPED) :病変部位での感度は正常網膜 から病変中心に向かい漸減し、中心部で0 dB(絶対暗点)に至ることが報告されている5) 。
中心暗点 を有する患者に対し、マイクロペリメトリのバイオフィードバック機能を用いたリハビリテーションが実施される。優先網膜 部位(preferred retinal locus: PRL)を特定し、臨床医が事前に決定した訓練網膜 部位(trained retinal locus: TRL)へPRLを移動させることで、固視安定性、視機能、QOLの改善が報告されている。
Q
マイクロペリメトリはどのような患者に特に有用か?
A
黄斑 疾患で中心窩 機能が障害され、固視が不安定な患者に特に有用である。従来の視野検査 は安定した中心固視を前提とするが、マイクロペリメトリはアイトラッキングにより固視不安定例でも正確な測定が可能である。加齢黄斑変性 、糖尿病黄斑浮腫 、黄斑 ジストロフィーなどの黄斑 疾患のほか、ロービジョン患者のリハビリテーション計画の策定にも活用される。
欠損マッピングマイクロペリメトリ(defect-mapping microperimetry)は近年注目される新しい手法であり、従来の閾値ベースの方法とは原理が異なる1) 。
固定強度の刺激(通常10 dB)を高密度の網膜 グリッド上に1回ずつ提示し、各測定点で刺激を知覚したか否かを二値(見えた/見えなかった)で判定する。従来法が各点の感度閾値を段階的に測定するのに対し、欠損マッピングは深い暗点の存在を高密度で検出する手法である1) 。
項目 従来の閾値法 欠損マッピング法 測定内容 各点の感度閾値 刺激の知覚/非知覚 空間密度 比較的粗い 高密度 再現性(TRV) 3.3%1) 1.8%1)
24ヶ月の研究では、欠損マッピングマイクロペリメトリは従来の最高矯正視力 (BCVA)測定を上回る経時変化検出能を示し、GA範囲の評価と同等の性能を有することが報告された。必要サンプルサイズはGA範囲評価と比較して46%、最高矯正視力 と比較して94%削減され、検査時間の中央値は1眼あたり5.6分であった1) 。
欠損マッピングマイクロペリメトリは臨床試験における視機能エンドポイントとして有望であり、深い暗点の追跡に対して従来法よりも頑健な再現性を示す1) 。
マイクロペリメトリの検査再テスト変動(test-retest variability: TRV)は、構造画像との共登録やアイトラッキングにより比較的良好に保たれている。
刺激投影精度 :アイトラッキングにより同一測定点のずれは約0.53°に抑えられ、標準視野計の約5°と比較して格段に精度が高い1) 。
GA症例における再現性 :非病変部外側で97%の一致率、GA辺縁部で81%、内側接合部で80%、内側病変部で87%、外側接合部で90%の一致率が報告されている1) 。
臨床的に意味のある変化の閾値 :進行GA症例では4 dBの点別感度変化が実際の変化を示唆する。FDAガイダンスでは7 dBの差を臨床的に意味のある変化の閾値としている1) 。
多施設研究 :MACUSTAR研究において、マイクロペリメトリは多施設設定でも高い再現性を示した。ただし早期加齢黄斑変性 とiAMDの鑑別には限界があった1) 。
患者の協力 :光感度の測定は患者の応答に依存するため、偽陰性・偽陽性の影響を受ける。
検査時間 :特に閾値法では検査時間が長く、疲労効果が問題となりうる。高密度マイクロペリメトリやカスタマイズ版の使用が時間短縮に有効と考えられている1) 。
コスト :専門的な機器と訓練された検者を要するため、臨床現場での普及は限定的である。
機器間の互換性 :前述のとおり、異なる機器間での直接的な結果比較は困難である1) 。
完全自動化されたAI(人工知能)ベースのマイクロペリメトリシステムが開発中であり、スターガルト病 を対象としたFirstOrbit研究で評価が行われている1) 。
GA臨床試験におけるマイクロペリメトリの有用性を最大化するためには、以下の標準化が提案されている1) 。
高密度グリッドの使用
傍中心窩 領域や病変周囲帯などの関心領域の事前指定
OCT /FAF との共登録
病変周囲帯における平均明所感度変化や暗点割合などの高収率指標の採用
加齢黄斑変性 患者を対象とした研究では、黄斑 感度と自己評価による視覚関連QoL(VFQ-39質問票)との間に正の相関が報告されている1) 。これはマイクロペリメトリが患者の主観的視機能を反映するエンドポイントとなりうることを示す。
暗所マイクロペリメトリは、明所マイクロペリメトリでは捉えられない早期加齢黄斑変性 における桿体機能障害を検出できる2) 。暗所感度の低下は構造変化に先行する可能性があり、加齢黄斑変性 の進行を予測する機能的バイオマーカー としての確立が期待される。ただし、エビデンスは主にヨーロッパの研究(ドイツ75%、イタリア16.7%、英国8.3%)に限られており、多様な集団における検証が今後の課題である2) 。
Dinah C, et al. Progress in Retinal and Eye Research. 2026;110:101421.
Madheswaran G, Nasim P, Ballae Ganeshrao S, Raman R, Ve RS. Role of microperimetry in evaluating disease progression in age-related macular degeneration: a scoping review. International ophthalmology. 2022;42(6):1975-1986. doi:10.1007/s10792-021-02170-9. PMID:34994874; PMCID:PMC9156461.
Dunca DG, Nicoară SD. The Role of OCTA and Microperimetry in Revealing Retinal and Choroidal Perfusion and Functional Changes Following Silicone Oil Tamponade in Rhegmatogenous Retinal Detachment: A Narrative Review. Diagnostics (Basel, Switzerland). 2025;15(19). doi:10.3390/diagnostics15192422. PMID:41095642; PMCID:PMC12523867.
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