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角膜・外眼部疾患

真菌性角膜潰瘍治療試験(MUTT 1 & 2)

1. 真菌性角膜潰瘍治療試験(MUTT)とは

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真菌性角膜炎は、特に発展途上国において重篤な視機能障害を引き起こす角膜潰瘍群である。植物性外傷やステロイド長期使用が発症の素因となる2)。症状が乏しいために診断が遅れやすく、治療に対する反応も細菌感染に比べて不良である。

ナタマイシン(ピマリシン)点眼液は、真菌性角膜炎に対してFDA承認を受けた唯一の点眼薬である。一方、in vitro研究ではトリアゾール系薬剤であるボリコナゾールがより優れた抗真菌活性を示すとの報告があった。しかし両薬剤を比較したRCTは不足していた。

MUTT試験はこの臨床的問題に対して、米国国立眼科研究所(NEI)の支援のもとインド南部(およびネパール)で実施された大規模RCTである。MUTT 1(2013年発表)とMUTT 2(2016年発表)の2つの試験で構成される。

Q ナタマイシンとボリコナゾールはどう使い分けるのですか?
A

MUTT 1の結果を踏まえ、Fusarium属による真菌性角膜炎にはナタマイシン(ピマリシン)が第一選択である。ボリコナゾールのFusarium属に対する効果は劣り、単剤療法として使用すべきではない。一方、Fusarium属以外の糸状菌(特にAspergillus属)や、ピマリシンに反応しない症例では、ボリコナゾール点眼の使用が推奨される2)

2. 真菌性角膜炎の主な症状と臨床所見

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  • 視力低下角膜潰瘍の進行に伴い生じる
  • 疼痛:進行すると強くなる
  • 充血:毛様充血を伴う

初期には痛みなどの症状が乏しいことがあり、診断の遅れにつながる。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

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糸状菌と酵母菌では臨床所見が異なる。MUTT試験の対象は糸状真菌性角膜炎である。

  • 羽毛状潰瘍(hyphate ulcer):白色〜灰白色の境界不明瞭な病巣で、糸状菌感染に特徴的である2)
  • 角膜後面プラーク(endothelial plaque)角膜内皮面に円板状に付着する沈着物であり、糸状菌に特有の所見である2)
  • 前房蓄膿前房内の強い炎症を反映する
  • 角膜穿孔:感染が増悪し実質融解が進行すると発生する

糸状菌性角膜炎ではFusarium属(特にFusarium solani)が最も頻度が高い2)。次いでAspergillus属、Alternaria属、Paecilomyces属が挙げられる。

  • 植物性外傷:糸状菌は植物表面や土壌に生息しており、植物による突き眼や農作業中の眼外傷が最大のリスクである2)
  • ステロイド点眼:糸状菌・酵母菌の両方に共通するリスク因子である2)ステロイド角膜所見を修飾し、典型的所見を不明瞭にする
  • コンタクトレンズ装用:糸状菌感染のリスク因子である2)

確定診断には病巣部の擦過と微生物学的検査が必須である2)

  • 塗抹検鏡:グラム染色で菌糸を確認する。ファンギフローラY染色が真菌の特異的検出に有用である2)
  • 培養検査:Sabouraud寒天培地やポテトデキストロース培地を使用する。37℃と室温の2条件で少なくとも2週間の培養が必要である
  • 前眼部光干渉断層計AS-OCT角膜病変の深さや角膜厚の評価に有用である2)
  • 生体内共焦点顕微鏡(IVCM)角膜内の真菌菌糸を非侵襲的に観察できるが、解釈には熟練を要する2)

5. MUTT試験の結果と治療への示唆

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MUTT 1:ナタマイシン vs ボリコナゾール

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試験デザイン

デザイン:ランダム化二重盲検対照多施設共同試験(インド南部)

対象:塗抹陽性の糸状真菌性角膜炎323例(Fusarium属128例[40%]、Aspergillus属54例[17%]、その他141例[43%])

介入:5%ナタマイシン点眼 vs 1%ボリコナゾール点眼(上皮化まで1時間ごと、その後3週間1日4回)

主要評価項目:3ヶ月後の最高眼鏡矯正視力(BSCVA)

主要な結果

3ヶ月時BSCVA:ナタマイシン群が1.4ライン優位(回帰係数 -0.18 logMAR; P=0.06)

Fusariumサブグループ:ナタマイシン群が4.1ライン優位(回帰係数 -0.41 logMAR; P<0.001)

穿孔/TPK:ボリコナゾール群で有意に高頻度(34例 vs 18例; OR 0.42; P<0.001)

微生物学的治癒(6日目):ナタマイシンが優れていた(培養陽性率 15% vs 48%)

MUTT 1の結論として、糸状真菌性角膜炎、特にFusarium属において、ナタマイシンはボリコナゾールより良好な転帰を示した。Fusarium角膜炎の治療においてボリコナゾールを単剤療法として使用すべきではない。

MUTT 2:経口ボリコナゾールの追加効果

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MUTT 2は進行期真菌性角膜炎視力20/400未満)240例を対象とした。全例にナタマイシン点眼+ボリコナゾール点眼を投与し、経口ボリコナゾール群(初日400mg×2回/日、以後200mg×2回/日を20日間)とプラセボ群を比較した。

評価項目結果
穿孔/TPK有意差なし(HR 0.82)
3ヶ月時BSCVA有意差なし
有害事象VRC群48.7% vs 偽薬群23.1%

ボリコナゾール内服群では肝酵素上昇や幻視などの有害事象が多かった。Fusariumサブグループでは穿孔/TPK発生率の低下傾向が認められた(HR 0.49; P=0.03)。

二次解析:Fusarium角膜炎に対する経口ボリコナゾール

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Fusarium角膜炎のみを解析したところ、ナタマイシン点眼に経口ボリコナゾールを追加することが有益である可能性が示された。穿孔/TPKのハザードが0.43倍に減少し(P=0.1)、浸潤/瘢痕サイズが3週間時点で1.89mm小さかった(P<0.001)。

日本のガイドラインにおける位置づけ

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感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)のCQ-6では、真菌性角膜炎に対するボリコナゾール自家調製点眼を「条件付きで推奨する」(推奨の強さ:弱く推奨、エビデンスレベル:B)としている2)。Fusarium属に対してはピマリシン(ナタマイシン)がボリエン系第一選択薬として推奨されている2)

日本では5%ピマリシン点眼薬(ナタマイシン)と1%ピマリシン眼軟膏が使用可能であり、海外の5%ナタマイシン点眼液に相当する2)。ボリコナゾール点眼は保険適用外の自家調製剤であるが、Fusarium属以外の糸状菌やピマリシン不応例で使用を検討すべきである2)

Q 日本で使用できる真菌性角膜炎の治療薬は何ですか?
A

日本で保険適用のある眼局所用抗真菌薬はピマリシン(5%点眼薬および1%眼軟膏)のみである。そのほかに自家調製剤として、ボリコナゾール1%点眼液、フルコナゾール0.2%点眼液、ミコナゾール0.1%点眼液、ミカファンギン0.1%点眼液が使用される2)。全身投与としてはボリコナゾール内服やアムホテリシンB点滴も選択肢となるが、副作用に注意が必要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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糸状菌は分岐性フィラメント状の多細胞性構造体であり、植物表面や土壌に生息する。角膜への外傷を契機に組織内に侵入し、菌糸を伸展させながら角膜実質を深層へ向かって進行する。

抗真菌薬の系統ごとに作用機序が異なる2)

  • ボリエン系(ナタマイシン、アムホテリシンB):真菌細胞膜のエルゴステロールに直接結合し、膜を障害する。殺真菌的効果を発揮する
  • アゾール系(ボリコナゾール、フルコナゾール):エルゴステロール合成を阻害し、静真菌的効果を発揮する。薬剤選択性が高く比較的安全だが、Fusarium属には効果が弱い2)
  • キャンディン系(ミカファンギン):細胞壁のβ-グルカン合成を選択的に阻害する。Candida属・Aspergillus属に有効だが、Fusarium属には無効である2)

ナタマイシンは懸濁液であるため角膜深層への移行が限定的であるが、表層での殺真菌効果は強力である。ボリコナゾールは全身投与で前房内への移行が良好であり、MUTT 2における経口投与の根拠となった2)

  • 視覚関連QOL(2021年解析):ナタマイシンはボリコナゾールと比較してより良好な視覚関連QOLをもたらした
  • アゾール耐性(2022年解析):Fusarium属およびAspergillus属でアゾール耐性が増加傾向にある
  • 自己判断による抗真菌薬使用(2024年解析):予後不良および角膜穿孔と関連していた

Maniamらは、白内障術後のCandida parapsilosis角膜炎2例において、薬物療法に抵抗した症例に対し23G硝子体カッターによる前房洗浄とendothelial plaque除去を施行し、良好な視力回復を得たことを報告した1)前房洗浄はTPK(治療的角膜移植術)を回避するための補助的治療法となりうる1)

起炎真菌は国や地域によって異なり、Fusarium属の占める割合が治療成績に影響する2)。MUTT試験の結果の解釈にはこの点を考慮する必要がある。薬剤耐性の動向監視、新規抗真菌薬の開発、角膜クロスリンキングの併用効果3)などが今後の研究課題である。

Q MUTT 2の臨床的意義は何ですか?
A

MUTT 2は、進行期真菌性角膜炎において経口ボリコナゾールの追加投与が全体的な転帰を改善しないことを示した。しかしFusariumサブグループでは穿孔リスクの減少傾向が認められ、ナタマイシン点眼に経口ボリコナゾールを併用する有用性が示唆された。ただし経口ボリコナゾールは有害事象(肝酵素上昇、幻視)が多いため、使用にはリスクとベネフィットの慎重な判断が必要である。

  1. Maniam A, Chee Min L, Kiet Phang L, Vendargon FM, Othman O. Postoperative Fungal Keratitis Managed by Anterior Chamber Washout and Intracameral Amphotericin-B: A Report of Two Cases. Cureus. 2021;13(12):e20769. doi:10.7759/cureus.20769. PMID:35111454; PMCID:PMC8793004.
  2. 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2023;127(10):859-895.
  3. American Academy of Ophthalmology. Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024.

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