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ぶどう膜炎

帯状疱疹ぶどう膜炎

帯状疱疹ぶどう膜炎(Herpes Zoster Uveitis; HZU)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus; VZV)の再活性化によって生じる前部または後部ぶどう膜炎である。前部ぶどう膜炎虹彩毛様体炎)が主な対象であり、後部ぶどう膜炎ARNPORN)は別疾患項目で詳述される。

VZVは小児期の水痘罹患後、後根神経節(脊髄後根神経節・三叉神経節=ガッセル神経節)に潜伏感染する。再活性化時に三叉神経第1枝(眼神経)に沿って眼症状を引き起こす。皮膚症状を伴う場合を眼帯状疱疹(Herpes Zoster Ophthalmicus; HZO)、皮膚症状なしで眼炎症のみの場合を無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)と呼ぶ。

疫学:

  • 前部ぶどう膜炎HZO症例の40〜60%に発生する。
  • 発症時年齢は通常50歳以上で、男女差はない。
  • ヘルペス性虹彩炎HSV・VZV合計)はぶどう膜炎全体の3.6〜4.2%を占める2)
  • 免疫不全者(HIV感染者・免疫抑制剤使用者)では若年でも発症しやすい。HIV感染者における前部ぶどう膜炎の43%がVZVによるとの報告がある1)
Q 帯状疱疹ぶどう膜炎と単純ヘルペスぶどう膜炎の違いは何か?
A

VZVぶどう膜炎HSVぶどう膜炎と比較して慢性化しやすく、再発時に眼圧上昇を繰り返す傾向がある。また皮膚の帯状疱疹発疹を伴う場合が多く、扇状の虹彩萎縮がより顕著に現れる。重症化すると急性網膜壊死ARN)・進行性外層網膜壊死PORN)など後部ぶどう膜炎に至ることがHZUの特徴である。

帯状疱疹ぶどう膜炎の前眼部写真。区域性虹彩萎縮、後癒着、角膜後面沈着物、隅角前癒着を示す
Okunuki Y, et al. A case of herpes zoster uveitis with severe hyphema. BMC Ophthalmol. 2014. Figure 2. PMCID: PMC4046036. License: CC BY.
前眼部および隅角写真で、区域性虹彩萎縮、後癒着、角膜後面の色素性KP、隅角の広範な前癒着が見える。帯状疱疹ぶどう膜炎にみられる代表的な炎症所見を示している。

充血眼痛霧視で発症する。眼圧上昇が著しい場合は頭痛・悪心を伴う。後部病変が主体の場合は急激な視力低下・飛蚊症が生じる。

前駆期として帯状疱疹の皮膚知覚過敏・チクチク感が先行し、数日後に三叉神経眼神経枝に沿った皮膚分節性の発疹が現れる。

前眼部所見

豚脂様KP(mutton-fat KP):片眼性の豚脂様角膜後面沈着物と強い前房炎症が主徴。

扇状・斑状の虹彩萎縮:慢性ぶどう膜炎による閉塞性血管炎に続発する。後毛様動脈の虹彩への血流閉塞による部分的虚血が原因で、細隙灯の透照法(retro-illumination)で透照欠損として観察される。慢性期には麻痺性散瞳をきたす。

眼圧線維柱帯炎(trabeculitis)や炎症細胞による線維柱帯閉塞が原因。多くの患者で眼圧上昇発作を繰り返す。

角膜所見角膜知覚低下・偽樹枝状病変・角膜浮腫角膜内皮炎・神経麻痺性角膜炎など多彩。角膜内皮細胞密度の減少をきたすことがある。

後眼部所見

急性網膜壊死ARN:免疫正常者に発生。周辺部から始まり中央へ広がる壊死性網膜炎。50%以上で裂孔原性網膜剥離を合併する。

進行性外層網膜壊死PORN:免疫不全者に発生。後極部・中間周辺部における多局性の深い網膜混濁で急速に拡大。

網膜血管炎視神経炎:局所性または多局性の病変。

硝子体炎(Vitritis):後眼部侵犯時に認める。

ハッチンソン徴候(Hutchinson’s sign): 鼻尖部に帯状疱疹発疹が認められる所見。眼内炎症の予測因子として重要。三叉神経毛様体枝の侵犯を示す。

Q 皮膚の発疹がなくてもぶどう膜炎が起きるか?
A

起こりうる。皮膚症状を伴わない「無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)」では発疹が出ないまま眼内炎症が生じる。このため皮膚症状がなくてもHZUを疑い、前房水PCRなどの検査が必要になる場合がある。

VZVはヘルペスウイルス中最小のDNA分子量(約80×10^6)を持つDNAウイルスである。小児期の水痘罹患後、後根神経節(三叉神経節・ガッセル神経節)に潜伏感染し、加齢・免疫低下により再活性化する。

再活性化のリスク因子:

  • 加齢(特に60歳以降でリスクが顕著に増加)
  • 免疫抑制(HIV感染、免疫抑制剤使用、悪性腫瘍、化学療法)
  • HIV感染者(CD4 200〜349/mm³の患者では帯状疱疹が主要な臨床所見となりやすい1)
  • 精神的・肉体的ストレス
  • 直接的な外傷
Q 若年者が帯状疱疹ぶどう膜炎を発症した場合、HIV検査は必要か?
A

50歳未満での帯状疱疹発症例では、HIV感染など免疫低下疾患の可能性があり積極的にHIV検査を実施することが推奨される。HIV陽性患者では前部ぶどう膜炎の43%がVZVによるとの報告があり1)、基礎疾患の診断と管理が眼科治療と並行して重要となる。

HZOの存在または既往に基づく臨床診断が多い。三叉神経第一枝領域の眼部帯状疱疹に伴う場合は臨床診断が可能だが、皮疹を伴わない zoster sine herpete では確定診断に前房水中のVZVの存在を、PCRや抗体率の算出で証明する必要がある2)

検査特徴・留意点
前房水PCR(VZV DNA)診断が不確実な場合・治療に反応しない場合に実施。高感度・高特異度
Goldmann-Witmer係数(Q値)Q<1: 眼内感染なし / 1≤Q<6: 眼内感染疑い / 6≤Q: 眼内感染あり2)。発症10日以内は偽陰性に注意
多項目PCR(先進医療)複数ヘルペスウイルスの網羅的検出が可能2)
血清VZV抗体一般集団での保有率が高いため価値は限定的
HIV検査50歳未満での帯状疱疹では積極的に実施

VZV関連後部ぶどう膜炎ARNPORN疑い)では、検査結果を待つことなく経験的治療を開始すべきである。髄膜炎が疑われる場合は脳MRIと腰椎穿刺を速やかに実施する。

フックス異色性虹彩毛様体炎FHI)との鑑別(重要):

VZV再活性化による虹彩萎縮・虹彩異色がFHIに類似し誤診されうる。FHI除外に重要な所見として、硝子体炎・微細星状KP・低フレア値(レーザーフレア光度計<20ph/ms)・後癒着なし・虹彩テクスチャー差などがある1)。これらが欠如する場合はFHIの診断は支持されない。

抗ウイルス薬と十分なステロイド点眼薬の併用、瞳孔管理、眼圧管理を行う。抗ウイルス薬は眼軟膏から開始し、効果不十分な場合は内服を追加する。遷延・再発を繰り返すことが多く、治療が長期にわたることを患者に説明する必要がある2)

全身抗ウイルス薬(10〜14日間):

薬剤用法・用量
アシクロビル眼軟膏(3%)1日5回 塗布(局所)
アシクロビル(内服)800mg 1日5回
バラシクロビル(内服)1,000mg(500mg×2錠)1日3回
ファムシクロビル(内服)500mg 1日3回

処方例(急性期):

  1. アシクロビル眼軟膏(3%) 1日5回 塗布
  2. バラシクロビル(バルトレックス)500mg 6錠 分3(内服)
  3. ベタメタゾン点眼(0.1%) 1日8回(炎症程度により調整)
  4. トロピカミド点眼 1日4回(瞳孔管理・後癒着防止)
  5. ラタノプロスト点眼 1日1回(眼圧上昇時)
  6. 炭酸脱水酵素阻害薬β遮断薬 配合点眼 1日2回(眼圧上昇時)

プレドニゾロン酢酸塩1%またはベタメタゾン0.1%を1日4〜8回(炎症程度に応じて調整)。漸減は緩やかに行い、再発防止のため長期低用量維持が必要になることがある。全身ステロイドの使用は議論があり、免疫抑制状態では慎重を要する。

房水産生抑制薬(βブロッカー、炭酸脱水酵素阻害薬)を積極的に使用する。プロスタグランジン関連薬はVZV再活性化リスクがあるため原則回避する。眼圧上昇発作を繰り返す症例では複数の降圧薬の組み合わせが必要になる。

全身抗ウイルス薬の静脈内投与(入院管理)が必要である。ガンシクロビル・ホスカルネットはアシクロビルよりも眼内バイオアベイラビリティが高い。硝子体内抗ウイルス薬注射(硝子体注射)が必要となる場合もある2)

Q ワクチンを接種しても帯状疱疹ぶどう膜炎は起こるか?
A

ワクチンは完全な予防ではないが、発症率を約50%低下させる効果がある。特に50歳以上の高リスク者には接種が推奨される。ワクチン接種後も帯状疱疹が発症した場合は早期に抗ウイルス薬投与を開始することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

VZVは後根神経節に潜伏感染し、再活性化後に三叉神経軸索流によって角膜結膜へ病変を形成し、眼内にも波及する。

眼内での機序:

  • 線維柱帯:VZV感染細胞による線維柱帯の直接侵犯・炎症細胞の集積による眼圧上昇。毛様体低分泌による眼圧低下とは逆のパターンが帯状疱疹性高眼圧の特徴。
  • 閉塞性血管炎(前眼部虚血)虹彩血管の炎症性閉塞が扇状虹彩萎縮の主要機序。後毛様動脈の閉塞性血管炎による虹彩の部分的虚血が生じる。扇状萎縮はVZV特有の所見であり、HSVぶどう膜炎よりも顕著に現れる。
  • 神経周囲侵犯(perineural invasion):睫状神経へのウイルス侵入が虹彩括約筋の機能不全(麻痺性散瞳)を引き起こす。虹彩括約筋の虚血性萎縮・神経障害が麻痺性散瞳の基盤となる。

急性網膜壊死ARN)では、周辺部網膜から始まる壊死性網膜炎が視神経炎・血管炎・網膜剥離へと進展する。PORNは免疫不全患者でVZVが主に外層網膜を侵犯し、急速に壊死が拡大する病態で予後がきわめて不良である。

臨床症例による確認:

Papasavasら(2021)は45歳のHIV陽性患者(CD4 332/mm³)において、VZVぶどう膜炎虹彩異色を伴いFHIと誤診された症例を報告した1)ステロイド点眼中止後10日で豚脂様KP・後癒着・フレア増大(20→51.4ph/ms)が出現し、VZVぶどう膜炎の診断に至った。抗ウイルス薬とステロイドの二重療法継続後、抗レトロウイルス治療(ART)開始とCD4数の回復を待って治療調整した。本症例はFHIとの鑑別においてLFP値が重要な客観的指標となることを示している。

急性網膜壊死に対する早期硝子体手術

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一部の著者は、抗ウイルス薬の硝子体注入とレーザー光凝固を伴う早期硝子体手術(pars plana vitrectomy)がその後の網膜剥離発生率を低下させると示唆しているが、依然として議論がある。急性網膜壊死後の網膜剥離に対してはシリコーンオイルタンポナーデを伴う硝子体手術が必要となり、長期的な管理が求められる。

レーザーフレア光度計を用いた客観的炎症評価

Section titled “レーザーフレア光度計を用いた客観的炎症評価”

細隙灯検査による定性的な炎症評価に加え、レーザーフレア光度計(LFP)による房水フレアの定量化がHZUの客観的モニタリングに有用であることが示されている1)。LFP値の変動は治療反応性の評価・鑑別診断(FHI鑑別)に活用されている。

  1. Papasavvas I, Jeannin B, Herbort CP.. When HIV Immunodeficiency and Heterochromia Confuse the Issue: Recurrent Zoster Uveitis Mistaken for Fuchs’ Uveitis. J Ophthalmic Vis Res. 2021;16(2):295-299. doi:10.18502/jovr.v16i2.9094. PMID:34055267; PMCID:PMC8126730.
  2. 日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会. ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.
  3. Okunuki Y, Sakai J, Kezuka T, Goto H. A case of herpes zoster uveitis with severe hyphema. BMC Ophthalmol. 2014;14:74. PMID: 24885484.

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