トウワタ角膜毒性
1. トウワタ角膜毒性とは
Section titled “1. トウワタ角膜毒性とは”トウワタ属(Asclepias 属)の植物は、その乳液状の樹液(ラテックス)から通称「ミルクウィード(milkweed)」と呼ばれる。色鮮やかな花を咲かせ、オオカバマダラのライフサイクルに重要な役割を果たすことから、家庭の庭でよく栽培される。
この樹液が眼に接触すると、炎症反応とともに角膜浮腫を引き起こす。園芸作業中の不注意や子供の植物との接触が主な受傷機転である1)。Asclepias curassavica、A. tuberosa、A. physocarpa(Gomphocarpus physocarpus)、A. fruticosa など複数の種で症例報告があり、近縁の Calotropis 属(カロトロピス/Sodom apple)の植物でも同様の眼毒性が報告されている2-5)。
植物曝露と眼症状の因果関係に患者が気づかないことがあるため、臨床的に角膜浮腫を呈する患者では植物曝露の可能性を念頭に置く必要がある2)。
トウワタの樹液に含まれるカルデノリドという強心配糖体が、角膜内皮細胞のNa+/K+-ATPase(ナトリウム-カリウムポンプ)を阻害する。角膜内皮のポンプ機能が障害されると角膜からの水分排出が低下し、角膜浮腫が生じる2,3)。この作用機序はジギタリス製剤の薬理作用と類似している。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
樹液の眼表面への接触後に眼痛、充血、流涙、視力低下(霧視)を生じる。症状は接触後速やかに出現する1,2)。
- 視力低下:症例により最良矯正視力は20/400まで低下することがあり、Calotropis procera曝露の29眼の連続症例では86%が初診時視力20/60未満を呈したと報告されている4)
- 結膜充血:中等度の充血を認める
- 角膜浮腫:角膜実質の膨潤により角膜混濁を呈する。中央角膜厚は健眼の約560 μmに対し、患眼では727~750 μmまで増加することが報告されている2,3)。角膜内皮障害が軽度であれば実質浮腫のみを呈し、高度であれば上皮浮腫を伴う
- Descemet膜皺襞:角膜浮腫に伴い認められる
- 角膜内皮細胞密度の低下:曝露後3~6か月の時点で対側健眼に比べ平均約18.6±9.9%の内皮細胞減少が遷延しうる4)
重度の眼毒性徴候として以下を呈することがあるが、一般的ではない2,5)。
- 角膜縁周囲蒼白化(perilimbal whitening)
- 前房炎症(前眼部ぶどう膜炎)
- 瞼球癒着(symblepharon)
眼圧は通常正常範囲内である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”原因はトウワタ属(Asclepias)またはカロトロピス属(Calotropis)植物の乳液状樹液(ラテックス)への直接的な眼表面曝露である。
- 園芸作業:剪定や草取り中に樹液が飛散し眼に入る
- 子供の接触:植物への不注意な接触で手指を介して眼に付着する
- 保護メガネ未装着:作業中の眼保護具の不使用
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”診断は臨床所見と植物曝露の病歴に基づく。患者(特に子供)が植物接触と症状発現の関連性に気づいていない場合があるため、角膜浮腫を呈する患者に対しては植物曝露の可能性を積極的に聴取する1,2)。
- 細隙灯顕微鏡検査:角膜浮腫、Descemet膜皺襞、前房炎症の有無を評価する
- スペキュラーマイクロスコピー:角膜内皮細胞の障害程度を評価する。内皮細胞密度は急性期に一過性に低下するが、軽症例では2,000 cells/mm²以上を維持し2週間以内に回復することが報告されている5)
- パキメトリー(角膜厚測定):角膜浮腫の定量的評価に有用である3)
角膜浮腫と結膜充血を呈するあらゆる疾患が鑑別の対象となる。
- 化学外傷(酸・アルカリ)
- ウイルス性結膜炎
- ヘルペス角膜炎
- 急性閉塞隅角緑内障
- 前眼部ぶどう膜炎
- 外傷
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”他の眼化学外傷と同様に、原因物質の除去と前眼部の安定化が優先される。
- 洗眼:速やかに生理食塩水で十分な洗眼を行う。眼表面のpH測定で正常化を確認する1,2)
- ステロイド点眼:プレドニゾロン酢酸塩1%(1日6~8回)またはデキサメタゾン点眼0.1%が用いられる2,3)。角膜内皮のNa+/K+-ATPase活性をアップレギュレートし、角膜ポンプ機能の回復を促進する
- 高張食塩水:5%塩化ナトリウム点眼を併用する。浸透圧効果により角膜浮腫を軽減する
- 重症例:シクロスポリン0.1%点眼や経口プレドニゾロン(30 mg/日、3日間)を追加した報告もある3)
臨床的に安定するまで毎日の診察によるモニタリングが必要である。Calotropis procera 曝露の29眼の連続症例では93%(27眼)が平均6.7±2.7日(範囲3~14日)で完全回復し、90%が最終的に20/20の最高矯正視力を達成したと報告されている4)。Asclepias curassavica 症例でも視力20/60→20/20への完全回復が2週間以内に得られている3)。
予後は良好である。適切な洗眼とステロイド点眼・高張食塩水による治療で、ほとんどの患者は数日から2週間以内に回復し後遺症を残さない3,4)。ただし重度の場合は曝露後3~6か月の時点でも約18%の角膜内皮細胞減少が遷延する報告があるため、スペキュラーマイクロスコピーによる長期経過観察が推奨される4)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”トウワタ属植物の樹液にはカルデノリド(cardenolides)と呼ばれる強心配糖体が含まれる。カルデノリドはC23ステロイド骨格を持つ化合物群でジギタリス(Digitalis)に似た構造を持ち、Na+/K+-ATPaseのα-サブユニットに結合する性質がある2)。Calotropis procera ではcalotropin、calotoxin、calcilin、gigantinなどのカルデノリドが同定されている4)。
角膜内皮細胞はNa+/K+-ATPaseを介した能動輸送(ポンプ機能)により、角膜実質から房水側への水分排出を行い角膜の透明性を維持している。カルデノリドがNa+/K+-ATPaseを阻害すると、角膜内皮のポンプ機能が低下し、角膜実質への水分貯留が生じて角膜浮腫を来す2,3)。樹液中のカルデノリドは角膜上皮に大きな障害を与えずに角膜実質を透過し内皮層に達するため、角膜上皮はしばしば保たれる一方で内皮機能不全のみが顕在化することが特徴である2)。
ジギタリス配糖体による眼毒性でもNa+/K+-ATPase阻害が発症機序に関与しており、トウワタ角膜毒性と共通した病態基盤を有する。ただし、ジギタリスは全身投与で主に視細胞(錐体細胞)への毒性を呈するのに対し、トウワタでは局所曝露により角膜内皮が直接障害される点が異なる。重症例では炎症経路の関与(ラテックス含有ヒスタミン、肥満細胞からのヒスタミン放出、シクロオキシゲナーゼ-2を介したプロスタグランジン産生)も補助的に作用すると考えられている4)。
ステロイド(デキサメタゾン)が治療に有効であるのは、角膜内皮のNa+/K+-ATPase活性をアップレギュレートし、阻害されたポンプ機能の回復を促進するためである。
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Yang JF, Beal CJ. Corneal Toxicity Secondary to Latex From Asclepias curassavica in a Pediatric Patient. Cornea. 2021;40(12):1607-1609. doi:10.1097/ICO.0000000000002708. PMID: 34749380.
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Mikkelsen LH, Hamoudi H, Gül CA, Heegaard S. Corneal Toxicity Following Exposure to Asclepias Tuberosa. Open Ophthalmol J. 2017;11:1-4. doi:10.2174/1874364101711010001. PMID: 28400886; PMCID: PMC5362972.
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Lee YJ, Han SB, Hyon JY. Corneal endothelial dysfunction caused by Asclepias curassavica in a young farmer. Am J Ophthalmol Case Rep. 2019;16:100564. doi:10.1016/j.ajoc.2019.100564. PMID: 31692682; PMCID: PMC6806376.
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Basak SK, Bhaumik A, Mohanta A, Singhal P. Ocular toxicity by latex of Calotropis procera (Sodom apple). Indian J Ophthalmol. 2009;57(3):232-234. doi:10.4103/0301-4738.49402. PMID: 19384022; PMCID: PMC2683444.
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Ono T, Kinoshita K, Iwasaki T, Mori Y, Nejima R, Nakamura Y, Amano S, Aihara M, Miyata K. Clinical Courses Of Corneal Endothelial Dysfunction Due To Gomphocarpus physocarpus Milky Latex-Induced Injury: A Case Series. Clin Ophthalmol. 2019;13:2293-2299. doi:10.2147/OPTH.S230009. PMID: 31819354; PMCID: PMC6878928.