疾患の特徴
発症年齢:40〜60歳代
性差:やや女性に多い
罹患眼:両眼性
経過:慢性。再発・寛解を繰り返しながら進行
バードショット網脈絡膜症(birdshot retinochoroidopathy; BSCR)は、散弾状脈絡網膜炎とも呼ばれる慢性の両側性後部ぶどう膜炎である。後極部から周辺部にかけて多局性のクリーム色〜黄橙色の脈絡膜病変が散弾銃の弾痕のように散在することが名称の由来である。白斑状脈絡網膜炎(vitiliginous chorioretinitis)とも呼称される。
1949年にFranceschetti医師らによって初めて報告され、1980年にRyanとMaumeneeが「Birdshot Retinochoroidopathy」として命名した。わが国では比較的まれな疾患であり、40〜60歳代に発症し、やや女性に多い。
ぶどう膜炎診療ガイドライン(日眼会誌 2019;123(6):635-696)では HLA-A29 関連ぶどう膜炎として位置づけられている6)。HLA-A29 との関連はほぼすべての例で認められ、自己免疫疾患の可能性が強く示唆されている。また、網膜S抗原との関連も報告されている。
HLA-A29 陽性率は白人で80〜98%3)と高く報告されているが、日本人では HLA-A29 保有者が少ないため6)、診断補助としての意義が限定される場合がある。
疾患の特徴
発症年齢:40〜60歳代
性差:やや女性に多い
罹患眼:両眼性
経過:慢性。再発・寛解を繰り返しながら進行
主要な検査所見
散弾銃の弾痕のような外観の脈絡膜病変が後極部を中心に両眼に多発する慢性の後部ぶどう膜炎です。わが国ではまれで、40〜60歳代のやや女性に多い疾患です。HLA-A29 との強い関連があり自己免疫疾患と考えられています。適切な治療なしでは視機能が進行性に低下するため長期的な管理が必要です。
最も多い症状は視力低下(68%)で、次いで飛蚊症(29%)・夜盲(25%)・色覚異常(20%)・羞明(19%)・光視症(17%)がみられる。視力障害は通常、疾患の後期に顕著になる。中心視力が良好に維持されていても、視野欠損(びまん性狭窄・中心暗点・盲点拡大)が先行することがあり、診断が大幅に遅れる場合がある。
全身的な関連として、高血圧・白斑(vitiligo)・皮膚悪性腫瘍・難聴・気分障害などが報告されている。
前眼部: 前房炎症は軽微または消失しており、前眼部炎症が軽いことが特徴的である1)。後癒着や角膜後面沈着物は通常認めない。
後眼部: 硝子体炎は消失から中等度まで様々で、微塵状の混濁がみられる。病変が進行すると、視神経周囲から始まる多局性のクリーム色〜黄橙色の卵円形または円形の脈絡膜病変が、赤道部を中心として脈絡膜層レベルに散在する。個々の病変の大きさは乳頭径の約1/4〜1/2程度で、融合することもある。病変は視神経乳頭から周辺部に向かって放射状に広がる傾向がある。
合併症として、嚢胞様黄斑浮腫(CME)・視神経乳頭浮腫・網膜血管炎・網膜下新生血管を認めることがある。嚢胞様黄斑浮腫はバードショット網脈絡膜症症例の最大84%で報告されており、他のぶどう膜炎(約30%)より高頻度である。
蛍光眼底造影所見: フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では、脈絡膜病変は造影早期・後期ともに過蛍光を示すが漏出はない点がベーチェット病との鑑別点となる1)。黄斑浮腫・視神経乳頭の過蛍光も描出される。インドシアニングリーン蛍光造影(ICGA)では、脈絡膜炎の活動性病変が低蛍光スポットとして認められ、FAよりも脈絡膜病変の検出感度が高い1)。EDI-OCTでは上脈絡膜液貯留が認められることがある。
電気生理学的所見: 網膜電図は著明に減弱し、眼球電図(EOG)のL/D比は低下する。初期段階ではa波振幅に対してb波振幅が不釣り合いに減少するnegative typeを示す。病期の進展とともにa波の振幅も減弱する。錐体介在性の30Hzフリッカー遅延の検出が、バードショット網脈絡膜症の評価とモニタリングに最も感度が高い方法とされる。
後極部から赤道部にかけて、脈絡膜層レベルに乳頭径の約1/4〜1/2大のクリーム色〜黄橙色の円形・卵円形の病変が多数散在します。視神経乳頭から周辺部に向かって放射状に広がるのが特徴的で「散弾銃の弾痕のよう」と形容されます。蛍光眼底造影ではこれらの病変が過蛍光を示しますが、漏出はありません。
バードショット網脈絡膜症とHLA-A29アレルとの関連は、既知のあらゆる疾患の中で最も強い遺伝的関連の一つである。HLA-A29 陽性率は白人患者の80〜98%であり3)、相対リスクは50〜224倍に上昇する。HLA-A29 がどのように自己免疫を惹起するかは不明だが、特定の自己ペプチドのアレル特異的提示またはHLAタンパク質の安定性を介してT細胞を活性化するという仮説がある3)。
| リスク要因 | 内容 |
|---|---|
| HLA-A29 | 白人患者の80〜98%で陽性。一般人口(約7%)に対して相対リスク50〜224倍3) |
| 性別・年齢 | 40〜60歳代、やや女性に多い |
| 人種 | 北欧系の家系に多く報告されている |
| 網膜S抗原 | 関連が指摘されているが機序は未解明 |
HLA-A29 陽性率は白人で高く報告されているが、日本人では HLA-A29 保有者が少ないため6)、HLA-A29 検査を診断補助として用いる意義は限定的となる。日本人症例では HLA-A29 を用いない臨床診断基準(SUN 2021)への依存が重要となる5)。
発症はまれであるが報告されている。HLA-A29 陽性率は白人で80〜98%3) であるのに対し、日本人では HLA-A29 保有者自体が少ないため6)、診断の際は HLA-A29 検査に過度に依存せず、SUN 2021 分類基準の臨床所見項目を重視する必要がある。40〜60歳代の両眼後部ぶどう膜炎でHLA-A29 陰性であっても本疾患を除外できない。
2021年、ぶどう膜炎命名法の標準化(SUN)ワーキンググループが機械学習モデルを用いた分類基準を公表した5)。
以下の基準1〜3をすべて満たすか、または基準4を満たす場合に分類される:
以下の場合は除外:梅毒血清反応陽性、サルコイドーシスの証拠(両側肺門リンパ節腫脹・非乾酪性肉芽腫)、眼内リンパ腫の証拠。
検査室検査(他疾患除外目的):
補助的検査:
| 鑑別疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| サルコイドーシス | 最重要。全身検査異常(ACE上昇・両側肺門リンパ節腫脹)、静脈周囲炎 |
| 多発消失性白点症候群(MEWDS) | 片眼性・急性・自然軽快、前房炎症軽微 |
| 急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE) | 急性発症・両眼性・比較的良好な予後 |
| 梅毒性ぶどう膜炎 | 梅毒血清反応陽性 |
| 結核性ぶどう膜炎 | クオンティフェロン陽性・胸部異常所見 |
バードショット網脈絡膜症治療の主力は副腎皮質ステロイドと免疫抑制療法の組み合わせである。治療を行わない場合、ほとんどの患者で視機能が進行性に低下し、10年間で16〜22%の患者が視力0.1以下になる(他のぶどう膜炎では4%)。
プレドニゾロン 0.5〜1 mg/kg/日から全身投与を開始する。処方例として、プレドニゾロン 5 mg × 8錠(40 mg)分2(朝食後6錠・昼食後2錠)が用いられる。経口ステロイド単独で長期維持(20 mg/日未満で無症状維持)できたのは15%未満であり、免疫抑制療法との併用が推奨される。全身療法にもかかわらず黄斑浮腫が持続する場合は、局所ステロイド注射(Tenon嚢下注射・眼内インプラント)も使用される。再発時にはステロイドパルス療法とシクロスポリン内服を検討する。
ステロイドの副作用を最小限に抑えるため、免疫抑制薬を早期から併用する。
免疫抑制療法による1年間の治療成功率は67〜90%と推定されている。
ぶどう膜炎診療ガイドラインでは、免疫抑制薬として同様の治療方針が記載されている6)。
従来の免疫抑制薬に反応しない難治性例では、生物学的製剤へのステップアップが適応となる。
バードショット網脈絡膜症の病態生理は不明な点が多いが、T細胞介在性の自己免疫疾患であると広く考えられている。HLA-A29陽性眼の組織病理学的検査では、脈絡膜の様々なレベル・網膜血管周囲・篩板前視神経乳頭内にリンパ球浸潤の多局性病巣が認められる。
HLA分子がどのように自己免疫を惹起するかは不明だが、特定の自己ペプチドのアレル特異的提示またはHLAタンパク質の安定性を介してT細胞を活性化するという仮説がある3)。感染症がトリガーとなってTリンパ球を刺激し、自己ペプチドを発現させるという説も提唱されている。
炎症性滲出物が脈絡膜の解離面に浸潤し、線維化を起こして脈絡膜間質を癒着させ、萎縮性病変をもたらすと考えられている。脈絡膜の関与は網膜のみならず独立して生じ、網膜への波及として網膜血管炎・嚢胞様黄斑浮腫が生じる1)。OCT-A では脈絡膜ストロマレベルの血流異常が描出され、脈絡膜毛細血管板は初期には比較的保たれることが報告されている1)。
錐体系および桿体系の機能低下が網膜電図に反映される。初期のnegative typeは、光受容体機能が比較的保たれた段階での内層網膜(双極細胞・神経節細胞)への炎症性影響を示唆する。30Hzフリッカー(錐体介在性)の遅延が早期から認められることは、本疾患が錐体系に強い影響を与えることを示す。
2021年のSUNワーキンググループによる機械学習を用いた分類基準の更新により、早期診断の精度が向上した5)。HLA-A29検査とICGAの活用により、眼底病変が不明確な初期段階での診断が可能となっている。
OCTアンギオグラフィ(OCTA)の導入により、無侵襲で脈絡膜血流異常の評価が可能となった。FAFによる視神経乳頭周囲の低自発蛍光パターン(73%に認められる)が、慢性化・重症度の指標として注目されている。楕円体帯(ellipsoid zone)の消失をOCTで定量化することで、視力予後の予測が向上している2)。
アダリムマブがバードショット網脈絡膜症への第一選択生物学的製剤として広く使用されるようになり4)、従来の免疫抑制薬への反応不十分例での視機能維持に貢献している。トシリズマブなど新たなクラスの生物学的製剤の有効性報告も蓄積されつつある。