結節型
外観:真珠光沢を帯びた丘疹・結節。表面に毛細血管拡張を認める。
中央部:病変が拡大するにつれ中央が陥凹し、潰瘍を形成することがある(結節潰瘍型)。
組織学的特徴:柵状配列を示す腫瘍細胞島と裂隙が特徴的である。

基底細胞癌は表皮の基底細胞層に由来する悪性腫瘍である。眼瞼悪性腫瘍の中で最も頻度が高く、局所浸潤性は強いが低悪性度腫瘍として知られる。
基底細胞癌は非黒色腫皮膚癌の約80%を占め1)、全皮膚悪性腫瘍の70〜80%にあたる。2) 欧米では眼瞼悪性腫瘍の82〜91%を占めるが8)、アジアでは11〜65%と地域差がある。8) インドの536例を対象とした研究では、基底細胞癌は眼瞼悪性腫瘍の24%を占め、平均発症年齢は60歳であった。8)
発生率はヨーロッパで過去10年に5%増加している。2) 死亡率は1%未満と低い。6) 細胞増殖能は低く、通常は遠隔転移をきたさない低悪性度腫瘍である。眼瞼での好発部位は下眼瞼・瞼縁・睫毛部付近であり、発生部位の内訳は下眼瞼59%、内眥13〜30%、上眼瞼15〜16%、外眥3〜5%とされる。8)
遠隔転移は極めて稀である。転移率は0.0028〜0.55%とされ1)、死亡率も1%未満6)であり、低悪性度腫瘍に分類される。ただし局所浸潤性は強く、放置すると深部組織へ進展する。
初期は無症状であることが多い。病変の進行に伴い以下の症状が出現する。
結節型と潰瘍型が臨床的に最も多く認められる。インドの多施設研究では結節潰瘍型51%・結節型42%であった。8) 腫瘍径中央値は12mm、厚さ4mmと報告されている。8) 色素性基底細胞癌はインド人で55%と高率に認められる一方、パリでは1%、地中海では45%と人種差がある。8)
結節型
外観:真珠光沢を帯びた丘疹・結節。表面に毛細血管拡張を認める。
中央部:病変が拡大するにつれ中央が陥凹し、潰瘍を形成することがある(結節潰瘍型)。
組織学的特徴:柵状配列を示す腫瘍細胞島と裂隙が特徴的である。
硬化型(浸潤型)
外観:瘢痕様の平坦な硬結。境界不明瞭で白色〜黄色調を示す。
浸潤:深部浸潤傾向が強く、眼窩へ進展するリスクが高い。
予後:再発率が高く、高リスク亜型として分類される。morpheaform型・微小結節型・basosquamous型も同様に高リスクである。
内眥部の病変は眼窩深部への浸潤傾向があるため、眼窩進展の評価が特に重要である。
病理組織学的には腫瘍細胞はCK5/6陽性・CK14陽性・CK20陰性・BerEP4陽性を示す。3)
下眼瞼が最多(50〜66%)であり、次いで内眥(13〜30%)に多い。8) 上眼瞼は15〜16%、外眥は3〜5%と少ない。内眥部は眼窩深部へ浸潤する傾向があるため注意を要する。
基底細胞癌の主な原因と発症リスクを高める要因を以下に示す。
転移リスクを高める因子を以下に示す。
| リスク因子 | 備考 |
|---|---|
| 腫瘍サイズ(5cm超で転移率25%、10cm超で50%) | 最大の因子1) |
| 男性 | 性差あり1) |
| 再発基底細胞癌 | 再発例で転移リスク上昇1) |
| 神経周囲浸潤 | 組織学的所見1) |
| 頭皮・耳介の原発 | 転移傾向が増大7) |
| 放射線治療歴・免疫抑制 | 治療関連因子1) |
日焼け止め・帽子・サングラスによる紫外線防御が一次予防として有効である。紫外線(特にUVB)が最大の環境因子であるため、日常的な紫外線対策が推奨される。
確定診断には切開生検による組織学的検査が必須である。臨床・病理学的一致率は基底細胞癌で86%と報告されている。8)
基底細胞癌と鑑別すべき主な疾患を以下に示す。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| Trichoblastoma | PHLDA1+、CK20+、AR−3) |
| 脂腺癌 | AR びまん性+、EMA+3) |
| 眼瞼母斑 | 良性、色素沈着、軟らかい質感 |
| 脂漏性角化症 | 良性、角質増殖、表面粗糙 |
基底細胞癌は眼窩浸潤性悪性新生物の第3位(約10%)を占め3)、内眥部の病変では特に眼窩浸潤を念頭に置く必要がある。
外科切除が標準治療の基本である。日本の診療ガイドライン・教科書では以下のマージンが推奨される。
インドの多施設研究では94%で広範切除が実施され、再発率は3%、眼球温存率は94%であった。8) 眼窩摘出を要した症例は5%であった。8)
国際標準(NCCNガイドライン)では、低リスク基底細胞癌に4mmの臨床マージンが推奨されている。2) 再発基底細胞癌の5年再発率は11〜17%と高く、再手術や補助療法が必要になる場合がある。2)
根治切除が困難な症例に適応される。再発率は初発基底細胞癌 7.4%、再発基底細胞癌 9.5%と報告されている。2) 局所制御率は腫瘍サイズ・浸潤深度の増大に伴い低下し、80〜85%となり、骨・軟骨浸潤時は50〜75%に低下する。1)
局所免疫療法
イミキモド5%クリーム:表在型基底細胞癌に対する局所免疫賦活薬。外科切除が困難な表在型病変に用いられる。
全身薬物療法
Vismodegib:ヘッジホッグ経路阻害薬(SMO阻害)。転移性基底細胞癌で奏効率30%、局所進行基底細胞癌で43%(Erivance試験)。1)
Sonidegib:ヘッジホッグ経路阻害薬。200mg/日投与で奏効率36%(BOLT試験)。1)
Cemiplimab:PD-1阻害薬。ヘッジホッグ経路阻害薬抵抗・不耐容例に承認。奏効率32%(第2相試験)。1)
局所進行例・転移例に対してはヘッジホッグ経路阻害薬(Vismodegib・Sonidegib)や免疫チェックポイント阻害薬(Cemiplimab)が用いられる。1) 放射線治療は根治切除が困難な症例に適応される。表在型基底細胞癌にはイミキモド5%クリームが選択肢となる。ただし外科切除が第一選択である。
日本の教科書では結節型に安全域1〜2mm、瞼縁病変は瞼板ごと切除、潰瘍型はdeep marginを深くとることが推奨される。術中迅速凍結切片と永久標本での断端確認が重要である。
基底細胞癌の発症にはヘッジホッグシグナル経路の異常活性化が中心的役割を果たす。正常状態ではPTCH1(Patched 1)タンパクがSMO(Smoothened)を抑制しており、ヘッジホッグリガンドが存在しない限りGLI転写因子は不活性状態に保たれる。
基底細胞癌ではPTCH遺伝子(9q22.3)の不活性化変異またはSMOの活性化変異により、SMOの恒常的活性化が生じる。その結果、GLI転写因子が核内に移行し、細胞増殖・生存・血管新生に関わる標的遺伝子の転写が亢進する。基底細胞癌の最大90%でこの経路の異常活性化が確認されている。1) 4)
腫瘍細胞は索状・島状構造を形成し、周辺に柵状配列を示すことが病理組織学的特徴である。シート状あるいは浸潤性の増殖パターンを示す亜型(morpheaform型・浸潤型・微小結節型)は再発リスクが高く、高リスク組織型として分類される。1) 6)
Casey MCら(2021)は進行基底細胞癌に対するCemiplimabの第2相試験を報告した。1) ヘッジホッグ経路阻害薬に抵抗または不耐容となった局所進行・転移性基底細胞癌患者を対象として、奏効率32%、奏効持続期間は1年超を達成した。
Nivolumab(PD-1阻害薬)とIpilimumab(CTLA-4阻害薬)の併用療法は試験が進行中であり、今後の結果が注目される。1)
転移性基底細胞癌の予後データを以下に示す。
| 転移経路 | 生存中央値 |
|---|---|
| リンパ行性転移 | 87ヶ月1) 4) |
| 血行性転移 | 24ヶ月1) 4) |
| 骨転移 | 12ヶ月7) |
転移部位は、リンパ節が最多(60%)で、次いで肺(42%)、骨(10%)、皮膚(10%)の順である。7) 頭頸部原発の転移性基底細胞癌 7症例のレビューでは、転移までの中央値は3年であった。4)
Ryan SEら(2024)は胸椎転移をきたした基底細胞癌に対して、手術・Vismodegib・放射線治療(25Gy/5回)の集学的アプローチを報告した。5) Vismodegibへの良好な反応が確認されており、転移性基底細胞癌に対するヘッジホッグ経路阻害薬の有効性を示す事例として注目される。
化学療法(白金製剤等)はヘッジホッグ経路阻害薬・免疫療法が無効の場合の第2〜3選択であり、役割は限定的である。1) 7)