前駆病変
日光角化症: 40代以降の色白の人に多い過角化病変。円形〜楕円形で紅斑性基部を伴う。有棘細胞原位癌とみなされる。
Bowen病(原位癌): 持続的な褐色〜赤色斑として現れる。乾癬や湿疹と誤診されやすい。HPV16型との関連が強い。放置すると浸潤癌(扁平上皮癌)になる。
皮角: 丘疹〜結節状の基部に角質キャップを持つ。基部に原位癌や浸潤性扁平上皮癌を伴うことがあり、常に切除が必要。
角化棘細胞腫: 中央に角質クレーターを持つカップ状結節。扁平上皮癌の亜型として分類されることもある。
眼瞼扁平上皮癌は、皮膚上皮の有棘層から発生する浸潤性悪性腫瘍である。眼瞼悪性腫瘍の中で基底細胞癌に次いで2番目に多い。
眼瞼扁平上皮癌には2つの発生様式がある。
結膜面(瞼結膜)発生型は日本では多い。瞼結膜面に花火状の腫瘍血管が透見できる扁平な赤色調の腫瘍を形成する。角化が強いと白色調を呈する。腫瘍が増殖隆起すると結節性病変を呈する。初発病巣は良性の結膜乳頭腫との鑑別を要する。乳頭腫が細い血管茎を介して結膜面から成長するのに対し、扁平上皮癌は広基性に発育する。
皮膚・睫毛部発生型は眼瞼付近の皮膚や睫毛部に発生する(まれ)。一部は日光角化症(次項)の悪性化と考えられる。角化の程度により白色・黄白色・あるいは紅色で、表面は粗糙である。角化傾向を示す好酸性の多角形腫瘍細胞が敷石状に増殖し、癌真珠(cancer pearl)を形成することがある。
なお、一見扁平上皮癌の組織像でも眼瞼内部から発生したようにみえる場合は、低分化脂腺癌の可能性を考える必要がある。
瞼結膜面から発生する扁平上皮癌は、眼表面扁平上皮腫瘍(ocular surface squamous neoplasia, OSSN)の概念とも重複する。OSSNは輪部・球結膜・角膜を中心とする上皮内〜浸潤性病変の総称で、眼瞼皮膚発生型はAJCC眼瞼分類に属し、瞼結膜発生型はOSSN(AJCC結膜分類)に属する4)。
発生率は人口10万人あたり0.09〜2.42人と報告されており2)、米国・カナダでは年齢調整した発症率が過去数十年で50〜200%増加している。欧米では眼瞼悪性腫瘍の5〜10%にとどまるが、インド536例の研究では18%を占め(脂腺癌53%・基底細胞癌24%に次ぐ3位)、日本の1研究では約48%を占めるとの報告もあり、アジアでは比率が高い1)。
インドの536例を対象とした後方視的研究(Kaliki 2019)では、診断時平均年齢55歳(範囲8〜90歳)、男女比は1:1.1とわずかに女性優位、好発部位は上眼瞼40%・下眼瞼41%であった1)。転移率は1〜21%と報告に幅があり、基底細胞癌より侵襲的な生物学的挙動を示す。
人口10万人あたり0.09〜2.42人と推定される。欧米では眼瞼悪性腫瘍の5〜10%を占めるが、アジアでは比率が高く、日本では眼瞼悪性腫瘍の約半数を占めるとの報告もある。

前駆病変と浸潤性扁平上皮癌で臨床像が大きく異なる。
前駆病変
日光角化症: 40代以降の色白の人に多い過角化病変。円形〜楕円形で紅斑性基部を伴う。有棘細胞原位癌とみなされる。
Bowen病(原位癌): 持続的な褐色〜赤色斑として現れる。乾癬や湿疹と誤診されやすい。HPV16型との関連が強い。放置すると浸潤癌(扁平上皮癌)になる。
皮角: 丘疹〜結節状の基部に角質キャップを持つ。基部に原位癌や浸潤性扁平上皮癌を伴うことがあり、常に切除が必要。
角化棘細胞腫: 中央に角質クレーターを持つカップ状結節。扁平上皮癌の亜型として分類されることもある。
浸潤性扁平上皮癌
結膜発生型: 花火状の腫瘍血管を伴う扁平な赤色調腫瘍。角化が強いと白色調。増殖隆起すると結節性病変。
皮膚発生型: 白色・黄白色・紅色で表面粗糙。結節型(52%)や潰瘍型(40%)を呈する。
腫瘍の浸潤方向に注意: 腫瘍が瞼縁を越え瞼板の前方にまで浸潤していれば、脂腺癌に準じて眼瞼全層切除と再建術が必要となる。
眼瞼所見: 睫毛脱落・毛細血管拡張・眼瞼構造の歪み・眼瞼位置異常。
扁平上皮癌の発生は複数のリスク因子が重なることで促進される。
大きく高まる。皮膚の扁平上皮癌は固形臓器移植後に最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、5年以内の発症率は肺移植で30%、心臓移植で最大26%に達する。移植後は定期的な皮膚・眼科的検査が重要である。
臨床診断と病理診断の一致率は扁平上皮癌で46%と低く(基底細胞癌の86%・脂腺癌の91%と比較)、病理組織検査(切除生検)による確定診断が不可欠である1)。
術前には転移の有無を確認するため、頭頸部CTまたはMRIを施行する。
結膜発生型病変には以下の非侵襲的診断補助ツールが有用である4)。
臨床的に基底細胞癌や低分化脂腺癌との区別が困難な場合、免疫組織化学染色が補助診断として有用である。
| マーカー | 扁平上皮癌 | 基底細胞癌 |
|---|---|---|
| Ber-EP4 | 陰性 | ほぼ常に陽性 |
| 上皮膜抗原(EMA) | 高陽性率 | 低陽性率 |
組織学的に腫瘍消失縁を確認した完全外科切除が最も強いエビデンスを持つ標準治療である。
**初期病巣(瞼結膜面に限局)**の場合、瞼板の一部を含めて全摘出する。切除断端陰性を確認した後、切除面に冷凍凝固(凍結融解, freeze and thaw)を2〜3セット追加する。
腫瘍が瞼縁を越え、瞼板の前方にまで浸潤した場合は、脂腺癌に準じて眼瞼全層切除と再建術が必要となる。
脂腺癌同様、術前には転移の有無(頭頸部CT/MRI)を確認する。
主な手術術式は以下のとおりである。
Kaliki 2019では広範切除生検が扁平上皮癌の76%に施行された1)。
液体窒素による組織破壊。日光角化症および扁平上皮原位癌にのみ適応される(浸潤癌には不適)。また、初期病巣では術中切除面への追加凍結融解として用いる。
手術リスクが高すぎる患者への単独療法、あるいは神経・リンパ節進展や境界不明瞭な癌に対する術後補助療法として使用される。週3〜5回、約1〜2ヶ月間の照射が行われる。扁平上皮癌は放射線感受性があり、根治切除困難な場合の選択肢となる。
遠隔転移を伴う進行性扁平上皮癌に適応される。
インド99例の扁平上皮癌患者における治療成績を以下に示す1)。
| 指標 | 割合 |
|---|---|
| 腫瘍再発 | 8% |
| 局所リンパ節転移 | 8% |
| 遠隔転移 | 4% |
| 疾患による死亡 | 4% |
| 眼球温存 | 79% |
5年Kaplan-Meier推定では、局所リンパ節転移22%・遠隔転移11%・転移関連死亡11%であった1)。
Kaliki 2019の研究では術後腫瘍再発が8%に認められた。5年Kaplan-Meier推定では局所リンパ節転移が22%に達することが示されており、手術後も定期的な経過観察が重要である。
紫外線はDNAを直接的(塩基転位)または間接的(活性酸素種を介した酸化的損傷)に損傷する2)。サンバーンによるアポトーシス誘導が防御機構として働くが、DNA修復が追いつかない場合に変異が蓄積する。
増殖・過角化 → 軽度〜中等度異形成 → 重度異形成・原位癌(日光角化症/Bowen病)→ 浸潤性扁平上皮癌 → 転移性扁平上皮癌
マルジョリン潰瘍: 慢性難治性創傷や長期火傷跡の瘢痕組織から扁平上皮癌が発生する病態。
眼瞼皮膚発生型(皮膚型)は有棘層細胞の段階的悪性化であり、AJCC眼瞼TNM分類で管理する。瞼結膜発生型は結膜上皮の異形成(CIN: conjunctival intraepithelial neoplasia)から浸潤性SCCへ進展するOSSNの一形態であり、AJCC結膜分類が適用される4)。
ステージ0〜IB
ステージ0(Tis N0 M0): 原位癌。基底膜を越えない。
ステージIA(T1 N0 M0): 腫瘍径5mm以下、瞼板非浸潤。
ステージIB(T2a N0 M0): 腫瘍径5mm超〜10mm以下、または瞼板浸潤。
ステージIC〜IV
ステージIC(T2b N0 M0): 腫瘍径10mm超〜20mm以下、または眼瞼全層進展。
ステージII(T3a N0 M0): 腫瘍径20mm超、または眼近接部位進展。
ステージIIIB(any T N1 M0): 所属リンパ節転移あり。
ステージIV(any T any N M1): 遠隔転移。
Kaliki 2019の病期分布はT1: 26%、T2: 37%、T3: 7%、T4: 29%であった1)。組織学的グレードはG1(高分化)〜G4(未分化)で、グレードが低いほど予後良好とされる。
Yeら(NEJM 2025)は、ZAP70の生殖細胞系列変異によるT細胞受容体シグナル障害を持つ34歳女性において、β-HPV19のゲノム統合を伴う治療抵抗性の浸潤性皮膚扁平上皮癌が発生した症例を報告した3)。この症例では典型的な扁平上皮癌ドライバー変異(TP53・NOTCH1/2・CDKN2A)は検出されず、紫外線変異シグネチャーも26%と低値(通常の皮膚扁平上皮癌平均77%と比較)であった。同種造血幹細胞移植によりT細胞受容体シグナルを修復したところ、HPV特異的T細胞応答が回復し、35か月の追跡で扁平上皮癌を含む全HPV関連疾患が安定消退した。
この報告は、適応免疫T細胞応答が扁平上皮癌の発症・進行の制御に関与することを示唆している3)。
セミプリマブ(抗PD-1抗体)は手術不能・転移性の皮膚扁平上皮癌に対してFDA承認されており、眼窩・リンパ節への進展例において今後の適応拡大が期待されている。免疫監視機構の関与が明らかになりつつあり、免疫抑制状態(臓器移植後・血液腫瘍など)での扁平上皮癌リスク増大もT細胞応答の制御異常と関連すると考えられている2)3)。
抗PD-1抗体セミプリマブが手術不能・転移性の皮膚扁平上皮癌に対してFDA承認されている。HPV駆動型扁平上皮癌では造血幹細胞移植による免疫再建で腫瘍が消退した症例報告もある。ただし後者は研究段階の知見であり、一般的な標準治療ではない。
早期発見・完全切除で予後は良好である。一方、基底細胞癌より侵襲的な生物学的挙動を示し、眼窩・リンパ節・遠隔臓器への転移リスクを持つ。悪性眼窩浸潤例は腫瘍内科・放射線腫瘍科等との多職種連携で管理する。
フォローアップの要点は以下のとおりである。
5年Kaplan-Meier推定では局所リンパ節転移22%・遠隔転移11%・転移関連死亡11%が示されており1)、長期的なサーベイランスが求められる。