非増殖性RR
微小血管瘤:網膜毛細血管瘤の散在。初期所見として重要。
毛細血管拡張:不規則な血管拡張と屈曲。蛍光眼底造影(FA)で明瞭に描出される。
網膜出血:点状・炎状出血が散在する。
硬性白斑:脂質沈着による黄白色の浸潤。
黄斑浮腫(ME):視力予後に最も影響する所見。OCTで嚢胞様浮腫・びまん性浮腫として描出される。
放射線による眼障害(Radiation Eye Injury)は、放射線が眼組織に及ぼす障害の総称である。主要な病型として放射線白内障・放射線網膜症・放射線視神経症の3つがある。
| 病型 | 標的組織 | 閾値線量 | 発症時期 | 視力予後 |
|---|---|---|---|---|
| 放射線白内障 | 水晶体(赤道部上皮細胞) | 0.5Gy以下(ICRP 2011改訂) | 被曝後数か月〜数年 | 手術で改善可 |
| 放射線網膜症 | 網膜血管内皮細胞 | 35Gy(20Gyでも発生報告あり) | 照射後半年以降、特に2〜3年後 | 予後不良なことが多い |
| 放射線視神経症 | 視神経・視交叉 | 1回2Gy超・総50Gy超でリスク | 照射後3か月〜数年 | 光覚なし約半数 |
放射線白内障は眼部放射線被曝で生じる。低線量被曝でも長期的な白内障リスクが上昇することが明らかになっており、原子力発電事故の緊急作業者の被曝、医療従事者における職業被曝、CTなどによる医療被曝なども長期的には白内障のリスクとなる。
放射線網膜症(Radiation Retinopathy; RR)は、眼内腫瘍・眼窩や副鼻腔腫瘍・頭蓋内疾患等に対する放射線治療で網膜が照射野に入った場合に発症する慢性進行性の閉塞性網膜微小血管障害である。脳頭頸部腫瘍への放射線治療後のRR有病率は約6%、視神経症は約2%とするメタアナリシスがある3)。遅発性発症例を含めた全体の発症率は約17%と報告されている4)。
照射部位別の発症率は以下のとおりである。
| 照射部位 | 発症率 |
|---|---|
| 眼窩 | 85.7% |
| 副鼻腔 | 45.4% |
| 上咽頭 | 36.4% |
| 脳 | 3.1% |
放射線視神経症は副鼻腔腫瘍や脳底部病変への放射線照射後にまれに起こる。好発部位は視交叉またはその前後である。

放射線による水晶体混濁は後囊下中央に多色性の微細な点状混濁およびvacuolesを生じ、これらの変化が徐々に拡大し斑状混濁・顆粒状混濁となる。同時にY字縫合の解離であるwater cleftsを生じることがある。進行すると中央が比較的透明なドーナツ状後囊下混濁を呈し、さらに進行すると透明部は前後2層の膜様混濁からなる皿状混濁となり、著明な視機能低下を生じる。
放射線白内障の所見の進行パターン:
眼底所見は糖尿病網膜症に類似し、毛細血管瘤・網膜出血・硬性白斑から始まり、やがて綿花様白斑が出現する。進行すると網膜新生血管が発生し硝子体出血をきたす。黄斑浮腫と中心窩周囲毛細血管の閉塞により視力が低下する。いったん発症すると糖尿病網膜症よりも進行は速い。
放射線網膜症は非増殖性と増殖性に大別される。
非増殖性RR
微小血管瘤:網膜毛細血管瘤の散在。初期所見として重要。
毛細血管拡張:不規則な血管拡張と屈曲。蛍光眼底造影(FA)で明瞭に描出される。
網膜出血:点状・炎状出血が散在する。
硬性白斑:脂質沈着による黄白色の浸潤。
黄斑浮腫(ME):視力予後に最も影響する所見。OCTで嚢胞様浮腫・びまん性浮腫として描出される。
増殖性RR
遅発性の特殊所見として、17年後に発症した症例では嚢胞腔内のコレステロール結晶によるonion ring sign(玉ねぎ輪切り様所見)がOCTで確認されており、慢性期の治療抵抗性マーカーとして注目されている6)。
また、30Gyの全脳照射後16か月で上方網膜に限局したRRが発症した症例では、病変分布が照射野の30Gy isodose lineと一致しており、低線量域でも照射野に対応した発症パターンを示すことが確認されている7)。
発症は照射後3か月から数年とされ、視力低下が進行性に進む。機序は血管内皮が障害されて起きる虚血性視神経障害であり、最終視力は光覚なしとなる例が約半数と視力予後は悪い。
照射後半年以降、特に2〜3年後の発症が多い。診断時の中央値は照射後39か月と報告されているが3)、17年後の遅発例も存在する4)。照射後は長期にわたる定期的な眼底検査が必要である。
2011年にICRP(国際放射線防護委員会)は閾値の見直しを行い、すべての被曝条件に関して視力低下をきたす白内障についての総被曝線量閾値を0.5Gy以下とする勧告を出した。職業被曝については、眼部被曝量の上限を年間150mSvから5年間での平均20mSvとし、単年で50mSvを超えてはいけないと改定された。
線量閾値は一般に35Gyとされる4)。45Gy超の照射では発症しやすく、50Gy超では発症リスクが特に高まる3)。一方、20〜40Gyの定位分割外照射後にも遅発性の放射線網膜症が確認されており8)、閾値を下回る線量でも注意が必要である。
| リスク因子 | 内容 |
|---|---|
| 総線量 | >35Gy(閾値)4)、45Gy超で高リスク |
| 分割線量 | 高分割照射 |
| 照射部位 | 眼窩・視交叉近傍3) |
| 糖尿病 | 微小血管脆弱性を増悪 |
| 化学療法併用 | 感受性増大 |
増殖性RRは全RRの3〜25%に発生するとされる5)。視交叉に近い照射ではRR発症との有意な相関(p=0.009)が報告されている3)。
1回照射量が2Gy以下で総照射量が50Gy以下であれば比較的安全とされている。最近はガンマナイフによる治療が主流となっており、放射線視神経症の発生頻度は著明に低減されている。
糖尿病は放射線網膜症の重要なリスク因子である。糖尿病による微小血管脆弱性が放射線による内皮障害と相乗的に作用し、より低い線量でも発症する可能性がある。血糖コントロールの維持とともに、放射線治療後はより頻繁な眼底検査が推奨される。
被曝歴の詳細問診(線量・種類・時期)が重要である。細隙灯顕微鏡で後囊下混濁を確認する。低線量放射線被曝は水晶体の加齢変化を加速する作用があると考えるべきである。加齢白内障でもvacuoles・後囊下混濁・water clefts・皮質浅層混濁などを生じるため、加齢水晶体眼にみられる混濁が放射線被曝により生じたものかを判定することは容易ではない。被曝歴の確認が鑑別の鍵となる。
蛍光眼底造影(FA)・病期分類
FAはRRの診断と病期分類の基本検査である。初期には網膜毛細血管の透過性亢進がみられ、進行すると毛細血管が閉塞する。細動脈も閉塞して網膜無血管域は広範に拡大し、網膜新生血管を生じる。Amoaku FA分類(Grade 1〜4)が広く用いられる1)。
| Grade | 主な所見 |
|---|---|
| 1 | 微小血管瘤・限局毛細管拡張 |
| 2 | 毛細管閉塞・広範血管異常 |
| 3 | 視神経乳頭または網膜新生血管 |
| 4 | 硝子体出血・牽引性網膜剥離 |
インドシアニングリーン(ICG)蛍光造影では脈絡膜血管の閉塞も観察される。
OCT・OCTA
OCTはHorgan分類(Grade 1〜5)によるMEの定量評価に用いられ、プラーク小線源治療後4か月の時点でOCT検出が可能である1)。OCTAは非侵襲的に毛細血管脱落・無灌流領域・FAZの変化を可視化でき、早期検出に有用である1)。
視力検査・視野検査・OCTによる視神経評価を行う。視神経乳頭の萎縮・視野障害の進行を経時的に追跡する。
眼底所見が糖尿病網膜症に類似するため鑑別が必要となる。放射線照射歴の有無を確認することで鑑別は概ね容易である。
典型的な後囊下白内障では混濁径が2mmを超えると視機能が低下し、手術が必要となる。白内障手術により視力改善が期待できる。
予防として、医療従事者や放射線業務に従事する場合、含鉛ガラスまたは含鉛アクリルで作られた保護眼鏡が極めて有用である。
抗VEGF療法(第一選択)
抗VEGF薬は現在のRR治療の第一選択である。使用される薬剤はベバシズマブ(IVB)・ラニビズマブ・アフリベルセプトである1)。高用量ラニビズマブ2mgの使用も報告されている1)。
予防的抗VEGF投与は放射線治療後のRR発症抑制を目的として行われる。4研究2109患者を対象としたメタアナリシスでは以下の結果が示されている2)。
推奨プロトコールはIVB 1.25〜1.5mgを4か月ごとに24か月間投与である2)。48か月間の予防的抗VEGF投与を扱った報告では、最終矯正視力が0.54 logMAR(予防群)対2.00 logMAR(対照群)と有意な改善が示された5)。なお、VEGF阻害薬の硝子体注射は放射線網膜症に対して保険適用外である。
Victorら(2023)の4研究2109患者のメタアナリシスでは、予防的IVB投与がプラーク小線源治療後のMEを50%、RONを38%、それぞれ有意に減少させることを確認した2)。
レーザー光凝固
網膜無血管域にレーザー光凝固を行って網膜新生血管や血管新生緑内障の発生を防ぐ。汎網膜光凝固(PRP)は増殖性RRに対して施行され、66%の退縮率が報告されている5)。フォーカルレーザーはMEに対して補助的に使用される。
ステロイド局所投与
トリアムシノロン(TA)・デキサメサゾン硝子体内インプラント(DEX)・フルオシノロンアセトニド(FA)が抗VEGF療法に抵抗する場合の補助療法として用いられる5)。トリアムシノロンの硝子体注射は一過性に黄斑浮腫を減らし視力改善に有効とされているが、保険適用外である。
増殖性RRへの対応
硝子体出血には硝子体手術を行う。牽引性網膜剥離に対しても硝子体手術が適応となる。NVGには濾過手術・サイクロフォトコアグレーションが必要となる場合がある。進行を止める有効な方法はなく、予後不良のことが多い。
根本的な治療法は基本的にはない。視神経萎縮が起きていない発症間もない症例には、ステロイド全身投与・ヘパリンなどの抗凝固療法・高圧酸素療法などがある程度有用とされている。いずれも確立されたエビデンスは限られており、個々の症例に応じた判断が必要である。
予防的投与では4か月ごとに24か月間のプロトコールが推奨されている2)。治療的投与では病態の活動性に応じて継続期間が変わる。治療抵抗性の慢性例では72回超の注射が必要となることもある6)。
水晶体は放射線感受性が非常に高い組織である。分裂能が高い赤道部(germinal zone)の水晶体上皮細胞が放射線被曝を受けることにより細胞内にフリーラジカルが産生され、DNAに損傷を生じる。水晶体蛋白であるクリスタリンの構造変化をきたし、上皮細胞および有核の水晶体線維が変性して後方へ移動し、水晶体後囊中央部まで迷入することにより混濁を生じる。これが後囊下白内障として臨床的に観察される特徴的な混濁パターンの原因である。
放射線による網膜障害の中心的機序は、網膜血管内皮細胞の選択的消失である。増殖能の高い網膜血管内皮細胞が最も障害されやすく、脈絡膜血管内皮も障害される。内皮細胞は放射線に対して特に感受性が高く、DNA損傷とアポトーシスにより毛細血管壁が崩壊する。
病態の進行は以下の段階をたどる。
終末糖化産物(AGE)の蓄積・ペリサイト消失・基底膜肥厚も内皮障害に寄与するとされる。この機序は糖尿病網膜症のそれと類似しており、糖尿病合併患者でRRリスクが増大する理由の一つとして説明される。照射から臨床発症までには半年以降、特に2〜3年の潜伏期が存在する。これは内皮細胞障害が蓄積し、毛細血管閉塞が臨床的に顕在化するまでの時間を反映している。
血管内皮が障害されて起きる虚血性視神経障害が主たる機序である。副鼻腔腫瘍や脳底部病変への放射線照射後に視交叉またはその前後の視神経が虚血性変化をきたし、進行性の視力低下が生じる。
Victorら(2023)のメタアナリシスは予防的抗VEGF投与の有効性を示す現時点での最大規模のエビデンスであるが、対象研究の多くは観察研究であり、無作為化比較試験(RCT)によるさらなる検証が求められている2)。最適な投与間隔・投与薬剤・投与期間についての標準化も今後の課題である。
OCTAは造影剤を用いずに毛細血管脱落・FAZ拡大・毛細血管密度低下を定量評価できる。放射線治療後の早期段階から無灌流領域の検出が可能であり、RRのスクリーニングおよびモニタリングへの応用が進んでいる1)。
Kayabaiら(2025)は、眼内腫瘍の放射線治療後19年を経過した53歳男性の症例を報告した6)。OCTで認められたonion ring sign(嚢胞腔内コレステロール結晶の多層沈着)は慢性・治療抵抗性放射線網膜症の画像マーカーとして注目されており、72回以上の硝子体内注射を要した長期経過が記録されている。
brolucizumab・faricimab(アンジオポエチン/VEGF二重標的)などの次世代抗VEGF薬のRRへの適用が検討されている5)。既存薬への治療抵抗例における代替選択肢として期待されている。
従来のX線・ガンマ線に加え、陽子線・重粒子線(炭素イオン線)治療後における放射線網膜症の発症リスク評価が進められている。線量集中性の高い粒子線治療でも網膜が照射野に含まれる場合には発症し得るため、治療計画時の網膜線量評価と術後モニタリングが課題となっている。
RRと放射線視神経症(RON)は同一照射野から同時に生じる場合がある。EBRT後のRON発症率は約2%と報告されており3)、RRとRONが合併する症例では視機能障害がより深刻となるため、眼底検査に加え視野検査・OCTによる視神経評価の定期実施が重要な研究課題となっている。