試験デザイン
デザイン:ランダム化二重盲検対照多施設共同試験(インド南部)
対象:塗抹陽性の糸状真菌性角膜炎323例(Fusarium属128例[40%]、Aspergillus属54例[17%]、その他141例[43%])
介入:5%ナタマイシン点眼 vs 1%ボリコナゾール点眼(上皮化まで1時間ごと、その後3週間1日4回)
主要評価項目:3ヶ月後の最高眼鏡矯正視力(BSCVA)
真菌性角膜炎は、特に発展途上国において重篤な視機能障害を引き起こす角膜潰瘍群である。植物性外傷やステロイド長期使用が発症の素因となる2)。症状が乏しいために診断が遅れやすく、治療に対する反応も細菌感染に比べて不良である。
ナタマイシン(ピマリシン)点眼液は、真菌性角膜炎に対してFDA承認を受けた唯一の点眼薬である。一方、in vitro研究ではトリアゾール系薬剤であるボリコナゾールがより優れた抗真菌活性を示すとの報告があった。しかし両薬剤を比較したRCTは不足していた。
MUTT試験はこの臨床的問題に対して、米国国立眼科研究所(NEI)の支援のもとインド南部(およびネパール)で実施された大規模RCTである。MUTT 1(2013年発表)とMUTT 2(2016年発表)の2つの試験で構成される。
MUTT 1の結果を踏まえ、Fusarium属による真菌性角膜炎にはナタマイシン(ピマリシン)が第一選択である。ボリコナゾールのFusarium属に対する効果は劣り、単剤療法として使用すべきではない。一方、Fusarium属以外の糸状菌(特にAspergillus属)や、ピマリシンに反応しない症例では、ボリコナゾール点眼の使用が推奨される2)。
初期には痛みなどの症状が乏しいことがあり、診断の遅れにつながる。
糸状菌と酵母菌では臨床所見が異なる。MUTT試験の対象は糸状真菌性角膜炎である。
糸状菌性角膜炎ではFusarium属(特にFusarium solani)が最も頻度が高い2)。次いでAspergillus属、Alternaria属、Paecilomyces属が挙げられる。
確定診断には病巣部の擦過と微生物学的検査が必須である2)。
試験デザイン
デザイン:ランダム化二重盲検対照多施設共同試験(インド南部)
対象:塗抹陽性の糸状真菌性角膜炎323例(Fusarium属128例[40%]、Aspergillus属54例[17%]、その他141例[43%])
介入:5%ナタマイシン点眼 vs 1%ボリコナゾール点眼(上皮化まで1時間ごと、その後3週間1日4回)
主要評価項目:3ヶ月後の最高眼鏡矯正視力(BSCVA)
主要な結果
3ヶ月時BSCVA:ナタマイシン群が1.4ライン優位(回帰係数 -0.18 logMAR; P=0.06)
Fusariumサブグループ:ナタマイシン群が4.1ライン優位(回帰係数 -0.41 logMAR; P<0.001)
穿孔/TPK:ボリコナゾール群で有意に高頻度(34例 vs 18例; OR 0.42; P<0.001)
微生物学的治癒(6日目):ナタマイシンが優れていた(培養陽性率 15% vs 48%)
MUTT 1の結論として、糸状真菌性角膜炎、特にFusarium属において、ナタマイシンはボリコナゾールより良好な転帰を示した。Fusarium角膜炎の治療においてボリコナゾールを単剤療法として使用すべきではない。
MUTT 2は進行期真菌性角膜炎(視力20/400未満)240例を対象とした。全例にナタマイシン点眼+ボリコナゾール点眼を投与し、経口ボリコナゾール群(初日400mg×2回/日、以後200mg×2回/日を20日間)とプラセボ群を比較した。
| 評価項目 | 結果 |
|---|---|
| 穿孔/TPK | 有意差なし(HR 0.82) |
| 3ヶ月時BSCVA | 有意差なし |
| 有害事象 | VRC群48.7% vs 偽薬群23.1% |
ボリコナゾール内服群では肝酵素上昇や幻視などの有害事象が多かった。Fusariumサブグループでは穿孔/TPK発生率の低下傾向が認められた(HR 0.49; P=0.03)。
Fusarium角膜炎のみを解析したところ、ナタマイシン点眼に経口ボリコナゾールを追加することが有益である可能性が示された。穿孔/TPKのハザードが0.43倍に減少し(P=0.1)、浸潤/瘢痕サイズが3週間時点で1.89mm小さかった(P<0.001)。
感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)のCQ-6では、真菌性角膜炎に対するボリコナゾール自家調製点眼を「条件付きで推奨する」(推奨の強さ:弱く推奨、エビデンスレベル:B)としている2)。Fusarium属に対してはピマリシン(ナタマイシン)がボリエン系第一選択薬として推奨されている2)。
日本では5%ピマリシン点眼薬(ナタマイシン)と1%ピマリシン眼軟膏が使用可能であり、海外の5%ナタマイシン点眼液に相当する2)。ボリコナゾール点眼は保険適用外の自家調製剤であるが、Fusarium属以外の糸状菌やピマリシン不応例で使用を検討すべきである2)。
日本で保険適用のある眼局所用抗真菌薬はピマリシン(5%点眼薬および1%眼軟膏)のみである。そのほかに自家調製剤として、ボリコナゾール1%点眼液、フルコナゾール0.2%点眼液、ミコナゾール0.1%点眼液、ミカファンギン0.1%点眼液が使用される2)。全身投与としてはボリコナゾール内服やアムホテリシンB点滴も選択肢となるが、副作用に注意が必要である。
糸状菌は分岐性フィラメント状の多細胞性構造体であり、植物表面や土壌に生息する。角膜への外傷を契機に組織内に侵入し、菌糸を伸展させながら角膜実質を深層へ向かって進行する。
抗真菌薬の系統ごとに作用機序が異なる2)。
ナタマイシンは懸濁液であるため角膜深層への移行が限定的であるが、表層での殺真菌効果は強力である。ボリコナゾールは全身投与で前房内への移行が良好であり、MUTT 2における経口投与の根拠となった2)。
Maniamらは、白内障術後のCandida parapsilosis角膜炎2例において、薬物療法に抵抗した症例に対し23G硝子体カッターによる前房洗浄とendothelial plaque除去を施行し、良好な視力回復を得たことを報告した1)。前房洗浄はTPK(治療的角膜移植術)を回避するための補助的治療法となりうる1)。
起炎真菌は国や地域によって異なり、Fusarium属の占める割合が治療成績に影響する2)。MUTT試験の結果の解釈にはこの点を考慮する必要がある。薬剤耐性の動向監視、新規抗真菌薬の開発、角膜クロスリンキングの併用効果3)などが今後の研究課題である。
MUTT 2は、進行期真菌性角膜炎において経口ボリコナゾールの追加投与が全体的な転帰を改善しないことを示した。しかしFusariumサブグループでは穿孔リスクの減少傾向が認められ、ナタマイシン点眼に経口ボリコナゾールを併用する有用性が示唆された。ただし経口ボリコナゾールは有害事象(肝酵素上昇、幻視)が多いため、使用にはリスクとベネフィットの慎重な判断が必要である。