急性期所見
多発消失性白点症候群(MEWDS)
1. 多発消失性白点症候群とは
Section titled “1. 多発消失性白点症候群とは”多発消失性白点症候群(multiple evanescent white dot syndrome; MEWDS)は、1984年にJampolらが初めて報告した17)急性炎症性疾患である。近視の若年女性の片眼に好発し、眼底後極部〜赤道部にかけて網膜深層〜RPEレベルの多数の淡い灰白色斑が出現する。数週の経過で白色斑はほぼ消失し、視力も改善する自然軽快型の疾患である。
ぶどう膜炎診療ガイドライン(日眼会誌 2019;123(6):635-696)における分類では、非感染性・眼底病変主体の後部ぶどう膜炎として位置づけられ、片眼性・急激発症・一過性経過という特性が記載されている1)。
MEWDSはAZOOR complex(MEWDS, AZOOR, AMN, PIC, MFC, AIBSE, AAOR)の一疾患として位置づけられており、これらの疾患群は外網膜・視細胞・RPEを主座とする炎症性疾患の連続体(スペクトラム)と捉えられる2)。白点症候群のなかでもMEWDSはマルチモーダルイメージングにより病態の解明が最も進んでいる疾患の一つである2)。
- 好発年齢:20〜50歳代
- 男女比:1:4と女性に圧倒的に多い1)
- 年間発症率:10万人あたり約0.22例10)
- 近視眼に好発、片眼性が多い
- 半数の症例で発症1〜2週前に感冒様前駆症状を認める1)
- 先行要因として感冒様症状のほか、経口避妊薬服用・ワクチン接種・上気道感染が知られている1)
- 両眼性はまれで、左右非対称となり、軽症側が無症候性のこともある18)
- 年齢の非典型例も報告されており、最年少は9歳の女児13)、最高齢は75歳の男性である10)
大部分は単回発作で終わるが、再発は約10%に認められ、確定73例の大規模後ろ向きコホートでは14%であった20)。ワクチン接種や感染症との時間的関連を示す症例報告はあるものの、再発の因果的な誘因は確立していない。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
眼底後極部〜赤道部にかけて網膜深層〜RPEに散在する淡い斑状病巣が多発する1)。白色斑の大きさは100〜200μmで大小さまざまであり、互いに融合していることもある。視神経乳頭軽度発赤・軽度硝子体細胞を認めることがある1)。中心窩顆粒状変化(foveal granularity;オレンジ〜黄色の顆粒状外観)は近赤外FAFで確認できる診断的所見であり、症例の74〜96%にみられ、白点消失後も唯一の所見となりうる2)5)。
その他の臨床所見として以下がある。
- 相対的瞳孔求心路障害(RAPD):まれに陽性となる
- 視神経乳頭浮腫:乳頭周囲の漿液性網膜下液を伴うこともある
- 網膜静脈の血管鞘・網膜出血:まれな所見である
寛解期所見
白斑の消退:数週以内に白色斑が消失し視力が改善する1)。
ellipsoid zone の回復:OCTで ellipsoid zone が経時的に回復することが多い2)3)。視力回復と相関する。
choriocapillaris の保存:OCT-A では脈絡膜毛細血管板血流は原則保たれている一方、一部の症例では一過性の flow void も報告されている4,8)。
光視症は、MEWDSで一過性に障害される外網膜・ellipsoid zone の変化と関連すると考えられている。通常は疾患の回復とともに軽快する2)。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”MEWDSの主座は外網膜・ellipsoid zone(IS/OS)であり、choriocapillaris は原則保たれる2)。ICGA後期低蛍光が認められるが、これは脈絡膜毛細血管板の虚血よりもRPE機能障害による色素取り込み異常によって生じる可能性が指摘されている2)。脈絡膜毛細血管板障害(ICGA所見)は白点を認めない視神経乳頭周囲にも観察され、臨床的に見える病巣よりも広範に及ぶことがある1)。
誘因・リスク因子
Section titled “誘因・リスク因子”- 原因不明。自己免疫・ウイルス感染誘因仮説がある
- 先行要因:感冒様症状(インフルエンザ・ムンプス等)、経口避妊薬服用、ワクチン接種、上気道感染1)
- 近視眼(特に中等度〜強度近視)
- 感冒様症状、感染、ワクチン接種などとの時間的関連が報告され、免疫機序が仮説として検討されているが、確立した原因は不明である2,7)
- ワクチン接種:B型肝炎、インフルエンザ、HPV、髄膜炎菌、COVID-19ワクチン後の発症が報告されている11,14,15)。COVID-19ワクチン後の報告27例をまとめたレビューでは、接種から発症までの平均は14.7日(1〜90日)であった14)
- COVID-19感染:SARS-CoV-2感染後のMEWDS発症が複数報告されている。報告7例のレビューでは、感染から発症までの平均は29.6日(0〜70日)であった14)
ワクチン後発症の機序としては、分子模倣、ワクチン成分に対する免疫反応、補体活性化などが仮説として論じられているが、確立した因果機序ではない15)。HLA-B51ハプロタイプの頻度がMEWDS患者で正常群の3.5倍高いとの予備的報告もある12)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”MEWDSの診断は特徴的な眼底所見とマルチモーダルイメージングにより行われる。
| 検査法 | 特徴的所見 |
|---|---|
| FA | 白斑部は造影早期から wreath-like(花冠状)過蛍光、後期も持続。視神経乳頭漏出あり2)6) |
| ICGA | 白斑部は後期低蛍光。臨床所見より広範な低蛍光域。乳頭周囲にも低蛍光斑が出現1)2) |
| FAF(眼底自発蛍光) | 急性期に高自発蛍光。低蛍光と過蛍光の混在。診断に有用1)2) |
| SD-OCT | 活動期に ellipsoid zone の著明な乱れ・消失・RPEの局所的肥厚2)3) |
| OCT-A | choriocapillaris 血流は原則保たれる(一部に flow void 報告あり)4)8) |
| 多局所ERG | 黄斑部振幅平坦化(急性期)。回復とともに正常化1) |
| Goldmann視野 | Mariotte盲点拡大・中心暗点1) |
診断のポイント
Section titled “診断のポイント”MEWDSの特徴として、FAでは初期から過蛍光を示す点がAPMPPEとの重要な鑑別点である。APMPPEは造影初期に低蛍光→後期に過蛍光という逆転現象を示すのに対し、MEWDSは初期から過蛍光が持続する2)6)。また、OCTでは活動期にellipsoid zone(IS/OSライン)が不整になるが、この乱れが改善するとともに視力が回復することが病態理解に重要な所見である3)。
鑑別診断(ぶどう膜炎診療ガイドライン「表3」より)1)
Section titled “鑑別診断(ぶどう膜炎診療ガイドライン「表3」より)1)”| 疾患 | 鑑別ポイント |
|---|---|
| APMPPE | 両眼性・大型プラーク・FA蛍光逆転(早期低蛍光→後期過蛍光) |
| AZOOR | 眼底正常・ERG異常のみ |
| AIBSE | 乳頭周囲輪状灰白色混濁・Mariotte盲点拡大 |
| AMN | 黄斑部赤褐色斑状病変 |
| AAOR | 網膜深層の輪状灰白色混濁 |
| PIC | 中等度近視女性・後極部小型黄白斑・両眼性多い・CNV合併率が高い(報告により約20〜75%と幅がある) |
| 散弾状脈絡網膜症・多巣性脈絡膜炎 | 炎症遷延・両眼性 |
| サルコイドーシス・眼内リンパ腫 | 全身合併・炎症遷延 |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”特別な治療なく自然治癒が期待できるため、軽症例は経過観察が基本である1)。白色斑は数週で自然に消失し、視力予後は良好である。経過とともにERGは沈静化・正常化する1)。
抗炎症療法の適応
Section titled “抗炎症療法の適応”自然軽快傾向が強いため、多くの症例では治療を要しない1)。視力低下が著しい例や乳頭浮腫を伴う例では抗炎症治療が個別に検討されることがあるが、標準的な薬剤・投与量は確立していない。
COVID-19関連MEWDS 7例のレビューでは、5例(71%)が何らかの治療を受けており、COVID-19関連例はウイルス性MEWDS全般と比べてやや重症化する可能性が示唆されている14)。不完全な視力回復例も報告されており、COVID-19関連例には注意深い経過観察が求められる。
再発・遷延例はまれである。シクロスポリンで治療された再発例が1例報告されているが、標準治療としての有効性を示すものではない19)。
CNV合併例
Section titled “CNV合併例”脈絡膜新生血管を合併した場合は抗VEGF薬硝子体内注射(ベバシズマブ・ラニビズマブ・アフリベルセプト)を検討する1)。CNV合併はまれではあるが、視力予後不良の原因となるため注意が必要である。CNV活動性の評価にはOCT-Aが有用で、抗VEGF療法の治療判断・効果判定に役立つ8)。
基本的に自然軽快傾向の強い疾患であるため、多くの場合は治療不要である。ぶどう膜炎診療ガイドラインでも「特別な治療なく自然回復」が基本方針とされている1)。重症例でステロイドが用いられることはあるが、自然経過より回復を早めるという確立した根拠はない。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”MEWDSの主な障害部位は外網膜・ellipsoid zone(IS/OS接合部)であり、脈絡膜毛細血管板は原則保たれる2)。これはAPMPPEとの重要な病態的差異である。
外網膜・ellipsoid zone 障害
Section titled “外網膜・ellipsoid zone 障害”OCT所見では、活動期にellipsoid zone(網膜視細胞内節外節接合部)が不整・消失となる。この乱れが改善するとともに視力が回復することが報告されており、外網膜障害の一過性・可逆性がMEWDSの本態である3)。近年のen face swept-source OCTでは、従来の断層画像では認識困難な病変範囲の広がりも可視化されている3)。
ICGAとchoriocapillaris
Section titled “ICGAとchoriocapillaris”ICGA後期低蛍光は認められるが、これは脈絡膜毛細血管板の虚血よりもRPE機能障害による色素取り込み異常によって生じる可能性が指摘されている2)。OCT-Aでは脈絡膜毛細血管板の血流は原則保たれており、一部の症例でのみ一過性のflow voidが報告されている4)8)。swept-source OCT-Aを用いた研究では、MEWDSにおけるchoriocapillarisのsparing(温存)が確認されている4)。
foveal granularity(中心窩顆粒状変化)
Section titled “foveal granularity(中心窩顆粒状変化)”近赤外FAFで確認されるfoveal granularityは、中心窩視細胞層の障害を反映する特徴的所見である2)5)。マルチカラーイメージング(近赤外反射・青色反射)でも確認でき、活動期の診断に有用とされる。
AZOOR complexとしての位置づけ
Section titled “AZOOR complexとしての位置づけ”AZOOR complexとして MEWDS・AZOOR・PIC・MFC などを統合的に捉える概念が提唱されている2,7)。Jampol・Becker(2003)はこれらの疾患が共通の遺伝的自己免疫・炎症機序に基づくという仮説を提唱したが、MEWDSに固有の遺伝因子は確立していない7)。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”- OCT-Aによるchoriocapillaris 機能評価:swept-source OCT-Aでchoriocapillarisのflow voidの一過性検出が報告されており、脈絡膜毛細血管板の関与の再評価が進行中である4)8)。一部の症例ではchoriocapillarisの血流低下も認められ、病態の多様性が示唆されている8)。
- en face swept-source OCT:白点病変の形状・分布・内層境界を3次元的に可視化する新しい診断手法として報告が増えている3)。
- AZOOR complex概念の進展:MEWDS・AZOOR・PIC・AMN・AIBSE・AASRを単一スペクトラムとして統合的に理解する研究が進んでいる2)9)。Zicarelliら(2020)はMEWDSの病態に関する新しい解釈を提唱した9)。
- マルチカラーイメージング:近赤外反射・青色反射を用いた臨床診断補助ツールの開発。foveal granularityの非侵襲的評価が可能となっている5)。
- COVID-19感染後・ワクチン後MEWDS:感染後やmRNAワクチン接種後の症例報告が蓄積され、免疫トリガーとの関連が検討されている14,15)。
- 再発率・長期予後データ:大規模な長期追跡研究の蓄積が待たれる。
COVID-19とMEWDSの関連
Section titled “COVID-19とMEWDSの関連”Chenら(2024)は、COVID-19感染後に発症したMEWDS 7例を文献的にレビューし、平均年齢38.4歳、女性5例、平均感染-発症間隔29.6日であったことを報告した14)。2例(29%)が両眼性、5例(71%)が治療を受けており、COVID-19関連例では不完全な視力回復や治療介入の必要性が通常例より高い可能性を示唆した。
COVID-19ワクチン関連MEWDSについて、既報27例をまとめたレビューでは平均年齢34.1歳、女性優位、接種から発症まで平均14.7日であった14)。mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech)が最多であった。
ワクチン接種と再発
Section titled “ワクチン接種と再発”Ramirez Marquezら(2022)は、HPVワクチン・髄膜炎菌ワクチン同時接種後にMEWDSを発症し、その後COVID-19感染およびBNT162b2ワクチン接種を経て対側眼に2回の再発を呈した17歳女性を報告した11)。
非典型例の報告
Section titled “非典型例の報告”Yasudaら(2022)は、BNT162b2 mRNAワクチン2回目接種翌日にMEWDSを発症した67歳日本人女性を報告した15)。中等度の硝子体炎を伴い、視力は0.2まで低下したが、無治療で0.8まで回復した。
Wileyら(2022)は、17歳女性がSARS-CoV-2ワクチン接種2日後に両眼性視神経乳頭浮腫とMEWDS様の白点病変を発症し、髄液検査で開放圧55cmH2O・白血球数48細胞/μLのぶどう膜髄膜症候群を呈した症例を報告した16)。MEWDSでのぶどう膜髄膜症候群合併は初の報告であった。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- 日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会. ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.
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