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眼形成

IgG4関連眼疾患(ミクリッツ病など)

IgG4関連眼疾患(IgG4-related ophthalmic disease; IgG4-ROD)は、血清IgG4が上昇し、IgG4陽性形質細胞が眼窩に浸潤して腫瘤・組織肥厚をきたす原因不明の疾患である。全身性IgG4関連疾患(IgG4-RD)の眼窩局在型として位置づけられる。

IgG4-RDは血清中の免疫グロブリンの1つであるIgG4を産生する形質細胞が全身のさまざまな臓器に浸潤することにより、腫瘤の形成や組織の肥厚をきたす疾患である。その概念は2001年に自己免疫性膵炎の病因として確立された。眼科領域では2004年にIgG4関連Mikulicz病(ミクリッツ病)が初めて報告され、その後IgG4関連疾患の概念が眼科領域に広がった。診断基準は2014年に初めて確立され1)、2023年に改訂された1)

わが国において原発性眼窩腫瘍の中で最も多いのはリンパ増殖性疾患であり、悪性リンパ腫・反応性リンパ過形成・IgG4-ROD・特発性眼窩炎症(IOI)が含まれる。リンパ増殖性疾患だけで眼窩腫瘍全体の50〜60%を占める。特発性眼窩炎症と診断された症例の17〜60%がIgG4-RODであったことが明らかになっている。旧来のMikulicz病・特異的眼窩炎症の多くがこの疾患に再分類された。

IgG4-RODに男女差はなく、平均年齢はおよそ55〜60歳であり、20歳未満の症例はまれである。

378例多施設研究では、発生部位の内訳は以下のとおりであった1)

発生部位頻度
涙腺62〜88%(378例研究で86%)
眼窩脂肪28.6〜40%
外眼筋19〜25%(378例研究で21%)
三叉神経周囲9.5〜39%(378例研究で20%)
眼瞼12%
鼻涙管系1.5〜9.5%

同研究において、自覚症状の内訳はドライアイ22%、複視20%、視力低下8%、視野障害5%であった1)

血清IgG4は正常値が135mg/dL未満とされ、3大病変(涙腺腫脹・三叉神経周囲腫瘤・外眼筋腫脹)を特徴とする。その他の眼窩病変として、眼窩脂肪の腫脹、視神経や血管周囲の腫瘤、眼瞼皮下・結膜・涙囊・強膜の病変も認められる。

IgG4関連眼疾患における両側涙腺腫大のMRI:腫大した涙腺による外眼筋・眼球の変位
IgG4関連眼疾患における両側涙腺腫大のMRI:腫大した涙腺による外眼筋・眼球の変位
Ibrahim U, Saqib A, Nalluri N, et al. IgG4-related Disease Presenting as a Pancreatic Mass and Bilateral Lacrimal Gland Swelling. Cureus. 2017;9(2):e1054. Figure 3. PMCID: PMC5364085. DOI: 10.7759/cureus.1054. License: CC BY 4.0.
眼窩MRIで両側の涙腺が著明に腫大し、外眼筋および眼球の変位が認められる。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う涙腺腫大(IgG4-RODの最多病変、86%)に対応する。
  • 眼瞼腫脹:涙腺腫大による。典型的には無痛性で緩徐に進行する。しばしば対称性であり、唾液腺腫脹を伴う場合はMikulicz病に分類される。
  • 眼球突出外眼筋眼窩軟部組織の腫脹による。
  • 複視外眼筋病変に伴い拘束性斜視を生じうる。下直筋が最も頻繁に侵される。
  • 視力低下・視野障害圧迫性視神経症による。378例研究で視力低下8%、視野障害5%に認められた1)
  • ドライアイ:378例研究で22%に認められた。ただし涙腺組織の破壊が限定的なため、Sjögren症候群ほど著しくないことが多い。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”
  • 涙腺腫大:S字型変形を伴う眼瞼腫脹。MRIでは両側性の涙腺腫大が最多である。
  • 三叉神経腫大眼窩上・眼窩下神経周囲の腫瘤。IgG4-RODの特徴的所見であり甲状腺眼症との鑑別点となる。
  • 外眼筋腫大甲状腺眼症との鑑別が必要。
  • 視神経周囲病変視神経症を併発しうる。IgG4値が500mg/dLを超える高値例では特に注意を要する。
  • MRI所見:T1強調像で等信号、T2強調像で低信号、ガドリニウムで均一増強される。

全身病変はIgG4-ROD患者の68%に認められる。最も多い併発部位は唾液腺(43%)、リンパ節(27%)、膵臓(20%)である。

Q IgG4-RODと甲状腺眼症はどう鑑別するか?
A

両者とも外眼筋腫大と眼球突出を呈しうる。鑑別には血清IgG4値、甲状腺機能検査(T3、T4、TSH)、MRI所見(IgG4-RODではT2低信号、三叉神経肥大を伴いやすい)、および組織生検が重要である。IgG4-RODは涙腺腫大を伴いやすく、甲状腺眼症では下直筋・内直筋の腫大が優位である。

IgG4-RODの病因は不明であるが、液性免疫・細胞性免疫の異常が関与すると考えられている。

  • B細胞異常リツキシマブ(抗CD20)の有効性からB細胞の関与が強く示唆される。
  • Th2サイトカイン:IL-4、IL-5、IL-13の産生増加が報告されており、好酸球増多やIgE上昇を伴う。
  • 抗原刺激:涙腺での体細胞超変異が局所的免疫応答を示唆している。

リスク因子としては高齢男性(全身型)、アトピー素因、喘息、アレルギー性鼻炎との関連が報告されている。IgG4-ROD患者は非ホジキンリンパ腫のリスクが高い可能性があり、2023年改訂基準のAttention IIではMALT以外の濾胞性リンパ腫・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)にも注意喚起がなされている1)

以下の3項目で判定する。

項目内容
① 画像所見涙腺腫大、三叉神経腫大、外眼筋腫大のほか、さまざまな眼組織に腫瘤・腫大・肥厚性病変がみられる
② 病理組織学的所見著明なリンパ形質細胞浸潤。IgG4陽性/IgG陽性細胞比≥40%、またはIgG4陽性細胞数≥50/HPF(×400)。しばしば胚中心がみられる
③ 血清IgG4135mg/dL超
  • 確定: ①②③ 3項目すべて満たす
  • 準確定: ①② 2項目を満たす
  • 疑い: ①③ 2項目を満たす

2023年改訂で追加されたAttention1):

  • Attention I視神経症による視力低下・視野障害に注意する。肥厚性硬膜炎(hypertrophic pachymeningitis)も視神経症の原因となりうる。
  • Attention IIMALTリンパ腫だけでなく、濾胞性リンパ腫・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)もIgG4-RODの背景に発生しうる。
  • MRI:T1強調像で等信号、T2強調像で低信号、ガドリニウムで均一増強される。
  • FDG-PET/CT:遠隔・無症候性病変の検出に有用である。

血清IgG4値は治療反応のマーカーとなる。ただし確定IgG4-RD患者の40%は血清IgG4が正常であることに留意が必要である。また、IgG4値の上昇は膵癌・リンパ腫・ANCA関連血管炎でも認められうるため、特異度は限定的である。

必須検査は血清IgG4値測定、画像診断(造影MRI・CT)、生検+病理組織学的検索(免疫組織化学含む)である。

特にMALTリンパ腫との鑑別が重要である。MALTリンパ腫では通常IgG4染色は陰性であるが、陽性となる例もある。生検体を用いたIgH遺伝子再構成の有無を調べることが鑑別に有用である。

鑑別疾患鑑別のポイント
MALTリンパ腫IgH遺伝子再構成検査。IgG4染色陽性の場合もあり注意を要する
濾胞性リンパ腫・DLBCL2023年改訂基準Attention IIで注意喚起1)
Sjögren症候群抗Ro/La抗体。涙腺・唾液腺萎縮が優位
サルコイドーシスACE値、胸部画像、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
多発血管炎性肉芽腫症ANCA血清学
甲状腺眼症甲状腺機能検査(T3・T4・TSH)。三叉神経肥大なし
特発性眼窩炎症(IOI)IgG4染色で再分類。IOIの17〜60%がIgG4-ROD
細菌・真菌感染急性発症、疼痛、発熱

治療前に悪性腫瘍を除外するための組織診断が必須である。眼病変のみ、あるいは唾液腺以外の臓器病変がない場合は必ずしも治療を要しないこともある。ただし整容的な改善目的のほか、視力低下・視野狭窄などの視機能障害をきたしている場合は治療の絶対的適応となる。

ステロイド内服漸減療法(第一選択)

Section titled “ステロイド内服漸減療法(第一選択)”

プレドニゾロン30mg/日(0.6mg/kg/日)で開始し、2週間ごとに10%ずつ漸減する。維持量10mg/日を最低3ヶ月間継続する。

初期反応は89〜100%と極めて良好であるが、治療中・治療後の再発率は最大70%に達する。維持量5mg/日の継続により、3年間の再発率が92%から23%に低下することが報告されている。

ステロイドパルス療法(視神経症例)

Section titled “ステロイドパルス療法(視神経症例)”

視神経症による視力低下・視野欠損が著しい場合に適応する。ソル・コーテフ注1回500mg・1日1回点滴静注3日間を1クールとし、1〜3クール投与する。44例の視神経症レビューでは、多くの症例でステロイドリツキシマブ・減圧術により視力が回復したが、光覚以下の重症例では回復が不良であった1)

リツキシマブ(本邦保険適用外)

Section titled “リツキシマブ(本邦保険適用外)”

リツキシマブ(抗CD20抗体)は奏効率93%、再発率9%と最も有効な疾患修飾薬である。14日間隔で2回の1g点滴投与が推奨される。本邦では保険適用外であり、海外での使用実績を参考に投与を検討する。

ステロイド抵抗例または再発例に対して、メトトレキサートアザチオプリンミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制薬が使用されるが、エビデンスは限定的である。

病変が涙腺に限局する場合や全身投与が望ましくない場合は、涙腺摘出やステロイド局所投与も選択肢となる。

Q ステロイド治療後に再発した場合はどうするか?
A

再発は漸減中(プレドニゾロン10mg/日未満への減量時)またはステロイド中止後に多い。再発時の管理には経口ステロイドの再投与(6〜10週間)またはリツキシマブなどの疾患修飾薬の追加が含まれる。リツキシマブは再発率9%と最も低い。維持量5mg/日の長期継続により3年再発率を92%から23%に低下させうるため、長期管理計画が重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

IgG4-RDの3つの主要な病理学的特徴は以下の通りである。

  1. 密なリンパ形質細胞浸潤
  2. 席巻状(storiform)線維化
  3. 閉塞性静脈炎

これらのうち2つ(最も多いのは1と2の組み合わせ)を認めればIgG4-RDと診断される。IgG4-RODではTリンパ球が認められ、涙腺病変では席巻状線維化が見られない場合もある。

免疫組織化学では、IgG4陽性形質細胞/IgG陽性細胞比が40%以上、またはIgG4陽性細胞が50/HPF(×400)以上であることが基準とされる。涙腺疾患においては100 IgG4陽性細胞/HPF以上を要する厳格な基準が採用されている1)

病態の中心にはB細胞異常があり、リツキシマブの有効性がその関与を裏付けている。Th2サイトカイン(IL-4・IL-5・IL-13)の過剰産生がIgG4およびIgEの上昇・好酸球増多を引き起こす。涙腺における体細胞超変異の証拠は局所的な抗原応答の存在を示唆している。

IgG4関連Mikulicz病では対称性涙腺・唾液腺腫大が特徴的である。涙腺組織の破壊が限定的なため、Sjögren症候群と異なりドライアイ症状は著しくないことが多い。ステロイド治療に対する反応は概して良好であるが、減量中の再燃が問題となる。重篤な視神経症を併発した症例では失明の可能性もあり、視力予後はむしろ眼窩低悪性度リンパ腫よりも悪い場合がある。

2023年改訂診断基準の策定とその背景1)

Section titled “2023年改訂診断基準の策定とその背景1)”

Takahiraら(2024)1)は厚生労働省難治性疾患研究班による多施設共同研究をもとに、2014年版診断基準にAttention I(視神経症への注意喚起)とAttention II(MALT以外のリンパ腫への注意喚起)を追加した改訂診断基準を発表した。378例の多施設研究(涙腺86%、外眼筋21%、三叉神経20%)および44例の視神経症レビュー(年齢17〜86歳、中央値61歳、男女比30:14、血清IgG4中央値355mg/dL)が根拠となっている。44例視神経症レビューでは多くの症例がステロイドリツキシマブ・減圧術で視力を回復したが、光覚以下の重症例では回復不良であった。

SARS-CoV-2ワクチン接種後のIgG4-ROD2)

Section titled “SARS-CoV-2ワクチン接種後のIgG4-ROD2)”

Zhangら(2024)はSARS-CoV-2ワクチン接種後にIgG4-RODを発症した1例を報告し、文献レビューで感染後・接種後の少数例を整理した。うち5例がワクチン接種後、4例が感染後に発症していた。ただし因果関係は未確立であり、免疫調節異常の関与は仮説段階である2)

Liuら(2025)はSAPHO症候群にIgG4-RODを合併した単一症例を報告した。TNF-α経路の関与は仮説段階であり、両疾患の治療標的として確立していない。両疾患の合併は稀であるが、難治性経過をたどりうる3)

経頭蓋的アプローチによる眼窩減圧4)

Section titled “経頭蓋的アプローチによる眼窩減圧4)”

Nodaら(2021)は血清IgG4値1,255mg/dLの63歳男性に対し、翼状突起経由の経頭蓋的生検と眼窩外壁減圧術を施行した。術後3日で視力が0.7 LogMARから−0.1 LogMARに改善し、眼圧も31mmHgから15mmHgに正常化した。ステロイド治療のリスクが高い症例や迅速な視機能改善が必要な症例における外科的選択肢として注目される。4)

  1. Takahira M, Goto H, Azumi A. The 2023 revised diagnostic criteria for IgG4-related ophthalmic disease. Jpn J Ophthalmol. 2024;68:293-301.
  2. Zhang P, Wu Q, Xu X, et al. A case of IgG4-related ophthalmic disease after SARS-CoV-2 vaccination: case report and literature review. Front Immunol. 2024;15:1303589.
  3. Liu C, Chen T, Wang Y, et al. SAPHO syndrome complicated by IgG4-related ophthalmic disease: a case report and literature review. Front Immunol. 2025;16:1563542.
  4. Noda R, Inoue T, Tsunoda S, et al. Surgical management for IgG4-related ophthalmic disease by a transcranial biopsy combined with extraorbital decompression: illustrative case. J Neurosurg Case Lessons. 2021;1(8):CASE20170.

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