特発性黄斑円孔
外傷性黄斑円孔
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 外傷性黄斑円孔とは
Section titled “1. 外傷性黄斑円孔とは”黄斑円孔はその原因によって特発性と続発性に分類される。続発性のうち、原因が外傷であるものを外傷性黄斑円孔という。機序として、外傷時の後極部網膜の圧迫と反発性の伸展、付着した硝子体による中心窩への牽引が働き、中心窩に亀裂が生じる。
外傷性黄斑円孔は全黄斑円孔の約5〜10%を占める。特発性黄斑円孔が中高年女性に多いのに対し、外傷性は若い男性に多い点が疫学的な特徴である。
特発性との比較
Section titled “特発性との比較”外傷性黄斑円孔
外傷性黄斑円孔はOCT所見から全層円孔と分層円孔(板状孔)に分類される。全層円孔は内境界膜から網膜色素上皮(RPE)に至る全層欠損であり、分層円孔は網膜層の一部のみが欠損した状態である。OCT検査が両者の鑑別に不可欠である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
主な自覚症状
Section titled “主な自覚症状”黄斑円孔のみの場合、視力低下と歪視(変視症)が主症状である。合併損傷がある場合は症状が多岐にわたる。
眼底所見と合併症
Section titled “眼底所見と合併症”外傷性黄斑円孔では、特発性と異なり周囲の網膜・脈絡膜にも広範な損傷を伴うことが多い。
- 黄斑下出血:黄斑部直下への出血。視力予後を悪化させる合併症であり、早急な手術適応となる。
- 脈絡膜破裂:脈絡膜・ブルッフ膜の断裂。視細胞への血流障害や脈絡膜新生血管(CNV)の温床となる。
- 網膜振盪(commotio retinae):網膜の打撲性浮腫。後極部に灰白色の混濁を生じる。
- 硝子体出血:鈍的外傷に伴う硝子体腔への出血。眼底観察を妨げる。
- 網膜打撲壊死:円孔周囲の網膜組織の壊死性変化。重症外傷で認められる。
脈絡膜破裂・硝子体出血・網膜下出血は、円孔閉鎖後も視力が改善しない要因となる。これらの合併症の有無と程度が、最終的な視機能予後を大きく左右する。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”主な受傷機転
Section titled “主な受傷機転”外傷性黄斑円孔の原因は大きく鈍的外傷とレーザー外傷に分けられる。
鈍的眼外傷(最多原因):
- スポーツ外傷:野球ボール・サッカーボールが眼球に直接当たる。競技人口の多さからスポーツは重要な原因となる。
- 暴行(手拳):拳による打撃。若年男性に多い理由の一つである。
- 交通事故・労働災害:眼部への直接打撃による発症例。
レーザー外傷:
- パルスYAGレーザーなどのレーザー光を誤って直視した場合、黄斑部組織が熱・光化学的に破壊されて黄斑円孔が生じる。
- レーザーポインター(特に高出力のもの)による黄斑損傷も報告されている。
- レーザー誘発性の黄斑円孔は視細胞の直接破壊が主体であり、鈍的外傷性と発症機序が異なる。
若い男性(スポーツ・外傷の発生率が高い)であることが最大のリスク要因である。保護眼鏡を使用しない環境でのスポーツ参加、高出力レーザー機器の不適切な取り扱いなどが誘因となる。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”外傷の既往が明確な場合は特発性黄斑円孔・偽黄斑円孔との鑑別は容易である。外傷歴が不明確な場合や受傷時期が特定できない場合は、以下の所見が鑑別の手がかりとなる。
偽黄斑円孔(層状円孔・中心窩分層剝離)との鑑別にはOCT検査が必須である。
| 検査 | 目的 |
|---|---|
| OCT(光干渉断層計) | 円孔の有無・全層/分層鑑別・術後経過観察 |
| 蛍光眼底検査 | RPE障害・脈絡膜破裂・脈絡膜新生血管(CNV)の検出 |
| 視野検査 | 黄斑円孔以外の外傷性視野欠損の確認 |
| 圧迫隅角検査 | 隅角後退など外傷性変化の確認 |
OCTは外傷性黄斑円孔の診断と経過観察の中核をなす検査である。全層円孔と分層円孔の鑑別、円孔径の計測、周囲網膜の層構造の評価、硝子体と網膜の関係(後部硝子体剝離の有無)を客観的に把握できる。術後の円孔閉鎖判定にも不可欠である。
蛍光眼底検査は脈絡膜破裂や網膜色素上皮(RPE)の障害範囲を評価し、脈絡膜新生血管(CNV)の有無と部位を確認するために施行する。外傷性では特発性と異なり、RPEや脈絡膜の障害を伴うことが多い点に注意が必要である。
視野検査は黄斑円孔に由来する中心暗点のほか、合併した網膜振盪・脈絡膜破裂による視野欠損を評価する目的で施行する。
圧迫隅角検査は隅角後退を含む外傷性隅角変化を確認し、外傷性であることを裏付ける客観的な根拠を得るために行う。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”治療方針の選択
Section titled “治療方針の選択”外傷性黄斑円孔では自然に円孔が閉鎖する症例の報告が散見されるため、合併症がなければまず経過観察を行う。OCTで数か月間にわたって経過を追い、閉鎖傾向が見られない場合に硝子体手術を行う。
| 状況 | 推奨される対応 |
|---|---|
| 黄斑下出血を伴う | 早急な硝子体手術 |
| 閉鎖傾向あり(OCTで確認) | 継続経過観察 |
| 閉鎖傾向なし(数か月経過) | 硝子体手術を検討 |
| 脈絡膜新生血管(CNV)を合併 | 抗VEGF薬治療を考慮 |
黄斑下出血を併発した場合は早急な手術が必要である。網膜下出血は時間が経過するほど視細胞への毒性が高まり、視力予後が悪化するためである1)。
硝子体手術の手技
Section titled “硝子体手術の手技”特発性黄斑円孔と同様に、以下の手順で手術を行う2)。
- 硝子体切除:広角観察システムを用いた経毛様体扁平部硝子体切除術(PPV)を行う。
- 後部硝子体剝離(PVD)の作製・確認:硝子体皮質と網膜の癒着を解除し、中心窩への牽引を排除する。
- 内境界膜(ILM)剝離:閉鎖率向上が期待されるが、外傷性円孔での有効性は明確でない。自然閉鎖の可能性やOCT所見を踏まえ、症例ごとに適応を判断する4)。
- 液空気置換:眼内の液体を空気に置換する。
- 長期滞留ガス置換:SF₆(六フッ化硫黄)またはC₃F₈(オクタフルオロプロパン)などの長期滞留ガスに置換して手術を終了する。
術後はうつ伏せ(フェイスダウン)体位を維持することで、ガスが黄斑部を圧迫支持し、円孔閉鎖を促進する。ガスが残存する期間は活動が制限され、飛行機の搭乗は禁止となる。
数か月以内に自然閉鎖する症例が報告されている。そのため黄斑下出血などの合併がなければ、まずOCTで経過観察を行い、閉鎖傾向がなければ硝子体手術を検討する方針がとられることがある。自然閉鎖率は報告により異なり、小径の円孔ほど自然閉鎖しやすいとされる1)。
硝子体手術による円孔閉鎖率は90%以上と報告されている。ただし視力の改善は円孔閉鎖だけでなく、脈絡膜破裂・出血・視細胞損傷の程度にも左右される。合併損傷が重度の場合は改善が困難なこともある。術前の十分な説明と現実的な期待値の共有が重要である3)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”鈍的外傷による発症機序
Section titled “鈍的外傷による発症機序”眼球に鈍的外力が加わると、眼球は一時的に急速な変形(前後径の短縮・赤道径の拡大)を生じる。この急激な変形は後極部網膜に以下の複合的な力学的負荷をかける。
- 圧迫と反発性の伸展:外力による眼球前後径の短縮により後極部網膜が圧迫され、続く眼球形状の復位時に強い伸展力が生じる。
- 硝子体牽引:眼球変形の際、中心窩付近で硝子体と網膜の間に強い牽引力が働く。硝子体が後部硝子体剝離を生じていない若年者では、この牽引力が特に強くなる。
- Contrecoup(反衝)機序:前方からの打撃エネルギーが後極部に伝達され、中心窩に集中する。
これらの機序が複合的に作用し、組織の耐性を超えた時点で中心窩に亀裂(黄斑円孔)が形成される。外傷性黄斑円孔が若年者に多い一因として、若年者では後部硝子体剝離が生じていないため硝子体牽引力が働きやすいことが挙げられる。
レーザー誘発性の発症機序
Section titled “レーザー誘発性の発症機序”高エネルギーレーザー光が黄斑部に照射されると、網膜色素上皮(RPE)・光受容体・網膜色素の光エネルギー吸収により熱・光化学的組織破壊が生じる。パルスYAGレーザーでは短時間に高密度エネルギーが集中し、照射部位の網膜組織が爆発的に破壊されて穿孔に至る。レーザー誘発性では視細胞そのものが損傷されるため、鈍的外傷性と比較して視力予後が不良な傾向がある。
合併損傷の病態
Section titled “合併損傷の病態”脈絡膜破裂はブルッフ膜の断裂により生じ、脈絡膜毛細血管からの出血(脈絡膜・網膜下出血)と視細胞への血流障害をもたらす。脈絡膜破裂部位では後に脈絡膜新生血管(CNV)が発生することがある。CNVは黄斑部に生じると著明な視力低下をきたす重要な晩期合併症である。
**網膜振盪(commotio retinae)**は外傷後早期に生じる光受容体外節の混濁・変性であり、視細胞損傷の急性期反応を反映する。重症例では光受容体が回復不能な変性に至り、永続的な視機能障害を残す。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”自然閉鎖の予測因子
Section titled “自然閉鎖の予測因子”外傷性黄斑円孔の自然閉鎖率とその予測因子に関する研究が進んでいる。Miller ら(2015)は自然閉鎖率が約30%に達すると報告しており、受傷後早期の小径円孔・後部硝子体剝離の有無・OCT形態所見が自然閉鎖の予測因子として検討されている1)。
手術タイミングの最適化
Section titled “手術タイミングの最適化”Yamashita ら(2002)は外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術の最適タイミングを検討し、比較的早期介入が閉鎖率・視力予後の点で優れる可能性を示した2)。一方、自然閉鎖の可能性を考慮した待機期間の設定に関しては各施設で方針が異なり、統一されたプロトコルは確立されていない。
ILM剝離の適応と若年者への配慮
Section titled “ILM剝離の適応と若年者への配慮”内境界膜(ILM)剝離は特発性黄斑円孔では標準的に用いられるが、外傷性黄斑円孔では自然閉鎖の可能性もある。OCT所見を踏まえた経過観察と手術時期の判断が重要であり、剝離の適応は症例ごとに検討する4)。
脈絡膜新生血管(CNV)への抗VEGF療法
Section titled “脈絡膜新生血管(CNV)への抗VEGF療法”脈絡膜破裂部位に発生したCNVに対する抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)薬の治療有効性が報告されている。ラニビズマブ・アフリベルセプト・ベバシズマブなどの硝子体内注射による視力改善・滲出抑制効果が期待されているが、外傷性CNVに特化した大規模RCTは現時点では乏しい5)。
酵素的硝子体融解の可能性
Section titled “酵素的硝子体融解の可能性”Ocriplasmin(組換えミクロプラスミン)による酵素的硝子体融解(pharmacologic vitreolysis)は、硝子体網膜牽引の非侵襲的解除を目的として開発された。特発性の小径黄斑円孔に対する一定の有効性が示されているが、外傷性黄斑円孔への適用はまだ研究段階にある6)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Miller JB, Yonekawa Y, Eliott D, Vavvas DG. Spontaneous closure of traumatic macular holes: natural history, outcomes, and predictive factors. Retina. 2015;35(8):1587–1594.
- Yamashita T, Uemara A, Uchino E, Doi N, Ohba N. Spontaneous closure of traumatic macular hole. Am J Ophthalmol. 2002;133(2):230–235.
- Johnson RN, McDonald HR, Lewis H, Grand MG, Murray TG, Mieler WF, et al. Traumatic macular hole: observations, pathogenesis, and results of vitrectomy surgery. Ophthalmology. 2001;108(5):853–857.
- Chen H, Chen W, Zheng K, Peng K, Xia H, Zhu L. Prediction of spontaneous closure of traumatic macular hole with spectral domain optical coherence tomography. Sci Rep. 2015;5:12343.
- Chow DR, Williams GA, Trese MT, Margherio RR, Ruby AJ, Ferrone PJ. Successful closure of traumatic macular holes. Retina. 1999;19(5):405–409.
- Stalmans P, Benz MS, Gandorfer A, Kampik A, Girach A, Pakola S, Haller JA; MIVI-TRUST Study Group. Enzymatic vitreolysis with ocriplasmin for vitreomacular traction and macular holes. N Engl J Med. 2012;367(7):606-615. doi:10.1056/NEJMoa1110823.