I法(標準法)
点眼麻酔:使用しない(反射性分泌を含む)
適応:ドライアイのスクリーニング全般に使用する最も標準的な方法
測定内容:基礎分泌量 + 結膜囊貯留量 + 反射性分泌量
シルマーテスト(Schirmer試験)は1903年にSchirmerにより考案された涙液分泌機能検査である。1 mm間隔で目盛りのついた5 mm×35 mmの濾紙を下眼瞼に装着し、5分間で濾紙が湿潤する長さ(mm)を測定することで涙液分泌量を定量評価する。
100年以上の歴史を有し、操作が単純であることから世界的に広く普及している。主な目的はドライアイ(涙液減少型)の診断補助・重症度評価であり、特に涙腺機能低下を伴う全身疾患(Sjögren症候群・移植片対宿主病〔GVHD〕等)の診断においても重要な役割を担う。
ドライアイは日常診療で頻繁に遭遇する疾患であり、40歳以上では男性12.5%、女性21.6%に有病率が推定されている1)。シルマーテストはそのスクリーニングおよび涙液分泌量の客観的評価法として標準的に用いられている。
2016年改訂のドライアイ診断基準では、「自覚症状 + BUT 5秒以下」をもって診断できるようになり、シルマーテストは必須ではなくなった。ただし涙液分泌量の客観的な定量評価が必要な場合や、Sjögren症候群・GVHDなどの重症ドライアイを鑑別する際には参考指標として重要である。

シルマーテストには3つの種別があり、目的に応じて使い分ける。
I法(標準法)
点眼麻酔:使用しない(反射性分泌を含む)
適応:ドライアイのスクリーニング全般に使用する最も標準的な方法
測定内容:基礎分泌量 + 結膜囊貯留量 + 反射性分泌量
I変法(麻酔下)
点眼麻酔:使用する(0.4%オキシブプロカイン塩酸塩点眼液)
適応:反射性分泌を除いた純粋な基礎分泌量を評価したい場合
測定内容:基礎分泌量 + 結膜囊貯留量
II法(鼻刺激試験)
点眼麻酔:使用しない
適応:I法で低値の症例のみに追加施行する
測定内容:反射性分泌量の評価(鼻粘膜刺激による反射経路を確認)
Schirmer試験I法の標準的な実施手順を以下に示す。
Schirmer試験I法で涙液分泌量が少ない症例にのみ追加施行する。
鼻粘膜への機械的刺激が三叉神経を介して涙腺反射性分泌を誘発する。この経路が保たれているかを確認する検査である。
Schirmer試験I法は点眼麻酔を使用しないため、濾紙が結膜囊に接触する際の刺激感・異物感がある。激しい痛みはないが、涙液分泌が促進されることがある。I変法では0.4%オキシブプロカイン塩酸塩点眼液で麻酔してから施行するため、刺激感が軽減される。
各試験法における評価基準を以下に示す。
| 試験種別 | 正常値 | ボーダーライン | 異常値 |
|---|---|---|---|
| Schirmer試験I法(旧診断基準) | 10 mm以上 | 5〜10 mm | 5 mm以下 |
| Schirmer試験I法(現行基準) | 10 mm以上 | — | 5 mm以下(参考値) |
| Schirmer試験II法 | 10 mm以上 | — | 10 mm以下 |
旧ドライアイ診断基準(2006年)では、Schirmer試験I法の値が5 mm以下を陽性と判定していた1)。2016年改訂後の現行基準では、BUTが主基準となり、Schirmer試験I法の5 mm以下は参考値として扱われる1)。
試験種別による測定内容の違いを理解することで、検査値の解釈が的確になる。
| 試験種別 | 基礎分泌量 | 結膜囊貯留量 | 反射性分泌量 |
|---|---|---|---|
| Schirmer試験I法 | ○ | ○ | ○(含む) |
| Schirmer試験I変法 | ○ | ○ | ✕(除外) |
| Schirmer試験II法 | ○ | ○ | ○(鼻刺激による反射分のみ追加評価) |
2006年以前のドライアイ診断基準ではSchirmer試験I法の値が主要基準の一つとして使用されていた。しかし、Schirmer試験の感度・特異度がBUTほど高くないこと、さらに測定の再現性に乏しいことから、2016年の改訂版診断基準ではBUT 5秒以下を主基準とし、Schirmer試験は補助的な参考値に変更された1)。BUT値とSchirmer値を組み合わせることでドライアイのサブタイプ(涙液量減少型・蒸発亢進型)の鑑別に役立つ。
シルマーテストは以下の臨床場面で広く活用される。
ドライアイのスクリーニング: Schirmer試験I法により、涙液分泌量の低下を定量的に把握する。特にI法の値が低い場合は、涙液減少型ドライアイの可能性を示唆する。
Sjögren症候群・GVHDの評価: I法で低値を示した症例にSchirmer試験II法を追加する。II法でも10 mm以下の異常値が出た場合、涙腺の反射分泌経路が障害されていることを意味し、Sjögren症候群・GVHDなどの重症ドライアイを疑う根拠となる。
ドライアイ治療効果の客観的評価: 治療前後のSchirmer値を比較することで、涙液分泌量の変化を数値で評価できる。点眼液(シクロスポリン点眼液・ジクアホソルナトリウム点眼液等)の治療効果確認に用いる。
眼科手術前評価: 白内障手術・屈折矯正手術(LASIK等)の術前スクリーニングとして、ドライアイの合併を確認する目的で用いる。術後にドライアイが増悪するリスクを事前に患者へ説明するための根拠となる。
TFOS DEWS IIIにおける位置づけ: 国際的なドライアイワークショップ(TFOS DEWS III)では、涙液量評価において涙液メニスカス高測定・OCT計測とならぶ検査として位置づけられている2)。感度・特異度の観点からはOCTメニスカス測定のほうが優れるが、普及率・簡便性においてSchirmerは依然として有用とされている2)。
Schirmer試験II法で10 mm以下の異常値が出た場合、涙腺の反射性分泌が大きく低下していることを示す。Sjögren症候群(原発性・続発性)や造血幹細胞移植後のGVHD(移植片対宿主病)など、涙腺機能が高度に障害される重症ドライアイの可能性が高い。これらの疾患では涙液分泌量が著しく低下するため、点眼液の使用頻度や涙点閉鎖(涙点プラグ)などの治療選択にも影響する。
測定値に影響を与える主な要因は以下のとおりである。
偽高値(実際より高い値が出る):
偽陰性(実際より低い値が出る):
利点:
限界:
シルマーテストは濾紙の毛細管現象を利用して涙液を吸収・定量する物理的方法である。目盛り付き濾紙が涙液を吸収すると、毛細管力により液体が線状に進行する。5分後の湿潤長が涙液分泌量の代替指標となる。検査そのものは生化学的・光学的な解析を要しない最もシンプルな涙液量評価法である。
涙液評価には複数の検査があり、それぞれ異なる側面を評価する。
涙液安定性の評価(BUTテスト): フルオレセイン染色下に涙液膜の破壊時間を測定する。涙液の「質(安定性)」を評価する。2016年改訂ドライアイ診断基準の主基準として採用されている1)。
涙液量の評価(シルマーテスト・OCTメニスカム測定): シルマーテストは分泌量、OCT(光干渉断層計)による下涙液メニスカム高測定は貯留量を代替評価する。OCTメニスカム測定は非侵襲的で定量性・再現性が高く、0.2 mm以下を低下の目安とする2)。
ドライアイのサブタイプ分類: 涙液減少型(aqueous-deficient dry eye)では、シルマーテストが低値を示しやすい。蒸発亢進型(evaporative dry eye)では、BUTが短縮するがSchirmer値は正常範囲内のことが多い。両検査を組み合わせることでサブタイプの鑑別が可能となる1)。
涙液浸透圧測定: 近年、涙液浸透圧(tear osmolarity)がドライアイのバイオマーカーとして注目されている。316 mOsm/L以上を陽性閾値とする機器が市販されており、Schirmerと相補的な評価が可能である2)。
前眼部OCTを用いた涙液メニスカム高の測定は、非侵襲的・定量的・再現性の高い涙液量評価法として研究が進んでいる。シルマーテストと比較して感度・特異度とも優れることが示されており、将来的にはSchirmerを代替する標準検査となる可能性がある2)。現時点では、両検査の補完的な使用が推奨されている。
従来の紙製濾紙に代わり、繊維の均一性・吸水率を最適化した新素材の濾紙による改良型シルマーテストの研究が報告されている。測定値の変動係数を低減し、再現性を改善することを目的としている。標準化に向けた取り組みが国際的に進行中である。