虹彩Lisch結節
虹彩実質のメラニン細胞過誤腫。NF1患者の90%以上に出現する。
淡褐色・境界鮮明・多発性の小結節として細隙灯顕微鏡で確認できる。
2個以上あれば診断的価値が高い。
視力には直接影響しないが、NIH診断基準の一項目として不可欠な所見である。
神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1; NF1)は、von Recklinghausen病とも呼ばれる常染色体優性遺伝性の母斑症である。皮膚・神経の多発性神経線維腫と特有の色素斑(カフェオレ斑)を主徴とし、骨病変・眼病変など多彩な症候を呈する。
責任遺伝子NF1は17q11.2に位置し、がん抑制タンパクであるneurofibrominをコードする。NF1と神経線維腫症2型(NF2)は全く別の疾患であり、NF2はMerlinタンパクの異常による両側性聴神経腫瘍を特徴とする。
発症頻度は3,000人に1人であり、浸透率はほぼ100%だが表現型は家族内でも多様である。約50%はde novo変異で発症し、家族歴がない場合でも見逃さないことが重要である。
眼合併症として虹彩Lisch結節、視神経膠腫、緑内障、眼瞼・眼窩の神経線維腫が高頻度に出現し、年齢とともに所見が増加するため、小児期からの定期的眼科検査が必要である。
NF1は3,000人に1人の頻度で発症する。眼所見で最も多いのは虹彩Lisch結節で、NF1患者の90%以上に出現する。視神経膠腫は約15%に合併する。カフェオレ斑が眼瞼にある症例では50%が緑内障を合併する。
虹彩Lisch結節
虹彩実質のメラニン細胞過誤腫。NF1患者の90%以上に出現する。
淡褐色・境界鮮明・多発性の小結節として細隙灯顕微鏡で確認できる。
2個以上あれば診断的価値が高い。
視力には直接影響しないが、NIH診断基準の一項目として不可欠な所見である。
視神経膠腫(optic pathway glioma)
約**15%**に合併する。多くは低悪性度星細胞腫(WHO grade I)。
無症候性が多いが、進行例では視神経萎縮→視力障害・視野障害を生じる。
視交叉へのびまん性浸潤もありうる。
定期的なMRIと視機能評価が必要。
緑内障
カフェオレ斑が**眼瞼にある症例の約50%**に合併する。小児では牛眼(眼球拡張)の原因となる。
片眼性が多い。
機序(複合的):
緑内障はNF1関連緑内障として「先天全身疾患に関連した緑内障」に分類される1)。
眼瞼・眼窩病変
Lisch結節は虹彩実質のメラニン細胞過誤腫であり、視力に直接影響することはない。ただしNF1の診断に重要な所見であり、2個以上存在すれば診断的価値が高い。NIH診断基準の7項目の一つに位置づけられており、細隙灯顕微鏡検査での確認が重要である。
責任遺伝子NF1は17q11.2に位置する大型遺伝子(60エクソン以上)で、neurofibrominをコードする。neurofibrominはRas-GTPase活性化タンパク(RasGAP)として機能し、細胞増殖シグナルを抑制するがん抑制遺伝子産物である。
NF1変異→neurofibromin機能喪失→Ras-GTP(活性型)の蓄積→Ras-MAPKシグナル経路の恒常的活性化→神経系・皮膚・骨での過誤腫増殖という病態経路が確立されている。
| 診断基準項目 | 基準 |
|---|---|
| 1. カフェオレ斑 | 思春期以前:≥5mm × 6個以上 / 思春期以降:≥15mm × 6個以上 |
| 2. 神経線維腫 | 2個以上の神経線維腫、または1個以上の叢状神経線維腫 |
| 3. 腋窩・鼠径部freckling | 雀卵斑様色素斑の集簇 |
| 4. 視神経膠腫 | optic pathway glioma |
| 5. Lisch結節 | 虹彩結節2個以上 |
| 6. 特徴的骨病変 | 蝶形骨異形成、長管骨の菲薄化など |
| 7. 第一度近親者にNF1 | 両親・同胞・子のいずれか |
| 病態 | 経過観察頻度 |
|---|---|
| Lisch結節のみ | 年1回の定期眼科検査 |
| 視神経膠腫合併 | 3か月に1回の定期眼科検査 |
NF1関連緑内障は「先天全身疾患に関連した緑内障」に分類される1)。
NF1に伴う緑内障は、隅角形成不全・神経線維腫の隅角浸潤・毛様体脈絡膜肥厚による複合的な機序で発症する。通常の隅角切開術・線維柱帯切開術では十分な眼圧下降効果が得にくく、チューブシャント手術が選択されることが多い。しかし眼窩内病変のために手術アプローチが困難となる症例もあり、視力予後は全般的に不良である。
NF1遺伝子は17q11.2に位置する60エクソン以上の大型遺伝子であり、産物のneurofibrominはRas-GTPase活性化タンパク(RasGAP)として機能する。正常ではRas-GTPをRas-GDPに変換して細胞増殖シグナルを抑制するが、NF1変異によりneurofibrominが機能喪失するとRas-GTPが恒常的に蓄積し、MAPK(MEK-ERK)経路が過活性化する。この結果、神経系・皮膚・骨での過誤腫増殖が引き起こされる。
Lisch結節: 虹彩実質のメラニン細胞がNF1変異によるRasシグナル亢進で過剰増殖して過誤腫を形成する
視神経膠腫: NF1はグリア細胞(特にアストロサイト)の増殖制御に関与する。NF1の機能喪失によりグリア細胞が増殖し、低悪性度星細胞腫(pilocytic astrocytoma;WHO grade I)を形成する。視神経から視交叉へのびまん性浸潤もありうる
神経線維腫の病理分類:
緑内障の複合機序:
生命予後は良好である。しかし年齢とともに所見が増加する進行性疾患であり、視神経膠腫の管理と緑内障管理が視力予後を左右する。
Ras-MAPK経路下流のMEK1/2を標的とする分子標的薬で、2020年にFDA承認(2歳以上の手術不能な叢状神経線維腫に対して)されている。NF1関連の視神経膠腫に対する有効性についても検討が進められている。
2021年に国際NF診断基準委員会がNIH基準を改訂し、遺伝子検査(NF1変異の同定)が診断基準に追加された。また脈絡膜異常(近赤外光撮影で検出される特徴的な脈絡膜過誤腫)も新たな診断基準項目に加えられ、眼科検査の重要性がさらに高まっている。
NF1変異と小児緑内障の関連が遺伝学的に確認されており、NF1変異を有する小児緑内障は片眼性が50%を占めるとの報告がある2)。緑内障の発症機序の解明と新規治療アプローチの開発が今後の課題である。