前房所見
前房炎症細胞・フレア:多数の炎症細胞とフィブリンが前房内に充満する。
前房蓄膿:線維素が主体で粘性が高く、中央部がやや盛り上がった不整形となることが多い1)。隅角蓄膿を伴うこともある1)。
前房内フィブリン:虹彩または水晶体前面に付着し瞳孔領を一過性に覆い、視力低下を来す。
角膜後面沈着物(KP)・角膜浮腫:細かい非肉芽腫性KP、Descemet膜皺襞、角膜浮腫を伴う1)。
HLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎(HLA-B27 associated acute anterior uveitis; HLA-B27-AAU)は、ヒト白血球抗原B27(HLA-B27)陽性者に好発する急性・再発性の非肉芽腫性前部ぶどう膜炎である。急性前部ぶどう膜炎は急性に発症する前眼部の炎症を主体とするぶどう膜炎で、視力障害のほかに強い眼痛を伴うことが多い。さまざまな全身疾患に伴って発症することが多く、HLA-B27陽性であることが多い。この場合HLA-B27陽性関連ぶどう膜炎と呼ぶが、他のHLA-B27関連疾患である強直性脊椎炎・Reiter病・乾癬性関節炎・炎症性腸疾患を合併することも多い。
急性前部ぶどう膜炎全体の約50%がHLA-B27に関連しており、非感染性ぶどう膜炎の最も頻度の高い特定可能な原因として世界的に知られている2)。2009年の前向き試験では急性前部ぶどう膜炎は全ぶどう膜炎の6.6%(250/3,060例)、HLA-B27関連ぶどう膜炎は1.5%(46/3,060例)を占めた1)。
HLA-B27の民族的分布:
| 民族・地域 | HLA-B27陽性率 |
|---|---|
| パプアニューギニア パワイア族 | 53% |
| カナダ ハイダ族 | 50% |
| スカンジナビア北部 | 14〜16% |
| 白人(コーカサス系) | 8〜10% |
| 非ヒスパニック系白人(米国) | 7.5% |
| アフリカ系アメリカ人 | 2〜4% |
HLA-B遺伝子座はCD8+ T細胞へ抗原を提示するMHCクラスI表面抗原をコードし、105以上のサブタイプと132の遺伝子アレルが存在する。HLA-B27の抗原結合溝のアミノ酸構成が特異的で、自己免疫応答との関与が示唆されている。
日本ではHLA-B27関連AAUの頻度は欧米より低いとされる。HLA-B27陽性率や全ぶどう膜炎に占める割合は、対象集団と診断体系により大きく異なる1, 2)。発作の間隔は数か月から数年に及ぶ1)。遺伝解析研究では、AAUと強直性脊椎炎に遺伝的な類似点と相違点があることが報告されている3)。
HLA-B27陽性者の大多数はぶどう膜炎を発症しない。HLA-B27は疾患感受性を高める遺伝因子であり、発症には他の環境的・免疫的要因も関与する。ぶどう膜炎のみで全身疾患を合併しない症例もある。

突然に発症する片眼性の症状が特徴である。
炎症エピソードは通常2か月以内に消退し、平均年1〜2回の再発を繰り返す。左右交互に発症することが多く、両眼同時発症はきわめて稀である。
前房所見
前房炎症細胞・フレア:多数の炎症細胞とフィブリンが前房内に充満する。
前房蓄膿:線維素が主体で粘性が高く、中央部がやや盛り上がった不整形となることが多い1)。隅角蓄膿を伴うこともある1)。
前房内フィブリン:虹彩または水晶体前面に付着し瞳孔領を一過性に覆い、視力低下を来す。
角膜後面沈着物(KP)・角膜浮腫:細かい非肉芽腫性KP、Descemet膜皺襞、角膜浮腫を伴う1)。
虹彩・隅角所見
虹彩後癒着:高頻度に形成。前部硝子体混濁残存で消炎後も数週間視力回復が遅れることがある1)。
iris bombé(虹彩膨隆):虹彩後癒着が全周に及ぶと前房水の流れが遮断され急性閉塞隅角緑内障の原因となる。
眼圧低下:急性炎症では毛様体機能低下により眼圧が低下することが多い。
稀な所見:網膜血管炎・黄斑浮腫・蛍光眼底造影での視神経乳頭過蛍光1)
全身症状として腰背部痛(炎症性腰痛:安静時悪化・運動で改善)、炎症性腸疾患症状、乾癬皮疹がみられる。強直性脊椎炎では竹節様脊椎(bamboo spine)がX線で認められる1)。
急性炎症では毛様体の機能が障害され、眼内液(房水)の産生が低下するため眼圧が下がりやすい。一方、炎症細胞や炎症性産物による線維柱帯の閉塞、または虹彩後癒着によるiris bombéが生じると眼圧は上昇する。
HLA-B27関連AAUは免疫学的機序によって生じる非感染性前部ぶどう膜炎である。HLA-B27関連疾患は血清反応陰性脊椎関節症(SpA)に分類される。強直性脊椎炎・反応性関節炎(旧Reiter病)・乾癬性関節炎・IBD関連関節炎が含まれ、HLA-B27陽性率はASで90%以上、反応性関節炎で約70%である。
関連する全身疾患(脊椎関節症):
HLA-B27陰性の場合でも、急性前部ぶどう膜炎の臨床像だけではB27陽性例と明確に区別しにくいことがある2)。
発症傾向:発症年齢は20〜40歳が多い。男性は女性の1.5〜2.5倍発症しやすい。男性・若年での発症が多い1)。
SpAの合併が疑われる場合は、眼科治療と並行して以下の専門科との連携が重要である。
SpA(脊椎関節症)の合併率は19.2〜50%と高い。炎症性腰痛(安静時に悪化し、運動で改善する腰背部痛)がある場合は特に精査が必要である。整形外科・消化器内科・膠原病内科・皮膚科との併診が重要で、SpAの早期診断・治療が眼炎症の再発予防にもつながる場合がある。
明確な診断基準は存在しない1)。急性片眼性非肉芽腫性前部ぶどう膜炎・HLA-B27陽性・SpA合併の有無による総合診断が基本となる。HLA-B27陽性と陰性の虹彩炎はその臨床症状からは識別困難であるが、HLA-B27陽性患者は男性に多く若年で発症することが多い。HLA検査は費用の問題もあり必須とはならないが、既往歴・全身症状の有無を確認し強直性脊椎炎・炎症性腸疾患・乾癬の有無を調べることが重要である。
検査:
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| Behçet病 | 前房蓄膿がニボーを形成し体位変換で容易に移動。後眼部に網膜滲出斑・出血1) |
| 急性網膜壊死 | 網膜周辺部に特徴的な黄白色病変。豚脂様KP1) |
| ポスナー・シュロスマン症候群 | 虹彩炎と高眼圧の発作反復。虹彩後癒着を認めない。隅角の色素脱失1) |
| ヘルペス性虹彩毛様体炎 | 豚脂様KP、眼圧上昇。回復期の限局性虹彩萎縮1) |
| 内因性眼内炎 | IVH使用歴・免疫不全の有無。高齢・DM患者では全身症状乏しい場合も1) |
| 糖尿病虹彩炎 | 血糖コントロール不良。眼底検査・血糖検査で鑑別1) |
治療の目標は急性炎症の迅速な消退と合併症の予防である。
ステロイド点眼(第一選択):
散瞳薬:
結膜下注射(炎症が強く痛みが強い場合):
後部テノン囊下注射: トリアムシノロンアセトニド20mg/0.5mL。黄斑浮腫を伴う場合に使用1)。
経口ステロイド(漸減療法): プレドニン錠(プレドニゾロン5mg)1日30mg×3日→20mg×3日→10mg×3日
炎症に伴う眼圧上昇にはβ遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬点眼を用いる。
免疫抑制薬:
生物学的製剤(TNF阻害薬):1)
HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎は再発性であるが、治療中止後に必ず再発するわけではない。平均年1〜2回の再発が多いが、再発頻度は個人差が大きい。全身疾患(SpA)を合併する場合、その治療(生物学的製剤など)が眼の再発抑制にも有効な場合がある1)。
HLA-B27はMHCクラスI分子として三量体(MHC重鎖・β2ミクログロブリン・ペプチド)を形成しCD8+ T細胞に抗原を提示する。HLA-B27の抗原結合溝はアミノ酸構成が特異的で、「分子擬態(molecular mimicry)」や「誤った折り畳み(misfolding)」仮説など複数の機序が提唱されているが、完全には解明されていない。
HLA-B27関連疾患(AS・IBD・乾癬・Reiter病との相関)においてHLA-B27はAS 90%以上、反応性関節炎では約70%で陽性である。AAUとASは遺伝的に類似点と相違点を持つ3)。
IBD(消化管炎症)が関節・眼の炎症に影響するGut-joint-eye axisの概念が提唱されており、腸内細菌叢の変容が脊椎関節炎・ぶどう膜炎発症に関与する可能性がある。
前房蓄膿の病理:好中球が主体で粘稠性・隆起形状 → Behçet病の好中球性サラサラした蓄膿とは異なる病態を反映している。
急性発症・短期間での消退・再発性という臨床経過は自己限定的な免疫応答の特性を反映している。視力予後は適切な治療により概して良好であるが、炎症の持続期間はおおむね1〜2か月間であり、Behçet病の虹彩炎に比べ治癒まで時間がかかることが多い。
HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎において、急性炎症エピソード後に持続性の瞳孔散大を生じる稀な合併症が報告されている。Alkhaldiら(2025)は、HLA-B27関連再発性前部ぶどう膜炎の38歳女性において両眼性の不可逆的散瞳(6mm固定)が認められた症例を報告した4)。前部ぶどう膜炎・眼圧上昇・散瞳薬使用の3要素が重なった際に虹彩括約筋の虚血が生じるとする機序が提唱されている。
SpA合併AAU患者においてアダリムマブ・インフリキシマブが再発頻度を低下させるとの報告が増加している。ただしAAU単独への適応は国際的にも研究段階である。IL-17阻害薬(セクキヌマブ等)のASへの適応がAAU再発に与える影響は今後の検討課題である1)。