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小児眼科・斜視

神経線維腫症1型(NF1)の眼合併症

1. 神経線維腫症1型(NF1)の眼合併症とは

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神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1; NF1)は、von Recklinghausen病とも呼ばれる常染色体優性遺伝性の母斑症である。皮膚・神経の多発性神経線維腫と特有の色素斑(カフェオレ斑)を主徴とし、骨病変・眼病変など多彩な症候を呈する。

責任遺伝子NF1は17q11.2に位置し、がん抑制タンパクであるneurofibrominをコードする。NF1と神経線維腫症2型(NF2)は全く別の疾患であり、NF2はMerlinタンパクの異常による両側性聴神経腫瘍を特徴とする。

発症頻度は3,000人に1人であり、浸透率はほぼ100%だが表現型は家族内でも多様である。約50%はde novo変異で発症し、家族歴がない場合でも見逃さないことが重要である。

眼合併症として虹彩Lisch結節、視神経膠腫緑内障、眼瞼・眼窩の神経線維腫が高頻度に出現し、年齢とともに所見が増加するため、小児期からの定期的眼科検査が必要である。

Q NF1と眼合併症はどのくらいの頻度でみられるか?
A

NF1は3,000人に1人の頻度で発症する。眼所見で最も多いのは虹彩Lisch結節で、NF1患者の90%以上に出現する。視神経膠腫は約15%に合併する。カフェオレ斑が眼瞼にある症例では50%が緑内障を合併する。

  • カフェオレ斑(café au lait spot): 生後早期から体幹を中心にあらゆる部位に出現
    • 思春期以前:最大径5mm以上が6個以上
    • 思春期以降:最大径15mm以上が6個以上
  • 腋窩・鼠径部のfreckling: 小さな色素斑が集簇
  • 多発性神経線維腫: 皮膚・神経に沿って発生
  • 骨病変: 蝶形骨異形成、長管骨の菲薄化など
  • 神経症状: てんかん、片麻痺、精神発達遅滞(高頻度ではない)

虹彩Lisch結節

虹彩実質のメラニン細胞過誤腫。NF1患者の90%以上に出現する。

淡褐色・境界鮮明・多発性の小結節として細隙灯顕微鏡で確認できる。

2個以上あれば診断的価値が高い。

視力には直接影響しないが、NIH診断基準の一項目として不可欠な所見である。

視神経膠腫(optic pathway glioma)

約**15%**に合併する。多くは低悪性度星細胞腫(WHO grade I)。

無症候性が多いが、進行例では視神経萎縮視力障害・視野障害を生じる。

視交叉へのびまん性浸潤もありうる。

定期的なMRIと視機能評価が必要。

緑内障

カフェオレ斑が**眼瞼にある症例の約50%**に合併する。小児では牛眼(眼球拡張)の原因となる。

片眼性が多い。

機序(複合的):

  • 隅角形成不全(神経堤細胞由来組織)
  • 毛様体脈絡膜肥厚による隅角閉塞
  • 隅角への神経線維腫浸潤
  • ぶどう膜外反に伴う隅角閉塞

緑内障はNF1関連緑内障として「先天全身疾患に関連した緑内障」に分類される1)

眼瞼・眼窩病変

叢状神経線維腫: 眼瞼の肥厚・下垂。弱視の原因となる。

視神経髄膜腫・視神経膠腫眼窩内神経線維腫: 眼球突出を生じる。

眼窩・顔面骨変形: 蝶形骨異形成に伴う。

びまん性型では眼窩脂肪組織・外眼筋への浸潤を来す。

  • 眼底: 色素斑、脈絡膜過誤腫(近赤外光撮影で検出)、網膜変性(頻度は少ない)
  • 角膜病変・水晶体病変: まれに合併
Q Lisch結節は視力に影響するか?
A

Lisch結節は虹彩実質のメラニン細胞過誤腫であり、視力に直接影響することはない。ただしNF1の診断に重要な所見であり、2個以上存在すれば診断的価値が高い。NIH診断基準の7項目の一つに位置づけられており、細隙灯顕微鏡検査での確認が重要である。

責任遺伝子NF1は17q11.2に位置する大型遺伝子(60エクソン以上)で、neurofibrominをコードする。neurofibrominはRas-GTPase活性化タンパク(RasGAP)として機能し、細胞増殖シグナルを抑制するがん抑制遺伝子産物である。

NF1変異→neurofibromin機能喪失→Ras-GTP(活性型)の蓄積→Ras-MAPKシグナル経路の恒常的活性化→神経系・皮膚・骨での過誤腫増殖という病態経路が確立されている。

  • 常染色体優性遺伝(AD): 罹患者の子に50%で遺伝
  • de novo変異: 約50%。家族歴がなくとも発症しうる
  • 浸透率: ほぼ100%(表現型の多様性は大きい)
  • 緑内障リスク: 眼瞼にカフェオレ斑がある症例で50%
  • 視神経膠腫リスク: ぶどう膜外反を伴う症例で上昇
診断基準項目基準
1. カフェオレ斑思春期以前:≥5mm × 6個以上 / 思春期以降:≥15mm × 6個以上
2. 神経線維腫2個以上の神経線維腫、または1個以上の叢状神経線維腫
3. 腋窩・鼠径部freckling雀卵斑様色素斑の集簇
4. 視神経膠腫optic pathway glioma
5. Lisch結節虹彩結節2個以上
6. 特徴的骨病変蝶形骨異形成、長管骨の菲薄化など
7. 第一度近親者にNF1両親・同胞・子のいずれか
病態経過観察頻度
Lisch結節のみ年1回の定期眼科検査
視神経膠腫合併3か月に1回の定期眼科検査
Q NF1の診断に必要な基準は何か?
A

NIH診断基準の7項目(カフェオレ斑、神経線維腫、腋窩・鼠径部freckling、視神経膠腫、Lisch結節、骨病変、家族歴)のうち2つ以上を満たせば診断となる。眼科医はLisch結節(項目5)と視神経膠腫(項目4)の2項目の評価を担う重要な役割がある。

NF1関連緑内障は「先天全身疾患に関連した緑内障」に分類される1)

  • 薬物療法: β遮断薬(チモロール0.25〜0.5%)、炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミド1%)を補助的に使用
  • 隅角切開術・線維柱帯切開術: 実施されるが、効果は乏しい
  • チューブシャント手術(Baerveldt・Ahmed): 有効性が期待されるが、眼窩内病変で手術が困難な場合も少なくない
  • 視力予後: 視路や眼窩内にも病変を伴うことが多く、全体として視力予後はよくない
  • 全身NF1診断確定済みで視神経・眼球運動神経圧迫による視力低下や複視がない場合は経過観察
  • 外科的全摘出は困難で再発しやすい
  • 手術は腫瘍の減量切除(debulking)が主体
  • 眼瞼下垂弱視の原因となっている場合、小児期の早期手術介入を検討する
  • 無症候性・進行なし: 経過観察が基本
  • 進行性の視力障害: 外科的切除を検討するが、視機能は失われ術後合併症が多い
  • 視交叉への浸潤: 化学療法の適応(カルボプラチン+ビンクリスチン併用が標準的)
Q NF1の緑内障はなぜ治療が難しいか?
A

NF1に伴う緑内障は、隅角形成不全・神経線維腫の隅角浸潤・毛様体脈絡膜肥厚による複合的な機序で発症する。通常の隅角切開術・線維柱帯切開術では十分な眼圧下降効果が得にくく、チューブシャント手術が選択されることが多い。しかし眼窩内病変のために手術アプローチが困難となる症例もあり、視力予後は全般的に不良である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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NF1遺伝子は17q11.2に位置する60エクソン以上の大型遺伝子であり、産物のneurofibrominはRas-GTPase活性化タンパク(RasGAP)として機能する。正常ではRas-GTPをRas-GDPに変換して細胞増殖シグナルを抑制するが、NF1変異によりneurofibrominが機能喪失するとRas-GTPが恒常的に蓄積し、MAPK(MEK-ERK)経路が過活性化する。この結果、神経系・皮膚・骨での過誤腫増殖が引き起こされる。

  • Lisch結節: 虹彩実質のメラニン細胞がNF1変異によるRasシグナル亢進で過剰増殖して過誤腫を形成する

  • 視神経膠腫: NF1はグリア細胞(特にアストロサイト)の増殖制御に関与する。NF1の機能喪失によりグリア細胞が増殖し、低悪性度星細胞腫(pilocytic astrocytoma;WHO grade I)を形成する。視神経から視交叉へのびまん性浸潤もありうる

  • 神経線維腫の病理分類:

    • 叢状型(plexiform): 末梢神経に沿って広がる。von Recklinghausen病に特徴的
    • びまん性(diffuse): 眼窩脂肪組織・外眼筋に浸潤
    • 孤立性(isolated): 腫瘤を形成
  • 緑内障の複合機序:

    1. 隅角発育異常(神経堤細胞由来組織の形成不全)
    2. 毛様体脈絡膜の過誤腫性肥厚→隅角の物理的閉塞
    3. 神経線維腫の隅角浸潤→房水流出路閉塞
    4. ぶどう膜外反→隅角構造異常

生命予後は良好である。しかし年齢とともに所見が増加する進行性疾患であり、視神経膠腫の管理と緑内障管理が視力予後を左右する。

Ras-MAPK経路下流のMEK1/2を標的とする分子標的薬で、2020年にFDA承認(2歳以上の手術不能な叢状神経線維腫に対して)されている。NF1関連の視神経膠腫に対する有効性についても検討が進められている。

2021年に国際NF診断基準委員会がNIH基準を改訂し、遺伝子検査(NF1変異の同定)が診断基準に追加された。また脈絡膜異常(近赤外光撮影で検出される特徴的な脈絡膜過誤腫)も新たな診断基準項目に加えられ、眼科検査の重要性がさらに高まっている。

NF1変異と小児緑内障の関連が遺伝学的に確認されており、NF1変異を有する小児緑内障は片眼性が50%を占めるとの報告がある2)緑内障の発症機序の解明と新規治療アプローチの開発が今後の課題である。

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
  2. Prasov L, et al. Classification and genetic profile of early-onset and juvenile open-angle glaucoma. Ophthalmology. 2024.

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