母斑
部位:角膜縁付近の瞼裂間球結膜に最も多い。
嚢胞:通常、結膜封入嚢胞を伴う(細隙灯・超音波・前眼部光干渉断層計で確認可能)。嚢胞の存在は良性を示唆する重要な所見。
経過:長期間存在(先天性)。思春期にホルモン変化により色・大きさが変わりうる。成人期以降の急激な変化は悪性化を疑う契機となる。
角膜浸潤:稀。

結膜メラノサイト系腫瘍は、結膜のメラノサイトに由来する良性および悪性の新生物の総称である。主に3つのカテゴリに分類される。
結膜メラノーマの世界的発生率は約0.3〜0.8/100万人/年で、北欧・北米で最も高い。過去50年で発生率は増加傾向にある。米国では年間約130例、欧州では約320例の新規症例が推定される。アジア人の年齢調整発生率は0.15/100万人/年と低く2)、白人に最も多く(91.2%)、アフロカリブ系は2.4%にとどまる。
平均発症年齢は55〜65歳で、20歳未満は極めて稀である5)。小児例は全結膜メラノーマの1%のみを占める9)。原発性獲得性メラノーシスは全結膜病変の11%を占め8)、メラノーマの起源としては最も一般的(約60〜75%)である。
メラノーマの起源別内訳:
結膜メラノーマは、球結膜が紫外線に直接曝露されるため、粘膜メラノーマの中で唯一、紫外線曝露との関連が示唆される腫瘍である6)。メラニンがUVB放射線を約2倍フィルタリングすることが、有色人種での発症が少ない理由として考えられている。
結膜メラノーマの発生率は0.3〜0.8/100万人/年と比較的稀な疾患だが、過去50年で増加傾向にある。一方、母斑は最も一般的な結膜メラノサイト系腫瘍であり、良性であることがほとんどである。

母斑・原発性獲得性メラノーシス・メラノーマはそれぞれ異なる臨床像を呈する。
母斑
部位:角膜縁付近の瞼裂間球結膜に最も多い。
嚢胞:通常、結膜封入嚢胞を伴う(細隙灯・超音波・前眼部光干渉断層計で確認可能)。嚢胞の存在は良性を示唆する重要な所見。
経過:長期間存在(先天性)。思春期にホルモン変化により色・大きさが変わりうる。成人期以降の急激な変化は悪性化を疑う契機となる。
角膜浸潤:稀。
原発性獲得性メラノーシス
患者背景:中年〜高齢者、主に白人、ほぼ常に片側性。
外観:淡褐色〜濃褐色の平坦な色素病変。多様な色調を呈する。
分布:結膜のどの部位にも発生。連続または非連続性。円蓋部・眼瞼結膜に隠れることがあるため、眼瞼翻転が評価に重要。
経過:「wax and wane」(増減の波)を示すことがある。色素消失は原発性獲得性メラノーシスの消失を意味しない8)。
結膜メラノーマ
好発部位:球結膜に約90%が発生し、側頭象限に63%が局在する4)6)。
外観:色素性(70%)または無色素性(30%)5)。無色素性はピンク〜赤色の腫瘤で、扁平上皮癌と誤診されることがある。
特徴的所見:結節状または平坦。栄養血管(feeder vessels)を伴うことが多い。強膜との癒着。腫瘍と角膜縁の平均距離は2mm、61%が角膜縁に到達する4)。
画像評価:前眼部光干渉断層計(AS-OCT)では過反射性病変として描出され、ボウマン膜の評価が可能4)。超音波生体顕微鏡(UBM)では腫瘍厚と強膜浸潤の有無を確認できる5)。
そうではない。結膜の色素性病変の中では良性の母斑が最も一般的であり、悪性転換リスクは全体で約1%にとどまる。病変の部位・嚢胞の有無・発症時期・変化のパターンが良悪性の鑑別に重要であり、疑わしい変化があれば専門医への受診が推奨される。
以下の因子は転移・死亡リスクの上昇と関連する1)4)5)6)8)。
AJCC病期分類は予後と強く相関する1)。
| 病期 | 5年累積死亡率 |
|---|---|
| cT1 | 2.5% |
| cT2 | 28.6% |
| cT3 | 31.6% |
| cT3c(眼窩浸潤) | 100% |
T3腫瘍の5年推定遠隔転移率は42%、5年死亡率は23%である1)。
転移はリンパ行性が主要経路である。側頭結膜病変は耳前リンパ節に、鼻側結膜病変は顎下リンパ節に転移しやすい。遠隔転移(血行性)は脳・肺・肝臓・皮膚・副腎・心臓・腹膜・膵臓・腸管・腎臓・骨・脾臓などに生じる6)1)。リンパ節転移は診断後2.3年で15〜41%に認められ、全身転移は3年で9〜25%に生じる。なお、リンパ節転移が検出されない場合でも38%に遠隔血行性臓器転移が発生する8)。
腫瘍厚(特に2mm超)、病変部位(涙丘が最も予後不良)、AJCC病期分類、結節型の形態、リンパ管浸潤、眼窩浸潤などが主要な予後不良因子である。切除の完全性も大きく影響し、不完全切除例では約49.3%が再発する。
メラノーマ確定例では系統的な全身評価が必要である。
確定診断には生検が必要である。
母斑の組織学的所見:
原発性獲得性メラノーシスの組織学的所見:
メラノーマの組織学的所見:
免疫組織化学は確定診断と良悪性の鑑別に不可欠である。WHO第5版でメラノサイトマーカー免疫組織化学が望ましい診断基準として採用されている8)。
| マーカー | 母斑 | メラノーマ | 備考 |
|---|---|---|---|
| S100 | + | + | メラノサイト系共通1) |
| SOX10 | + | + | メラノサイト系共通1)4) |
| HMB45 | + | + | メラノサイト系共通1)3)9) |
| Melan-A/MART-1 | + | + | メラノサイト系共通3)5)6) |
| Ki-67 | 低値 | 10〜15%以上 | 増殖指数3)4) |
| p16 | 保持 | 消失 | 腫瘍抑制7) |
| PRAME | − | + | 最有力な鑑別マーカー7) |
| bcl2 | − | 中〜強陽性 | アポトーシス抑制3) |
良悪性に明確に分類できない病変が存在する7)。
通常は写真記録を含む経過観察のみ。増大・色の変化がある場合は切除を検討する。ただし思春期の変化はホルモン変化・炎症・嚢胞増大が原因のことが多く、成人後の急激な変化が悪性化の指標となる。
外科的完全切除が第一選択である。以下の原則が重要である。
冷凍凝固術: ダブルフリーズソー方式で切除底・縁に施行する。結膜を挙上して行い、強膜損傷を回避する5)。
マイトマイシンC局所化学療法:
インターフェロンα-2b: 輪部幹細胞障害を生じないため、マイトマイシンCの代替選択肢として位置づけられる5)。
放射線療法: 小線源治療(brachytherapy)または体外照射5)。
広範切除後の結膜再建には以下が用いられる4)5)。
腫瘍厚が2mmを超える症例では、センチネルリンパ節生検の実施を検討すべきである9)。
腫瘍細胞の播種(seedingによる局所再発や転移)を防ぐため、術中に器具で腫瘍に直接触れず、また灌流液(BSS)も使用しないドライな環境で切除する手技である。3〜5mmの安全域を確保して腫瘍全体を一塊で切除することで、不完全切除による再発リスクを低減する。
結膜メラノーマは、遺伝学的にぶどう膜メラノーマではなく皮膚メラノーマと類似する。紫外線関連のドライバー変異としてBRAF・NF1・RASが主要である。ぶどう膜メラノーマのマーカー(BAP1、GNAQ、GNA11、SF3B1)は結膜メラノーマでは陰性であることが確認されている1)。
Lally et al.(2022)の101例を対象とした研究では、4つの高頻度変異が同定されている1)。
NF1変異(39%)
頻度:最も多い変異。
予後:NF1変異単独では2年・5年での低転移率と関連する。
特徴:BRAF変異との相互排他性なし(共存しうる)。
BRAF変異(31%)
頻度:2番目に多い変異。V600E変異が80〜90%。
分布:球結膜のメラノーマに多い(日光曝露部位)6)。
予後:転移・死亡との有意な関連はなし。標的療法(BRAF阻害薬)の治療標的となる。
NRAS変異(26%)
頻度:3番目に多い変異。
予後:転移・死亡リスク増加、特に死亡リスクは約5倍。
特徴:BRAF変異と相互排他的。
ATRX変異(25%)
頻度:4番目に多い変異。
予後:NF1変異と同様、2年・5年での低転移率と関連する。
TERT c.-124C>T変異はテロメラーゼ逆転写酵素に影響を与え、転移性結膜メラノーマとの関連が報告されている1)8)6)。原発性獲得性メラノーシスの中等度〜重度異型でも検出され、上皮内メラノーマ(melanoma in situ)としての性質を示唆する8)。また高い腫瘍変異負荷との関連も示されている6)。
Chou et al.(2023)は94歳男性のT3c結膜メラノーマ症例で分子プロファイルを解析した。NF1変異(c.4339C>T、VAF 31.5%;c.5606T>A、VAF 32.0%)とTERTプロモーター変異(c.-124C>T、VAF 31.4%)を同定し、BRAF・NRAS・cKITはすべて陰性であった。NF1変異とNRAS陰性の組み合わせが、転移なしという比較的良好な経過の一因として考察されている1)。
高いPD-L1発現と免疫系関連遺伝子が豊富な転写サブタイプの存在が確認されており、これが免疫チェックポイント阻害薬使用の理論的根拠となっている。BRAF阻害薬・MEK阻害薬・PD-L1阻害薬のデータは有望だが、現時点では限定的である。
PD-1阻害薬(pembrolizumab、nivolumab)が転移性結膜メラノーマに試みられている5)。ネオアジュバント(術前)免疫チェックポイント阻害薬の報告も存在する4)。
Goemaere et al.(2023)の原発性獲得性メラノーシス由来の骨転移症例では、nivolumabと脊椎への放射線療法が施行されたが、その後paclitaxel + carboplatinが追加され、最終的に緩和ケアへ移行した8)。転移性結膜メラノーマに対する全身療法の標準レジメンはいまだ未確立である。
BRAF変異陽性例へのBRAF阻害薬の使用が試みられている。MAPK経路とAKT経路の同時標的による相乗効果の可能性も検討中である5)。
免疫組織化学パネル(PRAME、p16、HMB45、Ki-67、beta-catenin、Cyclin D1)の活用により、従来「不確定」とされた病変が再分類可能となりつつある7)。
Eder et al.(2024)はDPN 34例のFISH解析でBRAF V600E全例陽性、NRAS Q61R全例陰性を確認した。また、microRNA profilingによる良悪性鑑別の可能性も示唆されている7)8)。FISH解析ではRREB1(6p25)、CCND1(11q13)、MYB(6q23)、MYC(8q24)の評価が行われている。
Vishnevskia-Dai et al.(2023)は7歳男児の鼻側球結膜に発生した無色素性de novoメラノーマ(8mm×2.5mm)を報告した。ノータッチ・テクニックと4mmマージンによる切除、冷凍凝固術、羊膜移植を施行し、73ヶ月の無再発経過が得られた9)。小児例では組織学的にSpitz母斑との鑑別が特に重要である。
広範切除後の羊膜移植は良好な上皮化をもたらすが、軽度の輪部幹細胞不全、瘢痕性角結膜炎、稀な局所再発が報告されている5)。
皮膚メラノーマとの遺伝学的類似性(BRAF・NF1・NRAS変異、高PD-L1発現)を根拠に、PD-1阻害薬(pembrolizumab、nivolumabなど)やBRAF阻害薬が転移性症例に試みられている。ただし大規模な臨床試験は行われておらず、現時点でエビデンスは限定的であり、標準レジメンは未確立である。