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網膜・硝子体

放射線網膜症(Radiation Retinopathy)

放射線網膜症(Radiation Retinopathy; RR)は、眼内腫瘍・眼窩や副鼻腔腫瘍・頭蓋内疾患等に対する放射線治療で網膜が照射野に入った場合に発症する、慢性進行性の閉塞性網膜微小血管障害である。脈絡膜悪性黒色腫などの眼内腫瘍、眼窩腫瘍、頭頸部腫瘍、脳腫瘍への放射線治療後に生じる。1933年にStallardが初めて報告した。

なお、事故による大量被曝では数週間以内に網膜視神経の壊死をきたすことがある。

増殖能の高い網膜血管内皮細胞が放射線に対して選択的な感受性を示すことから、毛細血管閉塞・虚血・血管新生へと至る一連の病態を形成する1)脈絡膜血管内皮も障害される。発症は照射後半年以降に多く、特に2〜3年後が多い。全体の発症率は照射野によって異なる。

以下に部位別の発症率を示す。

照射部位発症率
眼窩85.7%
副鼻腔45.4%
上咽頭36.4%
3.1%

脳頭頸部腫瘍への放射線治療後のRR有病率は約6%、視神経症(ON)は約2%とするメタアナリシスがある3)。遅発性発症例を含めた全体の発症率は約17%と報告されている4)

Q 放射線治療を受けた全員に発症するのか?
A

発症率は照射部位・線量・分割法・併存疾患により大きく異なる。全体の発症率は17%との報告があり、すべての患者に発症するわけではない4)。定期的な眼底検査による早期発見が重要である。

放射線網膜症のOCT黄斑浮腫
Kayabaşı M, et al. Evolution of the Onion Ring Sign in Radiation Retinopathy. Cureus. 2025. Figure 3. PMCID: PMC12740121. License: CC BY.
2023、2024、2025年1月のOCTでCMTは477μm、373μm、545μmである。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う黄斑浮腫に対応する。

初期は無症状のことが多く、検診で偶然発見される場合もある。病変が黄斑部視神経に及ぶと以下の症状が現れる。

  • 視力低下黄斑浮腫黄斑虚血が原因。緩徐に進行することが多い。
  • 変視症(ゆがみ)黄斑部浮腫による視細胞配置の乱れから生じる。
  • 飛蚊症霧視硝子体出血が生じた場合に出現する。
  • 視野欠損:広範な網膜虚血や視神経症を伴う場合に認められる。

眼底所見は糖尿病網膜症に類似し、毛細血管瘤網膜出血・硬性白斑から始まり、やがて綿花様白斑が出現する。進行すると網膜新生血管が発生し硝子体出血をきたす。黄斑浮腫中心窩周囲毛細血管の閉塞により視力が低下する。いったん発症すると糖尿病網膜症よりも進行は速い。

臨床経過は以下の段階をたどる。

  • 初期毛細血管瘤網膜出血・硬性白斑が出現する。
  • 進行期綿花様白斑が出現する。虚血範囲の拡大を示す。
  • 重症期網膜新生血管が発生し、硝子体出血をきたす。
  • 合併症期黄斑浮腫中心窩周囲毛細血管閉塞が進行し、視力が著しく低下する。

放射線網膜症は非増殖性と増殖性に大別される。

非増殖性RR

微小血管瘤網膜毛細血管瘤の散在。初期所見として重要。

毛細血管拡張:不規則な血管拡張と屈曲。蛍光眼底造影FA)で明瞭に描出される。

網膜出血:点状・炎状出血が散在する。

硬性白斑:脂質沈着による黄白色の浸潤。

黄斑浮腫(ME)視力予後に最も影響する所見。OCTで嚢胞様浮腫・びまん性浮腫として描出される。

増殖性RR

網膜新生血管(NV):虚血部位に誘発される異常血管。硝子体出血の原因となる。

硝子体出血新生血管の破綻による急激な視力低下。

牽引性網膜剥離増殖膜の牽引により発生する。

新生血管緑内障NVG虹彩隅角への新生血管浸潤による難治性緑内障NVGによる眼球摘出率は1〜12%と報告される5)

遅発性の特殊所見として、17年後に発症した症例では嚢胞腔内のコレステロール結晶によるonion ring sign(玉ねぎ輪切り様所見)がOCTで確認されており、慢性期の治療抵抗性マーカーとして注目されている6)

また、30Gyの全脳照射後16か月で上方網膜に限局したRRが発症した症例では、病変分布が照射野の30Gy isodose lineと一致しており、低線量域でも照射野に対応した発症パターンを示すことが確認されている7)

Q 発症はいつごろ起こるのか?
A

照射後半年以降、特に2〜3年後の発症が多い。診断時の中央値は照射後39か月と報告されているが3)、17年後の遅発例も存在する4)。照射後は長期にわたる定期的な眼底検査が必要である。

線量閾値は一般に35Gyとされる4)。45Gy超の照射では発症しやすく、50Gy超では発症リスクが特に高まる3)。一方、20Gyで発生したとの報告もあり、30Gyの全脳照射後でも発症が報告されており7)、閾値を下回る線量でも注意が必要である。増殖能の高い網膜血管内皮細胞が最も障害されやすく、脈絡膜血管内皮も障害される。

照射後の潜伏期は半年以降、特に2〜3年後に多い。これは放射線による内皮細胞障害が蓄積し、臨床的な閾値を超えるまでに時間を要するためと考えられる。

以下にリスク因子を示す。

リスク因子内容
総線量>35Gy(閾値)4)、45Gy超で高リスク
分割線量高分割照射
照射部位眼窩視交叉近傍3)
糖尿病微小血管脆弱性を増悪
化学療法併用感受性増大

視交叉に近い照射ではRR発症との有意な相関(p=0.009)が報告されている3)

増殖性RRは全RRの3〜25%に発生するとされる5)。プラーク小線源治療後の症例では照射後32か月で増殖性RRへ進行する例が認められる。

Q 糖尿病があると放射線網膜症のリスクは高まるのか?
A

糖尿病は放射線網膜症の重要なリスク因子である。糖尿病による微小血管脆弱性が放射線による内皮障害と相乗的に作用し、より低い線量でも発症する可能性がある。血糖コントロールの維持とともに、放射線治療後はより頻繁な眼底検査が推奨される。

FAはRRの診断と病期分類の基本検査である。初期には網膜毛細血管の透過性亢進がみられ、進行すると毛細血管が閉塞する。細動脈も閉塞して網膜無血管域は広範に拡大し、網膜新生血管を生じる。Amoaku FA分類(Grade 1〜4)が広く用いられる1)

Grade主な所見
1微小血管瘤・限局毛細管拡張
2毛細管閉塞・広範血管異常
3視神経乳頭または網膜新生血管
4硝子体出血牽引性網膜剥離

インドシアニングリーン(ICG)蛍光造影では脈絡膜血管の閉塞も観察される。

OCTはHorgan分類(Grade 1〜5)によるMEの定量評価に用いられ、プラーク小線源治療後4か月の時点でOCT検出が可能である1)OCTAは非侵襲的に毛細血管脱落・無灌流領域FAZの変化を可視化でき、早期検出に有用である1)

RRの発症は照射後半年以降に多く、特に2〜3年後が多い。発症中央値は照射後39か月であり、>50Gyの照射では特に注意深い観察が必要である3)。照射後は定期的(少なくとも6〜12か月ごと)の眼底検査OCT撮影が推奨される。

診断には放射線治療歴(眼内腫瘍・眼窩腫瘍・頭蓋内腫瘍・副鼻腔腫瘍)の聴取が重要である。

眼底所見が糖尿病網膜症に類似するため、鑑別が必要となる。放射線照射歴の有無を確認することで鑑別は概ね容易である。

  • 糖尿病網膜症:眼底所見(毛細血管瘤・出血・白斑・新生血管)が放射線網膜症と酷似する。糖尿病の有無と放射線照射歴の確認が鑑別の鍵。放射線網膜症はいったん発症すると糖尿病網膜症よりも進行が速い点が特徴的である。
  • 網膜静脈閉塞症:閉塞した静脈に沿った出血・浮腫が主体であり、放射線網膜症では見られない扇形分布を示す。放射線照射歴がなければ鑑別は容易。
Q 糖尿病網膜症との違いは何か?
A

眼底所見(毛細血管瘤・出血・白斑・新生血管)は両者で酷似する。最も重要な鑑別点は放射線照射歴の有無である。また、放射線網膜症はいったん発症すると糖尿病網膜症よりも進行が速く、照射後半年〜数年というタイムコースが特徴的である。両疾患の合併例では管理が特に困難となる。

抗VEGF薬は現在のRR治療の第一選択である。使用される薬剤はベバシズマブ(IVB)・ラニビズマブアフリベルセプトである1)。高用量ラニビズマブ2mgの使用も報告されている1)

予防的抗VEGF投与は放射線治療後のRR発症抑制を目的として行われる。4研究2109患者を対象としたメタアナリシスでは以下の結果が示されている2)

  • 黄斑浮腫(ME)50%減少(OR 0.50)
  • 視神経症(RON)38%減少(OR 0.62)
  • 不良視力視力<20/200相当)50%減少(OR 0.50)

推奨プロトコールはIVB 1.25〜1.5mgを4か月ごとに24か月間投与である2)。48か月間の予防的抗VEGF投与では、最終矯正視力が0.54 logMAR(予防群)対2.00 logMAR(対照群)と有意な改善が示された5)

Sahooら(2021)のレビューでは、ScheflerおよびMurrayによるRCTにおいて抗VEGF療法の有効性が検証されており、黄斑浮腫への早期介入(照射後90日以内)が推奨されている1)

Victorら(2023)の4研究2109患者のメタアナリシスでは、予防的IVB投与がプラーク小線源治療後のMEを50%、RONを38%、それぞれ有意に減少させることを確認した2)

網膜無血管域にレーザー光凝固を行って網膜新生血管や血管新生緑内障の発生を防ぐ。汎網膜光凝固PRP)は増殖性RRに対して施行され、66%の退縮率が報告されている5)。プラーク治療後症例でも64.4%に退縮を認めた5)。フォーカルレーザーはMEに対して補助的に使用される。

トリアムシノロン(TA)・デキサメサゾン硝子体内インプラント(DEX)・フルオシノロンアセトニドFA)が抗VEGF療法に抵抗する場合の補助療法として用いられる5)

硝子体出血には硝子体手術を行う。牽引性網膜剥離に対しても硝子体手術が適応となる。NVGには濾過手術・サイクロフォトコアグレーションが必要となる場合がある。COMSデータでは照射後3年で43%が矯正視力20/200以下になることが報告されている2)

  1. 放射線照射歴と眼底所見から放射線網膜症の診断を確立する
  2. FA網膜無血管域の範囲と程度を評価する
  3. 網膜無血管域が認められる場合 → レーザー光凝固新生血管NVG予防)
  4. 硝子体出血が発生した場合 → 保存的経過観察または硝子体手術
  5. 黄斑浮腫が認められる場合 → 抗VEGF薬(第一選択)・ステロイド(補助)

なお、進行を止める有効な方法はなく、予後不良のことが多い。

Q 抗VEGF注射はどのくらいの期間続けるのか?
A

予防的投与では4か月ごとに24か月間のプロトコールが推奨されている2)。治療的投与では病態の活動性に応じて継続期間が変わる。治療抵抗性の慢性例では72回超の注射が必要となることもある6)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

放射線による網膜障害の中心的機序は、網膜血管内皮細胞の選択的消失である。増殖能の高い網膜血管内皮細胞が最も障害されやすく、脈絡膜血管内皮も障害される。内皮細胞は放射線に対して特に感受性が高く、DNA損傷とアポトーシスにより毛細血管壁が崩壊する。

病態の進行は以下の段階をたどる。

  • 内皮細胞障害期:照射直後から進行する。内皮細胞のDNA二本鎖切断とアポトーシスが生じ、血管壁の完全性が失われる。
  • 毛細血管閉塞・虚血期:内皮細胞消失により毛細血管が閉塞し、網膜虚血域が拡大する。フルオレセイン造影での初期の透過性亢進から、進行するにつれて閉塞が優位となる。細動脈も閉塞し、網膜無血管域が広範に拡大する。
  • VEGF産生・血管新生期:虚血網膜でVEGFが過剰産生され、脆弱な新生血管の増殖が誘発される。
  • 終末期(増殖性変化)硝子体出血牽引性網膜剥離NVGへと進展する。

終末糖化産物(AGE)の蓄積・ペリサイト消失・基底膜肥厚も内皮障害に寄与するとされる。この機序は糖尿病網膜症のそれと類似しており、糖尿病合併患者でRRリスクが増大する理由の一つとして説明される。

照射から臨床発症までには半年以降、特に2〜3年の潜伏期が存在する。これは内皮細胞障害が蓄積し、毛細血管閉塞が臨床的に顕在化するまでの時間を反映している。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Victorら(2023)のメタアナリシスは予防的抗VEGF投与の有効性を示す現時点での最大規模のエビデンスであるが、対象研究の多くは観察研究であり、無作為化比較試験(RCT)によるさらなる検証が求められている2)。最適な投与間隔・投与薬剤・投与期間についての標準化も今後の課題である。

OCTA(光干渉断層血管造影)による早期検出

Section titled “OCTA(光干渉断層血管造影)による早期検出”

OCTAは造影剤を用いずに毛細血管脱落・FAZ拡大・毛細血管密度低下を定量評価できる。放射線治療後の早期段階から無灌流領域の検出が可能であり、RRのスクリーニングおよびモニタリングへの応用が進んでいる1)

Kayabaiら(2025)は、眼内腫瘍の放射線治療後19年を経過した53歳男性の症例を報告した6)OCTで認められたonion ring sign(嚢胞腔内コレステロール結晶の多層沈着)は慢性・治療抵抗性放射線網膜症の画像マーカーとして注目されており、72回以上の硝子体内注射を要した長期経過が記録されている。

brolucizumab・faricimab(アンジオポエチン/VEGF二重標的)などの次世代抗VEGF薬のRRへの適用が検討されている5)。既存薬への治療抵抗例における代替選択肢として期待されている。

陽子線・重粒子線治療後のリスク評価

Section titled “陽子線・重粒子線治療後のリスク評価”

従来のX線・ガンマ線に加え、陽子線・重粒子線(炭素イオン線)治療後における放射線網膜症の発症リスク評価が進められている。線量集中性の高い粒子線治療でも網膜が照射野に含まれる場合には発症し得るため、治療計画時の網膜線量評価と術後モニタリングが課題となっている。

放射線視神経症(RON)との合併管理

Section titled “放射線視神経症(RON)との合併管理”

RRと放射線視神経症(RON)は同一照射野から同時に生じる場合がある。EBRT後のRON発症率は約2%と報告されており3)、RRとRONが合併する症例では視機能障害がより深刻となるため、眼底検査に加え視野検査OCTによる視神経評価の定期実施が重要な研究課題となっている。


  1. Sahoo NK, Lim JW, Laude A, et al. Radiation retinopathy—the complex interplay of radiation, vasculature, and clinical outcomes. Clin Ophthalmol. 2021;15:3797-3809.
  2. Victor AA, Mauldin WM, Houston SK, et al. Prophylactic intravitreal bevacizumab and radiation retinopathy after plaque brachytherapy for uveal melanoma: a meta-analysis. Clin Ophthalmol. 2023;17:2997-3009.
  3. Kinaci-Tas B, Wilschut JA, Kilic E, et al. The incidence of radiation-induced optic neuropathy and retinopathy in patients treated with external beam radiation therapy: a systematic review and meta-analysis. Cancers. 2023;15:1999.
  4. Chakraborty K, Jain S, Tripathy K, et al. Delayed onset radiation retinopathy following skull base tumor treatment. Indian J Ophthalmol. 2023;71:303-305.
  5. Mularska W, Nowak-Gospodarowicz I, Golik B, et al. Radiation retinopathy after plaque brachytherapy for uveal melanoma—pathogenesis, diagnosis, and management. J Contemp Brachytherapy. 2023;15:372-382.
  6. Kayabai M, Ilhan S, Celik E, et al. Onion ring sign as a biomarker of chronic treatment-resistant radiation retinopathy. Cureus. 2025;17(11):e97758.
  7. Chan L, Eftekari SC, Nguyen QT, et al. Radiation retinopathy after whole-brain radiotherapy: a case report and literature review. Adv Radiat Oncol. 2021;6:100706.

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