この疾患の要点
サイトメガロウイルス(CMV)前部ぶどう膜炎 ・角膜内皮 炎は免疫正常者でも発症する高眼圧 性ぶどう膜炎 である。
PCR陽性例の95.31%で眼圧 上昇を認め、4年以内に25%以上が緑内障 手術を要する1) 。
第一選択はガンシクロビル 0.15% ゲル点眼(1日4回)または経口バルガンシクロビル。CMVはアシクロビル・バラシクロビルに感受性がない。
前房 水の定量RT-PCRが確定診断に必須(閾値:10³ copies/mL以上)。定性PCRでは偽陽性が生じるため定量法を用いる。
ぶどう膜炎 診療ガイドラインでは、CMVはHS V・VZVと並ぶヘルペス性前部ぶどう膜炎 の主要原因として扱われる。
減量・中止で最大80%に再発が生じるため長期予防療法が重要。
コイン状KP(KP corrals)・線状KP(linear KP)・角膜内皮 細胞の進行性減少はCMV角膜内皮炎 に特徴的な所見である。
サイトメガロウイルス(CMV、ヒトヘルペスウイルス5型)はヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスである。40歳以上の成人では血清陽性率が80〜85%に達する。
免疫不全者では壊死性網膜 炎(CMV網膜炎 )を引き起こすことが広く知られている。近年、免疫正常者においてもCMVによる虹彩 毛様体 炎・角膜内皮 炎が生じ、眼圧 上昇を伴い遷延化や再発を繰り返すことが問題となっている。ぶどう膜炎 診療ガイドラインでも、HS V・VZVとともにCMVが主要なヘルペス性前部ぶどう膜炎 の原因として独立記載されている3) 。
CMV前部ぶどう膜炎はアジアからの報告が多く、日本・中国・シンガポールでの症例集積が先行してきた。CMVの血清有病率が高いことや遺伝的感受性の関与が示唆されている。
報告例の多くは男性に見られ、発症年齢には二峰性の分布がある。再発性急性型は30〜50代に多く、慢性高眼圧 型は50〜70代に多い傾向がある。
Posner-Schlossman症候群 (PSS)は片眼性・再発性に急激な眼圧 上昇を伴う虹彩炎 であり、原因不明疾患として長く扱われてきた。患者前房 水からCMVが検出されるという報告が相次ぎ、CMV前部ぶどう膜炎と同一疾患またはオーバーラップする疾患概念ではないかという考えが広まっている3) 。前房 炎症が軽度で眼圧 上昇を伴うことなどの共通点も多い。いわゆるPSS単独の場合は角膜内皮 障害などを合併しない予後良好な経過が多いが、CMV関与が確認された症例では内皮細胞障害が問題となりうる。
Caplash S, et al. Mimickers of anterior uveitis, scleritis and misdiagnoses- tips and tricks for the cornea specialist. J Ophthalmic Inflamm Infect. 2024. Figure 3. PM
CI D: PMC11004105. License: CC BY.
細隙灯写真で、
角膜内皮 に白色のコイン状 keratic precipitates が複数みられる。
CMV角膜内皮炎 ・前部
ぶどう膜炎 でみられる代表的な炎症所見を示している。
片眼性の霧視 ・視力 低下
眼痛 ・結膜 充血
光輪(ハロー)の自覚
同側の頭痛を伴うことがある
CMV前部ぶどう膜炎はHS V・VZVより潜行性に発症し、慢性の経過をたどることが多い。ヘルペスで典型的な角膜知覚 低下・水疱・皮疹を欠くため、誤診されやすい1) 。
PSS型(ポスナー・シュロスマン症候群様)
発症年齢 :20〜50代の若年男性
眼圧 :40〜60 mmHgの著明な上昇(時に60 mmHg以上)
前房 炎症 :比較的軽度(細胞2+以下)
KP :色素を伴わない小〜中型の灰白色肉芽腫性KP
経過 :寛解と再発を繰り返す発作型
眼圧 の特徴 :寛解期は僚眼よりむしろ低い眼圧 。隅角 は開放隅角 で周辺虹彩前癒着 なし
FUS型(フックスぶどう膜炎症候群様)
発症年齢 :40〜60代
眼圧 :慢性的な軽〜中等度上昇
前房 炎症 :軽度の慢性炎症
KP :角膜内皮 全体に散在するびまん性微細星状KP
経過 :潜行性の慢性型
特徴 :虹彩後癒着 なし、白内障 合併が多い
眼圧 上昇 :PCR陽性CMV前部ぶどう膜炎例の95.31%に認められる1)
虹彩 萎縮 :パッチ状の虹彩 萎縮(34.14%に出現)。角膜内皮 側の色素脱失も特徴的1)
コイン状KP(KP corrals) :KPが円形または輪状に配列する特徴的パターン。CMV眼感染症を強く示唆する
線状KP(linear KP) :角膜内皮 炎に特徴的な水平方向の線状・地図状沈着物。KP corralsと組み合わさって現れることが多い
角膜内皮 炎 :結節状の内皮病変、内皮細胞数の進行性減少。局所的な角膜実質 浮腫を伴う
後癒着は少ない :HS V・VZVと比較して後癒着の頻度が低い
角膜浮腫 :眼圧 上昇の程度に比してごく軽度なことが特徴的
Q
CMV前部ぶどう膜炎と帯状疱疹ウイルス性ぶどう膜炎はどう見分けますか?
A
VZVぶどう膜炎 では角膜知覚 低下・帯状の皮疹・扇形虹彩 萎縮が鑑別の手がかりになるが、CMV前部ぶどう膜炎ではこれらを欠く。コイン状KP(KP corrals)・線状KP(linear KP)はCMV角膜内皮炎 に特徴的な所見である。アシクロビル・バラシクロビル治療が無効な場合もCMVを積極的に疑う根拠となる。確定診断には前房 水の定量PCR検査が必須であり、定性PCRでは偽陽性が生じるため必ず定量法を使用する1) 。
CMVは骨髄系前駆細胞(単球・マクロファージ前駆体)に潜伏感染する。完全には解明されていない機序により、前眼部のマクロファージや樹状細胞内でウイルスが再活性化し、インターフェロン-γ・インターフェロン-βが放出されて前眼部炎症が生じる。他部位での感染が循環血中の単球でのCMV再活性化を誘導する可能性もある。
再活性化を誘発しうる薬剤(報告あり):
デキサメタゾン点眼(局所免疫抑制による再活性化)
シクロスポリン 点眼(免疫抑制作用)
プロスタグランジン関連薬 (ヘルペスウイルス感染悪化との関連が指摘される)
その他のリスク因子:
高齢(CMV血清陽性率は加齢とともに上昇)
糖尿病(細胞性免疫の低下)
全身免疫抑制状態(臓器移植後・HIV感染等)
角膜移植 後(免疫抑制点眼による再活性化)
なお、CMVに対する市販ワクチンは現時点で存在しない。全身免疫状態の維持が一次予防の基本となる。
日常のケアと注意点
再活性化リスクのある患者に免疫抑制薬を使用する際は、CMV前部ぶどう膜炎の可能性を念頭に置く。
アシクロビルやバラシクロビルが無効な再発性高眼圧 性ぶどう膜炎 では、CMVを積極的に疑い、眼科専門医での前房 水PCR検査を検討してください。
プロスタグランジン関連薬 使用中の患者では、CMV再活性化の可能性を考慮して経過を慎重に観察する。
感染性前部ぶどう膜炎 が疑われ、以下のいずれかを満たす場合は前房穿刺 を考慮する1) :
再発性高眼圧 性前部ぶどう膜炎
アシクロビル・バラシクロビルが無効な前部ぶどう膜炎
PSS様・FUS様の高眼圧 性慢性ぶどう膜炎
世界75名のぶどう膜炎 専門家を対象としたDelphi調査では、73.3%が疑い例に対して常に前房穿刺 を行う と回答した1) 。
検査法 感度・特異度 留意点 定量RT-PCR(CMV-DNA) 感度71%(急性期) 10³ copies/mL以上で診断的価値あり。定性PCRは偽陽性リスクがあり使用しない 抗体指数(AI)アッセイ 感度87%(慢性期) 眼内抗体合成の特異的解析。慢性期に有用 定量PCR+AI組み合わせ 感度100% 両者の組み合わせで診断精度が最大化する 多項目PCR(先進医療) 複数ウイルス網羅 HS V・VZVとの鑑別に有用。先進医療として認定3)
SUNワーキンググループはCMV前部ぶどう膜炎の研究分類基準として「前房 水PCR陽性」を必須項目としている1) 。
鑑別診断:
HS V・VZV前部ぶどう膜炎 (角膜知覚 低下・扇形虹彩 萎縮・帯状疱疹皮疹、PCRによるウイルス種の確定)
ポスナー・シュロスマン症候群 (特発性。PCR陰性でCMV除外された場合)
フックス異色性虹彩毛様体炎 (風疹ウイルス関連、虹彩 異色、慢性経過、星状KP)
角膜移植 後内皮拒絶反応(KPがドナー角膜 のみに限局、移植後時期)
Q
前房穿刺は怖い検査ですか?
A
前房穿刺 (前房 水採取)は外来で局所麻酔下に行う比較的短時間の処置である。感染性ぶどう膜炎 の原因ウイルスを特定するために重要な検査であり、適切に行われれば合併症のリスクは低い。CMV前部ぶどう膜炎の確定診断には不可欠な手順であり、世界の専門家の73.3%が疑い例に常に実施している1) 。確定診断なしに治療を開始すると、CMVへの感受性がないアシクロビル系薬剤を継続するリスクがある。
CMVはアシクロビル・バラシクロビル・ペンシクロビルに感受性がない 。第一選択薬はガンシクロビルまたはバルガンシクロビルである。
局所療法(第一選択)
薬剤 :ガンシクロビルゲル 0.15%
投与法 :1日4回(点眼)
利点 :全身毒性なし。定期血液検査不要
専門家コンセンサス :85%が局所抗ウイルス開始を支持1)
70%が0.15%ガンシクロビルゲルを第一選択として選択1)
全身療法(重症・遷延例)
薬剤 :バルガンシクロビル(経口)
導入量 :900mg 1日2回、2週間以上
維持量 :450mg 1日2回(炎症消失後)
78%の専門家が全身療法として経口バルガンシクロビルを選択1)
注意 :全血算・血清クレアチニンを2週ごとにモニタリング必須
**再発時の対応:**減量・中止で最大80%に再発が生じる。再発した場合は初期投与量から再開し、より緩徐に漸減する(88%の専門家が支持)1) 。
ステロイド は抗ウイルス薬のカバー下でのみ使用する (71%が支持)1) 。抗ウイルス薬なしでのステロイド 単独使用は角膜内皮 細胞障害を悪化させるリスクがある。
第一選択 :プレドニゾロン酢酸エステル点眼1%(71%が選択)1)
初期投与 :1日4回 × 1〜2週間、その後臨床反応に応じて漸減
維持期間 :最長12ヵ月の漸減を84%の専門家が支持1)
避けるべき投与経路 :球周囲・全身ステロイド (88%が回避を支持)1)
発作時の眼圧 上昇は40 mmHg以上(時に60 mmHg以上)に達するため、速やかな眼圧 管理が必要である。
第一選択 :β遮断薬 点眼(79%の専門家が支持)1)
第二選択 :α作動薬または炭酸脱水素酵素阻害薬(点眼・内服)
プロスタグランジン関連薬 は原則回避 (ヘルペス感染悪化の懸念)1)
眼圧 上昇が著しい場合は炭酸脱水酵素阻害薬 の内服も追加する
薬物療法で眼圧 コントロールが不十分な場合は緑内障 手術(線維柱帯切除術 等)を要することがある。放置すると4年以内に25%以上が緑内障 手術を要する。炎症が十分に制御されたうえで白内障 手術も実施可能である。
治療における注意点
バルガンシクロビルは骨髄抑制・腎毒性のリスクがある。全身投与中は全血算と血清クレアチニンを2週ごとにモニタリングする。
投与量の減量や中止は高率な再発(最大80%)につながるため、漸減計画を慎重に立てる。
CMVはアシクロビル・バラシクロビルに感受性がなく、これらが無効な場合はCMV感染を積極的に疑う。
ステロイド 点眼は抗ウイルス薬のカバー下でのみ使用し、単独での長期投与は角膜内皮 細胞障害を悪化させるリスクがある。
Q
CMV前部ぶどう膜炎にアシクロビルは効きますか?
A
効かない。CMVはアシクロビル・バラシクロビル・ペンシクロビルに対して感受性を持たないため、これらの薬剤が無効なことがCMV感染の重要な徴候となる。ガンシクロビル(局所または全身)またはバルガンシクロビルが第一選択薬であり、CMV前部ぶどう膜炎が疑われる場合は抗ウイルス薬の変更が必要である。
CMVは初感染後、骨髄系前駆細胞(単球・マクロファージ前駆体)に潜伏する。前眼部のマクロファージや樹状細胞内でウイルスが再活性化することにより、前眼部炎症が生じる。他部位での感染が循環血中の単球でのCMV再活性化を誘導する可能性も示唆されている。再活性化するとインターフェロン-γ・インターフェロン-βが放出され、炎症カスケードが始まる。
CMVは角膜内皮 細胞に直接感染し、細胞障害を引き起こす。これにより:
線状KP(linear KP) :内皮細胞の局所的なウイルス感染・炎症を反映した水平方向の線状・地図状沈着物が形成される
コイン状KP(KP corrals) :活性化した内皮細胞周囲に炎症細胞が輪状に集積する特徴的パターン
内皮細胞密度の進行性減少 :直接感染による細胞死 と炎症による二次的障害が重なり、内皮細胞数が経年的に低下する
角膜 変性(デコンペンセーション) :内皮細胞数が代償限界を超えると角膜実質 浮腫・混濁が生じ、角膜移植 が必要となることがある
治療なしでは内皮細胞密度の進行性低下が続き、最終的に水疱性角膜症 へと進行するリスクがある。
眼圧 上昇には複数の機序が関与する:
ウイルス性線維柱帯 炎(トラベキュライティス) :CMVが線維柱帯 細胞に感染し、房水 流出抵抗が増加する
炎症性細胞・デブリスによる隅角 閉塞 :炎症期に流出路が一過性に閉塞される
周辺虹彩前癒着 形成 :繰り返す炎症により隅角 に前癒着が形成される
ステロイド 点眼による眼圧 上昇 :治療薬自体が眼圧 上昇の一因となりうる
PSS型では発作間欠期に正常〜やや低い眼圧 が維持されることが多いが、発作を繰り返すたびに線維柱帯 への非可逆的ダメージが蓄積し、慢性高眼圧 や緑内障 性視野障害へと進行する。
66歳の免疫正常女性において、再発性の高眼圧 性前部ぶどう膜炎 に対して前房穿刺 を行ったところ、前房 水CMV-DNAが25,675 copies/mL検出された。局所ガンシクロビル0.15%(1日4回)と経口バラシクロビル1g(1日2回)および局所ステロイド の併用療法により炎症の消退と眼圧 コントロールが得られ、最終眼圧 12 mmHgで安定した2) 。
21ヵ国100名の国際ぶどう膜炎 専門家を招聘した2ラウンドDelphi調査では、75名(75%)が完遂した1) 。CMV前部ぶどう膜炎の診断・治療には合意が得にくい領域が多いことが示されたが、以下の重要な合意点が得られた:
診断 :疑い例の73.3%に前房穿刺 を施行することがほぼコンセンサスに達した
治療 :局所抗ウイルス療法開始で85%が合意。70%がガンシクロビルゲル0.15%を選択
長期管理 :最長12ヵ月の局所ステロイド 漸減を84%が支持
一方、PCR陰性例における治療法や診断基準については国際的な合意が依然として未確立であり、さらなるエビデンスの蓄積が求められる1) 。
診断基準の国際統一 :研究基準(PCR必須)と臨床基準(感度優先)の乖離
局所vs全身療法の比較 :経口バルガンシクロビルが角膜内皮 細胞保護に有利との報告もある一方、局所から全身への段階移行で再発増加の可能性も指摘されている
長期予防療法の最適化 :中止後の高い再発率(最大80%)の克服
角膜内皮 細胞保護戦略 :早期介入による内皮細胞密度の維持と角膜移植 回避
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