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眼形成

特発性眼窩炎症(眼窩偽腫瘍)

眼窩組織には、感染症ではない非特異的な急性〜亜急性の炎症性病変がしばしば発生する。この病態は以下の3条件を同時に満たすことを特徴とする。

  1. 病理組織学的に非特異的 — 特定の原因を同定できない
  2. 抗菌薬に反応しない — 感染源の指摘が困難
  3. 副腎皮質ステロイド薬が著効する

この病態は従来「眼窩炎性偽腫瘍」と呼ばれてきた。腫瘍を形成したかのように眼球突出・眼瞼腫脹をきたすことから名付けられた古い時代の用語である。画像診断技術が限られていた時代の名称であり、MRIを駆使すれば炎症性病変を見抜くことが比較的容易となった現在では不適切な用語とされ、特発性眼窩炎症(idiopathic orbital inflammation; IOI) という診断名に置き換えられつつある1)

眼窩原発腫瘍の中で最多を占めるのはリンパ増殖性疾患群であり、眼窩腫瘍全体の50〜60%を占める。このリンパ増殖性疾患群には悪性リンパ腫、反応性リンパ過形成、IgG4関連眼疾患(IgG4-ROD)、そして特発性眼窩炎症が含まれる。IOIは全眼窩腫瘤性病変の約8〜10%を占めると報告されている1,2)

近年、IgG4関連眼疾患が独立した疾患として確立されたことにより、かつてIOIに含まれていた症例群が再分類され、IOIの疾患概念は縮小・精緻化されている。現在のIOIは、これらの特異的疾患を除外した後に残る「真の非特異的炎症」を指す3,4)

Q 「眼窩偽腫瘍」と「特発性眼窩炎症」は同じ病気ですか?
A

本質的には同じ病態を指す。「眼窩炎性偽腫瘍」は画像診断が限られていた時代の旧称で、腫瘍のように眼球突出をきたすことから名付けられた。MRIで炎症性病変を検出できる現在は「特発性眼窩炎症」に置き換えられつつある。ただし近年はIgG4関連眼疾患MALTリンパ腫が独立疾患として分離されたため、以前より疾患概念は狭義化されている。

急性〜亜急性に発症することが多く、以下の症状を呈する。

  • 眼瞼腫脹・発赤:患側眼瞼の腫れと発赤
  • 眼球突出眼窩内容の増大による
  • 眼球偏位:病巣部位によって眼球が押し出される
  • 眼球運動障害複視:特に外眼筋型・先端部型で顕著
  • 疼痛眼窩先端部型・筋組織型で強い疼痛を伴う
  • 視力低下眼窩先端部型で視神経への圧迫・浸潤により生じる

病巣は眼窩内をびまん性に広がることはまれで、涙腺・外眼筋・眼球周囲・眼窩先端部を中心とし、比較的境界不鮮明に広がることが多い。

CT/MRI画像所見をもとに、炎症の発生部位によって前部眼窩型・びまん性型・眼窩先端部型・筋組織型・涙腺型の5型に分類される1,2)

眼窩先端部型

好発部位眼窩先端部(視神経孔・上眼窩裂周囲)

主症状視力低下・強い疼痛・眼球運動障害

特記事項:5型中最重症。視神経に近接するため視神経障害のリスクが高い。感染症(特に真菌)との鑑別が必須。

筋組織型(眼窩筋炎)

好発部位外眼筋(腱付着部を含む)

主症状眼球運動障害複視。動眼時の疼痛。

特記事項外眼筋を選択的に侵す。予後良好。甲状腺眼症との鑑別が重要(腱付着部の関与が鑑別点)。

涙腺型

好発部位:涙腺

主症状:涙腺部の腫脹・疼痛。眼瞼外側の腫れ。

特記事項IgG4関連眼疾患(IgG4-ROD)との鑑別が最重要。IgG4-RODは無痛性・両側性が多い。

局在型別の特徴を以下に示す。

好発部位主症状特記事項
前部眼窩眼球周囲眼瞼腫脹・結膜充血
びまん性型眼窩脂肪組織眼球突出びまん性病巣。まれ
先端部型眼窩先端部視力低下・強い疼痛最重症。感染との鑑別必須
筋組織型外眼筋眼球運動障害複視予後良好
涙腺型涙腺涙腺腫脹・疼痛IgG4-RODとの鑑別
  • 急性型:急激な眼瞼腫脹・眼球突出で発症
  • 亜急性型:比較的緩慢に進行
  • 慢性型(特発性硬化性眼窩炎症):高度な線維化を伴う病変。ステロイド反応性が乏しく難治性
Q 特発性眼窩炎症のどの型が最も重症ですか?
A

眼窩先端部型が最も重症である。視神経に近接するため視力低下のリスクが高く、強い疼痛を伴う。また慢性型(特発性硬化性眼窩炎症)は高度な線維化のためステロイド反応性が乏しく難治性となる。外眼筋に局在する筋組織型は一般に予後が良好である。

眼窩原発腫瘍の中でリンパ増殖性疾患群(悪性リンパ腫・反応性リンパ過形成・IgG4関連眼疾患・IOIを含む)は最多を占め、眼窩腫瘍全体の50〜60%を占める。その中で特発性眼窩炎症は成人の良性眼窩疾患の代表的疾患の一つである。

IgG4関連眼疾患が独立疾患として確立された結果、従来IOIと診断されていた症例の一部が再分類され、純粋なIOIの頻度は縮小している。海外の報告では中年成人(40〜60歳代)に好発するとされているが、日本国内での詳細な疫学データは限られている。性差についても一定の傾向を示す大規模なデータは乏しい。

特発性眼窩炎症のMRI・CT:多焦点性病変と筋腱付着部を含む外眼筋腫大
特発性眼窩炎症のMRI・CT:多焦点性病変と筋腱付着部を含む外眼筋腫大
Ferreira TA, Saraiva P, Genders SW, et al. CT and MR imaging of orbital inflammation. Neuroradiology. 2018;60(12):1253–1266. Figure 8. PMCID: PMC6244997. DOI: 10.1007/s00234-018-2103-4. License: CC BY 4.0.
冠状断T1強調造影MRI(a, b)で右眼窩の上眼瞼挙筋・上直筋複合体および涙腺が多焦点性に増強され、びまん性の眼窩炎症が確認できる。矢状断CT(d)では上直筋の筋腹から腱付着部にかけて連続した造影効果(チューブ状配列)が示され、本文「4. 診断と鑑別診断」の項で扱う腱付着部を含む筋炎(甲状腺眼症との鑑別点)に対応する。

急性〜亜急性に発生する眼瞼腫脹・眼球突出・眼球偏位が認められた場合、CTおよびMRIによる画像診断を行う。

  • MRI T2強調STIR法:炎症性病変が高信号として描出される。炎症の局在評価に優れる。
  • MRI T1強調ガドリニウム造影脂肪抑制併用:高信号領域として描出される。病変範囲の評価に有用。
  • CT眼窩内病変の局在パターン評価(5型分類の確認)、骨破壊の有無、副鼻腔病変の確認に用いる。
  1. 病理組織学的に非特異的炎症所見
  2. 抗菌薬無効
  3. ステロイド著効

臨床的には、画像診断で特発性眼窩炎症が疑われた場合にステロイドの試験的投与を行い、著効すれば臨床診断が確定する方針が一般的である。

急性期・治療前の生検は、治療後に眼球運動障害などの後遺症を起こしやすいため、避けるのが一般的である。ただし以下の場合には生検を検討する。

  • ステロイドへの反応が不良な場合
  • 再発を繰り返す難治例
  • IgG4関連眼疾患・リンパ腫との鑑別が必要な場合

特に感染性疾患(眼窩蜂巣炎)と悪性疾患(MALTリンパ腫)との鑑別が重要である。Aryasitら(2021)の報告では、IOIと初期診断された45例のうち21例(46.7%)の組織にIgG4陽性形質細胞浸潤が確認されており、組織学的再評価とIgG4免疫染色が強く推奨されている4)

鑑別疾患鑑別のポイント
眼窩蜂巣炎感染性。発熱・白血球増多。CT/血液検査で鑑別
IgG4関連眼疾患IgG4陽性形質細胞の浸潤。血清IgG4高値。組織学的に鑑別
甲状腺眼症甲状腺機能異常。外眼筋腫大(筋腹のみ、腱付着部は温存)。亜急性経過
多発血管炎性肉芽腫症GPA)ANCA陽性。壊死性肉芽腫。多臓器病変
MALTリンパ腫緩慢な経過。生検で確定。IgH遺伝子再構成検査
副鼻腔囊胞穿破急性発症。CT画像で副鼻腔病変を確認

感染症である眼窩蜂巣炎や副鼻腔囊胞の眼窩内穿破は、急性に眼瞼腫脹・眼球突出・眼球偏位をきたす疾患として鑑別が重要である。血液検査所見やCT等の画像検査で鑑別を進める。亜急性に進行する眼窩疾患としては、甲状腺眼症多発血管炎性肉芽腫症などの特異的な眼窩炎症性疾患が鑑別に挙げられる。

Q 特発性眼窩炎症と甲状腺眼症はどう区別しますか?
A

甲状腺眼症は甲状腺機能異常(バセドウ病等)を背景に外眼筋が腫大する疾患で、筋腹のみが腫大し腱付着部は温存される点が画像上の特徴である。IOIは甲状腺機能が正常で、外眼筋の腱付着部も含めてびまん性に炎症が及ぶ。血液検査(甲状腺ホルモン・TSH受容体抗体)と画像所見を組み合わせて鑑別する。

第一選択はステロイド内服療法である。ただし疼痛などの症状が強くなければ、自然寛解がみられることもあるため経過観察という選択肢もある。

ステロイド開始前に感染症(特に眼窩先端部の真菌感染)を十分に除外することが必須である。

ステロイド内服療法(第一選択)

Section titled “ステロイド内服療法(第一選択)”

プレドニゾロン 0.25〜1.0 mg/kg/日で開始し、3〜6ヶ月の投薬中止を目処に漸減する1,3)。漸減中の再発はしばしば経験される。漸減を急ぐと再発リスクが高まるため、十分な期間をかけて緩やかに漸減することが重要である。

処方例を以下に示す。

薬剤用法・用量備考
プレドニゾン錠 5mg1日6錠 分2(朝4錠・昼2錠 食後)経過をみて漸減。3〜6ヶ月で中止目標
カスターD錠 10mg(アルファカルシドール)1日2錠 分2(朝夕食後)ステロイド性骨粗鬆症予防として併用

再発を繰り返す難治例には以下の治療が試みられる。

  • ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン大量点滴静注。重症例・眼窩先端部型で視神経障害が切迫している場合に適応
  • 放射線治療:再発を繰り返す難治例の選択肢。適切な線量については専門施設での評価が必要
  • メトトレキサートステロイド減量・離脱目的の免疫抑制薬として試みられる(保険適用外)。Smithら(2001)の14例検討では71%が4ヶ月のトライアルを完遂し、64%で臨床的有効性が得られたと報告されている5)
  • その他の免疫抑制薬シクロスポリンミコフェノール酸モフェチルなどが難治例に使用される場合がある3)

ステロイドに対する反応性は良好である。十分な治療により再発なく鎮静化できる場合が多い。ただし漸減を急ぐと再発しやすいため、十分な経過観察が必要である。外眼筋に局在するもの(特発性眼窩筋炎)は一般に予後が良好である。まれに遷延性の難治例となることがある。

Q ステロイドを減らすと再発するのはなぜですか?
A

本疾患は原因不明の非特異的炎症であり、ステロイドは炎症を抑制するが根本原因を除去しない。そのため漸減に伴い炎症が再燃しやすい。3〜6ヶ月をかけて緩やかに漸減することが再発予防に重要である。難治例や頻回再発例では放射線治療や免疫抑制薬への変更を検討する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

特発性眼窩炎症の病因は不明である。眼窩組織への原因不明の非特異的炎症として位置づけられる。

組織学的には非特異的な炎症細胞浸潤(リンパ球・形質細胞主体)を示す。特定の原因微生物や特異的な自己抗体は同定されていないが、自己免疫的機序の関与が推測されている。

炎症は眼窩内をびまん性に広がることはまれで、涙腺・外眼筋・眼球周囲・眼窩先端部など特定の部位に好発し、比較的境界不鮮明に広がることが多い。この部位選択性の機序については未解明の部分が多い。

特発性硬化性眼窩炎症は、高度な線維化を伴う慢性型の亜型である。線維芽細胞の活性化と膠原線維の過剰沈着が病変の主体であり、ステロイド反応性が乏しく予後不良となる。

歴史的に「眼窩偽腫瘍」として一括されていた病変群から、IgG4関連眼疾患MALTリンパ腫が独立疾患として確立され、残った非特異的炎症が狭義のIOIとして位置づけられている。現在のIOIは、これら特異的疾患を除外した後に残る「真の非特異的炎症」を指す概念である。

反応性リンパ過形成との区別も課題であり、特にIgG4関連眼疾患が独立疾患として確立されたことで、リンパ増殖性病変のほとんどはIgG4-RODまたはMALTリンパ腫として再分類されるようになった。

IgG4関連疾患の独立疾患化に伴い、IOIの疾患概念は縮小・精緻化されている。分子生物学的手法(フローサイトメトリー・免疫組織化学・IgH遺伝子再構成検査など)の進歩により、以前はIOIに分類されていた症例がより精密に鑑別・分類されるようになった。今後、IOIの病因解明につながる分子マーカーの同定が期待される。

特発性硬化性眼窩炎症(sclerosing variant)はステロイド抵抗性を示すことが多く、治療に難渋する。メトトレキサートミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制薬の有効性に関するエビデンス蓄積が進んでいる。

リツキシマブ(抗CD20抗体)などの生物学的製剤がIOIの難治例に試みられている。Suhlerら(2014)の第1/2相無作為化臨床試験では、ステロイドおよび他の免疫抑制薬抵抗性の眼窩炎症10例中7例で24週時点での改善が確認され、ステロイド減量にも成功している6)。ただしIgG4-RODとの診断的重複もあり、IOI単独での大規模なエビデンスは蓄積途上である。今後の臨床研究による有効性の検証が必要である。

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