強膜炎・上強膜炎
再発性多発軟骨炎に伴う眼病変(Relapsing Polychondritis Ocular Manifestations)
1. 再発性多発軟骨炎に伴う眼病変とは
Section titled “1. 再発性多発軟骨炎に伴う眼病変とは”再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis; RP)は、全身の軟骨組織に反復性の炎症をきたす比較的まれな自己免疫疾患である。気管軟骨を含むすべての軟骨組織に加え、眼・心血管系・内耳などプロテオグリカンを多く含む組織が標的となる。40〜50 歳代に好発し、性差はないが女性にやや多いとの報告もある。骨髄異形成症候群(MDS)・全身性血管炎・膠原病に合併することがある。
眼病変は患者の 50〜65% に認められ、強膜炎・上強膜炎が代表的である3)。眼科症状が初発症状となり診断の契機となる症例もある8)。再発性多発軟骨炎は指定難病 384 番に指定されている。
眼病変を有する症例では、Behçet 病・HLA-B27 関連ぶどう膜炎との鑑別が重要である。特に前房蓄膿を伴う強い炎症所見では、鞍鼻・耳介軟骨の圧痛などの軽微な全身症状についても積極的に問診を行う必要がある。ぶどう膜炎診療ガイドライン(2019 年)では、本疾患は膠原病に伴うぶどう膜炎として位置づけられ、眼科スクリーニングの重要性が強調されている1)。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”眼の自覚症状として以下が出現する。
- 眼痛:強膜炎の拍動性疼痛・圧痛が特徴的。眼球圧迫時に増強し夜間に悪化する傾向がある
- 充血:強膜・結膜の血管拡張による深部充血
- 視力低下:ぶどう膜炎・角膜混濁・視神経炎・網膜病変で生じる
- 複視:外眼筋麻痺による眼球運動障害
- 霧視・飛蚊症:硝子体炎症や混濁を伴う場合
- 眼球突出感:眼窩内の軟骨・組織炎症による
全身の初発症状として耳介の疼痛・発赤・変形が最も多く認められる。他に鼻根部変形(鞍鼻)・嗄声・呼吸困難・難聴・めまい・関節痛が先行または並行して出現する。
臨床所見(眼科的所見)
Section titled “臨床所見(眼科的所見)”前眼部・角膜
前部ぶどう膜炎:前房フレア・細胞浸潤が主体。前房蓄膿(膿貯留)を伴う強い炎症像がみられ、Behçet 病との鑑別が必要。
周辺部角膜炎・潰瘍:輪部周囲の実質浸潤・潰瘍形成。壊死性強膜炎に続発することが多い。
角膜融解(周辺潰瘍性角膜炎):重症例では角膜穿孔に至るリスクがある。緊急対応を要する。
後眼部・視神経
臨床所見(全身所見)
Section titled “臨床所見(全身所見)”- 耳介軟骨炎(最多):片側または両側の急性〜亜急性の耳介疼痛・発赤・変形
- 多発性関節炎:非びらん性で対称性。複数関節に及ぶ
- 鼻軟骨炎:鼻根部の疼痛・変形(鞍鼻)
- 気道軟骨炎:喉頭・気管狭窄。声帯浮腫・嗄声・喘鳴・呼吸困難
- 内耳障害:難聴・耳鳴・めまい
- 心血管系病変:大動脈弁逆流・大動脈瘤・心膜炎
- 腎病変:糸球体腎炎(まれ)
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”自己免疫機序
Section titled “自己免疫機序”強膜および軟骨組織に豊富に存在する Type II コラーゲンに対する自己抗体が病態の中心と考えられている。患者の約 20〜50% で Type II コラーゲン自己抗体が陽性となり、関節リウマチで認める同抗体より高値との報告がある4)。また気道軟骨に特異的なマトリリン-1(matrilin-1)自己抗体も一部の患者で検出される。
病理組織学的にはリンパ球・形質細胞・マクロファージ・好中球の浸潤が認められる。破壊された軟骨基質は線維結合組織に置換される。強膜病変では炎症細胞浸潤と血管炎が観察され、上強膜炎では弾性線維の好塩基性減少・断裂が特徴的である。強膜・上強膜・角膜周辺部はプロテオグリカンリッチな組織であり、軟骨と類似した抗原性を持つため眼病変の標的となる。
遺伝的素因・合併疾患
Section titled “遺伝的素因・合併疾患”HLA-DR4 との関連が報告されている。MDS・全身性血管炎・関節リウマチ・全身性エリテマトーデス(SLE)などの全身性自己免疫疾患に合併することがある。
VEXAS 症候群との関連
Section titled “VEXAS 症候群との関連”2020 年に記述された VEXAS 症候群は、X 染色体上の UBA1 遺伝子の体細胞変異によって発症する自己炎症性疾患で、再発性多発軟骨炎様の症状を呈することが判明した5)。60 歳以上の男性に好発し、血球減少・MDS・再発性の耳介軟骨炎・皮膚病変・眼炎症などをきたす。従来「再発性多発軟骨炎」と診断されてきた高齢男性例の一部が VEXAS 症候群である可能性があり、治療方針が異なるため精査が重要である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”本疾患に特異的な血液検査所見はなく、臨床症状・血液検査・組織生検の総合的な判断に基づいて診断する。以下の 2 つの診断基準が用いられる2)9)。
再発性多発軟骨炎の診断基準に用いられる McAdam 1976 基準(6 項目):
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 両側耳介軟骨炎 |
| 2 | 非びらん性多発性関節炎 |
| 3 | 鼻軟骨炎 |
| 4 | 眼炎症(結膜炎・角膜炎・強膜炎・上強膜炎・ぶどう膜炎) |
| 5 | 呼吸器軟骨炎(喉頭・気管軟骨) |
| 6 | 蝸牛・前庭機能障害(難聴・耳鳴・めまい) |
McAdam 基準(1976)2):上記 6 項目中 3 項目以上を満たす。
Damiani-Levine 改訂基準(1979)9):以下のいずれかを満たす。
- McAdam 基準の 3 項目以上を満たす
- 1 項目以上+組織病理学的確認(軟骨の炎症性変化)
- 2 項目以上+ステロイドまたはダプソンへの反応性
眼病変のみからの診断は困難であり、反復する上強膜炎・強膜炎に耳介の疼痛・発赤・変形を伴う場合に本症を疑い、耳鼻咽喉科・免疫アレルギー内科に紹介する。
- 細隙灯顕微鏡検査:強膜充血・結節・壊死のパターン評価、前房炎症(フレア・細胞)・前房蓄膿の確認
- 眼底検査・OCT:綿花様白斑・網膜出血・漿液性剥離・網膜血管閉塞の評価
- 蛍光眼底造影(FA):血管炎・血管閉塞・視神経炎の評価
- 超音波 B モード:後部強膜炎の診断(後部テノン嚢内液貯留・T サイン)
- 血液検査:白血球増多・CRP 上昇・ESR 亢進(非特異的炎症所見)。Type II コラーゲン自己抗体(陽性率 20〜50%)4)。ANCA・RF・抗核抗体(合併疾患鑑別)
- 画像検査:X 線(耳介石灰化)・CT(喉頭・気管壁肥厚・石灰化)
- ぶどう膜炎 GL 推奨スクリーニング検査:CBC・生化学・CRP・ANCA・HLA-B27 等1)
- 気管支鏡・心エコー(適宜)
- Behçet 病:前房蓄膿性ぶどう膜炎が共通。口腔内アフタ・外陰部潰瘍・皮膚症状の有無で鑑別
- HLA-B27 関連ぶどう膜炎(強直性脊椎炎・反応性関節炎等):脊椎・仙腸関節病変、HLA-B27 検査で鑑別
- 多発血管炎性肉芽腫症(GPA):鞍鼻・強膜炎が共通。PR3-ANCA・組織生検で鑑別
- VEXAS 症候群:60 歳以上男性で再発性多発軟骨炎様症状を呈する場合に必ず鑑別。UBA1 遺伝子体細胞変異の確認が必要5)
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”治療方針は病変の重症度と部位によって決定する。眼病変への局所治療と全身的な炎症制御を並行して行う。
重症度別の全身治療
Section titled “重症度別の全身治療”| 重症度 | 対象病変 | 治療薬・用量 |
|---|---|---|
| 軽症 | 上強膜炎、軽度関節炎 | NSAIDs(ロキソプロフェン、ジクロフェナク等) |
| 中等症 | 強膜炎、前部ぶどう膜炎 | プレドニゾロン 0.5〜1 mg/kg/日 漸減 |
| 重症 | 壊死性強膜炎、喉頭気管軟骨炎、心血管病変 | メチルプレドニゾロン 1 g/日×3 日(パルス療法) |
| 難治例 | ステロイド依存・減量困難 | 免疫抑制薬+生物学的製剤 |
ステロイド漸減中の再燃や、ステロイド依存性症例には免疫抑制薬を追加する。
- メトトレキサート:10〜25 mg/週(内服または皮下注射。葉酸補充を同時に行う)
- アザチオプリン:1〜2 mg/kg/日
- シクロスポリン(ネオーラル®):3〜5 mg/kg/日。難治性ぶどう膜炎・強膜炎に有用。ステロイド内服漸減により炎症再燃を繰り返す場合に内服併用が治療選択肢となる
- シクロホスファミド:重症血管炎合併例に使用
生物学的製剤
Section titled “生物学的製剤”複数の症例報告・症例集積研究で有効性が報告されている6)。
- 抗 TNF-α 製剤:インフリキシマブ・アダリムマブ(強膜炎・ぶどう膜炎・全身炎症に有効)
- 抗 IL-6 受容体抗体:トシリズマブ(抵抗性強膜炎・ぶどう膜炎に有効)
- CTLA4-Ig:アバタセプト
- 抗 CD20 抗体:リツキシマブ(壊死性強膜炎、血管炎合併例)
Moulis ら(2018)のフランス国内多施設研究では、インフリキシマブ・アダリムマブ・トシリズマブを含む生物学的製剤が難治性再発性多発軟骨炎の管理に有用であることが報告された6)。ランダム化比較試験は未実施であり、いずれも保険適用外使用となる。
眼科局所治療
Section titled “眼科局所治療”- フルメトロン(フルオロメトロン)点眼液 0.1% 1 日 4 回
- NSAIDs 点眼(インドメタシン等)
びまん性・結節性強膜炎
- リンデロン(ベタメタゾン)点眼液 0.1% 1 日 4〜6 回、リンデロン A 軟膏就寝前点入
- 結膜下注射:トリアムシノロンアセトニド 20 mg 月 1 回、またはデキサメタゾン 2 mg 1〜2 週毎
- 局所治療無効例:プレドニゾロン(プレドニン®)20〜30 mg/日 分 2 内服漸減
重症・全周性強膜炎
- プレドニゾロン 30〜60 mg/日から漸減
- ステロイドパルス:ソル・メドロール® 1 g/日×3 日間(保険適用外)
- 難治例:シクロスポリン(ネオーラル®)5 mg/kg/日 追加(保険適用外)
ぶどう膜炎
- ステロイド点眼(ベタメタゾン 0.1% 頻回点眼)+散瞳薬(虹彩後癒着予防)1)
- 難治例:プレドニゾロン全身投与
- シクロスポリン 3〜5 mg/kg/日 内服併用
周辺部角膜融解(緊急)
- 穿孔リスクがあるためステロイド点眼は慎重に使用する
- 入院管理・全身免疫抑制療法の強化
- 羊膜移植・表層角膜移植(組織補強)
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”軟骨組織の選択的障害
Section titled “軟骨組織の選択的障害”再発性多発軟骨炎の原因は不明であるが、Type II コラーゲンに対する自己免疫機序の関与が考えられている。強膜・上強膜・角膜周辺部はプロテオグリカンを豊富に含む組織であり、軟骨と類似した抗原性を持つため眼病変の主要な標的となる。
T 細胞(CD4+)と B 細胞の協調的な自己免疫反応によって軟骨特異的抗原(Type II コラーゲン・マトリリン-1 など)への免疫応答が惹起される。活性化されたリンパ球・マクロファージが組織内に浸潤し、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)が産生されて組織破壊が進行する。破壊された軟骨基質は最終的に線維結合組織に置換される。
病理組織学的変化
Section titled “病理組織学的変化”上強膜炎では弾性線維の好塩基性の減少と断裂・リンパ球と形質細胞の浸潤が認められる。強膜炎では炎症細胞の浸潤と血管炎が観察される。軟骨では好中球・形質細胞・マクロファージの浸潤が軟骨基質破壊を引き起こし、最終的に線維化・石灰化へと至る。
VEXAS 症候群の病態
Section titled “VEXAS 症候群の病態”VEXAS 症候群は X 染色体上の UBA1 遺伝子(ubiquitin-activating enzyme E1)の体細胞変異によって、ユビキチンプロテアソーム経路とオートファジー機能の障害が生じ、強い自然免疫系の活性化をきたす疾患である5)。病態的に再発性多発軟骨炎・MDS・難治性皮膚病変の重複を呈する。60 歳以上の男性における新規診断例では遺伝子検査による鑑別が推奨される。
予後に関わる因子
Section titled “予後に関わる因子”呼吸器感染症・心血管病変・全身性血管炎・中枢神経病変の合併が予後不良因子である。眼病変自体による視力喪失の主な原因は、壊死性強膜炎に続発する角膜穿孔・視神経炎・網膜血管閉塞などである。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”VEXAS 症候群の認識と JAK 阻害薬
Section titled “VEXAS 症候群の認識と JAK 阻害薬”2020 年の Beck らによる VEXAS 症候群の発見により、従来「再発性多発軟骨炎」と診断されてきた高齢男性例の一部が別病態であることが明らかになった5)。JAK 阻害薬(ルキソリチニブ・トファシチニブ)による治療効果が後方視的研究で示されており、ルキソリチニブは他の JAK 阻害薬より高い有効性を示す可能性がある7)。骨髄移植による根治例も報告されているが、適応・有効性に関するエビデンスは限定的である。
生物学的製剤の展開
Section titled “生物学的製剤の展開”Petitdemange ら(2022)の系統的レビューでは、トシリズマブが眼炎症(強膜炎・ぶどう膜炎)の制御に有効である可能性を示す複数の症例・小規模研究が集積されている3)。ランダム化比較試験は行われておらず、前向きエビデンスの集積が今後の課題である。
呼吸機能管理と集学的アプローチ
Section titled “呼吸機能管理と集学的アプローチ”気道軟骨炎による気管狭窄は急性呼吸不全をきたし得る。眼科管理と並行した呼吸機能・心機能の定期的モニタリングが重要であり、耳鼻咽喉科・呼吸器内科・リウマチ内科・眼科の連携による集学的診療体制が求められる10)。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
日本眼炎症学会 ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日眼会誌. 2019;123(6):635-696.
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McAdam LP, O’Hanlan MA, Bluestone R, Pearson CM. Relapsing polychondritis: prospective study of 23 patients and a review of the literature. Medicine (Baltimore). 1976;55:193-215.
-
Petitdemange A, et al. Treatment of relapsing polychondritis: a systematic review. Clin Exp Rheumatol. 2022;40(Suppl 134):81-85.
-
Foidart JM, et al. Antibodies to type II collagen in relapsing polychondritis. N Engl J Med. 1978;299:1203-1207.
-
Beck DB, Ferrada MA, Sikora KA, et al. Somatic mutations in UBA1 and severe adult-onset autoinflammatory disease (VEXAS syndrome). N Engl J Med. 2020;383:2628-2638.
-
Moulis G, et al. Efficacy and safety of biologics in relapsing polychondritis: a French national multicentre study. Ann Rheum Dis. 2018;77:1172-1178.
-
Heiblig M, et al. Ruxolitinib is more effective than other JAK inhibitors to treat VEXAS syndrome: a retrospective multicenter study. Blood. 2022;140:927-931.
-
Lahmer T, et al. Relapsing polychondritis: ocular manifestations and treatment. Autoimmun Rev. 2010;9:540-546.
-
Damiani JM, Levine HL. Relapsing polychondritis—report of ten cases. Laryngoscope. 1979;89:929-946.
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Borgia F, et al. Relapsing polychondritis: an updated review. Biomedicines. 2018;6:84.