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神経眼科

外傷性視神経症

外傷性視神経症(Traumatic Optic Neuropathy)は、前頭部・前額部、特に眉毛部を強打し、介達外力が視神経管に作用して視神経の打撲が発生した状態である。従来は視神経管骨折(視束管骨折)が主因と考えられていたが、現在は骨折を伴わない例でも発症することが判明している。通常、眉毛外上方の鈍的外傷後に発症し、大半の症例で眉毛外側に皮下出血や挫滅創を認める。眼窩底骨折視神経管への波及、眼窩刺傷なども原因となる。

損傷の機序により以下に分類される。

  • 直達損傷:骨片・異物による視神経への直接損傷。比較的まれである。
  • 介達損傷:眉毛部への打撲による介達外力が視神経管部に伝わり、視神経打撲が生じる。外傷性視神経症の大多数を占める。

損傷部位による分類は以下の通りである。

詳細な疫学データは少ない。視神経管骨折の約20%はX線・CTでも見逃されるため、骨折の有無のみで診断を判断してはならない。原因としては交通外傷、スポーツ外傷、転倒・転落、暴行などが挙げられる。小児では虐待による外傷性視神経症の可能性も念頭に置く必要がある。

Q 外傷性視神経症は必ず骨折を伴うのですか
A

必ずしも骨折は伴わない。従来は視神経管骨折が主因とされていたが、現在は骨折がなくても介達外力による視神経打撲で発症することが判明している。視神経管骨折の約20%はCTでも見逃されるため、骨折の有無にかかわらず臨床所見を重視する。

主症状は受傷直後からの視覚障害である。

  • 視力障害:光覚消失から軽度障害まで多様であるが、多くは重症例である。
  • 視野障害中心暗点、求心性視野狭窄、水平半盲などさまざまな形態をとる。
  • RAPD陽性(Marcus-Gunn瞳孔:直接対光反応が減弱し、swinging flashlight testで陽性となる。外傷性視神経症の診断に最も重要な所見である。
  • CFF(中心フリッカ値)低下:大きく低下または測定不能となる。
  • 眼底所見:受傷直後は通常正常である。受傷6〜8週後以降、徐々に進行する視神経萎縮が出現し、乳頭の色調が蒼白になる。
  • OCT所見:受傷2週後にGCC(神経節細胞複合体)厚が菲薄化し正常域を下回る。30〜50日前後で安定化する。
  • 外表所見:眉毛外側に打撲による皮下出血や挫滅創を認めることが多い。

視神経管部では骨膜と硬膜が一体となっているため、衝撃のクッションとなる可動性に乏しい。そのため外力により視神経鞘内での出血や視神経線維の浮腫・断裂を生じやすい。

視神経損傷の発生機序は、打撲によって発生した視神経実質内(脳の白質に相当)での血管原性浮腫が主因と考えられている。これは頭部打撲による脳浮腫と同様の病態である。この浮腫が視神経管という閉じた骨性空間内で視神経を圧迫し、神経線維の障害を引き起こす。

  • 眉毛部・前頭部への鈍的外傷:発症の必須条件である
  • 交通外傷、スポーツ外傷:成人の主要原因である
  • 転倒・転落、暴行:高齢者・小児に多い原因である
  • 小児の虐待:原因不明の視力低下では必ず念頭に置く
  • 交互点灯対光反射試験(swinging flashlight test)外傷性視神経症の診断に最も重要な検査である。RAPD陽性(Marcus-Gunn瞳孔)を確認する。
  • 視力検査:光覚消失〜軽度低下まで多様な程度を評価する。
  • 視野検査中心暗点、求心性視野狭窄、水平半盲などを確認する。
  • CFF(中心フリッカ値)測定:大きく低下または測定不能となる。視神経機能の評価に有用である。
  • 単純X線視神経管撮影視神経管骨折の確認に用いるが、約20%を見逃す。
  • CT検査視神経管骨折・骨片変位の評価に標準的に使用する。ただし約20%は検出不能である。眼窩底骨折の波及の有無も確認する。
  • OCT光干渉断層計:GCC厚の経時的変化を評価する。受傷2週後に菲薄化が始まり、30〜50日前後で安定化する。経過観察に有用である。

以下の疾患との鑑別が必要である。

  • 非動脈炎性前部虚血性視神経症:高齢者・高血圧・糖尿病患者に好発。外傷歴なし。
  • 視神経炎(脱髄性):眼球運動痛を伴うことが多い。若年女性に多い。
  • 圧迫性視神経症眼窩内血腫等):受傷後の眼窩内血腫による急性圧迫を除外する。
  • 眼球破裂による直接損傷眼圧低下・眼球変形を伴う重篤な外傷。
Q swinging flashlight testとは何ですか
A

交互点灯対光反射試験のことで、ペンライトを左右の眼に交互に照射して瞳孔の反応を比較する検査である。視神経障害がある側の眼にライトを移すと瞳孔が散大する(RAPD陽性、Marcus-Gunn瞳孔)。外傷性視神経症の診断に最も重要な検査である。

外傷性視神経症の治療目標は、視神経実質内浮腫の軽減・消退を迅速かつ的確に行うことである。早期(受傷後24〜48時間以内)の診断と治療開始が予後に大きくかかわる。

薬物治療(第一選択)

ステロイドパルス療法:プレドニゾロン換算1,000mg × 2〜3日間の点滴静注を行う。

大量ステロイド療法:プレドニゾロン換算80〜100mgを3〜7日間投与し、視力経過をみながら漸減する。

高張浸透圧薬:グリセオール® またはD-マンニトール 300〜500mL を3〜7日間継続する。

目的視神経実質内での血管原性浮腫の軽減・消退を図る。全身状態の許す限り速やかに開始する。

手術治療

視神経管開放術:適応については異論が多い。視神経管の著明な変形や骨片の大きな変位があり、視神経が明らかに障害されている症例に限定的に適応する。

内視鏡による経鼻的視神経管開放術:低侵襲な術式として選択される場合がある。

手術の限界視神経実質内浮腫の軽減は手術では目的を達せないとの意見も多く、薬物療法と合わせて判断する。

Q ステロイドパルス療法はいつまでに開始すべきですか
A

受傷後24〜48時間以内の開始が望ましい。視神経実質内浮腫の軽減を迅速に行うことが予後を左右する。全身状態が許す限り、早期にステロイドパルス療法と高張浸透圧薬を開始する。ただし受傷後に光覚弁消失が短時間で回復しない場合は、治療に反応しにくい。

視機能の固定には受傷後から約1年の経過が必要である。治療反応性は受傷直後の視機能の程度と相関する傾向がある。

受傷後に光覚弁消失が短時間で回復しない症例は、ほとんど治療に反応しない。このような症例では視機能の回復を期待することは難しく、患者への適切な説明と心理的サポートが重要となる。

視神経乳頭離断optic nerve avulsion)では篩状板部で視神経が断裂しており、有効な治療法は存在しない。

OCTによるGCC厚の経時的評価(受傷2週後に菲薄化、30〜50日前後で安定化)は、神経線維障害の程度の把握と経過観察に有用である。視神経萎縮の進行確認には定期的な眼底検査OCT検査が推奨される。

ステロイド療法のエビデンスに関する議論

Section titled “ステロイド療法のエビデンスに関する議論”

外傷性視神経症に対する高用量ステロイドのエビデンスは、外傷性脊髄損傷(NASCIS試験等)での知見との関連で議論が続いている。IONTS(International Optic Nerve Trauma Study)以降、無治療群・ステロイド群・視神経管開放術群の間で視機能予後に有意差を認めなかったとの報告があり、Cochrane系統的レビューおよび近年のRCTでも明確な有効性は示されていない123。さらに頭部外傷を対象としたMRC CRASH試験では、メチルプレドニゾロン投与群で死亡率が有意に上昇したことが報告されており、合併する頭部外傷の有無を踏まえた慎重な投与判断が求められる45

内視鏡的経鼻的視神経管開放術

Section titled “内視鏡的経鼻的視神経管開放術”

低侵襲術式としての内視鏡的経鼻的視神経管開放術については、適応基準・長期成績に関するさらなるデータ蓄積が必要である。受傷後早期(特に3日以内)の手術や残存視機能のある症例で改善率が高い傾向が報告されているが6、外科的減圧と保存的治療を比較したメタ解析でも結果は一定せず、無作為化比較試験は確立されていない78

光干渉断層血管撮影OCT-A)を用いた視神経乳頭周囲の血流評価が、外傷性視神経症の予後予測や病態評価に応用できる可能性が検討されている。


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