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白内障・前眼部

UGH症候群(UGH Syndrome)

UGH症候群(uveitis-glaucoma-hyphema syndrome)は、眼内レンズIOL)が囊外固定や非対称固定になることで支持部が虹彩や周囲組織と直接接触し、虹彩を機械的に擦過することで生じる病態である。虹彩が擦過されると脱出した虹彩色素が線維柱帯に詰まり色素性緑内障を引き起こす。虹彩障害が著しい場合には虹彩毛様体炎(ぶどう膜炎)と前房出血(hyphema)を伴い、この三徴をUGH症候群と呼ぶ。

命名はEllingson(1978年)による。UGHとはUveitis(ぶどう膜炎)、Glaucoma(緑内障)、Hyphema(前房出血)の頭文字に由来する。

疫学・発生頻度:

  • 従来は前房IOLで起こりやすかったが、後房IOLの囊内固定が標準化した現在では発生頻度はまれである
  • 現在はシングルピースアクリルIOLを囊外(毛様溝)に挿入した場合に起こりやすい
  • シングルピースアクリルIOLの毛様溝固定は、太いスクエアエッジのハプティックとスクエアエッジの光学部が虹彩後面と接触するリスクから、関連する合併症(IOL偏心、iris chafing、色素散布、眼圧上昇、再発性前房出血、炎症)のため禁忌とされている2)
  • Armonaite & Behndig(2021年)の71症例を対象としたレビューでは、pseudophacodonesis(偽水晶体動揺)がUGH症候群の有意なリスク因子であることが示された1)

Iris chafing症候群:

1980年代に初めて報告された関連病態であり、後房IOLの支持部または光学部縁が持続的に虹彩隅角周囲の血管を擦過し、虹彩の脱色素と再発性前房出血を引き起こす。虹彩萎縮と再発性前房出血を主徴とし、UGH三徴を完全には満たさない場合もある。囊内固定が一般化した現在ではごくまれである。

Q UGH症候群はどのくらいまれな病気か?
A

後房IOLの囊内固定が標準化した現在では発生はまれである。ただし、シングルピースアクリルIOLを毛様溝(囊外)に固定した場合、IOLの偏位がある場合、抗凝固薬を服用している場合などにリスクが高まる。白内障術後に繰り返す前房出血や制御困難な眼圧上昇がみられる際はUGH症候群を鑑別に挙げることが重要である。

  • 視力低下: 色素散布・前房出血・炎症による視力の低下
  • 眼痛: 眼圧上昇・虹彩毛様体炎に伴う疼痛
  • 羞明: 光過敏症状
  • 充血: 毛様充血を含む結膜充血

ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)

前房炎症前房フレア・セルの増加。

角膜後面沈着物(KP)角膜内皮側に認める。

再発性の炎症IOL擦過が継続する限り炎症が反復する。

緑内障(色素性・二次性)

虹彩色素の線維柱帯蓄積房水流出障害を引き起こす。

二次性眼圧上昇:色素性緑内障の機序による進行性眼圧上昇。

隅角への色素沈着隅角鏡検査で確認される。

前房出血(hyphema)

再発性が特徴的虹彩血管への擦過損傷による繰り返しの出血。

抗凝固薬使用者では増悪:出血傾向が加わりやすい。

前房内の血液貯留視力低下の直接原因となる。

Iris chafing症候群の所見:

  • 虹彩萎縮(脱色素): 持続的擦過による虹彩の菲薄化・透過光欠損(transillumination defect)
  • 再発性前房出血: 虹彩血管への繰り返しの機械的損傷による
  • 二次性高眼圧: 虹彩色素散布による線維柱帯の閉塞

追加所見:

  • 太いスクエアエッジのハプティックとスクエアエッジの光学部が毛様溝にある場合、色素散布・虹彩透過光欠損・眼圧上昇・再発性炎症/出血を起こすことがある2)
  • pseudophacodonesis(IOLの動揺)はUGH症候群のリスク因子として同定されている1)
Q 前房出血を繰り返す場合にUGH症候群を疑うべきか?
A

白内障手術後に再発性の前房出血がみられる場合は、UGH症候群またはIris chafing症候群を積極的に鑑別に挙げる必要がある。細隙灯顕微鏡でIOL固定状態を確認し、UBM前眼部OCTIOL-虹彩間の接触を評価することが診断の鍵となる。

IOLに関連する主要因子:

  • シングルピースアクリルIOLの毛様溝(sulcus)挿入: 太いスクエアエッジのハプティックとスクエアエッジの光学部が虹彩裏面を機械的に擦過する。後囊破損時の代替固定として毛様溝を選択する場合には3ピースIOLが推奨される2)
  • IOLの囊外固定・非対称固定: 支持部が虹彩に直接接触する状態
  • 前房IOL: サイズ不適切(短すぎる・長すぎる)、挿入後のiris tuck、周辺虹彩切除部を通じたハプティックの回転1, 3)
  • IOL偏位・偽水晶体動揺(pseudophacodonesis): UGH症候群の有意なリスク因子1)
  • 角度付きループ・縦径の長いIOL: 虹彩との接触リスクが高い

患者側の因子:

  • 抗凝固薬・抗血小板薬の使用: 出血リスクを増大させ、前房出血が起こりやすくなる
Q 抗凝固薬を服用中でもUGH症候群の手術は可能か?
A

手術自体は可能だが、抗凝固薬・抗血小板薬の服用は前房出血のリスクを高める。術前に内科主治医と連携のうえ、抗凝固薬の休薬・変更・ブリッジング療法を検討する。血栓塞栓症リスクとの兼ね合いを個別に評価することが重要である。

臨床診断のポイント:

  • UGH三徴(ぶどう膜炎緑内障前房出血)の確認が基本
  • 三徴すべてが揃わない不完全型(Iris chafing症候群など)もある

診断に用いる検査法:

検査法評価内容
細隙灯顕微鏡検査IOL固定状態(囊外・偏位・傾斜)、前房炎症(フレア・セル・KP)、前房出血の有無、虹彩萎縮・脱色素
隅角鏡検査線維柱帯への色素沈着、二次性緑内障の評価
超音波生体顕微鏡UBMIOL虹彩毛様体の位置関係を詳細評価、レンズ-虹彩接触の同定に有用2)
前眼部OCTAS-OCTIOL虹彩の接触部位の非侵襲的画像化、レンズ-虹彩接触の同定に有用2)
眼圧測定二次性眼圧上昇の程度と経過評価

鑑別診断:

疾患発症時期主な所見IOL関連所見
UGH症候群術後数週〜数か月ぶどう膜炎眼圧上昇・前房出血の三徴囊外固定・偏位あり
感染性眼内炎術後数日以内強い眼痛前房蓄膿硝子体混濁通常なし
TASS(毒性前眼部反応症候群)術後12〜48時間びまん性角膜浮腫前房炎症通常なし
遷延性偽水晶体虹彩毛様体炎(PUPPI)術後数週〜数か月慢性前房炎症IOL位置正常
残存水晶体皮質術後数日〜数週前房炎症、眼圧上昇皮質残留
色素性緑内障(原発性)徐々に進行眼圧上昇、色素散布IOL擦過なし
Q 白内障手術後の慢性的な炎症がUGH症候群によるものか、どう鑑別するのか?
A

鑑別の鍵はIOL-虹彩接触の有無である。UBMまたは前眼部OCTIOL虹彩毛様体の位置関係を評価し、機械的接触が確認できればUGH/Iris chafingを疑う。IOL位置が正常で炎症のみが持続する場合はPUPPI(遷延性偽水晶体虹彩毛様体炎)や残存水晶体皮質などを考慮する。

治療方針の概要: IOLによる機械的擦過が原因であるため、根本治療はIOLの位置修正(整復)または交換である。薬物治療はあくまで一時的な対症療法にとどまる。

  • 散瞳 + 仰臥位: 虹彩IOLが癒着していない場合、自然整復が期待できる
  • ステロイド点眼: 0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液(1日4回など)による消炎目的の対症療法。1%アトロピン硫酸塩点眼液の追加も行われるが、長期効果は低い
  • 眼圧管理: 0.5%チモロールマレイン酸塩点眼液(1日2回)、1%ドルゾラミド塩酸塩点眼液(1日3回)など房水産生抑制薬で対処する
  • 抗凝固薬の休薬検討: 内科との連携のうえ、適切な休薬・変更を判断する
  1. 観血的IOL整復: 散瞳で回復しない場合に実施する。虹彩と囊が著しく癒着していなければ手技は容易である
  2. IOL交換: 虹彩・囊との強固な癒着やIOL前房内脱臼の場合に選択する。侵襲が大きいため視機能低下が著しい場合にのみ施行する
  3. 緊急整復: 支持部が前房内に出て角膜内皮に接触している場合はなるべく早く整復する
  • IOL摘出が第一選択: 確実な診断がつけば虹彩を刺激しているIOLを摘出する。薬物療法(ステロイド・アトロピン・抗凝固薬中止)は根本的な改善効果が低く、機械的除去が最も確実である
  • IOL摘出後の選択肢:
    • 縦径が短めの3ピースIOLを毛様溝に挿入
    • IOLの経強膜縫着固定
    • IOL強膜内固定(山根法等)
  • IOLの中心固定状態がよければ再発は少ない
  1. 軽症(炎症のみ)ステロイド点眼・眼圧管理・経過観察
  2. 保存的に改善しない / 再発を繰り返すIOL整復を検討
  3. 整復不能 / 重症(前房出血反復・高眼圧持続)IOL交換
  4. 角膜内皮への接触がある → 緊急整復・交換
Q UGH症候群と診断された場合、必ず手術が必要か?
A

必ずしも手術が必要とは限らない。軽症例では散瞳+仰臥位での保存的整復を最初に試みる。これで改善しない場合や症状が再発・持続する場合に、観血的整復またはIOL交換を検討する。ただし、角膜内皮への接触が確認された場合は早急な手術対応が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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UGH症候群の発症メカニズムは以下の連鎖で説明される。

  1. IOL偏位・囊外固定: 後囊破損、チン氏帯脆弱、不適切なIOL選択(毛様溝へのシングルピースアクリルIOL挿入)などが原因で、IOLが正常固定位置から逸脱する
  2. 虹彩の機械的擦過: IOL支持部(ハプティック)や光学部縁が虹彩後面に持続的に接触し、繰り返しの機械的摩擦が生じる
  3. 色素散布と線維柱帯閉塞: 擦過により虹彩色素上皮からメラニン顆粒が遊離し、線維柱帯に蓄積する。房水流出障害が生じて色素性緑内障眼圧上昇)となる
  4. 虹彩毛様体: 機械的刺激と組織損傷が虹彩毛様体の炎症反応を惹起し、前房フレア・セルを生じる
  5. 前房出血(hyphema): 虹彩血管への直接的な擦過損傷により出血が生じる。抗凝固薬使用者では出血リスクが増大する

シングルピースアクリルIOLのリスク特性:

太いスクエアエッジのハプティックとスクエアエッジの光学部を持つシングルピースアクリルIOLは、毛様溝に位置する場合に虹彩裏面との接触面積が大きく、擦過の影響が強くなる2)。このため後囊破損時の代替として毛様溝に固定せざるを得ない場合には、3ピースIOLを使用することが推奨される2)

前房IOLにおけるUGHの特殊機序:

前房IOLでは、サイズ不適合(短すぎる・長すぎる)、挿入後のiris tuck(虹彩組み込み)、ハプティックが周辺虹彩切除部を通じて回転する機序でUGHが発生する1, 3)

  • 大規模症例レビュー: Armonaite & Behndig(2021年)の71症例解析では、UGH症候群の臨床的特徴が系統的に分析され、pseudophacodonesisがリスク因子として同定された。前房IOL・後房IOL・毛様溝固定IOLなど多様なIOL型でUGHが発生しうることが示された1)
  • IOL設計の改良: シングルピースアクリルIOLの毛様溝使用の回避、後囊破損時には3ピースIOLを使用するという考え方が広く普及している2)
  • 画像診断技術の進歩: UBMおよびAS-OCT技術の高分解能化により、IOL-虹彩間の接触をリアルタイムに非侵襲的に評価できるようになり、早期診断・早期介入が可能となりつつある2)
  • 強膜内固定術(山根法)の普及: フランジ付きポリフッ化ビニリデン(PVDF)製ハプティックを強膜内に固定するIOL二次挿入法の普及により、IOL交換後の安定した固定選択肢が広がっている
  • UGHの自然史と長期予後: 整復・交換後の長期視機能についての前向き研究は今後の課題であり、定期的な眼圧管理・視野検査を含むフォローアップ体制の確立が求められる
  1. Armonaite L, Behndig A. Seventy-one cases of uveitis-glaucoma-hyphaema syndrome. Acta Ophthalmol. 2021;99:69-74.
  2. Chang DF, Masket S, Miller KM, et al. Complications of sulcus placement of single-piece acrylic intraocular lenses: recommendations for backup IOL implantation following posterior capsule rupture. J Cataract Refract Surg. 2009;35:1445-1458.
  3. Zemba M, Camburu G. Uveitis-Glaucoma-Hyphaema Syndrome. General review. Rom J Ophthalmol. 2017;61:11-17.

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