コンテンツにスキップ
腫瘍・病理

眼周囲悪性腫瘍に対するセンチネルリンパ節生検

1. 眼周囲悪性腫瘍に対するセンチネルリンパ節生検とは

Section titled “1. 眼周囲悪性腫瘍に対するセンチネルリンパ節生検とは”

センチネルリンパ節生検は、排出リンパ節への悪性細胞の出現を確認し、潜在的な全身性微小転移を特定するための手技である。

センチネルリンパ節生検の概念は段階的に発展してきた。

  • 1960年:Gouldらが耳下腺腫瘍で「センチネル節」の概念を初めて提唱
  • 1970年代:Robinsonらがリンパシンチグラフィによるリンパマッピングの概念を導入
  • 1990年代:Mortonらが皮膚メラノーマに対してイソスルファンブルー色素を用いた術中マッピングを発表し、現代のセンチネルリンパ節生検時代が始まった
  • 2000年:Bita Esmaeliが結膜メラノーマ患者に対するセンチネルリンパ節生検の概念を導入
  • 2001年:Esmaeliらが結膜メラノーマにおけるセンチネルリンパ節生検の最初の症例を報告

基底細胞癌を除く眼附属器のすべての悪性腫瘍が局所リンパ節に転移する傾向を持つ。腫瘍タイプ別の局所リンパ節転移頻度は以下の通りである。

  • 結膜メラノーマ:局所リンパ節転移15〜41%、リンパ節転移は約25〜52%(報告により差あり)1)
  • 眼瞼メラノーマ:29%
  • 脂腺癌:7〜20%
  • 眼瞼扁平上皮癌:1.3〜24.3%
  • 眼瞼メルケル細胞癌:最大規模単一研究で21%、報告範囲30〜66%

インドの大規模研究(536例)では、脂腺癌 53%、基底細胞癌 24%、扁平上皮癌 18%と欧米と大きく異なる腫瘍内訳が報告されている。脂腺癌は再発率21%、局所リンパ節転移16%、全身転移13%、転移関連死亡9%であった2)

センチネルリンパ節陽性は微小転移疾患を示し、AJCC TNM病期分類に影響を与え、予後と治療方針に直接影響する。センチネルリンパ節の状態は皮膚メラノーマ患者の生存と再発に関する最も重要な予後因子とされている。

Q センチネルリンパ節生検はなぜ基底細胞癌には適応とならないのか?
A

基底細胞癌は遠隔転移をきたさない低悪性度腫瘍であり、リンパ行性転移の可能性が極めて低い。そのため、センチネルリンパ節生検を施行しても臨床的な利益が得られないと判断される。

?????????????
?????????????
Wendy J Li et al. Emerging Techniques in the Treatment of Conjunctival Melanoma. Current Ophthalmology Reports. 2025 Jun 13; 13(1):7. Figure 1. PMCID: PMC12162382. License: CC BY.
??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????
  • 眼瞼・眼窩周囲の腫瘤形成:無痛性〜有痛性の腫瘤が眼瞼や眼窩周囲に出現する。
  • 脂腺癌の「仮面症候群」霰粒腫と誤認されやすい結節性病変が切開後に再発増大を繰り返す。
  • メルケル細胞癌:急速に増大する赤色結節として出現し、増殖速度が速い。

腫瘍タイプ別の特徴的な臨床所見を以下に示す。

基底細胞癌

部位・形態:下眼瞼好発、結節型・潰瘍型。

色調:メラニン色素沈着を伴うことが多い。

転移:遠隔転移をきたさない低悪性度腫瘍。

脂腺癌

部位:上眼瞼好発。マイボーム腺・ツァイス腺・涙丘部脂腺由来。

形態:黄色調結節性腫瘤。

特徴パジェット様進展(瞼球結膜上皮内への腫瘍細胞のシート状増殖拡大)を呈することがある。

有棘細胞癌

部位:結膜面に好発。

形態:花火状の腫瘍血管を伴う扁平な赤色調腫瘍、角化により白色調。

メルケル細胞癌

形態:眼瞼皮膚面にドーム状赤色結節、拡張した腫瘍血管、表面平滑。

特徴:増殖速度が速く転移を生じやすい。

センチネルリンパ節陽性は微小転移の所見であり、臨床的に明らかな腫大リンパ節を呈さないことが多い。結膜メラノーマは侵襲性が高く、診断時に微小転移を伴っている可能性がある。

眼附属器腫瘍のリンパ行性転移:基底細胞癌を除くすべての眼附属器悪性腫瘍がリンパ節転移の傾向を持つ。

腫瘍タイプ別のセンチネルリンパ節生検適応に関するリスク因子を以下に示す。

腫瘍タイプセンチネルリンパ節生検の適応基準・リスク因子
結膜/眼瞼メラノーマ厚さ≧1mm、または組織学的潰瘍あり
皮膚メラノーマ厚さ≧1mm、または潰瘍・分裂像>1/mm²・クラーク分類IV以上
脂腺癌幅≧10mm(T2b以上)、サイズ15mm超で転移リスク増大
扁平上皮癌幅>20mm、局所再発、神経周囲浸潤
メルケル細胞癌あらゆるサイズで転移リスクあり
基底細胞癌転移可能性が低いため適応なし
  • 結膜メラノーマの予後不良因子:厚さ≧2mm、潰瘍あり、角膜縁温存、局所再発。再発率33〜61%、5年疾患特異的死亡率約27%1)
  • アジア系の特徴:アジア系では脂腺癌の割合が欧米より高い(インドでは脂腺癌 53% vs 欧米の基底細胞癌 80〜95%)。脂腺癌は他の眼瞼悪性腫瘍と比較して予後不良2)
  • 宿主の免疫状態:宿主の免疫系によっても転移率が異なる
Q 眼瞼の脂腺癌はどの程度の大きさで転移リスクが高まるか?
A

腫瘍サイズが15mmを超えると局所リンパ節転移リスクが増大するとされる。SLNBの適応基準としては幅≧10mm(ステージT2b以上)が目安となる。

センチネルリンパ節生検を施行する前提として、超音波やCTで画像診断が陰性であることが必要である。播種性疾患がすでに確認された患者はセンチネルリンパ節生検の対象外となる。

  • テクネチウム99mスズコロイドを原発腫瘍床に注入する(眼瞼病変には皮内、結膜病変には結膜下)
  • 放射性トレーサーの取り扱いに精通した眼科医が注入することが推奨される
  • ガンマカメラで15分ごと→30分ごとに連続放射線画像を撮影し、トレーサーの排液を追跡する
  • SPECT/CTによるセンチネルリンパ節のより正確な特定も検討されている

術中センチネルリンパ節生検の手技

Section titled “術中センチネルリンパ節生検の手技”
  • 手術約1.5時間前に0.2mL生理食塩水に溶解した0.3〜0.4mCiのろ過済みテクネチウム99mスズコロイドを病変周囲3〜4箇所に注入する
  • ハンドヘルド経皮的ガンマプローブで術中にセンチネルリンパ節を再特定する
  • センチネルリンパ節:背景放射能の少なくとも2倍のカウントを持つリンパ節と定義される

摘出したセンチネルリンパ節は「ブレッド・ローフ法」で1〜2mm切片に分割する。

  • ヘマトキシリン・エオジン染色:悪性細胞の評価
  • 免疫組織化学:腫瘍タイプ別に適切なマーカーを使用する

腫瘍タイプ別に使用する免疫組織化学マーカーを以下に示す。

腫瘍タイプ免疫組織化学マーカー
メラノーマS100、HMB45等
脂腺癌アディポフィリン等
扁平上皮癌パンサイトケラチン等
メルケル細胞癌サイトケラチン20等

脂腺癌の術前評価では、頭頸部CTやMRIで転移病巣の有無を事前に確認する必要がある。

Q センチネルリンパ節生検の偽陰性率はどの程度か?
A

米国眼科学会コンセンサスペーパー(2020年)では27研究のレビューにより偽陰性率4.6%が報告されている。偽陰性率は術者の経験と逆相関し、改善傾向にある。ある施設では過去15年間で偽陰性率ゼロを報告している。

センチネルリンパ節生検の適応基準

Section titled “センチネルリンパ節生検の適応基準”

センチネルリンパ節生検の適応は腫瘍タイプと病期によって異なる(詳細は「原因とリスク要因」の項参照)。

  • 基底細胞癌:結節型は安全域1〜2mmで全摘出可能。潰瘍型は境界不明瞭で深部浸潤あり、deep marginを深くとる
  • 脂腺癌:安全域3mm以上で切除。迅速病理検査で断端の腫瘍細胞有無を確認。瞼板欠損1/3以下なら単純縫縮可能
  • 扁平上皮癌:瞼板を含めて全摘出し、切除面に冷凍凝固を2〜3セット追加
  • メルケル細胞癌:眼瞼全層切除と再建術。放射線感受性が高いため、根治切除に耐えられない場合は放射線治療も選択肢

センチネルリンパ節生検結果別の治療方針

Section titled “センチネルリンパ節生検結果別の治療方針”
  • 陽性の場合:より広範なリンパ節郭清が行われ、術後補助療法を検討する
  • 陰性の場合:他のリンパ節関与や遠隔転移の可能性は低く、不必要な根治的リンパ節郭清を回避できる

パジェット様進展への対応(脂腺癌)

Section titled “パジェット様進展への対応(脂腺癌)”

パジェット様進展(結膜上皮内への腫瘍拡散)に対しては、抗腫瘍薬の点眼が行われる。いずれも保険適用外使用である。

  • マイトマイシンC 0.04%点眼:1日4回点眼、1週間点眼1週間休薬×2〜3クール
  • 5-フルオロウラシル 1%点眼:1日4回点眼、2〜4日点眼1か月休薬×2〜6クール
Q センチネルリンパ節生検で陽性だった場合、どのような追加治療が行われるか?
A

センチネルリンパ節陽性が確認された場合は、より広範なリンパ節郭清(根治的リンパ節郭清術)が行われる。さらに術後補助療法(放射線治療・化学療法・免疫療法など)が検討される。具体的な治療方針は腫瘍タイプと病期によって異なる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

特定の悪性腫瘍は血行性転移の前にリンパ系を介して優先的・逐次的に転移する。センチネルリンパ節とは、原発腫瘍からのリンパ流が最初に到達するリンパ節であり、転移の有無を最も早期に反映する。

眼周囲のリンパ排液は部位によって異なり、個人差も大きい。

  • 上眼瞼全体・内眥・外側下眼瞼→耳下腺・耳介前リンパ節
  • 内側・中央下眼瞼→顎下リンパ節
  • 結膜外側半分→耳介前リンパ節、結膜内側半分→顎下・深頸部リンパ節
  • 側頭側の結膜メラノーマ→耳介前リンパ節、鼻側→顎下リンパ節
  • 排液パターンには個人差があり、リンパシンチグラフィによる術前マッピングが不可欠である

Kalikiら(2019年)のインドにおける536例の後方視的研究では、脂腺癌の5年局所リンパ節転移推定率42.55%、5年全身転移推定率35.74%、5年転移関連死亡率24.88%が報告されている。脂腺癌は基底細胞癌・扁平上皮癌と比較して局所浸潤(13%)、局所リンパ節転移(16%)、全身転移(13%)がいずれも有意に高かった2)

Mirzayevら(2024年)の結膜悪性黒色腫のレビュー論文では、肝臓・肺・脳への遠隔転移が11〜42%に認められると報告されている。センチネルリンパ節生検の有用性として厚さ>2mm・直径>10mmの腫瘍において特に有効とされている1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

センチネルリンパ節生検の精度向上に関する研究

Section titled “センチネルリンパ節生検の精度向上に関する研究”

Esmaeliらの最大規模研究(2017年)では、51人の眼附属器メラノーマ患者を評価した。センチネルリンパ節生検陽性率は20%であり、眼瞼縁/眼瞼皮膚メラノーマ(30%)が結膜腫瘍(13%)より高かった。偽陰性は3例報告されている。

米国眼科学会コンセンサスペーパー(2020年)では27研究のレビューで平均センチネルリンパ節陽性率16.8%、偽陰性率4.6%が報告された。偽陰性率は術者の経験と逆相関し、ある施設では過去15年間で偽陰性率ゼロを報告している。

SPECT/CTによるセンチネルリンパ節のより正確な特定が研究されている。従来のリンパシンチグラフィに比べ、センチネルリンパ節の解剖学的位置をより精確に同定できる可能性がある。

インドシアニングリーン誘導センチネルリンパ節生検

Section titled “インドシアニングリーン誘導センチネルリンパ節生検”

テクネチウム99mの代替として、インドシアニングリーン誘導のセンチネルリンパ節生検が少数の研究で検討されている。現時点ではテクネチウム99mが依然として標準的なトレーサーである。

結膜メラノーマへの分子標的・免疫療法

Section titled “結膜メラノーマへの分子標的・免疫療法”

Mirzayevら(2024年)のレビューでは、抗BRAF/抗MEK/抗PD-L1療法が結膜メラノーマに対して有望とされているが、現時点でのデータは限定的と報告されている1)


  1. Mirzayev I, et al. Conjunctival melanoma: current understanding and future directions. Cancers. 2024;16:3121.
  2. Kaliki S, Bothra N, Bejjanki KM, Nayak A, Ramappa G, Mohamed A, Dave TV, Ali MJ, Naik MN. Malignant eyelid tumors in India: a study of 536 Asian Indian patients. Ocul Oncol Pathol. 2019;5(3):210-219.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます