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角膜・外眼部疾患

急性角膜水腫

急性角膜水腫(Acute Corneal Hydrops; ACH)は、角膜拡張症(corneal ectatic disorders)の稀な合併症である。デスメ膜(Descemet membrane)と角膜内皮の断裂により、前房水が角膜実質内に急速に流入し、急激な角膜浮腫を生じる状態をいう。

基礎疾患として最も多いのは円錐角膜(keratoconus)であり、球状角膜(keratoglobus)やペルーシド辺縁角膜変性症(pellucid marginal degeneration; PMD)にも発生する。

発症率は以下の通りである1)

発症年齢は5〜59歳と幅広く報告されており、20〜40歳代に多い1)。男性の発症リスクは女性の最大2倍とされる。民族差も認められ、ニュージーランドでは太平洋諸島系、英国では南アジア系・黒人で有病率が高い。

最新の知見では、デスメ膜欠損だけではACHは発生せず、後部角膜実質の欠損も必要であることが示されている。DMEK施行時にデスメ膜欠損が生じた16眼ではACHは発生せず、後部実質穿孔が生じた5眼では全例がACHを発生したとの報告がある1)

Q 急性角膜水腫はどのくらいの頻度で起こるのか?
A

円錐角膜患者の約2.4〜3%、ペルーシド辺縁角膜変性症患者の6〜11.5%、球状角膜患者の約11%に発症するとされる1)角膜拡張の程度が重篤なほどリスクが高く、眼をこする習慣のある患者では特に注意が必要である。

急性角膜水腫の細隙灯写真
Zemba M, Zaharia AC, Dumitrescu OM. Association of retinitis pigmentosa and advanced keratoconus in siblings. Rom J Ophthalmol. 2020. Figure 1. PMCID: PMC7739560. License: CC BY.
中央から下方にかけて高度の角膜浮腫と白濁がみられ、前方へ張り出した急性角膜水腫の臨床像を示す。本文の「臨床所見」で述べた急激な角膜白濁と浮腫の理解に対応する。

ACHの主な自覚症状は以下の通りである。

  • 急激な視力低下: 角膜全体の浮腫による高度の視力障害が突然生じる。
  • 眼痛: 上皮浮腫・水疱(bullae)の形成により疼痛が生じる。
  • 羞明まぶしさ: 角膜透明度の低下に伴い増強する。
  • 流涙: 疼痛・羞明に伴って生じる。
  • 角膜白濁の自覚: 混濁を患者自身が認識することがある。

誘因としては、眼をこする・くしゃみ・咳・鼻をかむ動作・激しい運動など、眼圧を一時的に上昇させる行為が挙げられる。自然発生的に起こることも多い。

細隙灯顕微鏡では、結膜充血角膜実質浮腫・上皮浮腫・実質内スリット(intrastromal clefts)・上皮水疱が認められる1)

浮腫の範囲によるグレード分類を以下に示す1)

Grade 1

浮腫の最大径: 3mm以下

病変の性状: 限局性の実質浮腫。角膜の一部に留まる。

Grade 2

浮腫の最大径: 3〜5mm

病変の性状: 中等度の浮腫範囲。視軸に影響することがある。

Grade 3

浮腫の最大径: 5mmを超える

病変の性状: 広範な浮腫。視軸を含む高度の混濁を呈する。最年少例(5歳女児)でlimbus-to-limbusの全角膜浮腫が報告されている8)

角膜透明度の評価としては、Grade 0(前房虹彩が完全に見えない)からGrade 4(完全透明)までの5段階分類も用いられる1)

前眼部OCTAS-OCT)では、デスメ膜破裂・剥離、実質内液体貯留腔(intrastromal fluid clefts)、角膜厚の増大を非接触で可視化できる1)。断裂のサイズ・深さはACH消退時間の予測指標となる。Seidel試験が陽性となることもあるが、これは穿孔ではなく浮腫角膜からの房水漏出による。

Graves眼症を合併した症例でACHが発生した報告もあり、眼圧上昇と眼表面炎症がリスク因子となりうる7)

  • 眼をこすること(eye rubbing): 最も一般的なリスク因子。微小外傷によりデスメ膜の断裂を引き起こす10)
  • アトピー性疾患: アトピー患者では角膜水腫のリスクが高い10)。アトピー性皮膚炎に円錐角膜が合併しやすいことも一因である。
  • 季節性アレルギー: 水腫発症との関連が認められる10)
  • 春季カタルVKC: VKC合併円錐角膜患者ではより早期に角膜移植が必要となる10)
  • Ehlers-Danlos症候群・骨形成不全症などの結合組織疾患: デスメ膜の脆弱性と関連する10)
  • ダウン症候群・学習障害: 眼をこする習慣との関連が指摘される。
  • 急峻な角膜曲率・角膜の菲薄化: 拡張の進行がデスメ膜への機械的負荷を高める。
  • 眼圧上昇: 角膜拡張力がデスメ膜の抵抗を超えると断裂が生じる7)
  • Graves眼症: 外眼筋による圧迫・強膜上静脈圧上昇による眼圧変動と眼表面炎症がリスク因子となりうる7)
  • ACH既往: 対側眼にも発症リスクがある1)

感染合併リスクとして、ACH 112例中2.7%(3/112例)が感染性角膜炎を合併したとの報告がある5)。合併した全例が重症アトピー性皮膚炎を有する男性で、平均46歳であった。培養ではMSCNS・MSSAが検出された。

Q 眼をこする習慣はなぜ危険なのか?
A

眼をこすることはデスメ膜への機械的外力となり、すでに菲薄化・拡張している角膜ではデスメ膜断裂の直接的誘因となる1)。アトピー性皮膚炎患者は眼痒感から眼をこすりやすく、特にリスクが高い。かゆみがある場合は点眼薬などで症状をコントロールすることが重要である。

急性角膜水腫の両眼AS-OCT
Sedaghat MR, Momeni-Moghaddam H, Belin MW, et al. Acute Hydrops with Total Corneal Edema in a Very Young Child with Keratoconus: The Youngest Age Reported Case. Case Rep Ophthalmol Med. 2022. Figure 3. PMCID: PMC9391173. License: CC BY.
右眼と左眼のAS-OCTで、角膜がびまん性に肥厚し後面の不整も伴って膨隆している。本文の「画像検査」で述べた急性角膜水腫の浮腫範囲と深さの評価を断層像で示す。

ACHの診断は臨床所見に基づき行い、各種画像検査で補完する。

診断の基本。結膜充血・実質浮腫・上皮浮腫・intrastromal cleftsを確認する1)。Seidel試験を実施して穿孔との鑑別を行う。

以下に主な検査モダリティの特性を示す。

検査法主な評価内容特徴
AS-OCTDM断裂・実質clefts非接触・定量的
超音波生体顕微鏡断裂部位・角膜消退モニタリング
生体共焦点顕微鏡(IVCM)炎症細胞・浮腫細胞レベル評価
  • 前眼部OCTAS-OCT: デスメ膜破裂・剥離とintrastromal fluid cleftsを非接触で可視化できる1)。断裂サイズ・深さがACH消退時間の予測指標となる。感染性角膜炎合併時は角膜浸潤の深さ評価にも有用である5)。PPPでは「keratoconic hydropsでは大きなDescemet破裂と中心部stromal cleftが存在しうる」と記載されている9)。術中OCT(iOCT)は圧縮縫合時のリアルタイム誘導に応用されている2)
  • 超音波生体顕微鏡UBM: 断裂部位・intrastromal cleftsの可視化と角膜厚測定が可能。Hydrops resolving index(CT0/CT2.5の比)により消退をモニタリングできる1)
  • 生体共焦点顕微鏡(IVCM): 上皮・実質浮腫の細胞レベル評価と炎症細胞の検出が可能。炎症細胞が4週以上残存した場合は角膜新生血管発生リスクが高い1)
  • 角膜形状解析(トポグラフィー/トモグラフィー): 円錐角膜の進行モニタリングや非発症眼の評価に使用する。
  • 感染性角膜: ACHと同時に発症することがある(2.7%)5)AS-OCTデスメ膜断裂と角膜浸潤の深さを同時評価することが有用。
  • フックス角膜内皮変性症: びまん性の角膜内皮機能不全による浮腫。拡張症の合併がないことで鑑別する。
  • ぶどう膜炎: 眼内炎症による二次的な角膜浮腫前房の炎症所見で鑑別。
  • 術後角膜浮腫・急性移植拒絶反応: 手術歴・角膜移植歴を確認する。

ACHの治療は保存的治療から開始し、改善が乏しい場合または早期消退が必要な場合に手術的治療を検討する。

以下の薬剤が使用される1)9)

  • 高張食塩水点眼(5% NaCl): 角膜脱水を促進する主薬である。
  • 副腎皮質ステロイド点眼: 炎症と新生血管を抑制する(prednisolone acetate 1%、loteprednol 0.5%など)。
  • 散瞳・調節麻痺薬: 毛様体痙攣を緩和する(cyclopentolate 1%など)。
  • 眼圧降下薬: 房水産生を抑制し角膜への圧力を軽減する(brimonidine 0.15%、timolol 0.5%など)。
  • 予防的抗菌薬: 二次感染を予防する(moxifloxacin 0.5%など)。
  • 治療用コンタクトレンズ(BCL): 自覚症状(疼痛・羞明)を緩和する。

保存的治療での自然消退には2〜4か月(最大5〜36週)を要する1)。一方、角膜クロスリンキングCXL)施行済み眼では消退が著しく早く、3週間で完全消退した症例が報告されている7)

消退の早期化・症状緩和・角膜瘢痕の最小化を目的として施行する。

前房内ガス注入

pneumatic descemetopexy: 空気・SF6・C3F8を前房に注入し、タンポナーデ効果でデスメ膜辺縁を展開・再接着させる1)

消退時間: 2〜7週間(保存的治療の64〜117日より有意に短縮)。

再注入の頻度: 空気77.8%、SF6 66.7%、C3F8 0〜35.7%で再注入を要する。

圧縮縫合

compression sutures: 縫合でデスメ膜断裂部を圧縮・閉鎖する。全層縫合(FTS)と部分層縫合(PTS)がある2)

消退時間: 文献レビューでは1時間〜45日。ほとんどが2週間以内2)

前房内air併用: FTS 3本+air(前房50%充填)で2週間以内の完全消退が報告されている3)

角膜移植

角膜内皮移植術(DSAEK/DMEK: デスメ膜断裂が大きい場合に検討する1)

深層前部層状角膜移植(pDALK: DM閉鎖・角膜曲率回復・視力回復を単一手術で達成できる。

全層角膜移植PKP: ACH後の視力障害性瘢痕に対して施行する。ACH後PKPは長期移植片生存率が非ACH例より低い3)

圧縮縫合施行後の代表的な点眼処方例を示す3)

薬剤用量・頻度
moxifloxacin 0.5%4回/日
prednisolone acetate 1%適宜漸減
NaCl 5%就寝前1回
Q 治療しなくても自然に治るのか?
A

多くの症例は保存的治療のみで2〜4か月以内に消退する1)。しかし消退後に角膜瘢痕・新生血管が残存して永続的な視力障害を来すことがある。前房内ガス注入や圧縮縫合を用いると消退を2週間程度に短縮でき、瘢痕形成を最小化できる。担当医と相談して治療方針を決定することが重要である。

Q 前房内にガスを注入する手術(pneumatic descemetopexy)とはどのようなものか?
A

空気または特殊なガス(SF6、C3F8など)を前房内に注入し、そのタンポナーデ効果でデスメ膜の断裂部を内側から支えて再接着を促す手術である1)。保存的治療で64〜117日を要する消退を2〜7週間に短縮できる。ただし瞳孔ブロック緑内障や再注入が必要となることがある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

従来は、眼をこすることなどの微小外傷→デスメ膜断裂→房水が実質内に浸透→lamellar層の分離→浮腫、という経路が想定されてきた1)

最新の研究では、デスメ膜欠損だけではACHは発生せず、後部角膜実質の欠損も必須条件であることが示されている1)。この知見は、なぜ高度な角膜拡張症例でのみACHが発生するかを説明するうえで重要である。

ACH角膜全層角膜移植PKP)標本では、loosely packed stromal lamellaeが認められる。ラミニンとIV型コラーゲンが巻き上がったデスメ膜に隣接して局在しており、これが内皮細胞の再遊走・再内皮化において重要な役割を果たすと考えられている1)

角膜実質の前方1/3はlamellar interweavingにより軽度の膨潤に留まる。後方2/3は非織交差一方向性fibrilsからなり、最大3倍にまで膨潤できる7)

隣接する角膜内皮細胞がデスメ膜断裂部へ遊走し、内皮ポンプ機能を回復させることで角膜脱水が進み、最終的に瘢痕形成で修復が完成する1)。圧縮縫合はデスメ膜の辺縁を物理的に近接させることで内皮細胞の遊走を促進する。

生体共焦点顕微鏡を用いた研究では、炎症細胞が4週以上残存した症例で角膜新生血管の発生リスクが高いことが示されている1)

Varshney et al.(2021)は、CXL角膜炎にACHを合併した症例を報告した7)CXL施行済みの角膜では21日で急速に消退し、通常の2〜4か月と比較して著明に短縮された。CXLによるコラーゲン架橋結合の強化→前方実質のinterlamellar cohesive strengthの増大→膨潤抵抗性の増大が機序として示唆された。架橋済み角膜は酵素的消化に対する抵抗性が高く、これが早期消退に寄与すると考えられている。

  • 角膜穿孔: 高眼圧・眼こすり・ステロイド点眼使用が浮腫角膜の穿孔リスクを高める1)
  • 微生物性角膜: 上皮欠損・コンタクトレンズ装用・睫毛内反・ステロイド使用がリスク因子1)。アトピー患者はMRSAを含む耐性菌の保有率が高く、感染が重症化しやすい6)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

術中OCT(iOCT)を用いてリアルタイムに縫合深度とテンションを調整する技術が報告されている。

Kaur et al.(2025)は7例(年齢中央値16歳、術前角膜厚1120〜2363μm)に対してiOCT誘導下の部分層圧縮縫合(PTS、目標深度50〜60%)を施行した2)。iOCTにより「caterpillar」様外観を呈するstromal compactionを確認しながら縫合を行い、全例が2週間以内に消退、縫合は8〜12週後に抜糸された。PTSは全層縫合(FTS)と同等の有効性を示しながら内皮損傷リスクが低いことが示唆された。

文献レビュー(19研究)では、圧縮縫合の消退時間は1時間〜45日で、ほとんどが2週間以内であった2)

2段階手術(熱形成術 + 深層前部層状角膜移植術)

Section titled “2段階手術(熱形成術 + 深層前部層状角膜移植術)”

Liu et al.は、TKP-assisted epikeratophakia(第1段階でデスメ膜修復)を施行し、2.1±0.7か月後に同一グラフトを使用したDALK(第2段階)で視力回復を達成する2段階手術を報告した2)

板層楔状切除術(lamellar wedge resection)

Section titled “板層楔状切除術(lamellar wedge resection)”

Petrelli et al.はACH後の角膜穿孔に対し、シアノアクリレート接着が不成功であった後にlamellar wedge resectionを施行した2)角膜移植を回避しながら屈折改善を達成した。

前房内多血小板血漿(PRP)注入

Section titled “前房内多血小板血漿(PRP)注入”

Alio et al.はSF6不応例に対してEnriched Platelet-Rich Plasma(EPRP)0.3mlの前房内注入を行い、1週間で消退を得た1)。増殖因子(growth factors)による内皮細胞再生の促進が機序として推察された。

mini-DMEK(小径デスメ膜内皮角膜移植)

Section titled “mini-DMEK(小径デスメ膜内皮角膜移植)”

デスメ膜断裂が大きい症例に対し、5mm径の小型DMEKパッチを用いて断裂部を一時的に封鎖する方法が報告されている1)。部分的なグラフト剥離が生じた後も角膜が自然にdeturgescenceを来した症例が報告されている。

Ontiveros-Holguín & Pacheco-Padrón(2022)は、角膜内リングセグメントICRS)植込み後にACHとICRS遊走を来した症例を報告した8)。保存的治療のみで8週間後に消退した。ICRS植込み後ACHが保存的治療のみで回復した初の報告とされている。

Q iOCTガイド下圧縮縫合とはどのような治療か?
A

術中OCT(iOCT)を用いてリアルタイムに縫合の深さとテンションを確認しながら行う圧縮縫合である3)。従来は経験に頼っていた縫合深度を客観的に制御できるため、内皮損傷リスクを低減しながら効果的な角膜圧縮が可能となる。Kaur et al.の報告では全例が2週間以内に消退した。


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