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腫瘍・病理

眼腫瘍摘出術と再建術(Ocular Tumor Resection and Reconstruction)

眼腫瘍摘出術は、眼球・眼窩・眼瞼・結膜などの眼組織に発生した腫瘍を外科的に切除する手術の総称である。 腫瘍の発生部位・組織型・良悪性の程度によって術式が大きく異なる。

再建術は摘出後の整容的・機能的欠損を補うための手術であり、義眼台挿入・義眼装着・眼瞼形成・眼窩壁再建などが含まれる。 両者を組み合わせることで、腫瘍制御と患者の生活の質確保が同時に目指される。

眼窩腫瘍に対しては全摘出を目標とするが、腫瘍の生物学的特性によっては生検後の補助療法や眼窩内容除去術が選択される。 疾患別の手術方針は腫瘍外科の基本原則に従い、術前の画像診断と病理組織診断を組み合わせて決定される。

眼窩腫瘍摘出術には部位・進展様式に応じた複数のアプローチが存在する。

  • 前方アプローチ(anterior approach): 前方・前外側に位置する腫瘍が対象。眼瞼や結膜からの直接到達経路であり低侵襲。
  • 側方アプローチ(lateral approach): 涙腺腫瘍や筋円錐内腫瘍が適応。外側眼窩壁の骨切り(骨切術)を併用することが多く、広い術野を確保できる。
  • 涙囊切断アプローチ: 涙囊・鼻涙管領域に進展した腫瘍に用いる。
  • 経頭蓋的アプローチ(transcranial approach): 眼窩先端部や頭蓋内に進展した腫瘍が対象。脳神経外科との協力が必要。
  • 経副鼻腔アプローチ(transnasal/transantral approach): 眼窩内側壁・下壁に接する腫瘍が適応。副鼻腔内視鏡手術との併用も行われる。

これらを組み合わせることで、眼窩全域に及ぶ腫瘍への対応が可能になる。

Q 眼窩腫瘍摘出のアプローチはどのように決めるか?
A

腫瘍の部位・大きさ・隣接構造(骨・頭蓋内・副鼻腔)への浸潤の程度により選択する。前方に位置する小型腫瘍には前方アプローチが用いられ、涙腺腫瘍や筋円錐内腫瘍には骨切りを伴う側方アプローチが適している。眼窩先端や頭蓋内進展例では経頭蓋的アプローチが、内側・下方病変には経副鼻腔アプローチが選ばれる。術前CTとMRIによる3次元的な腫瘍の広がり評価が不可欠である。

眼腫瘍の術前に認められる主要な症状と臨床所見を以下に示す。 症状の性質は腫瘍の発育速度・部位・良悪性によって異なる。

  • 眼球突出(proptosis): 眼窩内腫瘤による眼球前方偏位。良性腫瘍では緩徐に進行し、悪性では急速に増大する。
  • 眼球偏位: 腫瘍の発生部位に応じた方向へ眼球が偏位する。涙腺部腫瘍では下内方偏位が典型的。
  • 複視: 外眼筋視神経への圧迫・浸潤により生じる。
  • 疼痛: 腺様囊胞癌など神経周囲浸潤を来す悪性腫瘍で顕著。良性腫瘍では通常無痛性。
  • 視力低下: 視神経黄斑部への影響で生じる。
  • 眼瞼下垂・眼瞼腫脹: 眼窩上部腫瘍や涙腺腫瘍に多い。

手術方針の決定には術前の精密検査が必要である。

  • CT検査: 腫瘍の局在・骨変化・石灰化を評価する。骨浸潤の有無がアプローチ選択に直結する。
  • MRI検査: 軟部組織の評価・視神経・頭蓋内進展の有無を評価する。T2強調像・造影像が重要。
  • 全身検索(PET/CT・胸腹部CT): 悪性腫瘍疑い例では全身転移・原発巣の検索が必要。
  • 病理組織検査(生検): 組織型の確定が治療方針決定に必須。ただし多形腺腫疑い例では被膜破綻防止のため生検を回避する場合がある。
眼瞼基底細胞癌に対するMohs顕微鏡的手術後の菱形皮弁による再建
眼瞼基底細胞癌に対するMohs顕微鏡的手術後の菱形皮弁による再建
Peirano D, et al. Management of periocular keratinocyte carcinomas with Mohs micrographic surgery and predictors of complex reconstruction. An Bras Dermatol. 2024. Figure 3. PMCID: PMC10943309. License: CC BY 4.0.
眼窩内側縁の微小結節型基底細胞癌に対し、Mohs顕微鏡的手術で腫瘍陰性マージンを2段階で確認した後、菱形皮弁(rhomboidal flap)で欠損を閉鎖した術前・術直後の4枚組写真。本文「疾患別の手術方針」の項で扱う眼瞼腫瘍に対するMohs手術と皮弁再建に対応する。

疾患の組織型によって手術の目標と術式が大きく異なる。眼瞼基底細胞癌有棘細胞癌などの皮膚癌型病変ではMohs顕微鏡的手術が再発率を抑える第一選択として確立しており[1,2]、結膜上皮内新生物・有棘細胞癌などの結膜上皮性腫瘍では切除+凍結療法後の羊膜移植による眼表面再建が長期良好な結果を示している[8]。

涙腺多形腺腫の代表として示す。

  • 完全摘出が原則: 被膜を破らないよう一塊として全摘出する。
  • 初回手術の重要性: 初回手術で完全摘出できないと、その後に再発や悪性転化(多形腺癌)が生じる。
  • 側方アプローチ+骨切り術: 涙腺部多形腺腫では側方アプローチと骨形成的骨切術を組み合わせる。
  • 生検・針生検は原則回避: 被膜破綻により腫瘍細胞が周囲組織に播種し、再発率が著しく高まる[6]。
  • 生検(切除生検): 全摘出は目標とせず、組織確定のための生検にとどめる。
  • 術後補助療法: 放射線治療・化学療法などの後療法に委ねる。
  • 試験切除の大きさ: 腫瘍片を少なくとも約5mm³以上確保し、フローサイトメトリー・遺伝子検査に供する。

難治性悪性腫瘍(腺癌・腺様囊胞癌など)

Section titled “難治性悪性腫瘍(腺癌・腺様囊胞癌など)”
  • 眼窩内容除去術(orbital exenteration)の適応: 全摘出も困難で、かつ術後の後療法の効果も期待できない腺癌・腺様囊胞癌に対して選択される。
  • 術後再建: 眼瞼・眼窩の整容的再建が重要課題となる。

良性腫瘍(多形腺腫等)

目標:被膜を破らない完全摘出

アプローチ:側方アプローチ+骨切り術が多い

禁忌:生検・針生検(被膜破綻リスク)

予後:初回完全摘出なら良好

悪性リンパ腫

目標:生検による組織型確定

アプローチ:試験切除(5mm³以上)

後療法:放射線治療・化学療法

予後:組織型に依存(MALT型は比較的良好)

難治性悪性腫瘍(腺癌等)

目標:局所制御(根治切除または減量)

術式眼窩内容除去術が適応となりうる

後療法:放射線治療・重粒子線治療

再建義眼台・眼窩形成術・プロステーゼ

眼窩内容除去術は、全摘出が困難でかつ術後後療法の効果が期待できない悪性腫瘍(腺癌・腺様囊胞癌等)に対して選択される。系統的レビュー・メタ解析では本術式後の5年全生存率が約50%、加重死亡率は約39%と報告されており、悪性黒色腫・涙腺腺様囊胞癌で予後が不良、眼瞼非有棘細胞癌型悪性腫瘍では比較的良好な生存が示されている[3,4,5]。

眼形成外科医による眼球摘出術の術中写真
眼形成外科医による眼球摘出術の術中写真
Mutter JC (photographer). Oculoplastic Surgeon Kami Parsa MD Enucleation. Wikimedia Commons. 2010. Figure 1. Source ID: commons.wikimedia.org/wiki/File:Oculoplastic_Surgeon_Kami_Parsa_MD_Enucleation.jpg. License: CC BY-SA 3.0.
眼形成外科医が眼球摘出術(enucleation)を施行している術中の実写真で、無菌的環境下で眼球を摘出する操作が確認できる。本文「眼窩内容除去術と再建術」の項で扱う眼球摘出・眼窩内容除去の術式に対応する。
  • 切除範囲: 眼球・眼窩脂肪・外眼筋視神経を含む眼窩内容を一括切除する。
  • 眼瞼処理: 腫瘍の波及に応じて眼瞼を温存する場合(lid-sparing)と切除する場合(non-lid-sparing)がある。
  • 骨膜処理: 骨膜温存型と骨膜摘出型に分けられ、骨膜温存型では術後の義眼床形成が容易になる。
眼窩内容除去術後の遊離前腕皮弁による再建術後2週の外観
眼窩内容除去術後の遊離前腕皮弁による再建術後2週の外観
Tan JA, et al. Orbital Exenteration and Reconstruction Using a Free Radial Forearm Flap in Conjunctival Melanoma. Cureus. 2023. Figure 3. PMCID: PMC10460132. License: CC BY 4.0.
結膜悪性黒色腫に対する眼窩内容除去術後に、遊離橈側前腕皮弁(free radial forearm flap)で眼窩欠損を被覆した術後2週の写真で、皮弁の生着と外観が確認できる。本文「眼窩内容除去術と再建術」の項で扱う術後皮弁再建と整容的管理に対応する。

眼窩内容除去術後の整容的管理は患者の心理的・社会的適応に大きく影響する。

  • 義眼台(orbital implant)の挿入: 眼球摘出術後に義眼台(ヒドロキシアパタイト製・シリコン製等)を挿入することで、義眼の動きが良好になる。
  • 義眼(prosthetic eye)の装着: 義眼台装着後に義眼師(ocularist)が義眼を作製・調整する。
  • 顔面プロステーゼ: 眼窩内容除去術後には眼窩全体を覆う顔面プロステーゼが使用される場合がある。
  • 皮弁再建: 広範な組織欠損がある場合、遊離皮弁や有茎皮弁による眼窩再建が行われる。
  • オッセオインテグレーション(骨結合型インプラント): 眼窩骨に固定されたインプラントへのプロステーゼ装着が整容的に優れた方法として用いられる。
Q 眼窩内容除去術後の生活はどうなるか?
A

術後は片眼の視力が失われるため、日常生活上の適応が必要となる。義眼台と義眼の装着により整容的外観を取り戻せる場合が多く、顔面プロステーゼも選択肢のひとつである。眼科・形成外科・義眼師・心理士が連携してリハビリテーションを支援する。術後の定期的な眼科フォローによって再発の早期発見も行う。

5. 補助療法(放射線・ステロイド・化学療法)

Section titled “5. 補助療法(放射線・ステロイド・化学療法)”

眼腫瘍に対する補助療法は外科的切除と組み合わせることで局所制御率・全身制御率を高める。

対象疾患照射線量の目安備考
低悪性度リンパ腫(MALT型等)30Gy程度局所制御良好
中等度以上の悪性度リンパ腫40Gy程度全身化学療法と併用
眼窩未分化癌等(極量)70Gy程度合併症リスクを承知のうえで照射

放射線感受性が高い悪性リンパ腫は眼窩部に限局した場合に放射線治療が有効である。 照射量が30Gyを超えると放射線白内障放射線網膜症放射線視神経症などの合併症が生じる危険性が増す。

重粒子線治療(炭素イオン線治療)

Section titled “重粒子線治療(炭素イオン線治療)”

重粒子線治療は、腺様囊胞癌など従来の外照射が困難な腫瘍に応用されている。 眼窩腫瘍(腺様囊胞癌・涙腺癌)への応用が進んでおり、眼内悪性黒色腫に対して開始された技術が眼窩腫瘍へと拡大している。 眼窩外進展を伴う涙腺癌に対する炭素イオン線治療の後ろ向き研究では、5年局所制御率62%・全生存率65%・同側眼球温存率86%が報告されており、放射線抵抗性腫瘍に対する有用な選択肢である一方、視神経障害・白内障緑内障などの晩期合併症が一定頻度で生じる[7]。 本治療では血管新生緑内障の合併が比較的多いため、術後の定期的な眼圧・眼底管理が必要である。

特発性眼窩炎症(idiopathic orbital inflammation)にはステロイド療法が効果的である。 以下の点に注意が必要である。

  • 悪性リンパ腫との鑑別: 悪性リンパ腫もステロイドである程度縮小するため、縮小をもって悪性でないと判断することは誤りである。
  • 真菌感染との鑑別: 特に眼窩先端部で炎症様病変が真菌感染巣である場合、ステロイド投与によって病変が増悪・拡大し生命の危険にさらされることがある。診断確定前の安易なステロイド投与は禁忌となる。
  • 全身性悪性リンパ腫: 化学療法(CHOP療法・R-CHOP療法等)が第一選択。
  • 副鼻腔悪性腫瘍のchemoreduction(化学縮小療法): 化学療法で腫瘍を縮小させた後に手術切除を行う。切除可能性を高めることが目的。
  • ホルモン療法: 眼窩転移を来した乳癌・前立腺癌に対して有効な場合がある。
  • 分子標的薬(ニボルマブ等の免疫チェックポイント阻害薬: 眼部悪性黒色腫の肝転移に対して適応が始まっている。

術後の再発モニタリングには定期的な画像評価が不可欠である。

  • MRI/CTによる再発評価: 術後3〜6か月ごとに画像評価を行い、局所再発・リンパ節転移・遠隔転移の有無を確認する。
  • 放射線治療後の眼科管理: 照射後には放射線白内障放射線網膜症視神経症の発症を定期的に評価する。特に照射線量が30Gyを超える症例では眼圧・眼底・視野の定期検査が重要。
  • 重粒子線治療後の眼圧管理: 血管新生緑内障が合併しやすいため、眼圧測定隅角検査蛍光眼底造影による定期管理が必要。
  • 義眼のメンテナンス: 定期的に義眼師による義眼の洗浄・調整・交換を行う。一般的に5〜7年で義眼の再製作が必要になる。
  • 眼窩インプラントの管理: ヒドロキシアパタイト製義眼台の血管新生が完了(術後約6か月)した後に義眼ペグを挿入することで、義眼の動きが向上する。
  • 心理的サポート: 眼球喪失・顔貌変容は患者の精神的負担が大きい。術後の心理的サポートが重要な支援の柱となる。
  • 涙腺多形腺腫(完全摘出例): 予後良好。ただし不完全摘出例は再発率が高く、繰り返す再発により悪性転化リスクが上昇する。
  • 腺様囊胞癌: 平均生存期間36か月、10年生存率20〜30%と予後不良。約50%で肺・骨転移を来す。系統的レビュー・メタ解析では、手術+動注化学療法+術後化学放射線療法の集学的治療で5年生存率78%と最良の成績が得られ、手術+放射線療法では67%、手術単独では50%と治療強度に応じた予後改善が示されている[6]。
  • 眼窩悪性リンパ腫(MALT型): 放射線治療への反応良好で予後は比較的良好。全身転移例では予後が悪化する。
  • 眼窩転移癌: 原発疾患の全身状態が予後を規定する。局所症状の緩和(眼球突出の軽減・視力維持)が目標となる。

経鼻内視鏡アプローチによる眼窩腫瘍摘出が一部施設で行われている。 低侵襲で顔面瘢痕を残さない利点があり、眼窩内側・下方病変に対する適応が拡大しつつある。 ただし適応は腫瘍の部位・大きさにより限定的であり、専門施設での施行が必要である。

オッセオインテグレーション技術の進歩

Section titled “オッセオインテグレーション技術の進歩”

チタン製インプラントを眼窩骨に骨結合させ、磁石式または棒状固定式でプロステーゼを装着する技術が進歩している。 従来の接着剤式に比べ装着安定性と整容的効果が高く、患者の生活の質向上に寄与すると報告されている。

免疫チェックポイント阻害薬の眼腫瘍への応用

Section titled “免疫チェックポイント阻害薬の眼腫瘍への応用”

ニボルマブ(抗PD-1抗体)やペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害薬が、眼部悪性黒色腫の転移例に対して適応拡大が検討されている。 眼窩転移癌・眼部悪性黒色腫に対する有効性・安全性の臨床試験が国際的に進行中である。

  1. Peirano D, Vargas S, Hidalgo L, et al. Management of periocular keratinocyte carcinomas with Mohs micrographic surgery and predictors of complex reconstruction: a retrospective study. An Bras Dermatol. 2024;99(2):202-209. doi:10.1016/j.abd.2023.05.004. PMID: 37989688.
  2. Patel SY, Itani K. Review of Eyelid Reconstruction Techniques after Mohs Surgery. Semin Plast Surg. 2018;32(2):95-102. doi:10.1055/s-0038-1642058. PMID: 29765274.
  3. Qedair J, Haider AS, Balasubramanian K, et al. Orbital Exenteration for Craniofacial Lesions: A Systematic Review and Meta-Analysis of Patient Characteristics and Survival Outcomes. Cancers (Basel). 2023;15(17):4285. doi:10.3390/cancers15174285. PMID: 37686561.
  4. Martel A, Baillif S, Nahon-Esteve S, et al. Orbital exenteration: an updated review with perspectives. Surv Ophthalmol. 2021;66(5):856-876. doi:10.1016/j.survophthal.2021.01.008. PMID: 33524457.
  5. Nagendran ST, Lee NG, Fay A, Lefebvre DR, Sutula FC, Freitag SK. Orbital exenteration: The 10-year Massachusetts Eye and Ear Infirmary experience. Orbit. 2016;35(4):199-206. doi:10.1080/01676830.2016.1176210. PMID: 27322708.
  6. Yan HH, Liu R, Wang N, et al. Treatment of lacrimal gland adenoid cystic carcinoma: a systematic review and Meta-analysis. Int J Ophthalmol. 2024;17(1):164-172. doi:10.18240/ijo.2024.01.22. PMID: 38239951.
  7. Hayashi K, Koto M, Ikawa H, Ogawa K, Kamada T. Efficacy and safety of carbon-ion radiotherapy for lacrimal gland carcinomas with extraorbital extension: a retrospective cohort study. Oncotarget. 2018;9(16):12932-12940. doi:10.18632/oncotarget.24390. PMID: 29560121.
  8. Palamar M, Kaya E, Egrilmez S, Akalin T, Yagci A. Amniotic membrane transplantation in surgical management of ocular surface squamous neoplasias: long-term results. Eye (Lond). 2014;28(9):1131-1135. doi:10.1038/eye.2014.148. PMID: 24993317.

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