高頻度のI-CNVを来す疾患
ぶどう膜炎に伴う脈絡膜新生血管(Inflammatory Choroidal Neovascularization)
1. 炎症性脈絡膜新生血管(I-CNV)とは
Section titled “1. 炎症性脈絡膜新生血管(I-CNV)とは”脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization; CNV)とは、脈絡膜由来の血管新生が黄斑部に好発する疾患である。新生血管は網膜色素上皮(RPE)下(1型/Classic型)、またはRPE上(2型/Occult型)に増殖する。脈絡膜炎や特発性の場合には炎症の関与が大きく、CNVはRPE-Bruch膜-脈絡毛細血管板の障害に対する反応性変化あるいは創傷治癒過程と考えられる。
炎症性脈絡膜新生血管(I-CNV)は、脈絡網膜の炎症によって引き起こされる後部ぶどう膜炎の重篤な合併症である。感染性・非感染性ぶどう膜炎の両方に発生しうる1)。I-CNVはAMDおよび病的近視に次ぐCNVの第3の原因として位置づけられる1)。
後部ぶどう膜炎の患者では2.7%、汎ぶどう膜炎患者では0.8%にCNVが発生し、前部・中間部ぶどう膜炎(0.1%)よりも高頻度である1)。特発性ぶどう膜炎では13〜20%に合併症としてCNVが生じる3)。I-CNVは大半が2型(クラシック型)CNVとして発現し、ブルッフ膜(Bruch’s membrane)を突き破ってRPEの下(1型)またはRPEの上(2型)に形成される1)。
感染性疾患でのI-CNV
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
I-CNVの典型的な初発症状は視力の急激な悪化・変視症の出現である1)。
- 痛みのない視力低下・暗点(scotoma)
- 変視症(metamorphopsia):直線がゆがんで見える
- 光視症(photopsia):活動性ぶどう膜炎を伴う場合
- 中心暗点:進行例で生じる1)
中心窩外に位置する活動性病変は無症状のことがあり、炎症性病変・瘢痕・色素沈着・網膜内外液の貯留によって見逃されることがある1)。
眼底検査では黄斑部周辺に黄白色の網膜下病変が認められる。
- 網膜色素上皮下CNV(Classic型):橙赤色の隆起病巣として描出される
- 網膜色素上皮上CNV(Occult型):灰白色斑として認められ、縁どり様の網膜下出血・網膜剥離を伴う
- I-CNVの黄斑内分布:中心窩下(subfoveal)60%・傍中心窩(juxtafoveal)35%・乳頭周囲(peripapillary)5%
- 線維血管性瘢痕(過去のCNV活動の痕跡)が残存する
CNVが枯れた後も網膜色素上皮-脈絡毛細血管板の萎縮病巣が形成される。網膜色素上皮上CNVでは網膜下に線維組織が形成されるため、視力低下・中心暗点・変視が永続することがある。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”病態生理:2つの機序1)
- 炎症性損傷:炎症がRPE-ブルッフ膜複合体を損傷 → 外血液網膜関門の破壊 → 脈絡膜からの新生血管増殖
- 虚血・低酸素:炎症による灌流障害 → 網膜・脈絡膜の低酸素勾配 → CNV形成促進
炎症性細胞が活性化されると細胞障害性酵素を分泌してブルッフ膜を分解する。放出される血管新生促進性サイトカイン(IL-6・IL-8・TNF-α)がVEGF発現を促進し、CNV増殖を促す2)。ぶどう膜炎においてはTNF-α・IL-6・IL-1などのサイトカインがRPEを障害してVEGFの発現をさらに増幅させ、I-CNV形成を促進する3)。
ぶどう膜炎診療ガイドライン(2019年)では、PIC・多局性脈絡膜炎・サルコイドーシス・原田病・蛇行状脈絡膜炎などの後部ぶどう膜炎においてCNVの合併に注意が必要であり、炎症制御と抗VEGF療法の組み合わせが推奨されている3)。
リスク因子5):
| リスク因子 | 内容 |
|---|---|
| 上皮網膜血管新生の存在 | I-CNV発症リスクが3倍以上に増加 |
| 活動性炎症 | 非活動期と比較してCNVリスクが有意に高い |
| 前房炎症 grade 2+ | I-CNVとの有意な関連 |
| 対側眼のCNV既往 | 数倍のCNV発症リスク |
| 片側性ぶどう膜炎 | 両側性よりもCNVリスクが高い |
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”I-CNVの診断は困難であり、マルチモーダル画像診断が推奨される1)。
蛍光眼底造影(FA):I-CNVの大半はクラシック型(2型)CNVとして描出される。CNV病変は早期の等蛍光〜過蛍光 + 後期の蛍光漏出を示す。ただし活動性炎症性病変も同様のFA所見を呈するため、FA単独での診断には限界がある1)。造影早期に境界鮮明な過蛍光(Classic型)または後期にびまん性の色素漏出(Occult型)が特徴的である。
インドシアニングリーン造影(ICGA):脈絡膜血管構造をFAより詳細に評価できる。I-CNVは早期から過蛍光を示し、活動性炎症巣(早期低蛍光)との鑑別が可能である1)。網膜色素上皮下CNVの鑑別にICGAは不可欠であり、多局性脈絡膜炎では脈絡毛細血管板の非灌流範囲把握とCNV発症リスク評価に有用である1)。
光干渉断層計(OCT):非侵襲的に短時間で黄斑部の断面を調べることができ、CNVと中心窩の位置関係、CNVがRPEの上か下か、随伴する網膜剥離・RPE剥離・囊胞様黄斑浮腫の状態を評価できる。
- 「ピッチフォークサイン(pitchfork sign)」:I-CNVから外網膜層に指状に延びる高反射病変。多局性脈絡膜炎/PIC・眼内結核・急性梅毒性後部多形性脈絡膜網膜炎で報告されるI-CNVに特徴的なOCT所見1)
- 「スポンジサイン(sponge sign)」:I-CNV下の脈絡膜厚増加(治療後に低下)。炎症性と近視性のCNVを鑑別する補助所見1)
- 中心網膜厚はI-CNV活動性の客観的指標として有用1)
OCTアンギオグラフィ(OCTA):非侵襲的にCNVの血管構造を可視化できる。FA単独よりもCNVと炎症病変の鑑別に高い精度を有し、1型新生血管ネットワークの同定に特に有用である8)。
自発蛍光眼底撮影(FAF):活動性I-CNVでは正常蛍光または過自発蛍光を示す。低自発蛍光部位は光受容体・RPEの消失と相関し、周辺部I-CNVの検出に有用である1)。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”I-CNVの迅速な治療が不可逆的な視力喪失を防ぐ。治療は2つのアプローチの組み合わせが必要である。
アプローチ1:基礎ぶどう膜炎の管理
Section titled “アプローチ1:基礎ぶどう膜炎の管理”感染性疾患(トキソプラズマ・結核・バルトネラ・ヘンセレなど)を先に除外し、適切な抗感染症療法を行う。除外後の基礎ぶどう膜炎への治療:
- 短期:全身ステロイド療法(プレドニゾロン 0.5〜1 mg/kg/日)
- 再発性・慢性・進行性疾患(多局性脈絡膜炎・原田病・蛇行状脈絡膜炎):ステロイド減量目的の免疫抑制療法
- 炎症が残存する場合:ステロイド後部Tenon嚢下注射(トリアムシノロン)も選択肢となる
アプローチ2:中心窩CNVへの抗VEGF薬硝子体内注射
Section titled “アプローチ2:中心窩CNVへの抗VEGF薬硝子体内注射”原因疾患を問わず、中心窩CNVにはVEGF阻害薬の硝子体内投与を行う。VEGFはCNVの発生発育に密接に関与するため、これを阻害する薬剤はCNVの退縮・出血渗出の防止に有用である。
| 薬剤 | 概要 | 炎症性CNVへの適用 |
|---|---|---|
| アフリベルセプト(アイリーア) | VEGF-A/VEGF-B/PlGF阻害 | 保険適用外(AMD・近視性黄斑症が保険適用) |
| ラニビズマブ(ルセンティス) | 抗VEGF-Aモノクローナル抗体断片 | 保険適用外(AMD・近視性黄斑症が保険適用) |
| ベバシズマブ(アバスチン) | 抗VEGF-A全長モノクローナル抗体 | 保険適用外(オフラベル)、炎症性CNVに使用 |
アフリベルセプト・ラニビズマブの保険適用は加齢黄斑変性と近視性黄斑症に限られる。炎症性CNVに対してはベバシズマブ(1.25 mg/0.05 mL 硝子体内注射)がオフラベルで施行される3)。
抗炎症療法と抗VEGF薬の併用で患者の80%が改善、15%が安定した結果が得られている4)。PIC患者への抗VEGF薬単独治療では50%の再発率が報告されており、基礎ぶどう膜炎への全身治療の必要性が示されている7)。
導入期(3か月間毎月注射)と必要時投与(PRN)の比較では、導入期を設けても優れた転帰は得られないことが示されている1)。ランダム化比較試験では抗VEGF薬(ラニビズマブ0.5 mg硝子体内注射)がI-CNVの視力改善および新生血管退縮に有効であることが確認されている6)。
中心窩外CNVへのレーザー光凝固
Section titled “中心窩外CNVへのレーザー光凝固”中心窩外CNVでは熱レーザーによる光凝固を行う。光凝固によりCNVを直接閉塞させるが、照射部位は永続的な網膜障害となるため中心窩からの距離を慎重に評価して適応を決定する。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”I-CNVの病態生理はAMD・病的近視などのCNVと類似しているが、炎症性因子が加わる点が特徴的である1)。
慢性炎症・酸化ストレス・虚血などが関与し、CNVはRPE-Bruch膜-脈絡毛細血管板の障害に対する反応性変化あるいは創傷治癒過程として生じる。
分子機序:
- VEGF発現の増大が新生血管増殖を促進(AMD・近視性CNVと共通)
- CNVの血管外成分にはCXCR4を発現する線維芽細胞・白血球が存在
- RPE細胞がTNF-α、IL-1、IL-2、IL-6、IL-10を産生し、炎症成分として機能1)
- 血管新生抑制因子(アンジオスタチン・エンドスタチン・PEDF)との不均衡が引き金1)
ぶどう膜炎においてはTNF-α・IL-6・IL-1などのサイトカインが炎症性細胞から分泌され、RPEを障害しVEGFの発現をさらに増幅させる3)。これらのサイトカインとVEGFの相互作用がI-CNV形成を促進する。
I-CNVとAMD関連CNVの違い: 免疫組織化学的研究では、I-CNVの血管メッシュのCXCR4染色パターンがAMD関連CNVと異なることが報告されており、毛細血管が膜形成において異なる役割を持つ可能性が示唆されている9)。
一部の「特発性」CNVが後部ぶどう膜炎の先行症状として出現することもある1)。炎症巣の辺縁部(炎症後萎縮性脈絡網膜瘢痕のエッジ)から新生血管が成長することが多い。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”OCTAによる診断精度の向上:
OCTAはI-CNVの診断と経過観察において重要な役割を果たしている。FA・ICGA単独と比較したOCTAの優位性が蓄積されつつあり、FA・ICGA結果が不確定な場合でも1型新生血管ネットワーク同定に不可欠であることが示されている8)。OCTAは活動性CNVのモニタリング指標としても有用であり、治療後の新生血管退縮を定量的に評価できる8)。
「スポンジサイン」の臨床的意義:
OCTによるI-CNV下の脈絡膜厚増加(治療後に低下する「スポンジサイン」)は、I-CNVの活動性モニタリングの新たな補助指標として注目されている。炎症性CNVと近視性CNVの鑑別診断にも応用できる可能性がある1)。
抗VEGF療法の長期成績:
各種原因の後部ぶどう膜炎に対する抗VEGF療法(1〜5回の注射)後に、logMAR視力で約0.3ユニットの改善が得られるという中長期データが蓄積されている4)。PIC患者への抗VEGF薬単独治療では50%の再発率が報告されており、基礎疾患の管理が長期予後を左右する7)。
Treat & Extend(T&E)レジメン:
AMD・近視性CNVで確立されたT&Eレジメン(治療間隔を段階的に延長していく方式)のI-CNVへの応用が検討されている。治療負担を減らしつつ視力を維持できる可能性があるが、炎症性CNVに特化したエビデンスの蓄積が待たれる。
faricimab(抗VEGF-A/Ang-2二重阻害薬):
VEGF-Aとアンジオポエチン-2(Ang-2)を同時に阻害するfaricimabはAMD・糖尿病黄斑浮腫で承認されており、炎症性CNVへの応用が研究段階にある。Ang-2は血管新生と炎症の両方に関与することから、I-CNVに対する特異的効果が期待される。
マルチモーダルアプローチの標準化:
I-CNVの診断にはFAF・OCTA・近赤外自発蛍光イメージングを加えた多角的アプローチが有望であり、特に周辺部I-CNVの検出・モニタリングにFAFが有用である1)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Karska-Basta I, Pociej-Marciak W, Żuber-Łaskawiec K, Markiewicz A, Chrząszcz M, Romanowska-Dixon B, Kubicka-Trząska A.. Diagnostic Challenges in Inflammatory Choroidal Neovascularization. Medicina (Kaunas). 2024;60(3):465. doi:10.3390/medicina60030465. PMID:38541191; PMCID:PMC10972505.
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