この疾患の要点
帯状疱疹ぶどう膜炎は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による眼内炎 症であり、眼帯状疱疹(HZO) 症例の40〜60%に発症する。
片眼性の高眼圧 を伴う前部ぶどう膜炎 が最多。急性網膜壊死 (ARN )や進行性外層網膜壊死 (PORN )などの重篤な後部病変も起こりうる。
扇状・斑状の虹彩 萎縮は慢性炎症による閉塞性血管炎に続発する特徴的所見で、診断の重要な手がかりとなる。
HS Vぶどう膜炎 と異なり、VZVぶどう膜炎 は慢性化しやすく、遷延・再発を繰り返す症例が多い。
Goldmann-Witmer係数(Q値)はQ≥6で眼内感染ありを示す。発症10日以内は偽陰性に注意2) 。
50歳以上へのVZVワクチン接種により帯状疱疹発症率を約50%低下させることができる。
皮疹なしでも(zoster sine herpete)ぶどう膜炎 が生じることがあり、確定診断には前房 水VZV PCRまたは抗体率が必要。
帯状疱疹ぶどう膜炎(Herpes Zoster Uveitis; HZU)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus; VZV)の再活性化によって生じる前部または後部ぶどう膜炎 である。前部ぶどう膜炎 (虹彩 毛様体 炎)が主な対象であり、後部ぶどう膜炎 (ARN ・PORN )は別疾患項目で詳述される。
VZVは小児期の水痘罹患後、後根神経節(脊髄後根神経節・三叉神経 節=ガッセル神経節)に潜伏感染する。再活性化時に三叉神経 第1枝(眼神経)に沿って眼症状を引き起こす。皮膚症状を伴う場合を眼帯状疱疹(Herpes Zoster Ophthalmicus; HZO )、皮膚症状なしで眼炎症のみの場合を無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)と呼ぶ。
疫学:
前部ぶどう膜炎 はHZO 症例の40〜60%に発生する。
発症時年齢は通常50歳以上で、男女差はない。
ヘルペス性虹彩炎 (HS V・VZV合計)はぶどう膜炎 全体の3.6〜4.2%を占める2) 。
免疫不全者(HIV感染者・免疫抑制剤使用者)では若年でも発症しやすい。HIV感染者における前部ぶどう膜炎 の43%がVZVによるとの報告がある1) 。
Q
帯状疱疹ぶどう膜炎と単純ヘルペスぶどう膜炎の違いは何か?
A
VZVぶどう膜炎 はHS Vぶどう膜炎 と比較して慢性化しやすく、再発時に眼圧 上昇を繰り返す傾向がある。また皮膚の帯状疱疹発疹を伴う場合が多く、扇状の虹彩 萎縮がより顕著に現れる。重症化すると急性網膜壊死 (ARN )・進行性外層網膜壊死 (PORN )など後部ぶどう膜炎 に至ることがHZUの特徴である。
Okunuki Y, et al. A case of herpes zoster uveitis with severe hyphema. BMC Ophthalmol. 2014. Figure 2. PM
CI D: PMC4046036. License: CC BY.
前眼部および隅角 写真で、区域性虹彩 萎縮、後癒着、角膜 後面の色素性KP、隅角 の広範な前癒着が見える。帯状疱疹ぶどう膜炎にみられる代表的な炎症所見を示している。
充血 ・眼痛 ・霧視 で発症する。眼圧 上昇が著しい場合は頭痛・悪心を伴う。後部病変が主体の場合は急激な視力 低下・飛蚊症 が生じる。
前駆期として帯状疱疹の皮膚知覚過敏・チクチク感が先行し、数日後に三叉神経 眼神経枝に沿った皮膚分節性の発疹が現れる。
前眼部所見
豚脂様KP(mutton-fat KP) :片眼性の豚脂様角膜 後面沈着物と強い前房 炎症が主徴。
扇状・斑状の虹彩 萎縮 :慢性ぶどう膜炎 による閉塞性血管炎に続発する。後毛様動脈の虹彩 への血流閉塞による部分的虚血が原因で、細隙灯の透照法(retro-illumination)で透照欠損として観察される。慢性期には麻痺性散瞳 をきたす。
高眼圧 :線維柱帯 炎(trabeculitis)や炎症細胞による線維柱帯 閉塞が原因。多くの患者で眼圧 上昇発作を繰り返す。
角膜 所見 :角膜知覚 低下・偽樹枝状病変・角膜浮腫 ・角膜内皮 炎・神経麻痺性角膜 炎など多彩。角膜内皮細胞密度 の減少をきたすことがある。
後眼部所見
急性網膜壊死 (ARN ) :免疫正常者に発生。周辺部から始まり中央へ広がる壊死性網膜 炎。50%以上で裂孔原性網膜剥離 を合併する。
進行性外層網膜壊死 (PORN ) :免疫不全者に発生。後極部・中間周辺部における多局性の深い網膜 混濁で急速に拡大。
網膜血管炎 ・視神経炎 :局所性または多局性の病変。
硝子体 炎(Vitritis) :後眼部侵犯時に認める。
ハッチンソン徴候(Hutchinson’s sign):
鼻尖部に帯状疱疹発疹が認められる所見。眼内炎 症の予測因子として重要。三叉神経 鼻毛様体 枝の侵犯を示す。
Q
皮膚の発疹がなくてもぶどう膜炎が起きるか?
A
起こりうる。皮膚症状を伴わない「無疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)」では発疹が出ないまま眼内炎 症が生じる。このため皮膚症状がなくてもHZUを疑い、前房 水PCRなどの検査が必要になる場合がある。
VZVはヘルペスウイルス中最小のDNA分子量(約80×10^6)を持つDNAウイルスである。小児期の水痘罹患後、後根神経節(三叉神経 節・ガッセル神経節)に潜伏感染し、加齢・免疫低下により再活性化する。
再活性化のリスク因子:
加齢(特に60歳以降でリスクが顕著に増加)
免疫抑制(HIV感染、免疫抑制剤使用、悪性腫瘍、化学療法)
HIV感染者(CD4 200〜349/mm³の患者では帯状疱疹が主要な臨床所見となりやすい1) )
精神的・肉体的ストレス
直接的な外傷
予防・日常のケア
50歳以上の成人には予防的VZVワクチン接種が推奨されています。帯状疱疹発症率を約50%、疾患負担を約60%低下させる効果が示されています。
目の充血 ・痛み・まぶしさ が急に起きた場合は、速やかに眼科を受診しましょう。
顔の片側に水疱や発疹が出て目が赤くなった場合は、眼帯状疱疹(HZO) の可能性があります。早急に眼科を受診してください。
50歳未満で帯状疱疹が生じた場合は、免疫機能の検査(HIV検査を含む)を受けることが推奨されます。
Q
若年者が帯状疱疹ぶどう膜炎を発症した場合、HIV検査は必要か?
A
50歳未満での帯状疱疹発症例では、HIV感染など免疫低下疾患の可能性があり積極的にHIV検査を実施することが推奨される。HIV陽性患者では前部ぶどう膜炎 の43%がVZVによるとの報告があり1) 、基礎疾患の診断と管理が眼科治療と並行して重要となる。
HZO の存在または既往に基づく臨床診断が多い。三叉神経 第一枝領域の眼部帯状疱疹に伴う場合は臨床診断が可能だが、皮疹を伴わない zoster sine herpete では確定診断に前房 水中のVZVの存在を、PCRや抗体率の算出で証明する必要がある2) 。
検査 特徴・留意点 前房 水PCR(VZV DNA)診断が不確実な場合・治療に反応しない場合に実施。高感度・高特異度 Goldmann-Witmer係数(Q値) Q<1: 眼内感染なし / 1≤Q<6: 眼内感染疑い / 6≤Q: 眼内感染あり2) 。発症10日以内は偽陰性に注意 多項目PCR(先進医療) 複数ヘルペスウイルスの網羅的検出が可能2) 血清VZV抗体 一般集団での保有率が高いため価値は限定的 HIV検査 50歳未満での帯状疱疹では積極的に実施
VZV関連後部ぶどう膜炎 (ARN ・PORN 疑い)では、検査結果を待つことなく経験的治療を開始すべきである。髄膜炎が疑われる場合は脳MRIと腰椎穿刺を速やかに実施する。
フックス異色性虹彩毛様体炎 (FHI )との鑑別(重要):
VZV再活性化による虹彩 萎縮・虹彩 異色がFHI に類似し誤診されうる。FHI 除外に重要な所見として、硝子体 炎・微細星状KP・低フレア値(レーザーフレア光度計<20ph/ms)・後癒着なし・虹彩 テクスチャー差などがある1) 。これらが欠如する場合はFHI の診断は支持されない。
抗ウイルス薬と十分なステロイド 点眼薬の併用、瞳孔 管理、眼圧 管理を行う。抗ウイルス薬は眼軟膏から開始し、効果不十分な場合は内服を追加する。遷延・再発を繰り返すことが多く、治療が長期にわたることを患者に説明する必要がある2) 。
全身抗ウイルス薬(10〜14日間):
薬剤 用法・用量 アシクロビル眼軟膏(3%) 1日5回 塗布(局所) アシクロビル(内服) 800mg 1日5回 バラシクロビル(内服) 1,000mg(500mg×2錠)1日3回 ファムシクロビル(内服) 500mg 1日3回
処方例(急性期):
アシクロビル眼軟膏(3%) 1日5回 塗布
バラシクロビル(バルトレックス)500mg 6錠 分3(内服)
ベタメタゾン点眼(0.1%) 1日8回(炎症程度により調整)
トロピカミド点眼 1日4回(瞳孔 管理・後癒着防止)
ラタノプロスト点眼 1日1回(眼圧 上昇時)
炭酸脱水酵素阻害薬 +β遮断薬 配合点眼 1日2回(眼圧 上昇時)
プレドニゾロン酢酸塩1%またはベタメタゾン0.1%を1日4〜8回(炎症程度に応じて調整)。漸減は緩やかに行い、再発防止のため長期低用量維持が必要になることがある。全身ステロイド の使用は議論があり、免疫抑制状態では慎重を要する。
房水 産生抑制薬(βブロッカー、炭酸脱水酵素阻害薬 )を積極的に使用する。プロスタグランジン関連薬 はVZV再活性化リスクがあるため原則回避する。眼圧 上昇発作を繰り返す症例では複数の降圧薬の組み合わせが必要になる。
全身抗ウイルス薬の静脈内投与(入院管理)が必要である。ガンシクロビル・ホスカルネットはアシクロビルよりも眼内バイオアベイラビリティが高い。硝子体 内抗ウイルス薬注射(硝子体注射 )が必要となる場合もある2) 。
治療における注意点
本疾患は遷延または再発を繰り返すことが多く、治療が長期にわたることを患者に説明する必要がある2) 。
ステロイド 点眼の長期使用による不可逆的眼圧 上昇例では、十分な消炎ののちに線維柱帯切除術 (trabeculectomy)が行われることがある。
白内障 や緑内障 など合併症の進行に対しては、十分な炎症コントロール後に手術を検討する。
急性網膜壊死 ・PORN では網膜剥離 が高頻度に発生し、早期の硝子体手術 が必要となることがある。
Q
ワクチンを接種しても帯状疱疹ぶどう膜炎は起こるか?
A
ワクチンは完全な予防ではないが、発症率を約50%低下させる効果がある。特に50歳以上の高リスク者には接種が推奨される。ワクチン接種後も帯状疱疹が発症した場合は早期に抗ウイルス薬投与を開始することが重要である。
VZVは後根神経節に潜伏感染し、再活性化後に三叉神経 軸索流によって角膜 ・結膜 へ病変を形成し、眼内にも波及する。
眼内での機序:
線維柱帯 炎 :VZV感染細胞による線維柱帯 の直接侵犯・炎症細胞の集積による眼圧 上昇。毛様体 低分泌による眼圧 低下とは逆のパターンが帯状疱疹性高眼圧 の特徴。
閉塞性血管炎(前眼部虚血) :虹彩 血管の炎症性閉塞が扇状虹彩 萎縮の主要機序。後毛様動脈の閉塞性血管炎による虹彩 の部分的虚血が生じる。扇状萎縮はVZV特有の所見であり、HS Vぶどう膜炎 よりも顕著に現れる。
神経周囲侵犯(perineural invasion) :睫状神経へのウイルス侵入が虹彩 括約筋の機能不全(麻痺性散瞳 )を引き起こす。虹彩 括約筋の虚血性萎縮・神経障害が麻痺性散瞳 の基盤となる。
急性網膜壊死 (ARN )では、周辺部網膜 から始まる壊死性網膜 炎が視神経炎 ・血管炎・網膜剥離 へと進展する。PORN は免疫不全患者でVZVが主に外層網膜 を侵犯し、急速に壊死が拡大する病態で予後がきわめて不良である。
臨床症例による確認:
Papasavasら(2021)は45歳のHIV陽性患者(CD4 332/mm³)において、VZVぶどう膜炎 が虹彩 異色を伴いFHI と誤診された症例を報告した1) 。ステロイド 点眼中止後10日で豚脂様KP・後癒着・フレア増大(20→51.4ph/ms)が出現し、VZVぶどう膜炎 の診断に至った。抗ウイルス薬とステロイド の二重療法継続後、抗レトロウイルス治療(ART)開始とCD4数の回復を待って治療調整した。本症例はFHI との鑑別においてLFP値が重要な客観的指標となることを示している。
一部の著者は、抗ウイルス薬の硝子体 注入とレーザー光凝固 を伴う早期硝子体手術 (pars plana vitrectomy)がその後の網膜剥離 発生率を低下させると示唆しているが、依然として議論がある。急性網膜壊死 後の網膜剥離 に対してはシリコーンオイル タンポナーデを伴う硝子体手術 が必要となり、長期的な管理が求められる。
細隙灯検査による定性的な炎症評価に加え、レーザーフレア光度計(LFP)による房水 フレアの定量化がHZUの客観的モニタリングに有用であることが示されている1) 。LFP値の変動は治療反応性の評価・鑑別診断(FHI 鑑別)に活用されている。
Papasavvas I, Jeannin B, Herbort CP.. When HIV Immunodeficiency and Heterochromia Confuse the Issue: Recurrent Zoster Uveitis Mistaken for Fuchs’ Uveitis. J Ophthalmic Vis Res. 2021;16(2):295-299. doi:10.18502/jovr.v16i2.9094. PMID:34055267; PMCI D:PMC8126730.
日本眼炎症学会ぶどう膜炎 診療ガイドライン作成委員会. ぶどう膜炎 診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.
Okunuki Y, Sakai J, Kezuka T, Goto H. A case of herpes zoster uveitis with severe hyphema. BMC Ophthalmol. 2014;14:74. PMID: 24885484.
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