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その他

綿糸法(フェノールレッド綿糸試験)(Phenol Red Thread Test)

1. 綿糸法(フェノールレッド綿糸試験)とは

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綿糸法(フェノールレッド綿糸試験)は、pH指示薬であるフェノールレッドを含浸させた綿糸を下眼瞼結膜囊に装着し、15秒間の涙液浸透距離(mm)を測定することで涙液分泌量を定量評価する検査である。

1982年に開発され、Zone-Quick®(メニコン社)として市販された。Schirmer試験と異なり測定時間が15秒と短く、反射性分泌を誘発しにくい点が特徴である。そのため基礎涙液分泌量の評価に適しており、外来での迅速なスクリーニングが可能である。

ドライアイ診療ガイドライン(日本眼科学会誌 2019)では、涙液量評価の検査として記載されている1)。2006年版の診断基準では綿糸法にて10 mm以下が涙液異常の陽性基準として採用されていた。2016年版以降は主診断基準がBUT涙液層破壊時間)5秒以下に変更されたが、補助的な涙液量評価手段として有用性は維持されている1)

主な目的と適応

  • ドライアイの涙液分泌量スクリーニング
  • Sjögren症候群など涙液減少型ドライアイの経過観察
  • 白内障屈折矯正手術前のドライアイ評価
  • 小児・高齢者への侵襲の少ない涙液評価
  • Schirmer試験の代替または補助検査
Q 綿糸法とSchirmer試験(シルマーテスト)はどう違うか?
A

綿糸法は直径0.5 mmのフェノールレッド含浸綿糸を用い、15秒で測定が完了する。Schirmer試験は幅5 mm・長さ35 mmのろ紙を用い、5分間で測定する。綿糸法は短時間で反射性分泌の影響を受けにくく低侵襲であるが、エビデンスの蓄積ではSchirmer試験がより多い。スクリーニングには綿糸法、精査にはSchirmer試験と使い分けることができる。

  • フェノールレッド含浸綿糸(Zone-Quick®または同等品):直径0.5 mm
  • 定規またはスケール(変色長の測定用)
  • 点眼麻酔不要(低侵襲検査)
  1. 患者を椅子に座らせ、顔を正面に向けて軽く開瞼させる
  2. 綿糸の先端3 mmを折り曲げ、折り曲げ部を下眼瞼外側1/3の結膜囊(fornix)に引っかける
  3. 患者に普通に開瞼したままにするよう指示し、15秒間静かに待機する
  4. 15秒後に綿糸を取り出し、変色した長さ(黄色から赤色に変わった部分)をmmで計測する
  5. 左右眼それぞれ測定し、記録する
  • 綿糸が角膜に触れないよう、下眼瞼外側に正確に装着する
  • 点眼麻酔は不要であり、前処置なしで実施できる
  • 測定前に点眼薬(人工涙液など)が投与されていた場合は、少なくとも5〜10分の間隔をあけることが望ましい
  • 強い照明や感情的刺激は反射性分泌を増加させる可能性があるため、安静な環境で実施する
  • 検査終了後は特別な後処置は不要である
Q 検査に痛みはあるか?
A

綿糸法は直径0.5 mmの細い綿糸を下眼瞼に軽く引っかけるだけの検査であり、点眼麻酔は不要である。Schirmer試験のろ紙と比較して接触面積が小さく、刺激が少ない。若干の異物感を感じることはあるが、痛みはほとんどない。15秒という短い測定時間のため患者の負担も最小限であり、小児や高齢者にも実施しやすい。

変色長(15秒間)評価臨床的意義
10 mm以上正常涙液分泌量は正常範囲
5〜9 mm境界域軽度の涙液分泌低下を示唆
5 mm以下異常重度の涙液減少型ドライアイを示唆

2006年版ドライアイ診断基準では「綿糸法にて10 mm以下」が涙液量・質の異常に対する陽性基準の1つとして記載されていた1)

2016年版改訂ガイドラインでは主診断基準がBUT涙液層破壊時間)5秒以下に変更された1)。綿糸法の単独陽性でドライアイと診断するのではなく、症状・BUTなど他の所見と組み合わせて総合判断する。

  • 変色長は個人差・日内変動があるため、単回測定よりも経時的な推移を観察する
  • 測定時の室温・湿度・開瞼の度合いによって結果が変動しうる
  • 正常値内であってもBUT短縮・フルオレセイン染色など他の異常所見を伴う場合は蒸発亢進型ドライアイを考慮する

スクリーニングとしての有用性

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外来診療での涙液評価において、短時間・低侵襲という特性から綿糸法はスクリーニングとして有用である。

  • 外来スクリーニング:Schirmer試験は5分を要するが、綿糸法は15秒で完了するため診察の流れを妨げない
  • 小児への適用:5分間の安静を保てない小児においても15秒であれば協力を得やすい
  • 高齢者への適用:疼痛に敏感な高齢者でも点眼麻酔なしで実施可能
  • Sjögren症候群:涙液腺機能低下を伴う免疫疾患の涙液量評価および経過観察に活用される
  • 術前スクリーニング白内障手術・LASIK等の屈折矯正手術前のドライアイ評価として実施されることが多い

他のドライアイ検査との位置づけ

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ドライアイの診断は涙液の量的異常と質的異常(BUT短縮)の両面から評価する。綿糸法は量的評価の一手段であり、BUTフルオレセイン角膜染色・リサミングリーン結膜染色などの質的評価と組み合わせて使用される1)

Q 綿糸法は現在も実際の診療で使われているか?
A

使われている。2016年版ドライアイ診療ガイドラインでの主診断基準からは外れたものの、短時間・低侵襲で涙液量を評価できる利点から外来スクリーニングや小児・高齢者の検査に引き続き活用されている。Schirmer試験と組み合わせて、あるいは代替として使用されることが多い。

5. Schirmer試験との比較と使い分け

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項目綿糸法(フェノールレッド綿糸試験)Schirmerテスト(第I法)
測定時間15秒5分
使用器材直径0.5 mm綿糸(Zone-Quick®等)幅5 mm・長さ35 mmろ紙
測定内容主に基礎分泌量(反射性分泌の影響少)基礎分泌 + 反射性分泌(第I法)
点眼麻酔不要不要(第I法)、必要(第II法)
侵襲性低い(異物感が少ない)やや高い(ろ紙の刺激)
再現性比較的良好ばらつきが多い
痛みほぼなし不快感がある
エビデンス量中程度豊富
正常基準10 mm以上(15秒)10 mm以上(5分、Schirmer I法)

スクリーニング目的や患者負担を最小限にしたい場合は綿糸法が適している。Sjögren症候群など涙液分泌機能を詳細に評価したい場合や、診断エビデンスとしての蓄積が重要な場合はSchirmer試験(特に第II法)を選択する。

フェノールレッドのpHによる変色:pH 6.0(黄色)からpH 8.0(赤色)へのグラデーション
フェノールレッドのpHによる変色:pH 6.0(黄色)からpH 8.0(赤色)へのグラデーション
Max schwalbe, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0
フェノールレッド40 µMをDMEMに溶解した際のpH 6.0〜8.0における色調変化を示す。本文「6. 測定原理」の項で扱う涙液(pH約7.4)接触による黄色から赤色への変色反応に対応する。

フェノールレッド(フェノールスルホンフタレイン)はpH指示薬であり、以下の変色特性をもつ。

  • 変色域:pH 6.8〜8.4(低pH:黄色 → 高pH:赤色)
  • 乾燥状態(綿糸単体):黄色(酸性側)
  • 涙液接触後:赤色(涙液はpH約7.4でアルカリ性)

涙液のpHは通常7.0〜7.8であるが、その値はフェノールレッドの変色域中〜高pHに位置するため、涙液接触部が鮮明な赤色に変色する。乾燥部分との境界が明確であり、変色長の判定が容易である。

綿糸への涙液吸収は主に毛細管現象による。下眼瞼結膜囊に接触した綿糸は毛細管力で涙液を吸い上げ、吸い上げた距離分だけフェノールレッドが変色する。変色の先端位置が涙液の浸透距離を示し、それをmmで計測することで涙液分泌量を間接的に定量化する。

反射性分泌が少ない理由は、細い綿糸(直径0.5 mm)の接触面積が小さいためである。Schirmer試験のろ紙(幅5 mm)と比べると刺激が少なく、反射性分泌が誘発されにくい。これにより基礎分泌量に近い値が測定されると考えられている。

涙液メニスカス測定との相関研究

Section titled “涙液メニスカス測定との相関研究”

前眼部OCT光干渉断層計)による涙液メニスカス高(TMH: Tear Meniscus Height)の測定は、非接触で客観的な涙液量評価を可能にする。TMHと綿糸法変色長との相関研究が進められており、TMHが0.2 mm未満で涙液減少型ドライアイとの関連が報告されている。綿糸法との組み合わせにより涙液評価の精度が向上する可能性がある。

涙液メニスカス断面積をOCTで定量化する手法と綿糸法の比較研究が報告されている。いずれの方法も涙液量を反映するが、測定する涙液プールの部位・時間が異なるため、それぞれの特性を理解した上で使用することが重要である。

ドライアイ治療効果モニタリングへの応用

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ジクアホソルナトリウム(3%)やレバミピドなどの点眼治療前後での綿糸法測定値の変化を追跡する研究がある。治療効果の客観的指標として綿糸法が活用される可能性があり、外来での簡便な治療効果確認手段としての役割が期待される。

  1. 島﨑潤, 横井則彦, 渡辺仁, 他; ドライアイ研究会. ドライアイ診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(5):489-592.

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