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角膜・外眼部疾患

モーレン潰瘍

モーレン潰瘍(Mooren ulcer)は、角膜周辺部にみられる原因不明の進行性角膜潰瘍である。蚕食性角膜潰瘍とも呼ばれる。何らかの角膜抗原に対する自己免疫性疾患と考えられている。角膜上皮細胞に対する自己抗体が関与するII型アレルギー機序が病態の中心とされる。

角膜縁から2〜3 mm以内の灰色の腫脹が角膜浅層1/3に生じ、4〜12か月かけて円周方向および中央方向へ進行する1)。潰瘍先端は突出した潜掘状(undermined)の深い坑道状の縁を呈する。輪部との間に透明帯を有さない点がカタル性角膜潰瘍との重要な鑑別点である。

潰瘍底には血管が侵入し、潜掘状の縁の基部に向かって進展する1)。しかし、潰瘍の進行縁を超えることはない。角膜の破壊は一般に実質組織のみに限定され、デスメ膜・内皮は無傷のまま残る1)

隣接する強膜には炎症を認めない。この点が関節リウマチなど膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍との最も重要な鑑別点である。

稀な疾患であり、中国における発生率は約0.03%と推定されている2)。アフリカ南部・中部やインドなど南半球でより一般的であり、遺伝的または地理的素因の存在が示唆されている2)。ICD-10コードはH16.0である。

Q モーレン潰瘍の3つの臨床型とは何ですか?
A

Watson分類で以下の3型に分類される。第1型(片側性)は60歳以上に発症し激しい疼痛を伴う。第2型(両側性侵襲性)は14〜40歳の若年者に発症し、治療抵抗性で予後不良である。第3型(両側性緩徐進行性)は50代半ばに発症し、炎症が軽微で自然治癒することもある1)

激しい眼痛が主訴となる。羞明、流涙、充血を伴う3)視力低下は虹彩炎や中央角膜病変、不正乱視に起因する。約1/3の症例が両側性に発症する3)。若年から壮年の患者に突然発症し、急速に進行する経過が多い。

  • 三日月形周辺部潰瘍角膜縁に沿った円弧状の潰瘍。耳側・鼻側(瞼裂間角膜)に好発する3)
  • 潜掘状の中央縁:潰瘍の進行縁が深い坑道状を呈する。これがモーレン潰瘍の最も特徴的な所見である
  • 灰白色の細胞浸潤輪部に沿った円弧状の強い浸潤
  • 潰瘍底の血管侵入輪部から潰瘍底に向かって血管新生が進行する1)
  • 強い毛様充血角膜縁から3 mmを超えて広がることはない1)
  • 強膜炎は合併しない(合併しても軽度)

進行すると角膜周辺部を完全に囲む完全周辺部潰瘍となり、混濁した「中央の島」を残す3)。最終的に角膜実質が線維血管膜に置き換わる。進行例では角膜穿孔を生じることもある。Srinivasanらは、潰瘍の進展パターンを部分的周辺部、完全周辺部、全角膜潰瘍の3パターンに分類している3)

第1型:片側性

好発年齢:60歳以上

特徴:非常に激しい疼痛。角膜周囲に広がり、厚い不透明な中央角膜を残す

血管所見:浅層血管の無灌流が特徴的。深層角膜縁血管からの激しい漏出を認める

予後:実質消失後に疼痛は軽減するが、角膜移植後に再発しやすい

第2型:両側性侵襲性

好発年齢:14〜40歳

特徴:疼痛は第1型より軽度。角膜実質内に灰色斑が集合し典型的潰瘍を形成する

血管所見:浅層血管叢は拡張するが血流は維持される。深層血管からの漏出と新生血管を認める

予後:治療抵抗性で穿孔が多く予後不良

第3型(両側性緩徐進行性)は50代半ばに発症し、炎症を伴わない角膜の溝形成を呈する。緩徐に進行するが自然治癒例もある1)

前眼部光干渉断層計AS-OCT)は角膜菲薄化のパターン(弓状、カニの爪状)の評価に有用である。治療反応のモニタリングにも使用される4)

モーレン潰瘍の病因は不明であるが、自己免疫的基盤を示唆する証拠が蓄積されている。古典的には角膜上皮に対する自己抗体が関与するII型アレルギー反応として位置づけられる。

角膜実質のケラチノサイトが発現するカルグラニュリンC(calgranulin C)に対する自己免疫反応が中心的役割を果たすと考えられている5)。通常は隠された抗原であるカルグラニュリンCが、外傷や感染により露出すると感作が成立する。この分子は循環血液中の多形核白血球にも存在する5)

特定のHLAアレルとの関連も報告されている。Taylorらの研究ではモーレン潰瘍患者の83%がHLA-DR17陽性、83%がHLA-DQ2陽性であり、対照群(5〜40%)と比較して有意に高率であった6)。HLA-DQ5もモーレン潰瘍患者で頻度が高い6)。近年のプロテオミクス研究では、抗シトルリン化タンパク質抗体(ACPA、抗CCP抗体)がモーレン潰瘍の免疫学的特徴として示唆されている7)

  • 角膜手術:嚢外水晶体摘出術後に発症する症例が報告されており、南インドの242眼研究では36眼が白内障手術後に発症した3)
  • 外傷角膜抗原の露出が誘因となる
  • 鉤虫・蠕虫感染:シエラレオネの研究では、患者群で対照群より鉤虫抗体価が有意に高かった8)。南インドの症例対照研究でも血清学的検討と併せて鉤虫感染がリスク因子として確認されている10)
  • 壊疽性膿皮症:共通の好中球性炎症という病因が示唆されている
  • 妊娠:特に既存の翼状片がある場合に侵襲性の強い経過をとる症例が報告されている
  • 過去の眼感染症
Q モーレン潰瘍と膠原病の関係はありますか?
A

モーレン潰瘍は定義上、膠原病を背景に持たない周辺部角膜潰瘍である。関節リウマチなど膠原病に伴う周辺部角膜潰瘍は鑑別すべき別の疾患群であり、強膜炎の合併、免疫複合体沈着(III型アレルギー)、血管炎の存在で区別される11)。モーレン潰瘍はII型アレルギー(角膜上皮への自己抗体)が関与するとされ、膠原病性周辺部潰瘍とは病態機序が異なる点に注意が必要である。

モーレン潰瘍の診断は除外診断である3)。周辺部角膜潰瘍を引き起こす眼感染症および全身性疾患が存在しないことが条件となる。細隙灯顕微鏡検査で潜掘状の中央縁を伴う三日月形の周辺部角膜潰瘍を確認し、血清学的検索で膠原病を除外する。

周辺部潰瘍性角膜炎PUK)の他原因を除外するため、以下の検査を施行する11)

  • 血算(分画含む)、血小板数、赤沈(ESR)
  • リウマチ因子(RF)抗CCP抗体(ACPA)
  • 抗核抗体(ANA)抗好中球細胞質抗体(ANCA、c-ANCA/p-ANCA)
  • 補体結合反応、循環免疫複合体
  • 肝機能検査、BUN・クレアチニン、尿検査
  • 血清タンパク電気泳動
  • VDRL/FTA-ABS(梅毒検査)
  • 角膜擦過培養(細菌・真菌・アカントアメーバ・単純ヘルペスの除外)

周辺部角膜潰瘍性疾患には多様な病因があり、全身性血管炎を見逃さないことが重要である11)

鑑別疾患鑑別のポイント
Terrien辺縁変性非炎症性、透明帯あり、脂肪沈着
カタル性角膜潰瘍透明帯1〜2 mm、眼瞼縁炎合併
関節リウマチ性PUK強膜炎合併、角膜融解
多発血管炎性肉芽腫症GPA)GPA関連PUK強膜炎眼窩炎症の再燃9)
全身性エリテマトーデスANA陽性、多臓器病変
結節性多発動脈炎血管炎、網膜動脈閉塞
再発性多発軟骨炎耳介・鼻軟骨炎症
ペルーシド辺縁変性角膜下方菲薄化、非炎症性
老人性溝状変性高齢者、老人環との間の菲薄化
Q Terrien辺縁変性との鑑別はどのように行いますか?
A

Terrien辺縁変性は無痛性で非炎症性の周辺部角膜菲薄化であり、モーレン潰瘍とは大きく異なる。Terrien変性は通常上方角膜から始まり、角膜縁との間に透明帯を有する。浅層血管新生と脂肪沈着を認めるが上皮欠損は認めない。進行も緩徐である。モーレン潰瘍は激しい疼痛と炎症を伴い、透明帯を持たず、潜掘状の潰瘍縁を呈する。

治療は局所療法から開始し、反応に応じて全身療法・外科療法へ段階的に進める。無効例では数週〜数か月以内に治療を強化する必要がある。

第一選択はステロイド点眼液である。免疫抑制薬点眼や結膜下注射で補強する。

  • ステロイド点眼:ベタメタゾンなどを頻回点眼し局所免疫抑制をはかる
  • 0.05%シクロスポリン点眼:自家調製で使用する(市販免疫抑制薬点眼液は適用外)
  • タクロリムス点眼:難治例で効果が報告されているが保険適用外である
  • ステロイド結膜下注射:デカドロン®注射液0.4 mLを潰瘍近傍の結膜充血部に注射する
  • 抗菌薬点眼:二次感染予防のため併用する
  • インターフェロンα2a点眼:症例報告レベルで有効性が示されている14)

局所療法で進行が抑制できない場合や両眼性の症例に適応される。

  • ステロイド内服:プレドニゾロン1〜1.5 mg/kg/日(またはプレドニン40 mg/日)から開始し漸減する
  • 代謝拮抗薬:シクロホスファミド、メトトレキサートアザチオプリン(いずれも保険適用外)
  • 抗TNF-α抗体:難治性モーレン潰瘍にインフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)が有効であったとの報告がある12)13)
  • リツキシマブなど生物学的製剤:最難治例の症例報告が蓄積されている

局所・全身療法でも寛解が得られない場合に施行する。

  • 結膜切除術(Brown手術):潰瘍に沿って角膜輪部から3〜4 mm幅の充血結膜を切除する。潰瘍両端からそれぞれ2時間分程度まで切除する。結膜組織からの免疫細胞浸潤を断つことで病勢を制御する
  • 角膜上皮形成術(keratoepithelioplasty):ドナー角膜片を用いて病的結膜の侵入を遮断する術式である。木下らの20眼の連続症例では18眼(90%)が術後速やかに完全寛解し、再発例も追加治療で制御された15)
  • 表層角膜移植角膜穿孔が避けられない場合に施行する。潰瘍底の増殖組織をゴルフ刀で十分掻爬した上で移植を行う
  • 羊膜移植:補助的治療として有効例・無効例の両方の報告がある16)

術後は拒絶反応抑制のためステロイド・免疫抑制薬の点眼および全身投与を継続する。長期にわたる治療用ソフトコンタクトレンズの装用が必要であり、上皮型拒絶反応やステロイド緑内障のモニタリングを行う。

Q Brown手術とはどのような手術ですか?
A

Brown手術は潰瘍に沿った結膜切除術である。潰瘍両端からそれぞれ約2時間分の範囲で、角膜輪部から3〜4 mm幅の充血した結膜を切除する。モーレン潰瘍では結膜組織からの免疫細胞浸潤が潰瘍の進行を促進するため、その供給源を断つことで病勢を制御する。角膜上皮形成術は、病的結膜の再侵入を遮断する補助手段として報告されている15)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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モーレン潰瘍の発症には、角膜実質のケラチノサイトが発現する隠された抗原「カルグラニュリンC」に対する自己免疫反応が中心的役割を果たす5)。カルグラニュリンCは循環血液中の多形核白血球にも存在する。

角膜の外傷・感染・手術後にカルグラニュリンCが露出すると、角膜縁の抗原提示細胞がHLAクラスII分子を介してT細胞に提示し感作する5)。素因のある人では加齢に伴い自然に抗原露出が生じることもある。

蠕虫の表面にカルグラニュリンCの受容体が発見されており、蠕虫抗原との交差反応による分子擬態も推定されている5)。南インドの研究では鉤虫感染がモーレン潰瘍の有意なリスク因子であることが示されている19)。HLA-DR17やHLA-DQ2との強い関連は遺伝的素因の存在を示す6)

感作後、体液性と細胞性の両方の免疫反応が角膜を破壊する。患者血清中に角膜結膜上皮に対する循環IgGが認められ、結膜上皮に結合した抗体や補体も検出されている17)。血清IgAレベルの上昇も報告されている。

補体の活性化により好中球が浸潤し、脱顆粒してコラーゲナーゼを放出する18)。コラーゲナーゼが角膜実質を破壊し、変性した角膜抗原がさらに露出して免疫反応を永続させる正のフィードバックが形成される。コラーゲナーゼ活性はステロイドで抑制されることが実験的に示されており、ステロイド治療の薬理学的根拠となっている18)

結膜角膜検体ではリンパ球浸潤に加え、好中球、好酸球、形質細胞、肥満細胞が認められる7)。罹患結膜組織から高レベルのタンパク質分解酵素が検出される。NF-κB活性の上昇も報告されている。

浅層実質では形質細胞・リンパ球の浸潤と血管新生を認める。中間層ではコラーゲン層板の乱れと過活動な線維芽細胞を認める。深層実質にはマクロファージの浸潤がある7)。潰瘍の進行縁では脱顆粒を伴う好中球浸潤が特徴的所見である。隣接する結膜には上皮過形成と結膜下のリンパ球・形質細胞浸潤を認める。

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